6 / 43
6.僕の能力に期待を寄せる妹
しおりを挟む
ユニコーンケンタウロスという言葉を聞いて、イネスは興奮気味に身を乗り出していた。
何も言わなかったのは、牧師先生の言葉を遮らないようにするための精一杯の配慮だったのだろう。兄としても気遣いに感謝したい。
最後のデメリット能力、時間制限の説明を聞き終えたら、すぐにイネスは僕を見てくる。
「お兄ちゃん……その能力、使ってみてよ!」
「あ、ああ……よろしいでしょうか?」
そう聞いてみると、牧師先生はにっこりと笑った。
「私も見てみたいな。ぜひ……お願いしたい」
「わかりました」
僕はすぐに使おうとしたが、牧師先生に慌てて止められた。
「待ちなさい! このまま使うと服が破れるし、下手したら服に首や体が締め付けられて窒息してしまうよ!」
言われてみればその通りだ。
「そ、そうですね……服を脱いできます」
僕が服を脱ぎはじめると、牧師先生は気を遣ってタオルを持ってきてくれた。これなら周囲に裸を晒すことなく変身することができる。
「では……行きます」
気を集中すると、僕の体は白い光を放ちはじめた。
そして……心の中でユニコーンケンタウロスと、自分のアビリティ名を念じると、身体が変化していく。
まず変化が起こったのは指先だった。
指の爪が少しずつ大きくなっていき、指先の5本の指も徐々にくっ付いていき、指の関節も大きくなり始めた。
同時に身体中から栗色の毛が生えはじめ、首周りが少しずつ伸びていき、視野も広がっていく。
あばら骨の形も変形していき、尻尾も生えはじめ、髪の毛がウマのたてがみとなっていくと、足の指や形状も変化していることに気が付いた。
やがて、タオルが地面に落ちたときには、僕は真横だけでなく斜め後ろまで見えるほど視野が広がり、両腕がなくなって4本脚になっていた。
牧師先生も目を丸々と開いて、僕の姿を眺めている。
「……おお、見事な……!」
牧師先生は鏡を向けてくれたので、自分の姿を眺めると栗毛のウマが立っていた。
その姿はアラブ馬やサラブレッドに似ていて、ウマでも軽種馬と呼ばれる類のシロモノである。
ただ、気になるのは……角もなければ翼もないところだ。ユニコーンケンタウロスという名前なら、短くても角くらいは生えていてもいいんじゃないだろうか。
『あの……牧師先生?』
「どうしたのかな?」
『角とかって……どうやったら出るのでしょうか?』
そう質問すると、牧師先生は少し考えてから僕の額にそっと触れた。
「……ふむ。なるほど」
彼は僕の額の辺りの毛を整えながら言う。
「恐らく、感情を高ぶらせたり、命の危機を感じ取ったりすれば生えるのではないかと思う。額の辺りから特に強い霊力を感じるからね」
『な、なるほど……ありがとうございます!』
お礼を言うと、妹もワクワクした様子で僕を見ていることに気が付いた。ここは……これくらい言ってやるべきだろう。
『乗ってみるかい?』
「うん!」
教会前の空き地に出て、お座りのポーズをすればイネスでも十分に背中に跨ることができる。
彼女を乗せると、その身体はとても軽く、まるで少し重めのカバンでも背負ったような感覚だった。全速力で走るには少しだけ邪魔にはなるが、そんなに気にならない重さだ。
『どうだい、乗り心地は?』
「乗馬はこれがはじめてだけど……力強くて好き」
手綱も鞍もない状況だったから、なるべくバランスを取りやすいように歩いてやると、妹は上機嫌に話しかけてきた。
「これからは、乗馬の訓練もしたいから……お願いしていい?」
『構わないけど、ペガサスと普通のウマじゃだいぶ勝手が違うと思うぞ?』
「それは、もちろんわかるよ!」
教会の空き地は広く、ぐるりと1周するだけでも良い経験になったようだ。
再び牧師先生の前に立って止まると、イネスは翼を広げてからふわりと降りて着地し、僕も牧師先生からタオルで隠してもらっている間にウマ変身を解いた。
すると、先ほどの変身とは逆に、人間の体へと戻っていく。
タオルで身体を隠しながら、僕は妹に背中を見てもらった。
「……どれくらい、メンタルポイントは減ってる?」
「ちょっと待ってね」
彼女に、僕の背中を読み上げてもらうと……
名前:リュドヴィック
種族:ヒューマン15歳
アビリティA:ユニコーンケンタウロス
アビリティB:メンタルタイマー
レベル 1
HP 300 / 300
LP 5 / 5
MP 151 / 170
どうやら、妹は僕の背中に跨っているときにMPの値を確認していたようだ。
僕がウマ変身をしたときに、一気に17ポイントを消費し、立っている間にはほとんど消費はせず、イネスを乗せて歩き出すと、だいたい教会の広い庭を3分の2ほど歩いたときに1を消費し、変身を解いたあとに確認したら151だったようだ。
「練習用でも、ウマの代わりがいて良かったな」
そう言いながら頭を撫でてやると、妹は少し不満そうな顔をしている。
「私ももっとたくさん努力するから……お兄ちゃんも空を飛べるようになって欲しいな」
ウマに空を飛べか……それはちょっと、厳しすぎる相談だ。
