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36.妖精族の情報網
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父や中隊長が訪問してから2日後。
夕方ごろになると、マーメイドとウェアウルフの中でも、位の高い者たちは、すぐに僕の側に集まっていた。
理由はもちろん、マーズヴァン帝国に組する4部族が、こちらに攻めてきているからである。
僕はハイエルフのアルディザを見た。
『何か新たにわかったことは?』
「……どうやら敵の本隊がいま、村を経ったようですね」
『他には?』
「敵の首領はガーフィス。ウェアウルフの村で一番大きな村の首領です……率いている手下はおおよそ250」
その言葉を聞いて、獣人たちはざわついていた。
ウェアウルフの戦力は約50人。人魚族では女も含めて35というところなのだから、敵の数を聞いて怯えない方がおかしいと思う。
味方の狼族で最も強いと思われるアルフレートも、険しい顔をしながらアルディザを見た。
「無論、それ以外にも敵戦力はいるのですね?」
「ええ、各村から40~100の戦力がそれぞれ出撃しています。全てを合わせると……450は超えるでしょう」
物陰からその話を聞いていた、マーメイドの一部が小声で何かをささやきだした。恐らく脱走の算段をたてているのだろう。イネスもどうしよう……みたいな顔をしているからちょうどいい。
『なんだ、その程度か……連中は本当にやる気があるのか?』
僕の一言を聞いて、位の高い者たちは全員が唖然としながら見てきた。このウマはいったい……何を考えているんだと言いたそうだ。
人魚族の長であるメラニーは、唯一落ち着いた顔で僕を見てきた。
「なにか、お考えがあるのですね?」
当然だと思いながら頷いた。
僕はこう見えても、前世では様々なゲームをやってきたヒキニートだ。戦略系ゲームと現実を一緒にしてはいけないかもしれないが、450人の敵を倒すのに80人以上の味方が使えるなんて、かなり親切な部類である。
『よし、アルディザ。敵の位置をなるべく正確に教えろ。一つ一つ叩き潰していく』
「はっ!」
アルディザは、まずは前にアルフレートたちのデュッセ村を攻撃した、敵ウェアウルフたちの位置を僕に話した。
どうやら連中は最もこちらに近く、敵連合チームの言わば先鋒に当たる部隊のようだ。
僕はそのルートを聞くと頷いた。
『よし、ここは2手に分かれて挟み撃ちにする。アルフレートたちは先に村に戻って守りを固めよ!』
「ははっ!」
アルフレートたちウェアウルフたちは、すぐにペガサスに乗って自分たちの村へと戻った。一方僕は、アルフたちがペガサスに乗って行ったのを見て頷いた。
ここで8騎のペガサスライダーが動くことに大きな意味が出てくる。
『よし、メラニー隊は川の、この地点に待機。リーダーはメラニーに任せる』
「お任せくだされ!」
人魚族の戦士たちが動き出すと、僕はアルディザを見た。
『アルディザ……例の霧の準備は?』
「すでに植物なら、半年以上前に設置済みです」
『……稼働もしているんだな?』
「はい。ご安心ください」
『わかった』
僕は頷くと、そのままイネスを背中に乗せて出撃準備を整えた。
あとはこちらが、万全の状態で迎え撃っていることに、敵が気づいていないことを祈るだけだ。ここで多くの敵を取り逃がせば、せっかく訪れたビッグチャンスを無意味なモノにしてしまう。
僕たちが外に出ておおよそ30分後。
敵の先鋒部隊が、予定通りアルフレートたちの村に攻撃を仕掛けてきた。どうやらアルフたちは当初の予定通り、最初のうちは散発的に攻撃を行ってくれたようだ。
こうすれば敵は、完全に不意を突けたと思い込んで強気に攻め込んでくる。
