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第二部 極北の修道院編

43 王城の快適な拘留生活

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 もう夜も遅かったが、その日のうちに拘置場から客室へ移動させてもらえた。

 案内された客室は窓が大きくて、足を踏み入れた瞬間にホッとした。朝日を浴びればさぞ気持ちの良いことだろう。地下のジメッとした空間は、それだけで気を滅入らせるらしい。

 部屋の奥には高級感のあるベッドやソファーがあり、壁には有名な画家が描いたと思われる絵画が飾ってある。王侯貴族をもてなす部屋のようだ。

 豪華すぎる部屋じゃない? もしかして、大魔法使いさまの権力を使って使用が許可された部屋では?
 
 男性の執事から、あくまでも拘留中のため、この部屋からは出ないように説明を受ける。そのつもりだったので、何も問題はない。
 
「身の回りの世話は、このメイドのサラが担当します」
「よろしくお願いします。ロザリーさま」

 執事の紹介で、後ろに控えていたメイドが頭を下げた。

「サラさん。よろしくお願いします」

 挨拶を終えると執事とサラが部屋から退出し、部屋に一人になった。部屋に備え付けられている風呂にでも入ろうかな、と思っていたところ……。

「ご主人さまー!」

 リアが私の背中に飛びついてきた。この部屋はリアが行き来できるらしい。

「リア! 会えて嬉しいわ!」
「チャンスを伺っていたんですが、やっと会えました! 私も嬉しい!」
 
 両腕でリアをそっと包み込み、ハグをする。友達の姿を見るだけで心強い。涙目のリアも同じ気持ちだったことがよくわかった。

 住み慣れた私の家がお気に入りのリアだったけれど、「何か助けになることもあるかもしれない」と言って、この部屋に一緒にいてくれることになった。この状況では、一人じゃないって本当に心強い。
 
 ……って、ソロ冒険者を目指している私が、このくらいで弱気になるわけにはいかないわ。ロウが調査に入ったことで、希望が見えてきたんだから。
 大丈夫。絶対に大丈夫だからね!



 部屋からは出られないものの、生活には全く困らなかった。むしろ快適過ぎる。部屋は清潔だし、豪華な三食は出てくるし、部屋に風呂もあるし、家にいるときよりも遥かに贅沢な暮らしをしている。
 
 今もこうして、三時のティータイムの香り高い紅茶と焼き菓子をもらったところだ。拘留中というのに、この生活をこんなにも満喫してもいいのだろうか。
 
「ロザリーさま。私は退出いたしますが、ご用件がありましたら何なりとお申し付けください」
「あの……サラさん」

 と、給仕が終わって部屋から退出しようとしたサラを呼び止めた。
 すると、サラはサッと体の向きを変えて、私に頭を下げる。

「何かございましたでしょうか」
「教えてほしいの。拘留中の身なのに、どうしてこんなに待遇が良いのかしら?」
「ロザリーさまは、大事なお客さまとして扱うように上から言われているんです」
 
 サラは当たり前のように言った。
 それはロウからの口添えがあったからだ。彼の助けがなければ、今ごろ地下の冷たい拘置場で凍えていたことだろう。感謝しかない。
 
「それに……ロザリーさまには個人的にご恩があります」
「それはどんなことでしょうか?」
 
 サラは初対面のはずだ。彼女を助けた覚えはなく、気になって理由を尋ねた。

「私の弟は新米の騎士団員なんです。この国の建国式典で、その一員として警備にあたっていました。大魔法使いさまが封印したはずの魔獣が現れて、命の危険を感じたそうです。それを、ロザリーさまは大魔法使いさまとともに倒してくれました。ロザリーさまがいなかったら……弟は無事ではいなかったかもしれません」
 
 サラは胸を張って言った。
 新米の騎士団員であの魔獣の騒ぎを見てしまったら、生きた心地はしなかっただろう。私も全力で敵に立ち向かい、心の余裕なんてなかった。
 
「ロザリーさまは私たちの英雄です。毒を送ったとか、訳のわからない噂が立っていますが、私は信じられません。デマだとしたらもっと許せません。必ずや疑念を払拭されるものだと思います」
「……ありがとうございます」

 私は感極まって、涙が出そうになった。信じてくれる人がいると嬉しい。
 握手を求められて私が握り返すと、サラは「英雄のお世話ができるとは光栄です!」と声を弾ませていた。
 
 私が犯人でないことは確かだけど、今のところ立証できていない。信じてくれるサラのためにも、必ず濡れ衣を晴そうと心に決めた。

 後で聞いたところによると、サラは私の世話の係を自ら立候補したそうだ。英雄の助けになりたいと。
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