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29.日和見部族、リュドの前に現れる
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人魚の隠れ里へと戻ると、長老のメラニーが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ一角獣様」
『ちと腹が減ってな。食事はあるか?』
「もちろんございますとも。すぐにご用意いたします」
メラニーは配下の者たちに指示すると、僕の目の前には果実やハーブなど、森に実る幸が次々と並べられた。
もちろん牧草もあったので、試しに口に入れてみると美味い。まるでサラダを無心に食べているような感じだ。
『イネス、君も食べるがいい』
「う、うん……ありがと」
一通り森の幸を堪能すると、すっかり集中力も戻ったので作業を行うこととした。
『ビン職人のロクサーヌはいるか?』
「すぐに呼んで参ります」
ロクサーヌという少女は誰のことかはわからなかったが、カロルと最初の井戸端会議をしていた少女だった。
彼女はその時とは違い、少し緊張気味に僕を見ている。
「ロクサーヌと申します。何か御用でしょうか?」
『あのビンだが、とても品質が良くて助かった。あと50ほど欲しいのだが、どれくらいかかる?』
そう質問すると、ロクサーヌは視線を上げて考え込んだ。
「実は予備用のモノが30個余っていますので、まずそれを差し上げます……残り20は、そうですね……」
彼女は何かを目算するように指を動かしてから答えた。
「3日ほどあれば……」
『わかった。聖水やユニコーン軟膏を入れたいので、なるべく早めに作って欲しい』
「わ、わかりました!」
間もなくロクサーヌは、仲の良い友人であるカロルとマリーの2人に、ビンの配達を頼んだようだ。
カロルたちは僕の前にビンを丁寧に運んでくれた。
「合わせて32本。確かにお届けいたしました」
『ちょうどこちらも、イネスが薬草をすりつぶし終えたところだ』
ロクサーヌは酒を入れるのにピッタリなサイズのモノから、ジャムを入れるのに便利そうな小さなビンまで様々なタイプのモノを作っていた。
僕は1つ1つのビンにユニコーンホーンを近づけて消毒を済ませると、大きなサイズのモノには聖水を入れるように指示を出し、コルクでフタをした。
今回は聖水も沸騰させたお湯を使ったので保存状態も十分だろう。
『薬草も加熱処理してから、小さなビンに入れよう』
「わかりました」
そして3日目。4日目と僕は聖水を作ったり薬草をペースト化させて薬を作っていた。
順調に薬や聖水のストックも増えてきたとき、人魚のカロルがやって来て言う。
「一角獣様……」
『どうした?』
「ウェアウルフの集落のひとつ。ヒヨッミーから使者が訪れました」
ヒヨッミーは、人魚族の集落から少し離れた場所にあるウェアウルフたちの集落だ。
カロルたちの話では、帝国側にも人魚側にもつかずに、中立を決め込んでいる人々だという。
『わかった……会おう』
「少々お待ちください」
やってきたのは男性のウェアウルフだったが、やはりアルフレートに比べると力量も賢さも一ランク落ちる感じの使者だった。
彼は自己紹介を終えると、僕を見ながらゆっくりと話を切り出した。
「一角獣殿、今日来たのは他でもありません。実は我ら集落でペガサスを1頭保護したのです」
『なるほど……もちろんその天馬、タダでは返してくれないのだろう?』
「はい。噂に聞いたユニコーンの聖水や軟膏を我々にも譲って頂きたい」
なるほど。彼らはビジネスに来たということか。
そうなると……軟膏1つというワケではないだろう。
『貴殿らは幾つを所望する?』
「そうですね……聖水30、軟膏20でいかがでしょう?」
その数なら、すでにストックがある。
僕は少し考えてから答えた。
『なるほど。ペガサス1頭をこちらに届け、さらに製品も受け取りに来てくれるのなら……期日までに用意しよう』
「畏まりました。では……3日後にお願いできますか?」
『あいわかった』
こうして交渉は成立し、僕はすぐにビン職人のロクサーヌを呼んだ。
『……というワケで、新たに聖水用のビンを50、軟膏のビンを40ほどお願いできるか?』
「はい。すでにできている分を新たに出しますので、残りを作ります」
『いつもすまんな』
こうして僕は3日後に、ヒヨッミー地域の部族と取引し、聖水や軟膏と引き換えにペガサス1頭を入手した。
この天馬はメスだったらしく、においを確かめてみるとツーノッパ王国の納屋のにおいはしなかった。つまり、マーズヴァン帝国のモノである可能性が高い。
『イネス』
「なあに、お兄ちゃん?」
『吾が必ず出撃できるとは限らん。この天馬は君が管理しなさい』
そう伝えると、イネスは驚いた表情をしたが、やがて嬉しそうに微笑んでいた。
「……ありがとう、お兄ちゃん!」
この取引は、ヒヨッミー地域のウェアウルフたちにとって、かなり旨味のあるモノだったらしく、後日に再びペガサスと薬の交換を持ちかけてきた。
今度は、つがいでの取引でオスの方は体格も良かったため、聖水70と軟膏30を要求してきたが、僕も多めにストックを作っていたので、こちらも3日後に商談が成立。
マーメイドの隠れ家にはオスペガサス1頭、メスペガサス2頭がいる状態となった。
【マーメイドの隠れ里(中から外を観た様子)】
「お帰りなさいませ一角獣様」
『ちと腹が減ってな。食事はあるか?』
「もちろんございますとも。すぐにご用意いたします」
メラニーは配下の者たちに指示すると、僕の目の前には果実やハーブなど、森に実る幸が次々と並べられた。
もちろん牧草もあったので、試しに口に入れてみると美味い。まるでサラダを無心に食べているような感じだ。
『イネス、君も食べるがいい』
「う、うん……ありがと」
一通り森の幸を堪能すると、すっかり集中力も戻ったので作業を行うこととした。
『ビン職人のロクサーヌはいるか?』
「すぐに呼んで参ります」
ロクサーヌという少女は誰のことかはわからなかったが、カロルと最初の井戸端会議をしていた少女だった。
彼女はその時とは違い、少し緊張気味に僕を見ている。
「ロクサーヌと申します。何か御用でしょうか?」
『あのビンだが、とても品質が良くて助かった。あと50ほど欲しいのだが、どれくらいかかる?』
そう質問すると、ロクサーヌは視線を上げて考え込んだ。
「実は予備用のモノが30個余っていますので、まずそれを差し上げます……残り20は、そうですね……」
彼女は何かを目算するように指を動かしてから答えた。
「3日ほどあれば……」
『わかった。聖水やユニコーン軟膏を入れたいので、なるべく早めに作って欲しい』
「わ、わかりました!」
間もなくロクサーヌは、仲の良い友人であるカロルとマリーの2人に、ビンの配達を頼んだようだ。
カロルたちは僕の前にビンを丁寧に運んでくれた。
「合わせて32本。確かにお届けいたしました」
『ちょうどこちらも、イネスが薬草をすりつぶし終えたところだ』
ロクサーヌは酒を入れるのにピッタリなサイズのモノから、ジャムを入れるのに便利そうな小さなビンまで様々なタイプのモノを作っていた。
僕は1つ1つのビンにユニコーンホーンを近づけて消毒を済ませると、大きなサイズのモノには聖水を入れるように指示を出し、コルクでフタをした。
今回は聖水も沸騰させたお湯を使ったので保存状態も十分だろう。
『薬草も加熱処理してから、小さなビンに入れよう』
「わかりました」
そして3日目。4日目と僕は聖水を作ったり薬草をペースト化させて薬を作っていた。
順調に薬や聖水のストックも増えてきたとき、人魚のカロルがやって来て言う。
「一角獣様……」
『どうした?』
「ウェアウルフの集落のひとつ。ヒヨッミーから使者が訪れました」
ヒヨッミーは、人魚族の集落から少し離れた場所にあるウェアウルフたちの集落だ。
カロルたちの話では、帝国側にも人魚側にもつかずに、中立を決め込んでいる人々だという。
『わかった……会おう』
「少々お待ちください」
やってきたのは男性のウェアウルフだったが、やはりアルフレートに比べると力量も賢さも一ランク落ちる感じの使者だった。
彼は自己紹介を終えると、僕を見ながらゆっくりと話を切り出した。
「一角獣殿、今日来たのは他でもありません。実は我ら集落でペガサスを1頭保護したのです」
『なるほど……もちろんその天馬、タダでは返してくれないのだろう?』
「はい。噂に聞いたユニコーンの聖水や軟膏を我々にも譲って頂きたい」
なるほど。彼らはビジネスに来たということか。
そうなると……軟膏1つというワケではないだろう。
『貴殿らは幾つを所望する?』
「そうですね……聖水30、軟膏20でいかがでしょう?」
その数なら、すでにストックがある。
僕は少し考えてから答えた。
『なるほど。ペガサス1頭をこちらに届け、さらに製品も受け取りに来てくれるのなら……期日までに用意しよう』
「畏まりました。では……3日後にお願いできますか?」
『あいわかった』
こうして交渉は成立し、僕はすぐにビン職人のロクサーヌを呼んだ。
『……というワケで、新たに聖水用のビンを50、軟膏のビンを40ほどお願いできるか?』
「はい。すでにできている分を新たに出しますので、残りを作ります」
『いつもすまんな』
こうして僕は3日後に、ヒヨッミー地域の部族と取引し、聖水や軟膏と引き換えにペガサス1頭を入手した。
この天馬はメスだったらしく、においを確かめてみるとツーノッパ王国の納屋のにおいはしなかった。つまり、マーズヴァン帝国のモノである可能性が高い。
『イネス』
「なあに、お兄ちゃん?」
『吾が必ず出撃できるとは限らん。この天馬は君が管理しなさい』
そう伝えると、イネスは驚いた表情をしたが、やがて嬉しそうに微笑んでいた。
「……ありがとう、お兄ちゃん!」
この取引は、ヒヨッミー地域のウェアウルフたちにとって、かなり旨味のあるモノだったらしく、後日に再びペガサスと薬の交換を持ちかけてきた。
今度は、つがいでの取引でオスの方は体格も良かったため、聖水70と軟膏30を要求してきたが、僕も多めにストックを作っていたので、こちらも3日後に商談が成立。
マーメイドの隠れ家にはオスペガサス1頭、メスペガサス2頭がいる状態となった。
【マーメイドの隠れ里(中から外を観た様子)】
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