そして敵は再び、破城槌っぽい丸太を持ち込んで攻撃を仕掛けようとしたとき、敵ウェアウルフの後方に流れる川から、人魚たちの軍団が一斉に姿を現した。
背後から不意打ちを受けた敵ウェアウルフたちは混乱し、慌てて応戦しようとしたところで、今度は城門が開いてデュッセ村のウェアウルフたちが、敵ウェアウルフに襲い掛かった。
挟み撃ちを受けた、敵ウェアウルフ隊は大混乱に陥り、慌てて川に飛び込んで控えの人魚に捕まる者や、森に逃げ込んでこちら側の伏兵に倒されるものなど、先鋒隊は壊滅的な被害を出した。
敵を残らず捕縛し終えると、マーメイドたちは再び水の中へと潜み、デュッセ村のウェアウルフたちも再び村の中へと撤収した。
それから遅れること20分。
今度は第2陣の40人の敵ウェアウルフたちが駆け付けると、おびただしい戦の臭いに足が止まったようだ。
「長……こ、これは……」
「き、気を付けろ……人魚のにおいがする。水辺に潜んでいるかもしれん」
そのウェアウルフたちは、水辺だけに意識を向けて慎重に進んで来た。
そしてメインウエポンも槍など貫通力の高い武器を手にしている。確かにこの方が人魚を相手にするのなら正解だろう。
だけど、僕はアルフレートたちを見ると、彼らも手綱を握ったまま頷いた。
間もなく僕はイネスを背に乗せて先陣を切って飛んだ。攻撃目標はもちろん敵のウェアウルフ40人の集団だ。
敵は慌てて弓矢を構え直そうとしたが、僕が魔法を、イネスたちが長弓を放つと、敵部隊はたちまち大混乱の陥った。敵ウェアウルフは武装していると言っても、金属製の鎧で身を守っているのは、一部の幹部連中くらいなので、大半の戦士にとって長弓の一撃は致命傷になる。
何度も繰り返し矢を浴びせると、敵の40名の大半が戦意をなくして逃げていった。
「お見事でございます一角獣様。味方にはまだ数人のけが人がでただけです」
『だけどまだ、第3陣と本隊がいるはずだ。まだまだ大変なのはここからだぞ』
そう伝えると、アルフレートも頷いた。
さて、次は第3陣との戦いか。日没も近いし……ここからは吉凶の分かれ目だろう。
夕方ごろになると、マーメイドとウェアウルフの中でも、位の高い者たちは、すぐに僕の側に集まっていた。
理由はもちろん、マーズヴァン帝国に組する4部族が、こちらに攻めてきているからである。
僕はハイエルフのアルディザを見た。
『何か新たにわかったことは?』
「……どうやら敵の本隊がいま、村を経ったようですね」
『他には?』
「敵の首領はガーフィス。ウェアウルフの村で一番大きな村の首領です……率いている手下はおおよそ250」
その言葉を聞いて、獣人たちはざわついていた。
ウェアウルフの戦力は約50人。人魚族では女も含めて35というところなのだから、敵の数を聞いて怯えない方がおかしいと思う。
味方の狼族で最も強いと思われるアルフレートも、険しい顔をしながらアルディザを見た。
「無論、それ以外にも敵戦力はいるのですね?」
「ええ、各村から40~100の戦力がそれぞれ出撃しています。全てを合わせると……450は超えるでしょう」
物陰からその話を聞いていた、マーメイドの一部が小声で何かをささやきだした。恐らく脱走の算段をたてているのだろう。イネスもどうしよう……みたいな顔をしているからちょうどいい。
『なんだ、その程度か……連中は本当にやる気があるのか?』
僕の一言を聞いて、位の高い者たちは全員が唖然としながら見てきた。このウマはいったい……何を考えているんだと言いたそうだ。
人魚族の長であるメラニーは、唯一落ち着いた顔で僕を見てきた。
「なにか、お考えがあるのですね?」
当然だと思いながら頷いた。
僕はこう見えても、前世では様々なゲームをやってきたヒキニートだ。戦略系ゲームと現実を一緒にしてはいけないかもしれないが、450人の敵を倒すのに80人以上の味方が使えるなんて、かなり親切な部類である。
『よし、アルディザ。敵の位置をなるべく正確に教えろ。一つ一つ叩き潰していく』
「はっ!」
アルディザは、まずは前にアルフレートたちのデュッセ村を攻撃した、敵ウェアウルフたちの位置を僕に話した。
どうやら連中は最もこちらに近く、敵連合チームの言わば先鋒に当たる部隊のようだ。
僕はそのルートを聞くと頷いた。
『よし、ここは2手に分かれて挟み撃ちにする。アルフレートたちは先に村に戻って守りを固めよ!』
「ははっ!」
アルフレートたちウェアウルフたちは、すぐにペガサスに乗って自分たちの村へと戻った。一方僕は、アルフたちがペガサスに乗って行ったのを見て頷いた。
ここで8騎のペガサスライダーが動くことに大きな意味が出てくる。
『よし、メラニー隊は川の、この地点に待機。リーダーはメラニーに任せる』
「お任せくだされ!」
人魚族の戦士たちが動き出すと、僕はアルディザを見た。
『アルディザ……例の霧の準備は?』
「すでに植物なら、半年以上前に設置済みです」
『……稼働もしているんだな?』
「はい。ご安心ください」
『わかった』
僕は頷くと、そのままイネスを背中に乗せて出撃準備を整えた。
あとはこちらが、万全の状態で迎え撃っていることに、敵が気づいていないことを祈るだけだ。ここで多くの敵を取り逃がせば、せっかく訪れたビッグチャンスを無意味なモノにしてしまう。
僕たちが外に出ておおよそ30分後。
敵の先鋒部隊が、予定通りアルフレートたちの村に攻撃を仕掛けてきた。どうやらアルフたちは当初の予定通り、最初のうちは散発的に攻撃を行ってくれたようだ。
こうすれば敵は、完全に不意を突けたと思い込んで強気に攻め込んでくる。
そして敵は再び、破城槌っぽい丸太を持ち込んで攻撃を仕掛けようとしたとき、敵ウェアウルフの後方に流れる川から、人魚たちの軍団が一斉に姿を現した。
背後から不意打ちを受けた敵ウェアウルフたちは混乱し、慌てて応戦しようとしたところで、今度は城門が開いてデュッセ村のウェアウルフたちが、敵ウェアウルフに襲い掛かった。
挟み撃ちを受けた、敵ウェアウルフ隊は大混乱に陥り、慌てて川に飛び込んで控えの人魚に捕まる者や、森に逃げ込んでこちら側の伏兵に倒されるものなど、先鋒隊は壊滅的な被害を出した。
敵を残らず捕縛し終えると、マーメイドたちは再び水の中へと潜み、デュッセ村のウェアウルフたちも再び村の中へと撤収した。
それから遅れること20分。
今度は第2陣の40人の敵ウェアウルフたちが駆け付けると、おびただしい戦の臭いに足が止まったようだ。
「長……こ、これは……」
「き、気を付けろ……人魚のにおいがする。水辺に潜んでいるかもしれん」
そのウェアウルフたちは、水辺だけに意識を向けて慎重に進んで来た。
そしてメインウエポンも槍など貫通力の高い武器を手にしている。確かにこの方が人魚を相手にするのなら正解だろう。
だけど、僕はアルフレートたちを見ると、彼らも手綱を握ったまま頷いた。
間もなく僕はイネスを背に乗せて先陣を切って飛んだ。攻撃目標はもちろん敵のウェアウルフ40人の集団だ。
敵は慌てて弓矢を構え直そうとしたが、僕が魔法を、イネスたちが長弓を放つと、敵部隊はたちまち大混乱の陥った。敵ウェアウルフは武装していると言っても、金属製の鎧で身を守っているのは、一部の幹部連中くらいなので、大半の戦士にとって長弓の一撃は致命傷になる。
何度も繰り返し矢を浴びせると、敵の40名の大半が戦意をなくして逃げていった。
「お見事でございます一角獣様。味方にはまだ数人のけが人がでただけです」
『だけどまだ、第3陣と本隊がいるはずだ。まだまだ大変なのはここからだぞ』
そう伝えると、アルフレートも頷いた。
さて、次は第3陣との戦いか。日没も近いし……ここからは吉凶の分かれ目だろう。
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