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40.チート能力発動

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「なんだ……私は、一番旨そうなモノを最後まで取っておく主義なのだがな……」

 そう言いながら悪魔は、僕のいた場所を眺めていた。
 この世界では人や生き物が死ぬと、煙のように死体が消えていくため、もちろんのこと僕の肉体など残っていない。
「だが、君が残っている……ということは、彼は勇者ではなかったということか。ふむ……私がホンモノを見誤るなんてな」
「貴様……よくもマスターを……!」

 ロドルフォが牙を剥くと、他にも怒りを露にした仲間たちが次々と武器を握りしめた。
 そして、一斉に総攻撃をかけると、田舎勇者とお付きのエルフの女性2人も、その攻撃に加わっていく。

 しかしどういうことだろう。
 どんなに仲間たちが攻撃を仕掛けても、仕掛けても黒いローブの悪魔は、ダメージらしいダメージが当たっていない気がする。
 まるで……煙というかノレンをみんなで殴っているような気分だ。

 そこまで考えていると、リッカシデン号の声が響いた。
――いや、その前にさ……もっと不思議に思うことがあるんじゃないかい?
――え……?

 リッカシデン号は苦笑しながら答えた。
――なんで、即死魔法を受けたのに、そんなふうに敵を観察していられるんだい?
――あ……!


 そういえば、僕は即死魔法を受けたのだから、当然死んでいるはず。
 つまり、意識がなくなるはずなのだが、つまりこれって……
――僕はまだ死んでない……?
――うん、恐らくこれが、小生たちのアビリティの正体

 僕のアビリティ。ユニコーンケンタウロスは、人間でありウマであるという能力。
 つまり、ウマ形態のリッカシデン号を倒しても、人間である僕がいれば、またリッカシデン号を蘇らせられるし、逆もまた真なり。

 なんだが自分の能力を理解したと思った直後、黒いローブの悪魔は自分を起点としたゼロ距離魔法を大爆発させた。周りで戦っていた仲間たちは次々と吹き飛ばされ、一気にパーティーは壊滅状態に追い込まれる。
 なんて厄介なヤツだと思っていると、黒いローブの悪魔は言った。
「これでやっと大人しくなったな……さて、一人ずつゆっくりと握りつぶしてやろう!」


 黒いローブの悪魔が妖力をチャージし始めてると、リッカシデン号の意識が響いた。
――行くよ、ハヤト!
――ああ!

 リッカシデン号は角を光らせながら突進した。
 黒いローブの悪魔は、まだ1頭いたと言わんばかりにチャージをやめて応戦してくる。

 シデン号はただ突っ込むだけでなく、背中にはガラスの翼が幾重にも重なった風の翼を現しながら、それらを無尽蔵にブーメランのように悪魔に向けて飛ばしていく。
 翼たちは回転しながら、次々と悪魔のローブを引き裂き、中身にもダメージを与えていくが、悪魔は呻きながらも不気味に笑っていた。
「仲間を見捨てて逃げれば、君くらいは助かったモノを……それとも、この中に主でもいるのかな!?」

 そう言いながら悪魔は即死アビリティを使ってきた。
 無数の目が周囲に現れると、リッカシデン号に向けて魔の手が伸びてくる。

――…………

 やがて地中から、真っ黒な手のような瘴気が姿を現すと、リッカシデン号の背中に残っていた翼には次々とヒビが走っていき、更に青い角も砕け、彼のオーラが一瞬で呑み込まれるように無くなっていく。

 その肉体が消滅すると、悪魔は物色するように倒れているメンバーへと視線を向けた。
「さて、本体はどれかな? パズルを解くように慎重に行かないとね」

 そう言ってマーチルへ手を向けようとしたとき、森の中から風の大翼2つが現れ、悪魔の身体を引き裂いた。
 一同が驚いてこちらを見ると、僕ことハヤトが枝の上から翼に命令を出している。

 悪魔も驚いた様子で僕を見上げていた。
「なっ……なぜ、お前が生きている!?」
「考えてみればどうだい、パズルを解くようにさっ!」

 その直後に、木陰からはリッカシデン号が飛び出し、再び悪魔に攻撃を加えはじめた。
 彼の姿は倒される前と全く同じで、いや……僕自身のレベルが上がっているから、霊力が増して強くなっているはずだ。


 僕とリッカシデン号の登場は、敵だけでなく仲間たちも驚かせたようだ。
 特に仲間を何人も失っている田舎勇者は、信じられない様子で僕を眺めている。
「ど、どういうことだ……奴の即死アビリティが効かないような……そんな能力でも持ってるのか!?」


 悪魔はリッカシデンの攻撃を何発も受けつつも、僕が本体であることを疑っていたようだ。
 再び手をかざしてきた。
「今度こそ……仕損じないぞ!」

 再び無数の目玉が見えてくると、僕の足元……正確には木の枝の下の地面からおびただしい量の瘴気を感じた。
 そこから手が大きく伸びると、僕は背中に戻っていた翼を駆使して、その手に連続攻撃を仕掛けてみる。

 すると、この手にもHPのようなモノがあるのか、次々とダメージを受けて弱体化し、僕の身体を守っている霊力を完全に削り切ることができなかったようだ。

 勝機を感じた僕は、真っ直ぐに悪魔を睨みつけた。
「見つけたぞ……お前の倒し方を!」

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