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第二部 極北の修道院編

42 大魔法使いさま、救世主のごとく現れる

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 王城地下の拘置場に入れられた私は、冤罪を訴えようにも為す術がなかった。
 というのも、部屋全体に魔法無効の効果が張り巡らされていたからだ。それは、転移魔法で脱出できてしまうのを防ぐためでもあるんだけど。
 
 家から途中まで一緒にいた妖精リアは、この部屋の強いバリアに阻まれてどこかへ姿を消してしまった。狭い部屋に完全に一人で、秘密裏に証拠を集めたり、誰かに相談するのは不可能だ。
 
 と、階段を降りる数名の足音が響いてきた。鉄格子で囲まれた部屋なので、よく外の音が聞こえる。
 まもなく、警備兵が鉄格子の扉を開けた。
 
「ロザリー、面会者だ。立て」
「はい」
 
 警備兵の指示に従って、冷たい椅子から大人しく立ち上がる。
 現れた人物は、私を一目見ると早足で駆け寄ってきた。
 
「ロザリー! 無事だったか?」
「ロウ!」
 
 ロウの顔を見た瞬間に、緊張の糸が切れて泣きそうになってしまった。一人で心細かったんだな、私。
 捕まってから今日の今日で、こんなに早くロウが駆けつけてくれるとは思わなかった。
 
「ロザリー、何があったのか詳しく話してくれないか」
「面会時間も限られている。手短にしてくれ」
 
 はい、とロウに返事をしようとしたら、第三者に話を遮られた。
 ロウの後ろには金髪の気難しい顔をした男性がいた。式典などで何回か拝見したことがある……第一王子のルイさまだった。
 美男美女ぞろいの王家の一員で彼も美形だが、それよりも眉間に刻まれた皺の存在感の方が大きい。

 きっと、ロウは第一王子を説得して面会に来てくれたんだわ。第一王子は司法を管轄するため、直接頼めば話が早いと踏んだのだろう。彼の勇気ある行動に感謝しなければ。
 
「私が知っていることを話させていただきます。修道院へ行ったソニアから、『具合が悪くなって魔法が使えなくなった。そのため手はあかぎれして痛い』と書かれた内容の手紙が届いたんです。そこで、聖女の加護付きのハンドクリームを送りました」
 
 事実だけをかいつまんで淡々と話すと、第一王子は私をチラリと見てきた。
 
「ソニアはハンドクリームの容器を開けたところ、異臭を感じて修道院長へ相談したそうだ。調べた結果、骨を簡単に溶かすほどの強い毒が確認された」
 
 第一王子は私の反応を見ながら話をしてくる。私が犯人と疑っているのか、粗を探そうとする目は不快だったけれど、本当に潔白なのだから堂々としていた。
 
「ルイ、聞いただろう? ロザリーはハンドクリームを送っただけだ。その間に誰かが毒を入れる可能性もある」
「ソニアが小包を開封した時は、修道院長も近くにいて毒が入っていたと証言している。しかも、同じ毒がロザリーの家でも押収された」
「国の英雄であるロザリーよりも、罪を犯し修道院送りにされたソニアのことを信じるのか? 国を破滅に導こうとした悪人だぞ?」

 ロウの追及に、第一王子は一瞬黙った。
 しかし、彼の独自の信念があるようで、それを貫こうとする。

「証拠がすべてだ。ロザリーには罪を否定できる証拠がない」
「……証拠さえあればいいんだな」
「そうだ」

 ロウの勝負を吹っかける目に、第一王子は憮然と言い返した。ロウは話を続ける。

「異臭って話が引っかかる。暗殺を狙うなら、開封のときに標的を狙って確実に殺傷できるものを送るはずだ。爆発物とかだな。俺に言わせれば、自作自演の臭いがプンプンする」
 
 ロウはそう言い切った。第一王子は、ロウの見解を聞いて己の詰めの甘さに気づいたようだ。
 
「俺に詳しく調査させてほしい。どうか時間をもらえないか?」
 
 ロウは頭を下げた。
 しかし、第一王子は厳しい口調で言った。
 
「身内だと甘くなる。それは認められない。調査は第三者に委ねるべきだ」
「身内だからこそ、彼女の言うことを信じたいんだ。それに俺だからこそできる調査がある」
「どれだけ時間が必要だ?」
「そうだな……一週間待ってくれ」
 
 それを聞いて、私の方が心配してしまった。一週間で間に合うの!?
 
「わかった。だが、それ以上は待たない。約束はちゃんと守ってくれよ」
 
 第一王子は己の詰めの甘さに気づいて態度を軟化させるのかと思いきや、頼まれる立場になると尊大な態度に戻った。

 そういえば、大魔法使いさまと第一王子は犬猿の仲だと聞いたことがある。顔を合わせるたびに嫌味を言い合うとか何とか。そのせいで最近はめっきり交流がなくなったらしいけれど、今回はロウが一肌脱いでくれたようだ。
 
 ロウは「最後に一つだけ言わせてくれ」と、第一王子に一つ注文を付けた。
 
「証拠が見つかるまでの一週間は、ロザリーは罪人ではない。こんな環境の悪いところではなく、場所を変えてくれないか」
「……わかった」
 
 ロウの強い要望が渋々認められて、私の身柄は拘置場ではなく王城の一室へ移されることになった。
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