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朝の庭
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昼夜が逆転した牡丹茶寮の朝は男娼も給仕役も料理人も眠りについていて屋敷は静まり返り、庭に面した障子の外から、池の水音と鳥のさえずりが聞こえてくる。
そんなのどかな音色とは裏腹に小さな和室の中は薄暗く、僕は全身が痛みに支配されていた。
秋彦になん百回と打たれた肌は着物と擦れるたびにさらに痛みを主張し、泣き叫んだ喉はひりひりと疼く。
ペニスには黒い貞操帯がつけられ、触れることも勃起することも禁止された上で、お尻に突っ込まれたバイブが微かに振動し身体を熱くしていた。
「………っ、…ッ」
触って思いきり達したい。身体の熱を放出したい。
バイブに反応したペニスは快感を感じるどころか、貞操帯のベルトに締め付けられてじりじりと痛む。
「秋、ひこ……っ…」
おそらく執務室へ戻った秋彦に声が届くはずもないのに、苦しさの中でうわ言のようにつぶやく。
久しぶりに秋彦を本気で怒らせた。
あの若い男の子たちに意地悪なことを言って壁に向かって立たされたところでやめておけば良かった。
世話役に手を出したのは何度目かだけれど、秋彦にわざと見せつけるようなことをしたのは初めてだった。
竹製の細長く硬い鞭で尻を打たれながら何度も「もうしない」と約束させられた。
僕の声はきっと屋敷中に響いただろう。
「……ぅ…ぁっ…」
お仕置き中は痛みで頭が真っ白になるけれど、こうして放置されるよりはずっといい。
射精を禁止されるのも、秋彦の手に握り締められていればまだ我慢出来る。
機械的に振動を加えるバイブで感じさせられて、冷たい貞操帯で阻まれるなんて嫌だ。
「…ん……っ…」
喉がからからに乾いている。せめて水を一口飲みたい。
龍也でも椿でもいい。秋彦に命じられて僕の様子を見に来たら水をねだろうか。
それとも「私が戻るまでここで反省してろ」という言いつけを破って、秋彦の執務室までこの身体をひきずっていくか。
いや、ただでさえあんなに怒っている秋彦の言いつけを破るのは、得策ではない。それならば……。
「……、っ…うっ…」
畳の上をゆっくりと滑るように移動して、庭側の襖をひらく。
外廊下の板張りに両手をついて、庭の砂に両足を下ろした。
肩にかけただけの着物の左右を手繰り寄せ歩き出そうとするも、足に力が入らない。
何度か立ち上がろうとしたがもどかしいばかりで、結局、砂の上を這って庭の中央に位置する大きな池に寄っていった。
こんな姿を見られたらと思ったが、この時間に、起き出してきて庭をながめるものなどいないだろう。
誰にも見られずに水だけ飲んで、部屋に戻ればいい。
池を取り囲む岩に両腕をついて這いのぼる。
池の水は透き通っていて底に敷き詰められた砂利が見えた。
右手を池の中に差し入れると、冷たさが肌をさす。
ゆっくりと持ち上げた手のひらを唇へと運び、ぼたぼたと垂らしながらなんとか口に水を含んだ。喉が冷たく潤って身体に染みわたり、身体の火照りもほんの少し和らぐ気がする。
それでも手のひらで掬えるのは、ほんの少量だ。
僕は徐々に前のめりになり手のひらの水を飲むのに必死になっていて、何度目かの水を飲もうとした瞬間、身体を支えていた左手が、ずる、っと岩の上を滑って、上半身が大きく前に傾いた。
「ぁっ………っ!」
思わず叫んだ次の瞬間には、頭から肩まで水しぶきをあげて池の中に突っ込んでいた。
底の深い池でもない。咄嗟に両手を池底につき、頭をあげて息を吐き出す。
その直後、
「だい、じょうぶですか?」
と後ろから声をかけられて、慌てて振りかえった。
背後には見覚えのない灰色のスーツ姿の男が、上半身ずぶ濡れになった僕を硬い表情で見つめていた。
背はすらりと高く、横に流された長い前髪が感情のよめない瞳にかかっている。
牡丹茶寮で働いている男たちなら顔を見ればわかるが、この男は知らない。それに店から支給される和服ではなく、スーツ姿なのも明らかに浮いていた。
「手を、お貸ししましょうか?」
「触らないで…ッ!」
歩み寄られ、身体に手を伸ばされそうになり精一杯の棘をこめて短く叫ぶ。
男はわずかに両目を開いたものの、たじろきはせず冷静な表情のまま「失礼しました」と呟いた。
