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20.出撃開始
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僕たちがペガサスライダーが眠っている間、父さんたち一般有翼人たちは寝ずの番をしてくれていた。
おかげでぐっすりと休むことができたが、翌朝にイネスと一緒に砦へと向かおうとすると、有翼人の青年たちの多くが羨ましそうな顔をしていた。
彼らは僕らと同じように家が貧しく、ペガサスを買うお金はおろか養うお金もない。
「いいよな……イネスには安上がりなペガサスがいて」
「ああ、こんなことなら俺もリュドと仲良くしておくんだったぜ」
イネスのアビリティがないと、僕はウマ化しても地上しか走れないんだけどね。
砦へと向かうと、まずは現地の天馬騎士たちが順次飛び立っていた。
例外は恐らく僕たちブリジット隊だろう。僕の航続距離が短いことは上層部も重々に承知しているので、出撃は一番最後となっている。
飛行場ならぬ、発馬エリアへと向かうと、ブリジット隊長とルドヴィーカの姿があった。
「よく眠れましたか?」
「もちろんです!」
そう答えると隊長は微笑んだ。
「今、第3天馬大隊が飛び立っています。今のうちに準備運動などをすませてください」
僕は間もなく、砦の中の部屋で服を脱ぐとウマへと変身した。
鏡を見ると、栗毛でたてがみの白いウマがしっかりと立っている。今日の毛艶もいいし体調も万全だ。
イネスを背に乗せて発馬エリアへと向かうと、すでに第3天馬大隊の多くが飛び立っていた。これから第4天馬大隊の出撃のようだ。
ルドヴィーカは僕たちを見た。
「早かったな。そろそろ第4天馬大隊の時間だぞ」
「さすがに100騎以上いると、出撃するだけでも一苦労ですね」
イネスが言うと、ルドヴィーカも笑っていた。
「慎重すぎる方がいい。なにせ、樹海に出ればウェアウルフたちの楽園なのだろう?」
その話を聞き、僕は真顔で頷いた。
彼女の言う通り、樹海に落ちればウェアウルフ、川に落ちれば人魚族と、どちらも完全に敵地だ。
それから15分ほどで、僕たちブリジット隊の出撃となった。
まずは隊長が第4天馬大隊の最後の1人と並走して、そのまま空へと飛び立つと、今度は僕とルドヴィーカの番だ。
係りの兵士が旗を振ると、勢いよく駆け出して空へと飛び立った。
僕らは高度60メートルまで飛び上がると、そのまま第4天馬大隊に合流した。
すでに渡り鳥のようなブイ字型に陣形は組まれており、僕たちはそれにくっ付いていく形になっている。
それにしても、隊の一番隅っこか。
確かに魔法タイプの天馬騎士は、言うなれば爆撃機だからここに配置するわけにはいかないが、新人の僕に任せて大丈夫なのだろうか。
胸中の不安をよそに、部隊はどんどん森の奥地へと進んでいった。
僕たちの故郷が田舎だということは、十分にわかっていたことなんだけど、ここまで森ばかりだと現実を突きつけられている感じがする。
そのまま飛び続けること30分。
出発前には257あった僕のMPも飛び立った頃には239になり、今では144まで減少していた。
まだ、敵の本拠地も見えない状態なので、これ以上ムリをして戦闘にでもなったら、燃料切れならぬメンタルポイント切れで墜落という形になってしまう。
どうしようかと思いながらブリジット隊長を見ると、彼女は僕に視線を向けてきた。
「……リュド君にイネス君、今まで護衛に付いてくれてありがとう。そろそろ引き返しなさい」
イネスはすぐに反論した。
「いえ、まだやれます……そうでしょうお兄ちゃん?」
視線をイネスに向けたとき、ブリジット隊長は更に強い口調で言ってくる。
「小隊長としての命令です。引き返しなさい!」
イネスは納得できないと言いたそうな表情をしていたが、僕はブリジット隊長に心から感謝した。
彼女は自分が悪者になってでも、将来のあるイネスを守ろうとしてくれている。これほど良い上司に巡り合えたことに心から感謝したい。
『ブリジット隊長。お心遣い感謝します! イネス……戻るよ』
