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第一部 勇者パーティ追放編

02 攻撃の魔道具を手に入れる

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「魔物討伐、魔物討伐かぁ……」

 ギルドの掲示板の前で唸った。ギルドの内にある仕事依頼の掲示板は誰でも見ることができる。
 はたして回復魔法だけで冒険者としての生活が成り立つのか。

 冒険者は仕事の報酬で生活している。掲示板に貼られているのは、魔物討伐の任務が大半を占めていた。魔物が活発に動き出していて、冒険者の力を必要としているらしい。

 聖女としてのロザリーを知る冒険者もいるのか、一人ギルドでいるのを怪訝な顔で見てくる人もいた。まだ、勇者パーティを追放されたことが公になっていない。
 迷い猫を保護し、回復魔法をかけるだけでは大した金にはならない。

「……そうだ」

 私、ロザリーは決意した。
 攻撃や回復もできる魔法使いになろうと。
 人間関係には疲れた。仲間と一緒に冒険するのはもうゴリゴリだ。

 そうだ、ソロの冒険者になろう。そうすれば、一人で行動できるし、ギルドのミッション次第では他の冒険者と手を組むこともあるけれど、いつも一緒にいるよりはいちいち悩まないで済む。

 そこまで考えて、ふと我に返った。思いつきでソロ冒険者になれるだろうか。
 ギルドでソロ冒険者として登録するには、圧倒的に攻撃魔法が足りない。

「あら? あなたは……」

 先行きに不安を感じ始めたところで声をかけてきたのは、赤メガネの美人な女性。緩やかな緑色のウェーブの長髪を後ろで一つにまとめている。そのお姿を見た瞬間にわかった。

 憧れのアルマさま! 伝説とされる前の勇者パーティの女剣士で、現在はギルド副長の地位にある。そんな方に認知されていたとは、嬉しい。
 私はサッと頭を下げた。

「お初にお目にかかります。勇者パーティに所属していた聖女のロザリーです。今は勇者パーティを辞めて冒険者をすることになりました」
「そうだったの……。冒険者ね」

 アルマ様の私を見つめる目は心配げだ。私の行く末を案じてくれているのだろうか。尊敬するアルマさまに、ソロ冒険者として活動するには攻撃力が足りないことを話しても良いだろうか。
 ええい、迷ったら言ってしまえ!

「私は回復魔法を専門にしていたので、攻撃魔法は得意ではありません。でも、一人でギルド案件をこなすために攻撃魔法ができるようになりたいんです。甘っちょろいことを言っているのは重々承知しています。アルマさまでしたら、何か良い方法を知りませんでしょうか」

「攻撃魔法ができるようになりたいのね。パーティで回復担当になればいいじゃないの……と言いたくなるけれど、攻撃魔法もしたいというのは相当な理由があるのね」

「はい。パーティを辞めたばかりですし、一人で活動しようと」

「一人は大変よ。カバーしてくれる人もいないし。でも、貴方には強い覚悟を感じる。――そうね。一つだけ良い方法があるわ」

「本当ですか!?」

 諦めかけたところで、朗報だ。私はアルマさまの次の言葉を待った。

「店主に少しクセがあるけど、彼の作る魔道具は一級品。貴方になら使いこなせるかもしれない。街の外れの魔道具屋に行ってごらんなさい」

「はい! 行ってみます!」

 みるみるうちに期待が膨らんで、元気よく返事した。

 アルマさまに紹介された街の外れの魔道具屋。手書きの地図を元に店を見つけた。
 そしてたどり着いた魔道具屋で出会った店主は、アルマ様は少しクセがあるって言っていたけど、少しどころではなかった。

 魔道具屋には、ボサボサの金髪の男がいた。白シャツはヨレヨレで、カウンター越しに見える机は書類が散乱して、アルマさまの紹介でなければ足を踏み入れなかっただろう。
 知る人ぞ知る店だろうか。
 店主は胡散臭げに、私のことを不躾に上から下までジロジロ見てきて、ボソッと呟く。

「お子ちゃまに売る魔道具はないんだが」

 はい、第一印象最悪!背の低さに加えて、幼い顔。童顔は私のコンプレックスなのに! 私はキッと睨み付けた。

「私、お子ちゃまじゃありません! 十六歳の成人女性です!」
「……嘘だろ? どう上に見たって、十二歳くらいでは」

 さらに失礼なことを言われているけれど、今回は目をつぶる。だって、ソロ冒険者になるためだもの!