「あん、た……っ、誰?」
「澤田さまにお会いしに……」
「秋、ひこ…の…お客……っ?」
こんな朝から人が訪ねてくることに違和感を感じて僕は眉間に皺をよせる。
なによりどこの誰かもわからないこの男に陽のあたる庭で、こんなみっともない姿を見られていることが腹立たしい。
苦しい息を吸い込み、ここじゃなくて表の玄関の方に回れば、と言おうとした時、
「憐ッ!」
と、鋭い声が飛んできて頭から足の先まで一気に寒気が走った。
長い髪をほどき肩の後ろに流した秋彦は、昨日とは違う深紫色の着物に着替えて、冷たい表情で僕を睨みつけている。
「秋、ひこ……あの…っ」
「部屋を抜け出していいと誰が許可した?」
廊下から下駄を突っ掛け、縮こまる僕の元へやってきた秋彦は、僕が濡れていることに気がついてさらに険しい目つきになる。
「これは……あの。ただ…っ、喉が…乾いぃぃッ」
平手で頬を思いきり叩かれ、池とは反対の方向によろめいて砂の上に倒れこむ。
濡れた頬に砂利がまとわりつき、腕が地面に思いきり擦れて叩かれた頬と同じくらいの痛みがはしる。
頭上で、ピッと機械音がして、今まで微振動を続けていたバイブの動きが急に激しくなった。
「ぃぃやぁ…っぁあ…、あぁっ」
内壁から振動が広がって、ぞわぞわとした快感と同時に縛られたペニスがより一層苦しくなる。僕は両手を握りしめて砂の上で身体を丸めた。
「あの……」
それまで黙っていた男の声と「失礼ですが、どなた様ですか」という秋彦の来客向けの丁寧で穏やかな声が重なる。
「申し遅れました。隆文と申します。こちらで澤田秋彦さまにお会いする約束で…」
「ああ、紹介の男か。駅まで椿を迎えにいかせたのだが……まあ、いい。転がってるそいつを運んで付いてこい」
「あき、ひこ…っ。す、少しっだけ…っ。弱くして…っあぁあっ」
踵を返して歩き出してしまう秋彦の足に縋りつこうと、手を伸ばしたが届かず空をつかむ。
身体じゅうに汗が噴き出していてべとべとになり、両目に涙の膜がはって視界が滲んでいた。
「失礼します」
目の前に覆いかぶさられて、はだけかけた着物で身体を包まれ、素早く横抱きに持ち上げられる。
「うぅぅっぁ…っ……っ」
触れられると自分の意思とは関係なく、身体が疼く。
「大丈夫ですか」
と、耳元で囁かれる。大丈夫なわけない、と言い返すことすらできず僕はただ歯を食いしばって黙って運ばれていった。
そんなのどかな音色とは裏腹に小さな和室の中は薄暗く、僕は全身が痛みに支配されていた。
秋彦になん百回と打たれた肌は着物と擦れるたびにさらに痛みを主張し、泣き叫んだ喉はひりひりと疼く。
ペニスには黒い貞操帯がつけられ、触れることも勃起することも禁止された上で、お尻に突っ込まれたバイブが微かに振動し身体を熱くしていた。
「………っ、…ッ」
触って思いきり達したい。身体の熱を放出したい。
バイブに反応したペニスは快感を感じるどころか、貞操帯のベルトに締め付けられてじりじりと痛む。
「秋、ひこ……っ…」
おそらく執務室へ戻った秋彦に声が届くはずもないのに、苦しさの中でうわ言のようにつぶやく。
久しぶりに秋彦を本気で怒らせた。
あの若い男の子たちに意地悪なことを言って壁に向かって立たされたところでやめておけば良かった。
世話役に手を出したのは何度目かだけれど、秋彦にわざと見せつけるようなことをしたのは初めてだった。
竹製の細長く硬い鞭で尻を打たれながら何度も「もうしない」と約束させられた。
僕の声はきっと屋敷中に響いただろう。
「……ぅ…ぁっ…」
お仕置き中は痛みで頭が真っ白になるけれど、こうして放置されるよりはずっといい。
射精を禁止されるのも、秋彦の手に握り締められていればまだ我慢出来る。
機械的に振動を加えるバイブで感じさせられて、冷たい貞操帯で阻まれるなんて嫌だ。
「…ん……っ…」
喉がからからに乾いている。せめて水を一口飲みたい。
龍也でも椿でもいい。秋彦に命じられて僕の様子を見に来たら水をねだろうか。
それとも「私が戻るまでここで反省してろ」という言いつけを破って、秋彦の執務室までこの身体をひきずっていくか。
いや、ただでさえあんなに怒っている秋彦の言いつけを破るのは、得策ではない。それならば……。
「……、っ…うっ…」
畳の上をゆっくりと滑るように移動して、庭側の襖をひらく。
外廊下の板張りに両手をついて、庭の砂に両足を下ろした。
肩にかけただけの着物の左右を手繰り寄せ歩き出そうとするも、足に力が入らない。
何度か立ち上がろうとしたがもどかしいばかりで、結局、砂の上を這って庭の中央に位置する大きな池に寄っていった。
こんな姿を見られたらと思ったが、この時間に、起き出してきて庭をながめるものなどいないだろう。
誰にも見られずに水だけ飲んで、部屋に戻ればいい。
池を取り囲む岩に両腕をついて這いのぼる。
池の水は透き通っていて底に敷き詰められた砂利が見えた。
右手を池の中に差し入れると、冷たさが肌をさす。
ゆっくりと持ち上げた手のひらを唇へと運び、ぼたぼたと垂らしながらなんとか口に水を含んだ。喉が冷たく潤って身体に染みわたり、身体の火照りもほんの少し和らぐ気がする。
それでも手のひらで掬えるのは、ほんの少量だ。
僕は徐々に前のめりになり手のひらの水を飲むのに必死になっていて、何度目かの水を飲もうとした瞬間、身体を支えていた左手が、ずる、っと岩の上を滑って、上半身が大きく前に傾いた。
「ぁっ………っ!」
思わず叫んだ次の瞬間には、頭から肩まで水しぶきをあげて池の中に突っ込んでいた。
底の深い池でもない。咄嗟に両手を池底につき、頭をあげて息を吐き出す。
その直後、
「だい、じょうぶですか?」
と後ろから声をかけられて、慌てて振りかえった。
背後には見覚えのない灰色のスーツ姿の男が、上半身ずぶ濡れになった僕を硬い表情で見つめていた。
背はすらりと高く、横に流された長い前髪が感情のよめない瞳にかかっている。
牡丹茶寮で働いている男たちなら顔を見ればわかるが、この男は知らない。それに店から支給される和服ではなく、スーツ姿なのも明らかに浮いていた。
「手を、お貸ししましょうか?」
「触らないで…ッ!」
歩み寄られ、身体に手を伸ばされそうになり精一杯の棘をこめて短く叫ぶ。
男はわずかに両目を開いたものの、たじろきはせず冷静な表情のまま「失礼しました」と呟いた。
「あん、た……っ、誰?」
「澤田さまにお会いしに……」
「秋、ひこ…の…お客……っ?」
こんな朝から人が訪ねてくることに違和感を感じて僕は眉間に皺をよせる。
なによりどこの誰かもわからないこの男に陽のあたる庭で、こんなみっともない姿を見られていることが腹立たしい。
苦しい息を吸い込み、ここじゃなくて表の玄関の方に回れば、と言おうとした時、
「憐ッ!」
と、鋭い声が飛んできて頭から足の先まで一気に寒気が走った。
長い髪をほどき肩の後ろに流した秋彦は、昨日とは違う深紫色の着物に着替えて、冷たい表情で僕を睨みつけている。
「秋、ひこ……あの…っ」
「部屋を抜け出していいと誰が許可した?」
廊下から下駄を突っ掛け、縮こまる僕の元へやってきた秋彦は、僕が濡れていることに気がついてさらに険しい目つきになる。
「これは……あの。ただ…っ、喉が…乾いぃぃッ」
平手で頬を思いきり叩かれ、池とは反対の方向によろめいて砂の上に倒れこむ。
濡れた頬に砂利がまとわりつき、腕が地面に思いきり擦れて叩かれた頬と同じくらいの痛みがはしる。
頭上で、ピッと機械音がして、今まで微振動を続けていたバイブの動きが急に激しくなった。
「ぃぃやぁ…っぁあ…、あぁっ」
内壁から振動が広がって、ぞわぞわとした快感と同時に縛られたペニスがより一層苦しくなる。僕は両手を握りしめて砂の上で身体を丸めた。
「あの……」
それまで黙っていた男の声と「失礼ですが、どなた様ですか」という秋彦の来客向けの丁寧で穏やかな声が重なる。
「申し遅れました。隆文と申します。こちらで澤田秋彦さまにお会いする約束で…」
「ああ、紹介の男か。駅まで椿を迎えにいかせたのだが……まあ、いい。転がってるそいつを運んで付いてこい」
「あき、ひこ…っ。す、少しっだけ…っ。弱くして…っあぁあっ」
踵を返して歩き出してしまう秋彦の足に縋りつこうと、手を伸ばしたが届かず空をつかむ。
身体じゅうに汗が噴き出していてべとべとになり、両目に涙の膜がはって視界が滲んでいた。
「失礼します」
目の前に覆いかぶさられて、はだけかけた着物で身体を包まれ、素早く横抱きに持ち上げられる。
「うぅぅっぁ…っ……っ」
触れられると自分の意思とは関係なく、身体が疼く。
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