「……は、はい……」
『ご武運を!』
僕はそう言いながら本隊から離れると、故郷に戻りはじめた。
残りMPは143。これだけ残っているのなら、十分に故郷にたどり着けるだろう。
たった1騎で本隊から離れていくと、イネスの悔しそうな雰囲気が伝わってきた。
きっと情けないアニキだと思っているだろう。100以上のペガサスが飛んで行って、引き返しているのは僕1頭なんだ。ここまで航続距離が短いのでは、本当に留守番役しか出来ないウマだと思う。
これも前世で、ニートを続けていた罰なのだろうか。
もっと活動的な人生を送っていれば、その徳というか有能さを買ってもらって、もっと違った能力になったのかもしれない。そう思うと……何だかもっと強くなりたいと日々努力をしているイネスに申し訳ない気持ちになってくる。
無事に故郷に着いたら、イネスに謝らないとな……そう思っていたとき、イネスは小さな声で僕に言った。
「ごめんなさい……お兄ちゃん」
今のは聞き違いだろうか。僕はえっ……と思いながらイネスに視線を向けていた。
『急にどうしたんだい?』
「お兄ちゃんがすぐにMP切れを起こすのって、私のフライング能力が未熟だからなの」
その言葉を聞いてハッとさせられた。
そういえば、そうだ……僕自身に飛ぶような力はなく、僕はイネスの特殊能力で飛行能力を得ているに過ぎないんだ。
「だからお兄ちゃん……私もっと、アビリティの使い方……上手になるから、嫌いにならないで」
その言葉を聞いて、僕は何を言っているんだと思いながら答えた。
『僕がお前を嫌いになるはずないだろう。ずっと苦楽を共にしてきた妹じゃないか!』
お互いに微笑み合っていると、僕の視界に妙なモノが映りこんだ。
『……ん?』
僕が表情を曇らせたからだろう。イネスもまた不安そうに僕を見てきた。
「ど、どうしたの?」
『……あれは!』
どうやら、僕は恐ろしいモノに気が付いてしまったようだ。
何と崖下の森の中に、赤と黒の一角獣の旗印……マーズヴァン帝国の隠し砦……いや秘密基地を見つけてしまった。
そこでは出撃準備が進められており、その狙いはどう見ても、すでに先行している僕たちの友軍だった。
おかげでぐっすりと休むことができたが、翌朝にイネスと一緒に砦へと向かおうとすると、有翼人の青年たちの多くが羨ましそうな顔をしていた。
彼らは僕らと同じように家が貧しく、ペガサスを買うお金はおろか養うお金もない。
「いいよな……イネスには安上がりなペガサスがいて」
「ああ、こんなことなら俺もリュドと仲良くしておくんだったぜ」
イネスのアビリティがないと、僕はウマ化しても地上しか走れないんだけどね。
砦へと向かうと、まずは現地の天馬騎士たちが順次飛び立っていた。
例外は恐らく僕たちブリジット隊だろう。僕の航続距離が短いことは上層部も重々に承知しているので、出撃は一番最後となっている。
飛行場ならぬ、発馬エリアへと向かうと、ブリジット隊長とルドヴィーカの姿があった。
「よく眠れましたか?」
「もちろんです!」
そう答えると隊長は微笑んだ。
「今、第3天馬大隊が飛び立っています。今のうちに準備運動などをすませてください」
僕は間もなく、砦の中の部屋で服を脱ぐとウマへと変身した。
鏡を見ると、栗毛でたてがみの白いウマがしっかりと立っている。今日の毛艶もいいし体調も万全だ。
イネスを背に乗せて発馬エリアへと向かうと、すでに第3天馬大隊の多くが飛び立っていた。これから第4天馬大隊の出撃のようだ。
ルドヴィーカは僕たちを見た。
「早かったな。そろそろ第4天馬大隊の時間だぞ」
「さすがに100騎以上いると、出撃するだけでも一苦労ですね」
イネスが言うと、ルドヴィーカも笑っていた。
「慎重すぎる方がいい。なにせ、樹海に出ればウェアウルフたちの楽園なのだろう?」
その話を聞き、僕は真顔で頷いた。
彼女の言う通り、樹海に落ちればウェアウルフ、川に落ちれば人魚族と、どちらも完全に敵地だ。
それから15分ほどで、僕たちブリジット隊の出撃となった。
まずは隊長が第4天馬大隊の最後の1人と並走して、そのまま空へと飛び立つと、今度は僕とルドヴィーカの番だ。
係りの兵士が旗を振ると、勢いよく駆け出して空へと飛び立った。
僕らは高度60メートルまで飛び上がると、そのまま第4天馬大隊に合流した。
すでに渡り鳥のようなブイ字型に陣形は組まれており、僕たちはそれにくっ付いていく形になっている。
それにしても、隊の一番隅っこか。
確かに魔法タイプの天馬騎士は、言うなれば爆撃機だからここに配置するわけにはいかないが、新人の僕に任せて大丈夫なのだろうか。
胸中の不安をよそに、部隊はどんどん森の奥地へと進んでいった。
僕たちの故郷が田舎だということは、十分にわかっていたことなんだけど、ここまで森ばかりだと現実を突きつけられている感じがする。
そのまま飛び続けること30分。
出発前には257あった僕のMPも飛び立った頃には239になり、今では144まで減少していた。
まだ、敵の本拠地も見えない状態なので、これ以上ムリをして戦闘にでもなったら、燃料切れならぬメンタルポイント切れで墜落という形になってしまう。
どうしようかと思いながらブリジット隊長を見ると、彼女は僕に視線を向けてきた。
「……リュド君にイネス君、今まで護衛に付いてくれてありがとう。そろそろ引き返しなさい」
イネスはすぐに反論した。
「いえ、まだやれます……そうでしょうお兄ちゃん?」
視線をイネスに向けたとき、ブリジット隊長は更に強い口調で言ってくる。
「小隊長としての命令です。引き返しなさい!」
イネスは納得できないと言いたそうな表情をしていたが、僕はブリジット隊長に心から感謝した。
彼女は自分が悪者になってでも、将来のあるイネスを守ろうとしてくれている。これほど良い上司に巡り合えたことに心から感謝したい。
『ブリジット隊長。お心遣い感謝します! イネス……戻るよ』
「……は、はい……」
『ご武運を!』
僕はそう言いながら本隊から離れると、故郷に戻りはじめた。
残りMPは143。これだけ残っているのなら、十分に故郷にたどり着けるだろう。
たった1騎で本隊から離れていくと、イネスの悔しそうな雰囲気が伝わってきた。
きっと情けないアニキだと思っているだろう。100以上のペガサスが飛んで行って、引き返しているのは僕1頭なんだ。ここまで航続距離が短いのでは、本当に留守番役しか出来ないウマだと思う。
これも前世で、ニートを続けていた罰なのだろうか。
もっと活動的な人生を送っていれば、その徳というか有能さを買ってもらって、もっと違った能力になったのかもしれない。そう思うと……何だかもっと強くなりたいと日々努力をしているイネスに申し訳ない気持ちになってくる。
無事に故郷に着いたら、イネスに謝らないとな……そう思っていたとき、イネスは小さな声で僕に言った。
「ごめんなさい……お兄ちゃん」
今のは聞き違いだろうか。僕はえっ……と思いながらイネスに視線を向けていた。
『急にどうしたんだい?』
「お兄ちゃんがすぐにMP切れを起こすのって、私のフライング能力が未熟だからなの」
その言葉を聞いてハッとさせられた。
そういえば、そうだ……僕自身に飛ぶような力はなく、僕はイネスの特殊能力で飛行能力を得ているに過ぎないんだ。
「だからお兄ちゃん……私もっと、アビリティの使い方……上手になるから、嫌いにならないで」
その言葉を聞いて、僕は何を言っているんだと思いながら答えた。
『僕がお前を嫌いになるはずないだろう。ずっと苦楽を共にしてきた妹じゃないか!』
お互いに微笑み合っていると、僕の視界に妙なモノが映りこんだ。
『……ん?』
僕が表情を曇らせたからだろう。イネスもまた不安そうに僕を見てきた。
「ど、どうしたの?」
『……あれは!』
どうやら、僕は恐ろしいモノに気が付いてしまったようだ。
何と崖下の森の中に、赤と黒の一角獣の旗印……マーズヴァン帝国の隠し砦……いや秘密基地を見つけてしまった。
そこでは出撃準備が進められており、その狙いはどう見ても、すでに先行している僕たちの友軍だった。
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