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6.僕の能力に期待を寄せる妹

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 ユニコーンケンタウロスという言葉を聞いて、イネスは興奮気味に身を乗り出していた。
 何も言わなかったのは、牧師先生の言葉を遮らないようにするための精一杯の配慮だったのだろう。兄としても気遣いに感謝したい。

 最後のデメリット能力、時間制限の説明を聞き終えたら、すぐにイネスは僕を見てくる。
「お兄ちゃん……その能力、使ってみてよ!」
「あ、ああ……よろしいでしょうか?」
 そう聞いてみると、牧師先生はにっこりと笑った。
「私も見てみたいな。ぜひ……お願いしたい」
「わかりました」


 僕はすぐに使おうとしたが、牧師先生に慌てて止められた。
「待ちなさい! このまま使うと服が破れるし、下手したら服に首や体が締め付けられて窒息してしまうよ!」
 言われてみればその通りだ。
「そ、そうですね……服を脱いできます」

 僕が服を脱ぎはじめると、牧師先生は気を遣ってタオルを持ってきてくれた。これなら周囲に裸を晒すことなく変身することができる。
「では……行きます」


 気を集中すると、僕の体は白い光を放ちはじめた。
 そして……心の中でユニコーンケンタウロスと、自分のアビリティ名を念じると、身体が変化していく。

 まず変化が起こったのは指先だった。
 指の爪が少しずつ大きくなっていき、指先の5本の指も徐々にくっ付いていき、指の関節も大きくなり始めた。

 同時に身体中から栗色の毛が生えはじめ、首周りが少しずつ伸びていき、視野も広がっていく。
 あばら骨の形も変形していき、尻尾も生えはじめ、髪の毛がウマのたてがみとなっていくと、足の指や形状も変化していることに気が付いた。


 やがて、タオルが地面に落ちたときには、僕は真横だけでなく斜め後ろまで見えるほど視野が広がり、両腕がなくなって4本脚になっていた。
 牧師先生も目を丸々と開いて、僕の姿を眺めている。
「……おお、見事な……!」

 牧師先生は鏡を向けてくれたので、自分の姿を眺めると栗毛のウマが立っていた。
 その姿はアラブ馬やサラブレッドに似ていて、ウマでも軽種馬と呼ばれる類のシロモノである。

 ただ、気になるのは……角もなければ翼もないところだ。ユニコーンケンタウロスという名前なら、短くても角くらいは生えていてもいいんじゃないだろうか。
『あの……牧師先生?』
「どうしたのかな?」
『角とかって……どうやったら出るのでしょうか?』


 そう質問すると、牧師先生は少し考えてから僕の額にそっと触れた。
「……ふむ。なるほど」
 彼は僕の額の辺りの毛を整えながら言う。
「恐らく、感情を高ぶらせたり、命の危機を感じ取ったりすれば生えるのではないかと思う。額の辺りから特に強い霊力を感じるからね」
『な、なるほど……ありがとうございます!』

 お礼を言うと、妹もワクワクした様子で僕を見ていることに気が付いた。ここは……これくらい言ってやるべきだろう。
『乗ってみるかい?』
「うん!」


 教会前の空き地に出て、お座りのポーズをすればイネスでも十分に背中に跨ることができる。
 彼女を乗せると、その身体はとても軽く、まるで少し重めのカバンでも背負ったような感覚だった。全速力で走るには少しだけ邪魔にはなるが、そんなに気にならない重さだ。
『どうだい、乗り心地は?』
「乗馬はこれがはじめてだけど……力強くて好き」

 手綱も鞍もない状況だったから、なるべくバランスを取りやすいように歩いてやると、妹は上機嫌に話しかけてきた。
「これからは、乗馬の訓練もしたいから……お願いしていい?」
『構わないけど、ペガサスと普通のウマじゃだいぶ勝手が違うと思うぞ?』
「それは、もちろんわかるよ!」

 教会の空き地は広く、ぐるりと1周するだけでも良い経験になったようだ。
 再び牧師先生の前に立って止まると、イネスは翼を広げてからふわりと降りて着地し、僕も牧師先生からタオルで隠してもらっている間にウマ変身を解いた。

 すると、先ほどの変身とは逆に、人間の体へと戻っていく。
 タオルで身体を隠しながら、僕は妹に背中を見てもらった。

「……どれくらい、メンタルポイントは減ってる?」
「ちょっと待ってね」
 彼女に、僕の背中を読み上げてもらうと……


名前:リュドヴィック
種族:ヒューマン15歳
アビリティA:ユニコーンケンタウロス
アビリティB:メンタルタイマー


レベル   1
HP  300 / 300
LP    5 /   5
MP  151 / 170


 どうやら、妹は僕の背中に跨っているときにMPの値を確認していたようだ。
 僕がウマ変身をしたときに、一気に17ポイントを消費し、立っている間にはほとんど消費はせず、イネスを乗せて歩き出すと、だいたい教会の広い庭を3分の2ほど歩いたときに1を消費し、変身を解いたあとに確認したら151だったようだ。

「練習用でも、ウマの代わりがいて良かったな」
 そう言いながら頭を撫でてやると、妹は少し不満そうな顔をしている。
「私ももっとたくさん努力するから……お兄ちゃんも空を飛べるようになって欲しいな」


 ウマに空を飛べか……それはちょっと、厳しすぎる相談だ。

【リュド(ウマフォーム)】
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