31 / 41
31.ハヤトの底力
しおりを挟む
武術大会3回戦の先鋒戦。
先鋒戦として出場していた僕は、敗北寸前まで追い込まれていた。
すでに転倒している僕は、左腰の小翼以外の全てを破損している。
それだけでなく、対戦相手の風の大翼は、まさにいま……僕に襲い掛かろうとしていた。
「…………」
大翼がいま……僕を目掛けて突っ込んでくる!
そう思ったとき、僕は霊力を強く放出し、その多くを左の小翼に注ぎ込んだ。
すると、小翼の形状は変わり1メートルほどまで伸びて、対戦相手の大翼を貫いた。大翼の周囲にはヒビが広がっていき、やがてバラバラに崩れ落ちたが、僕はそんなものよりも対戦相手を睨んだ。
転倒している僕は、対戦相手の振り下ろしてくるレイピアを避けると、ダウンから中腰になり、更に攻撃を避けて立ち上がり、次の一撃を小翼レイピアで切り払った。
相手が体勢を崩したので、今度はこちらが攻め込む番だ。
僕の一撃は相手選手の肩の一部に刺さってダメージを与え、相手選手は体勢を立て直して応戦してきたが、僕は再び切り払い、次の一撃は相手選手の腕に当たり、更に一撃が相手選手の頬を掠めた。
お互いにレイピアを握り直したところで、審判が声を上げた。
「そこまで! 5分を経過したので……判定とします!」
観客席は静まり返り、僕はゴクリと唾を呑んだ。
結果は……
主審は、リッカシデン隊の旗を上げ、
副審の片方は、両方の旗を上げ。
副審のもう片方は、リッカシデン隊の旗を上げた。
どうやら、2ー0で辛くも勝利できたようだ。
「では、各チームの次鋒……前へ!」
汗をぬぐいながら引き返していくと、何と次鋒はフリーダだった。
「……! 頑張って」
「行って参ります」
フリーダに次鋒を頼むとは、ロドルフォたちも勇者パーティーを強敵と判断したということか。
まあ僕も、リッカシデン号を出す寸前まで追いつめられていたし、対戦相手の先鋒はフリーダと同等かそれ以上の力があった。
ロドルフォが警戒するのも当然だろう。
さて、対戦相手である田舎勇者チームの次鋒は、鹿獣人の戦士だった。
どうやらロドルフォの狙いは当たったらしく、試合開始と同時にフリーダは空へと飛びあがり、上空というアウトレンジから相手選手の次鋒を狙い撃ちにしていく。
次鋒戦は3分ほどでフリーダが勝利をおさめ、僕たちは勝利に大手をかけた。
「相手の裏をかくとは、さすがだね……」
そうロドルフォに言うと、彼は前を睨みながら答える。
「貴方さまが、初戦で勝ち星を挙げて下さったことが、私にとって自信になりました」
隣で話を聞いていたシャーロットも頷いた。
「そうね。私たちと相手チームの大きな差は有翼人の有無」
「その通りです」
さて次は中堅戦だが、ロドルフォはここで奇策に打って出た。
何と選んだのはスィグワロス号である。
『……ヒヒーン?』
全員に指を差されると、スィグワロス号は仕方なさそうに歩いて行ったが、対戦相手の姿が見えたところでロドルフォは不敵に笑っていた。
相手チームは、チームリーダーと思しきヒューマンの青年が出てきたのである。
「あの霊力の高さ……もしかして!」
「ええ、田舎勇者の愛称で知られる……寒村のベンジャミンさまでしょう。実は……次鋒戦の時から、俺が出たいという声が聞こえてきていまして」
そっと田舎勇者の表情を確認してみると、顔を真っ赤にしながらスィグワロス号を睨んでいた。
チーム最強の自分が、人数合わせのウマとマッチングさせられたことに、激しい憤りを感じていると見える。
「では、中堅戦……はじめ!」
『ひ、ヒヒーン!』
試合が始まると同時に、スィグワロス号はダッシュで逃げていき、さすがの田舎勇者も攻撃を仕掛けるよりも先にスィグワロス号は場外へと逃亡。
わずか3秒で中堅戦は終了した。
「……ゴホン、対戦相手の戦意喪失により、中堅戦は田舎勇者チームの勝利!」
「こんな嬉しくねえ勝利……いらねえ!」
対戦相手の勇者には申し訳ないが、あえて思わせてもらおう。
意外とあのウマ……役に立つ。
副将戦になると、こちら側は竜人アルマン。対戦相手はウェアウルフの戦士を出してきた。
田舎勇者チームの副将は、田舎勇者ほど強力な霊力は纏っていないので、大きなミスをしない限りはアルマンが勝ってくれるだろう。
フリーダも感心した様子でロドルフォに言った。
「さすがですね。いくらアルマンでも、寒村の勇者さまが相手なら……良くて5分でしょう」
「ええ、あの霊力を考えると、たとえ勝てたとしても……負傷で次の戦いには参戦できないコンディションにもなり得ます」
僕もまた、納得しながら頷いた。
これはあくまでトーナメント戦なんだ。ただ勝ち上がるだけでなく、次の試合でも、なるべくベストコンディションで戦えるように考えないといけない。
全員が見守るなか、副将戦は2分ほどで決着がついた。
アルマンは始終有利に試合を進めていき、得意のテールアタックで相手選手を場外へとはじき出したのである。
「副将戦……リッカシデン隊の勝利! 3勝1敗で……リッカシデン隊の勝利です!」
難しい戦いだったが、他の試合はどのような結果となるだろう。
僕は会場に残って、それぞれの勇者たちの戦いを見学することにした。
先鋒戦として出場していた僕は、敗北寸前まで追い込まれていた。
すでに転倒している僕は、左腰の小翼以外の全てを破損している。
それだけでなく、対戦相手の風の大翼は、まさにいま……僕に襲い掛かろうとしていた。
「…………」
大翼がいま……僕を目掛けて突っ込んでくる!
