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24.バンケン狼とかいう面白い生き物

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 3流ハンター女と別れた翌日。小生の元に野鳥が飛んできた。
 彼は、鼻にかかった高めの声で言う。
『ねえねえ、ボスウマ!』
「ん、どうしたんだい?」
『呑気に草を食ってる場合じゃないよー。君のテリトリーを勝手に占拠してるやつらがいるー』
「それって、どんな生き物なんだい?」
『オオカミ、いや……ヤマイヌが3頭』
「ああ、ヤマイヌなら問題ないよ。そいつらは多分……バンケン狼だ」

 そう答えると、野鳥だけでなく近くにいた青毛娘も視線を向けてきた。
「そのバンケン狼とは、いったいどういう生き物なのでしょうか?」
『ああ、イヌでオオカミなんて、何か矛盾してねーか?』
「これには理由があるんだよ」
 バンケン狼というのは、少し変わった習性を持つオオカミだ。
 彼らは森の一角に勝手に住み着いて、強引に自分たちのテリトリーにする困った行動をするのだが、ポイントとなるのは住み着く場所なのである。
『で、お前のテリトリーのどこが不法占拠されたんだよ?』
「この前、ゴッドスーパーウルトラ・キャロットムキムキ団をお仕置きして、手に入った土地」

 バンケン狼は、テリトリーの外れを勝手に占拠して住み着くことが多いのである。
 つまり、本人たちはユニコーンの土地を奪ってやったぜと意気揚々としているが、ユニコーンから見ればさほど重要な土地ではないことが多く、さらに外敵の侵入を防いでくれるので、番犬でありながら犬のように世話をする必要はないという、何ともありがたい存在なのだ。
「つまり、放っておけばいいということ」
『な、なるほど……奪われた土地は重要じゃないのか?』
「うん。重要な果樹もないし、オマケに見回りも大変だったから、人間の土地との間に緩衝地帯が出来て助かってる」
「本当に、あなたは物知りですね……これも、もしかして白毛オジサンから聞いたことですか?」
「いいや、この知識はお父さんからの受け売りだよ。実際に、小生が仔馬だった頃にバンケン狼が住み着いたことがあったんだ」

 その時のバンケン狼は、ユニコーンのテリトリーのちょうど境界線に住み着いたので、不毛な縄張り争いが収まったのである。
 テリトリーが奪われた当初は、父も不満そうだったが、ライバルの一角獣との争いが減ったことで、彼も別のことが出来るようになり、今ではバンケン狼の存在を黙認するようになっている。
 小生としても、バンケン狼がいる場所は、冒険者やゴブリンたちが侵入してくる場所なので、下手に退治しに行かずに、このまま見張り役として放っておくつもりだ。

 そんなことを考えていたら、青毛娘がこちらを見た。
「あの、あなた……気になることがあるのですが?」
「ん? どうしたんだい?」
「バンケン狼は、どれくらいの強さなのでしょうか?」
「そうだね。3頭いれば……ビギナー冒険者や、ゴブリン小隊、あとは単独行動をしているウマくらいなら撃退できる……くらいかな?」
 そう答えると、青毛娘はどこかがっかりした表情をしていた。もしかしたらオオカミだからもう少し強いと思っていたのかもしれない。
 小生は、少し説明を足すことにした。
「まあ、バンケン狼の真価は、交戦している時にあるよ」
「どういうことですか?」
「彼らは自分のテリトリーに侵入したモノを排除しようとするんだ。その際に派手に吠えたり戦ったりするから、何かが侵入したということがすぐにわかる」

 そう答えると、青毛娘も野鳥も納得した様子で頷いた。
『なるほど~ つまり、人間の家でいうところの、呼び鈴代わりになるってワケだ!』
「その通りだよ鳥さん。バンケン狼の居場所から、小生たちのいる広場までは距離がある。だから、バトルに向かない仔馬たちを、小生の故郷に逃がしたり、交戦する準備を整えたりもできる」
 青毛娘も頷いた。
「この辺りは深い森で覆われていますからね。特に人間やゴブリンたちは、獣道を辿って進まなければ、すぐに森の中で迷ってしまうでしょう」

――ワンワン! ワンワンワンワン!!
 バンケン狼の鳴き声を聞き、小生はすぐにその方角へと視線を向けた。
 どうやら彼らは早くも、侵入してきた何かと交戦を開始したようだ。耳をよく澄ましてみると、相手はゴブリン……それも斥候役だということがわかる。
 隣にいた青毛娘も、満足そうに頷く。
「これはいいですね」
「うん。ゴブリンも斥候を派遣できなくなったのだから……小生のテリトリーに侵入することが、かなりリスキーになった」
 少しずつだけど、このラギア地域を自分の縄張りにできていると、手ごたえを感じた。

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