【リュド(ウマフォーム)】
何も言わなかったのは、牧師先生の言葉を遮らないようにするための精一杯の配慮だったのだろう。兄としても気遣いに感謝したい。
最後のデメリット能力、時間制限の説明を聞き終えたら、すぐにイネスは僕を見てくる。
「お兄ちゃん……その能力、使ってみてよ!」
「あ、ああ……よろしいでしょうか?」
そう聞いてみると、牧師先生はにっこりと笑った。
「私も見てみたいな。ぜひ……お願いしたい」
「わかりました」
僕はすぐに使おうとしたが、牧師先生に慌てて止められた。
「待ちなさい! このまま使うと服が破れるし、下手したら服に首や体が締め付けられて窒息してしまうよ!」
言われてみればその通りだ。
「そ、そうですね……服を脱いできます」
僕が服を脱ぎはじめると、牧師先生は気を遣ってタオルを持ってきてくれた。これなら周囲に裸を晒すことなく変身することができる。
「では……行きます」
気を集中すると、僕の体は白い光を放ちはじめた。
そして……心の中でユニコーンケンタウロスと、自分のアビリティ名を念じると、身体が変化していく。
まず変化が起こったのは指先だった。
指の爪が少しずつ大きくなっていき、指先の5本の指も徐々にくっ付いていき、指の関節も大きくなり始めた。
同時に身体中から栗色の毛が生えはじめ、首周りが少しずつ伸びていき、視野も広がっていく。
あばら骨の形も変形していき、尻尾も生えはじめ、髪の毛がウマのたてがみとなっていくと、足の指や形状も変化していることに気が付いた。
やがて、タオルが地面に落ちたときには、僕は真横だけでなく斜め後ろまで見えるほど視野が広がり、両腕がなくなって4本脚になっていた。
牧師先生も目を丸々と開いて、僕の姿を眺めている。
「……おお、見事な……!」
牧師先生は鏡を向けてくれたので、自分の姿を眺めると栗毛のウマが立っていた。
その姿はアラブ馬やサラブレッドに似ていて、ウマでも軽種馬と呼ばれる類のシロモノである。
ただ、気になるのは……角もなければ翼もないところだ。ユニコーンケンタウロスという名前なら、短くても角くらいは生えていてもいいんじゃないだろうか。
『あの……牧師先生?』
「どうしたのかな?」
『角とかって……どうやったら出るのでしょうか?』
そう質問すると、牧師先生は少し考えてから僕の額にそっと触れた。
「……ふむ。なるほど」
彼は僕の額の辺りの毛を整えながら言う。
「恐らく、感情を高ぶらせたり、命の危機を感じ取ったりすれば生えるのではないかと思う。額の辺りから特に強い霊力を感じるからね」
『な、なるほど……ありがとうございます!』
お礼を言うと、妹もワクワクした様子で僕を見ていることに気が付いた。ここは……これくらい言ってやるべきだろう。
『乗ってみるかい?』
「うん!」
教会前の空き地に出て、お座りのポーズをすればイネスでも十分に背中に跨ることができる。
彼女を乗せると、その身体はとても軽く、まるで少し重めのカバンでも背負ったような感覚だった。全速力で走るには少しだけ邪魔にはなるが、そんなに気にならない重さだ。
『どうだい、乗り心地は?』
「乗馬はこれがはじめてだけど……力強くて好き」
手綱も鞍もない状況だったから、なるべくバランスを取りやすいように歩いてやると、妹は上機嫌に話しかけてきた。
「これからは、乗馬の訓練もしたいから……お願いしていい?」
『構わないけど、ペガサスと普通のウマじゃだいぶ勝手が違うと思うぞ?』
「それは、もちろんわかるよ!」
教会の空き地は広く、ぐるりと1周するだけでも良い経験になったようだ。
再び牧師先生の前に立って止まると、イネスは翼を広げてからふわりと降りて着地し、僕も牧師先生からタオルで隠してもらっている間にウマ変身を解いた。
すると、先ほどの変身とは逆に、人間の体へと戻っていく。
タオルで身体を隠しながら、僕は妹に背中を見てもらった。
「……どれくらい、メンタルポイントは減ってる?」
「ちょっと待ってね」
彼女に、僕の背中を読み上げてもらうと……
名前:リュドヴィック
種族:ヒューマン15歳
アビリティA:ユニコーンケンタウロス
アビリティB:メンタルタイマー
レベル 1
HP 300 / 300
LP 5 / 5
MP 151 / 170
どうやら、妹は僕の背中に跨っているときにMPの値を確認していたようだ。
僕がウマ変身をしたときに、一気に17ポイントを消費し、立っている間にはほとんど消費はせず、イネスを乗せて歩き出すと、だいたい教会の広い庭を3分の2ほど歩いたときに1を消費し、変身を解いたあとに確認したら151だったようだ。
「練習用でも、ウマの代わりがいて良かったな」
そう言いながら頭を撫でてやると、妹は少し不満そうな顔をしている。
「私ももっとたくさん努力するから……お兄ちゃんも空を飛べるようになって欲しいな」
ウマに空を飛べか……それはちょっと、厳しすぎる相談だ。
【リュド(ウマフォーム)】
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる