上 下
44 / 98
第二部 極北の修道院編

44 ロウの宣言

しおりを挟む
「大魔法使いさまがお見えですが、リビングルームにお通ししてもよろしいでしょうか」
 
 メイドのサラにそう聞かれて、もちろん大歓迎だったのですぐに「お願いします!」と返事する。

 鏡を見て、毛先に寝癖がないか確認する。うん大丈夫。
 
 この客間はベッドルームと扉続きのリビングルームがあって、そこでの面会は許されていた。
 扉を開けると、既に部屋に通されていたロウがソファに座っていた。
 
「ロウ!」
「ロザリー。」

 顔を上げたロウの顔を見てびっくり。
 眼鏡を外して、髪の毛もちゃんとセットされていて前髪は横に流している。そして、マントを着て旅装束。憧れの大魔法使いさまの見た目だったのだ。

 待って、心の準備が全然できてなかった……!
 
「あ……!」
「何だ?」
「いや、何でもない……」

 このバージョンのロウが現れるとは思っていなかったから、心臓はバクバクだ。
 そんな内心がバレたくなくて、必死に平常心を取り繕う。
 だけど、正式な調査で大魔法使いさまとして行くんだから、それに相応しい見なりのはずよね。
 
「この生活に不自由ないか?」
「家にいるよりむしろ居心地が良すぎるくらいよ。私が困らないように交渉してくれたんでしょう? ありがとう」
「……それは安心した」

 照れているのか、ロウはそっぽを向いた。
 
「ロウはこれから北の修道院へ出かけるの?」

 旅装束はそのためだろうなと思いながら、話を促す。
 
「ああ、そうだ。必ず証拠を見つけるから、大人しく待っていてほしい」
「わかったわ……ええと……」
  
 私が何かを言い淀んだ様子を見たロウが「どうした?」と聞いてくる。
 それじゃあ、遠慮なく聞かせていただきます!
 
「どうして、大魔法使いさまが私にここまで力を貸してくれるんですか?」

 国を代表する大魔法使いさまが、私のために尽力してくれるのは嬉しいが、申し訳ないと思う。
 この親切な気持ちに、何か私に返せるものがあれば喜んで差し上げたいけれど。
 私にできることって、美味しいお菓子を作ることか、話し相手になることぐらいなんだけどな。
 
「それは……それには理由がある」
「理由って?」
「それは、それはだなぁ……今、言わないといけないか?」
「うん」
 
 ロウがやたらにもったいぶるので、気になって頷いた。
 
「じゃあ言わせてもらう。…………だからだ」
 
 肝心のところが、モゴモゴと話されて聞こえなかった。
 真剣な目をしたロウと視線がぶつかる。
 私にしっかり伝わったと思っているのだろう。いいえ、一番重要なところが聞こえていません!
 
「えーと、聞こえなかったわ。もう一度言ってくれる?」
「……」
 
 ロウが言葉を長く溜めるので、思わず唾を呑み込んだ。
 なぜかロウは顔を赤くした。

「……やっぱり言えない」

 私は心の中でステテーンと転んだ。
 期待させておいて、言ってくれないの? それって、すごく気になるやつ!
 けれど、ロウの言いたいタイミングもあるだろうから、今はそっとしておこうかな。しつこいって思われたら嫌だし。
 
「それなら仕方ないわ。わかった」
 
 あまりに物分かりの良い態度を見せた私に、ロウは一瞬黙り込んだ。
 
「聞きたいんじゃなかったのか?」
「ロウが言いたくないのなら、無理してまで聞かないわ」
「……俺がこの調査でロザリーの無実が証明されたら言わせてもらう。だから、大人しく待っているように」
 
 さっきも大人しくって言ってきたのに、また強調された。
 許可なく部屋から出ていくとでも思っているのかしらね? そんなことないのに。ロウの顔を立てるためにも、約束を破ることはしませんよ!

「ロウの言う通り、大人しく待っているわ。よろしくお願いします」
「ロザリーが自分で大人しくって言うと、違和感があるんだが」
「そんなことないわ! だいぶ私に失礼よ!」
 
 その後は、早々に出発するロウを見送る。……っていっても、すぐそこの部屋の扉の前までだけど。
 
 でも、ロウの私を助けてくれる理由って何だろう。
 
 弟子を助ける師匠の気持ち? そうじゃなければ、捨て猫を助ける人の気持ち? おそらく前者の方なんだろうな。
 
 なら、どうしてあんなに言い渋ったんだろう。
 ……とても気になるけど、時期が来たら教えてくれるわよね。

 つい物分かりの良い大人な態度を取ってしまったわ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。 聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。 ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。 孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。 でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。 住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。 聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。 そこで出会った龍神族のレヴィアさん。 彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する! 追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...