そう思ったとき、僕は霊力を強く放出し、その多くを左の小翼に注ぎ込んだ。
すると、小翼の形状は変わり1メートルほどまで伸びて、対戦相手の大翼を貫いた。大翼の周囲にはヒビが広がっていき、やがてバラバラに崩れ落ちたが、僕はそんなものよりも対戦相手を睨んだ。
転倒している僕は、対戦相手の振り下ろしてくるレイピアを避けると、ダウンから中腰になり、更に攻撃を避けて立ち上がり、次の一撃を小翼レイピアで切り払った。
相手が体勢を崩したので、今度はこちらが攻め込む番だ。
僕の一撃は相手選手の肩の一部に刺さってダメージを与え、相手選手は体勢を立て直して応戦してきたが、僕は再び切り払い、次の一撃は相手選手の腕に当たり、更に一撃が相手選手の頬を掠めた。
お互いにレイピアを握り直したところで、審判が声を上げた。
「そこまで! 5分を経過したので……判定とします!」
観客席は静まり返り、僕はゴクリと唾を呑んだ。
結果は……
主審は、リッカシデン隊の旗を上げ、
副審の片方は、両方の旗を上げ。
副審のもう片方は、リッカシデン隊の旗を上げた。
どうやら、2ー0で辛くも勝利できたようだ。
「では、各チームの次鋒……前へ!」
汗をぬぐいながら引き返していくと、何と次鋒はフリーダだった。
「……! 頑張って」
「行って参ります」
フリーダに次鋒を頼むとは、ロドルフォたちも勇者パーティーを強敵と判断したということか。
まあ僕も、リッカシデン号を出す寸前まで追いつめられていたし、対戦相手の先鋒はフリーダと同等かそれ以上の力があった。
ロドルフォが警戒するのも当然だろう。
さて、対戦相手である田舎勇者チームの次鋒は、鹿獣人の戦士だった。
どうやらロドルフォの狙いは当たったらしく、試合開始と同時にフリーダは空へと飛びあがり、上空というアウトレンジから相手選手の次鋒を狙い撃ちにしていく。
次鋒戦は3分ほどでフリーダが勝利をおさめ、僕たちは勝利に大手をかけた。
「相手の裏をかくとは、さすがだね……」
そうロドルフォに言うと、彼は前を睨みながら答える。
「貴方さまが、初戦で勝ち星を挙げて下さったことが、私にとって自信になりました」
隣で話を聞いていたシャーロットも頷いた。
「そうね。私たちと相手チームの大きな差は有翼人の有無」
「その通りです」
さて次は中堅戦だが、ロドルフォはここで奇策に打って出た。
何と選んだのはスィグワロス号である。
『……ヒヒーン?』
全員に指を差されると、スィグワロス号は仕方なさそうに歩いて行ったが、対戦相手の姿が見えたところでロドルフォは不敵に笑っていた。
相手チームは、チームリーダーと思しきヒューマンの青年が出てきたのである。
「あの霊力の高さ……もしかして!」
「ええ、田舎勇者の愛称で知られる……寒村のベンジャミンさまでしょう。実は……次鋒戦の時から、俺が出たいという声が聞こえてきていまして」
そっと田舎勇者の表情を確認してみると、顔を真っ赤にしながらスィグワロス号を睨んでいた。
チーム最強の自分が、人数合わせのウマとマッチングさせられたことに、激しい憤りを感じていると見える。
「では、中堅戦……はじめ!」
『ひ、ヒヒーン!』
試合が始まると同時に、スィグワロス号はダッシュで逃げていき、さすがの田舎勇者も攻撃を仕掛けるよりも先にスィグワロス号は場外へと逃亡。
わずか3秒で中堅戦は終了した。
「……ゴホン、対戦相手の戦意喪失により、中堅戦は田舎勇者チームの勝利!」
「こんな嬉しくねえ勝利……いらねえ!」
対戦相手の勇者には申し訳ないが、あえて思わせてもらおう。
意外とあのウマ……役に立つ。
副将戦になると、こちら側は竜人アルマン。対戦相手はウェアウルフの戦士を出してきた。
田舎勇者チームの副将は、田舎勇者ほど強力な霊力は纏っていないので、大きなミスをしない限りはアルマンが勝ってくれるだろう。
フリーダも感心した様子でロドルフォに言った。
「さすがですね。いくらアルマンでも、寒村の勇者さまが相手なら……良くて5分でしょう」
「ええ、あの霊力を考えると、たとえ勝てたとしても……負傷で次の戦いには参戦できないコンディションにもなり得ます」
僕もまた、納得しながら頷いた。
これはあくまでトーナメント戦なんだ。ただ勝ち上がるだけでなく、次の試合でも、なるべくベストコンディションで戦えるように考えないといけない。
全員が見守るなか、副将戦は2分ほどで決着がついた。
アルマンは始終有利に試合を進めていき、得意のテールアタックで相手選手を場外へとはじき出したのである。
「副将戦……リッカシデン隊の勝利! 3勝1敗で……リッカシデン隊の勝利です!」
難しい戦いだったが、他の試合はどのような結果となるだろう。
僕は会場に残って、それぞれの勇者たちの戦いを見学することにした。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる