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第二章 学園編
31 文化祭①
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十月に入ると文化祭が近づいてきて、学校全体がお祭り気分になってきた。
しかし、部活動に入っていない私には関係のないことだった。参加自由の学校行事で、気になる催しだけ見に行くつもりだった。
「秋山は、部活入っていないから暇だろ。文化祭につき合え」
放課後、帰ろうとしているところを健太に捕まった。有無は言わさないとばかりの命令だ。
「わ、私は暇じゃないよ。他の人をあたって」
私は慌てて鞄を持ち直した。
「秋山と行きたいんだ」
「え……」
健太が私を誘うなんて、どういう風の吹き回し? もしかして、関口さんとデートするから、練習台として私を連れて行くとか? いや……それは考えすぎか。でも、どうして私……?
私はしばらく考えてみるものの理由が思い当たらない。仕方ないので彼に理由を尋ねてみることにした。
「なんで私なの?」
と、率直に尋ねると、彼は少し口ごもってから答えたのだった。
「……何となくだよ」
「何となく……?」
「そう。秋山と文化祭を楽しみたいって思ったんだ」
健太の答えに私は絶句した。絶対、何か企んでいるに違いない! でも……ここで断ったら怪しまれるわよね? 私は渋々、了承することにした。
そして迎えた文化祭当日、私は待ち合わせ場所である校門前で健太を待っていた。
すると、彼は時間通りにやってきた。
「待たせたか?」と健太は片手を挙げる。制服姿の彼は、普段とは違って見えた。
「少し待ったかな」
私が正直に答えると、彼は「そこは『今来たところ』って言えよ」と苦笑した。
「それで、どこに行くの?」
「とりあえず、校舎内を回ろうぜ。何か面白いものに出会えるかもしれないだろ?」
「さっさと行こう!」と私が歩き出すと、健太は後ろからついてきた。そして、並んで歩き始める。
派手に装飾された文化祭の門を通り抜けると、黄色く紅葉したイチョウ並木道には露店が立ち並び、香ばしい匂いが広がる。
「こんにちは!」
「名物の城宮焼きはいかがでしょうか!」
生徒たちからの威勢の良い声に、私はつい、目移りしてしまう。出来立ての食べ物が美味しそうに見えてしまう。それでも、思いとどまるのは横を歩く健太がいるからだ。
校舎の中へ入ると、すでに多くの生徒で溢れかえっていた。各クラスや部活の出し物で盛り上がっているようで騒がしい。廊下が狭く感じられるほどだった。
しかし……これは本当にデートみたいじゃない? 私はちらりと隣を歩く健太を見る。彼は真剣な表情でガイドブックを眺めていた。
「見たいところある?」
と、健太から聞かれて、うーんと私は唸った。二人で楽しめるところとなると、選択肢は限られる。
個人的には「学校からのエスケープ」が気になっていた。制限時間内に暗号やパズルを解くもので、それを目当てにやって来る人がいるくらい人気が高い。
私は健太の顔を見る。彼はどんな問題でも解けそうな顔をしている。これでは勝負をしても面白くない。ゲームだと思うと、負けられないのが私だった。協力プレイだとしても、無意識に競争してしまう。やめよう。
ガイドブックをめくると、体育館の催し物のタイムスケジュールが目に入った。
「……私、演劇が見たい」
「いいよ」
二つ返事で承諾してくれる。
「いいの?」
「いいに決まってるだろ」
「あ、ありがとう……」と私は戸惑った。優しい態度を取られると、どうしていいか分からない!
「そうだ。健太の見たいところは?」
「俺は……あ、美術部のトリックアートとか面白そうだな」
トリックアートとは目のつけ所が良い。最初は健太と一緒に回るのは乗り気ではなかったけれど、私も一緒に見てみたい。
「私も気になる! 行こう!」
私たちは美術部の展示物がある教室へと向かったのだった。
その道すがら、マジックで装飾された看板を見つけて足を止める。
「ちょっと寄ってもいいかな?」
「いいよ」
教室に入って、文芸部の冊子を手に取る。平積みになっていて、売り子も携帯をいじっていて、隙を持て余しているようだ。
「すみません、一冊ください!」
売り子は携帯から顔を上げると、「三百円です」とぶっきらぼうに言われた。
私はお金を払って部誌を受け取ると、カバンの中に入れた。
「お待たせ」
「……秋山は小説読むんだな」
「ミステリーとか好きで。文芸部の作品も日常の謎がテーマで、とっつきやすかったんだ」
「へえ……」と健太は目を丸くした。
私は目当てのものが手に入ってホクホクとした気持ちになりながら、冊子を鞄の中に入れたのだった。
「次、行こう!」
「ああ……」
上機嫌になって健太に笑顔を向けると、ぎこちない顔を返された。
「どうしたの?」
「いや……楽しんでくれてよかったな、と」
「何言っているの。文化祭は楽しむものでしょう! 立ち止まっていないで行くよ!」
私が次の教室に向かって歩き出すと、健太はすぐに追いついてきた。
「トリックアートの教室へようこそ!」
レモン色のTシャツを着た美術部の部員が出迎えてくれる。
美術室に入ると、地下へ続く階段があった。葵は足を止めて、床を見下ろした。
階段ではなく、床に描かれた絵だった。
「よくできているね!」
「そうだな」
踏んでもいいように、ペンキで塗られているらしい。
壁の額縁から飛び出しているのはクジラだ。でも、角度を変えると明らかに絵で、目の錯覚で立体的になっている。
「発想一つで面白くなるんだな」
健太の前の壁には、開け放たれた窓が描かれていて、窓の中には雲が描かれている。
「写真OKって書いてある。スマホに残しておこう」
パシャリと音をさせて、画面に収める。
「撮れたか?」
「……うん」
私は少し考えてから、健太にカメラを向けた。
「え、おい……」
健太が戸惑っていたけれど、私はシャッターを切った。その写真をメールに添付して『これがトリックアートだよ』と健太に送り付ける。
するとすぐに返信が来たので確認すると『楽しそうで何より』という素っ気無い文章だった。でも、それが彼らしいと思った。
「演劇の開演時間が近づいてきたな。そろそろ移動するか」
「うん、そうだね」
私たちは美術室を後にして、演劇部の出し物である劇を見に行くことにした。
しかし、部活動に入っていない私には関係のないことだった。参加自由の学校行事で、気になる催しだけ見に行くつもりだった。
「秋山は、部活入っていないから暇だろ。文化祭につき合え」
放課後、帰ろうとしているところを健太に捕まった。有無は言わさないとばかりの命令だ。
「わ、私は暇じゃないよ。他の人をあたって」
私は慌てて鞄を持ち直した。
「秋山と行きたいんだ」
「え……」
健太が私を誘うなんて、どういう風の吹き回し? もしかして、関口さんとデートするから、練習台として私を連れて行くとか? いや……それは考えすぎか。でも、どうして私……?
私はしばらく考えてみるものの理由が思い当たらない。仕方ないので彼に理由を尋ねてみることにした。
「なんで私なの?」
と、率直に尋ねると、彼は少し口ごもってから答えたのだった。
「……何となくだよ」
「何となく……?」
「そう。秋山と文化祭を楽しみたいって思ったんだ」
健太の答えに私は絶句した。絶対、何か企んでいるに違いない! でも……ここで断ったら怪しまれるわよね? 私は渋々、了承することにした。
そして迎えた文化祭当日、私は待ち合わせ場所である校門前で健太を待っていた。
すると、彼は時間通りにやってきた。
「待たせたか?」と健太は片手を挙げる。制服姿の彼は、普段とは違って見えた。
「少し待ったかな」
私が正直に答えると、彼は「そこは『今来たところ』って言えよ」と苦笑した。
「それで、どこに行くの?」
「とりあえず、校舎内を回ろうぜ。何か面白いものに出会えるかもしれないだろ?」
「さっさと行こう!」と私が歩き出すと、健太は後ろからついてきた。そして、並んで歩き始める。
派手に装飾された文化祭の門を通り抜けると、黄色く紅葉したイチョウ並木道には露店が立ち並び、香ばしい匂いが広がる。
「こんにちは!」
「名物の城宮焼きはいかがでしょうか!」
生徒たちからの威勢の良い声に、私はつい、目移りしてしまう。出来立ての食べ物が美味しそうに見えてしまう。それでも、思いとどまるのは横を歩く健太がいるからだ。
校舎の中へ入ると、すでに多くの生徒で溢れかえっていた。各クラスや部活の出し物で盛り上がっているようで騒がしい。廊下が狭く感じられるほどだった。
しかし……これは本当にデートみたいじゃない? 私はちらりと隣を歩く健太を見る。彼は真剣な表情でガイドブックを眺めていた。
「見たいところある?」
と、健太から聞かれて、うーんと私は唸った。二人で楽しめるところとなると、選択肢は限られる。
個人的には「学校からのエスケープ」が気になっていた。制限時間内に暗号やパズルを解くもので、それを目当てにやって来る人がいるくらい人気が高い。
私は健太の顔を見る。彼はどんな問題でも解けそうな顔をしている。これでは勝負をしても面白くない。ゲームだと思うと、負けられないのが私だった。協力プレイだとしても、無意識に競争してしまう。やめよう。
ガイドブックをめくると、体育館の催し物のタイムスケジュールが目に入った。
「……私、演劇が見たい」
「いいよ」
二つ返事で承諾してくれる。
「いいの?」
「いいに決まってるだろ」
「あ、ありがとう……」と私は戸惑った。優しい態度を取られると、どうしていいか分からない!
「そうだ。健太の見たいところは?」
「俺は……あ、美術部のトリックアートとか面白そうだな」
トリックアートとは目のつけ所が良い。最初は健太と一緒に回るのは乗り気ではなかったけれど、私も一緒に見てみたい。
「私も気になる! 行こう!」
私たちは美術部の展示物がある教室へと向かったのだった。
その道すがら、マジックで装飾された看板を見つけて足を止める。
「ちょっと寄ってもいいかな?」
「いいよ」
教室に入って、文芸部の冊子を手に取る。平積みになっていて、売り子も携帯をいじっていて、隙を持て余しているようだ。
「すみません、一冊ください!」
売り子は携帯から顔を上げると、「三百円です」とぶっきらぼうに言われた。
私はお金を払って部誌を受け取ると、カバンの中に入れた。
「お待たせ」
「……秋山は小説読むんだな」
「ミステリーとか好きで。文芸部の作品も日常の謎がテーマで、とっつきやすかったんだ」
「へえ……」と健太は目を丸くした。
私は目当てのものが手に入ってホクホクとした気持ちになりながら、冊子を鞄の中に入れたのだった。
「次、行こう!」
「ああ……」
上機嫌になって健太に笑顔を向けると、ぎこちない顔を返された。
「どうしたの?」
「いや……楽しんでくれてよかったな、と」
「何言っているの。文化祭は楽しむものでしょう! 立ち止まっていないで行くよ!」
私が次の教室に向かって歩き出すと、健太はすぐに追いついてきた。
「トリックアートの教室へようこそ!」
レモン色のTシャツを着た美術部の部員が出迎えてくれる。
美術室に入ると、地下へ続く階段があった。葵は足を止めて、床を見下ろした。
階段ではなく、床に描かれた絵だった。
「よくできているね!」
「そうだな」
踏んでもいいように、ペンキで塗られているらしい。
壁の額縁から飛び出しているのはクジラだ。でも、角度を変えると明らかに絵で、目の錯覚で立体的になっている。
「発想一つで面白くなるんだな」
健太の前の壁には、開け放たれた窓が描かれていて、窓の中には雲が描かれている。
「写真OKって書いてある。スマホに残しておこう」
パシャリと音をさせて、画面に収める。
「撮れたか?」
「……うん」
私は少し考えてから、健太にカメラを向けた。
「え、おい……」
健太が戸惑っていたけれど、私はシャッターを切った。その写真をメールに添付して『これがトリックアートだよ』と健太に送り付ける。
するとすぐに返信が来たので確認すると『楽しそうで何より』という素っ気無い文章だった。でも、それが彼らしいと思った。
「演劇の開演時間が近づいてきたな。そろそろ移動するか」
「うん、そうだね」
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