「アルマさまの紹介で来ました。攻撃魔法の魔道具が欲しいと言ったら、この魔道具屋なら作ってくれるかもって」
「フン、アルマの紹介か……」

 店主は心底嫌そうに呟いた。

「お前、回復魔法専門だろう。なぜ、得意分野を活かさずに、攻撃の魔道具を利用するんだ?」

 回復魔法専門とわかったのは、私が聖女だと知っていたのだろう。ま、元聖女だけどね。

「それは……大魔法使いさまに憧れていたからです」
「大魔法使いだと?」

 店主の顔が険しくなった。

「そうです。魔獣にさらわれたときに、助けていただいたことがあるんです。私、大魔法使いさまの大ファンなんです。攻撃は最大の防御ということを身をもって知りました」

 おっと? そこまで語ると、店主に変化が。

「大ファン……」

 口の端がピクリと反応した。

「作ってやらないことはない」

 つまり、オーダーを受けてくれるらしい。

「……え? いいんですか!」

 なぜかファンだと言った途端に態度が柔らかくなった。
 そこで私はピンと閃いた。
 大魔法使いさまの魔道具を作ってあげるくらいなのだから、この店主もファンだろうと。
 つまりこの店主も同志だ!
 そんな仮説が頭の中に浮かび上がり、一人納得する。

「わかった。デザインなどは任せてもらっていいだろうか?」

 デザイン? ブローチとか身につける魔道具だろうか。機能性が良いものが届けばそれで満足だ。

「ええ。攻撃魔法が使えるようになれば、どんなものでもいいわ」
「そうか」

 私が魔法使いになろうときっかけは、五年前に魔獣にさらわれたときに大魔法使いさまから命を助けられたことだ。
 剣を振るって魔獣を倒す姿に憧れると共に大ファンになった。

 なぜか大魔法使いさまが所属していた勇者パーティは突然解散となり、私が所属していた勇者パーティがその後を受け継いだ。
 噂によれば、大魔法使いさまが辞職を申し出たところ、パーティ自体を解体することになったそうだ。伝説の勇者パーティの中では、大魔法使いさまだけが表舞台には出ずに生活しているらしい。

 十二歳のときのスキル鑑定で、素質があると言われてヒーラーを目指したけれど、攻撃魔法ができるようになれば、彼のような魔獣から人々を救える存在になるチャンスだ。

 発注して一週間後。「店に来れば渡せる状態になっている」と言われて魔道具屋にて。

「注文した魔道具を受け取りに来ました」
「ああ。できている」

 そう言って渡された魔道具は、ウサ耳にメイド服だった。

「これ、ですか……?」
「そうだが」

 何か問題あるか? と言いたげに涼しい顔をしている店主を睨みつけた。
 問題は大ありだ。全く趣味でない、ウサ耳にメイド服を着ろと言うのだろうか。冗談じゃない――!

「私、こんな服を注文したつもりはないですが? 攻撃の魔道具が欲しくて――」
「デザインは任せるって言っただろうが」
「言ったけど、こんなものができるとは思わなかったわ!」
「騙されたつもりで着てみろ。効果はあるはずだ。せめてウサ耳だけでも」
「変態!」
「文句はウサ耳をつけてから言うんだな。さあ、外で技を打ってみろ」
「ええー!?」

 イヤイヤながらウサ耳のカチューシャをつける。屈辱。

 店の外には野原が広がっていた。技の試し撃ちに使われている場所なのか、丸太の的にはいくつも傷がついていた。

「やります」
「どうぞ」

 とりあえず技の宣言をして、手を開いて前に突き出した。

「シャインアロウ!」

 私の手から光の矢が放たれる。
 店主は息を呑んだ。

「……やるな」

 効果はバッチリ。光の矢が人型の頭の部分に突き刺さっていた。
 もしや、呪文さえ唱えれば、得意な属性でなくてもできちゃう感じ?

「もう一つやってみていいですか?」
「どうぞ」

 一応了解を取ってから、呪文を唱えた。

「アイスアロウ!」

 今度は氷の柱が手のひらから出てきて、丸太の胴部分に刺さった。
 嬉しい。指示通りに魔法が使える。
 水も炎も出せるだろうし、毎日お風呂に入り放題! ダンジョン攻略では数日間我慢してたお風呂!
 想像してワクワクする。そんなことのために魔道具を手に入れたわけではないけど。

「アルマさまが腕は一級品と仰っていただけあるわね。買わせていただくわ」
「どうも」

 ウサ耳を外して、一息つく。不満があるとしたら、ウサ耳の形だけだった。指輪とか、ネックレスとか、いくらでも加工できたはず。店主の趣味が悪いとしか思えない。

『本人は不本意だったが、ギルド界ではウサ耳のロザリーの愛称で知られることに』

 私の頭の中に最悪なシナリオが流れたが、そうはならなかった。

 というのは、帰宅してウサ耳を装着しようとしたときのこと。

「……あれ?」

 ウサ耳の付け根部分にボタンを見つけた。ポチッとな。

「あ、これ、外せるじゃない!」

 ウサ耳だけを外せば、ただの黒色のカチューシャになる。それなら全く恥ずかしくはない。
 カチューシャが魔道具の役割を果たしていて、ウサ耳はただの装飾だった。
 なんだ。急に疲れが押し寄せてきて、こめかみを揉み込む。

「あの店主にやられたわ……」

 おそらく、一週間かかったのはウサ耳とメイド服の創作時間で、カチューシャだけだったらもっと短期間で出来上がっていたはずである。
 でも、まあ、攻撃の魔道具が手に入ったのだから良しとしよう。
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