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18.ウィルオーウィスプの噂
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こうして、牝馬たちがいるラギア中央部に戻ると、何だか数が増えていた。
「よー、栗毛兄ちゃん!」
「僕たちも遊びに来たよ~」
どうやら、故郷の群れのワンパク仔馬たちが遊びに来ていたようだ。彼らの話によると、大人ウマや一角獣も来ており、今は温泉でゆっくりとしているようだ。
「ねーねー、ところで兄ちゃん?」
「なんだい?」
「そこのねーちゃんとは、ついに……ヒヒヒヒヒ」
「セイシュンだねぇ~」
「…………」
全く、最近の仔馬はどうしてすぐに、しょうもないことばかり覚えるのだろう。きっと原因は……原因は小生が要らぬことを吹き込みまくったせいだろうな。
まあどうせ、小生も来年には青毛娘に手を出しそうだし、黙って見ているとワンパク仔馬たちは、駆けっこをはじめた。やはり仔馬は元気に走り回っているのが一番いい。
仔馬たちも、ラギア地域は安全ではない場所が多いことは理解しているらしく、さすがに危険な場所に入ることはないようだ。小生も安心して除草作業を進めることにした。
およそ5分ほどすると、ワンパク仔馬たちはすぐに戻ってきた。
「に、兄ちゃん……兄ちゃん!」
「ん? どうしたんだい?」
「で、出たんだよ! でた!」
「何が出たんだい?」
「ウィスプだよ、ウィルオーウィスプだよ!」
小生は草を飲む込むと、仔馬たちに身体を向けた。
「どこに出たんだい?」
「こっちこっち!」
仔馬たちに連れられ森の獣道を眺めてみたが、不思議な光などどこにも無かった。
「……ここに出たのかい?」
「うん、ここからあっちに向かって進んでた」
「…………」
念のため、地面のにおいを確認してみたら、何と白毛オジサンのにおいがした。多分、見回りをしていた時に、視界を確保しようとして角を光らせていたのだろう。
小生はすぐに仔馬たちに言った。
「地面のにおい……嗅いでみな」
「え? うん……」
「…………」
「…………」
「あ! これ、白毛オジサンじゃん!」
「やべ……ウィスプよりも、もっと怖い人だぁ!」
「ヤバすぎだろ、にげろー!」
仔馬たちは我先へと逃げ出していき、小生だけがポツンと残されてしまった。
正体不明の光りよりも怖がられるなんて、白毛オジサンは仔馬たちにどれだけ恐れられているのだろう。
「…………」
まあいいや。オジサンは小生の縄張りまで見回りをしてくれているんだし、ここはお礼の1つくらい言ってもバチは当たらない。
においを辿りながら歩いていくと、白毛オジサンの後ろ姿を見かけた。
「白毛おじさん!」
そう声をかけると、白毛オジサンは視線をこちらに向け、ホッとした表情をしている。さすがの彼もラギア北西部ともなれば警戒心を高めるようだ。
「おお、栗毛んとこのじゃりん子じゃねーか」
「小生の場所の見回りをしてくれていたんですね。ありがとうございます!」
そうお礼を言うと、白毛オジサンはニッと笑う。
「おう! 感謝しろ……と言いたいところだけど、半分以上はオメーのためじゃねえんだ」
「と言いますと?」
「ああ、実はな……この辺りを歩いていたら、妙な光を見てな……正体が気になるから、こうやって調査しているんだよ」
ウィルオーウィスプの正体は白毛オジサンだと思っていたら、まさか彼も謎の光を見ていたとは。謎が謎を呼ぶとは、まさにこのことだろう。
「地面のにおいとかも嗅いだんですよね?」
「ああ、残っているにおいと言えば……オメーと青毛娘くらいだからな」
「……つまり、臭いなく飛び回っている光……ということですか」
「そうなるな」
さすがに白毛オジサン任せにすることも出来ないので、小生もお供をしながら角を光らせて調査を進めていく。周囲もすっかりと日が落ちて、森の中が暗くなると白毛オジサンは言った。
「視界もすっかり悪くなったな。気を引き締めろよ」
「そうですね! それに、この辺りから北西部になります」
「ラギアの北西部か……確か、ゴブリンやらヘンタイウマ共とか、色々出るんだったか」
「そうです。密猟者に遭遇することもあるので気を付けましょう」
「わかってる」
そう言いながら2頭で歩いていくと、ばったりと冒険者パーティーと遭遇した。
小生も白毛オジサンも歩みを止めると、相手方の冒険者パーティーも警戒したのか松明が動きを止めていた。相手はただ迷い込んだだけだろうか。それとも……。
「こ、この光……ウィルオーウィスプか!?」
「し、しかも2つ……」
「やべえぞ! 逃げろ!!」
「撤収! 撤収!!」
冒険者たちが逃げ出していくなか、小生と白毛オジサンはポカンと立ち尽くしていた。
「おじさん」
「なんだ?」
「まさか、小生たちがウィルオーウィスプになるとは思いませんでしたね」
「なんだか、お化け船になった気分だ……」
ついでに冒険者たちの誰かが、小生の配置した機雷も踏んでいった。きっとニオイがきつすぎてびっくりするんだろうなぁ。
「よー、栗毛兄ちゃん!」
「僕たちも遊びに来たよ~」
どうやら、故郷の群れのワンパク仔馬たちが遊びに来ていたようだ。彼らの話によると、大人ウマや一角獣も来ており、今は温泉でゆっくりとしているようだ。
「ねーねー、ところで兄ちゃん?」
「なんだい?」
「そこのねーちゃんとは、ついに……ヒヒヒヒヒ」
「セイシュンだねぇ~」
「…………」
全く、最近の仔馬はどうしてすぐに、しょうもないことばかり覚えるのだろう。きっと原因は……原因は小生が要らぬことを吹き込みまくったせいだろうな。
まあどうせ、小生も来年には青毛娘に手を出しそうだし、黙って見ているとワンパク仔馬たちは、駆けっこをはじめた。やはり仔馬は元気に走り回っているのが一番いい。
仔馬たちも、ラギア地域は安全ではない場所が多いことは理解しているらしく、さすがに危険な場所に入ることはないようだ。小生も安心して除草作業を進めることにした。
およそ5分ほどすると、ワンパク仔馬たちはすぐに戻ってきた。
「に、兄ちゃん……兄ちゃん!」
「ん? どうしたんだい?」
「で、出たんだよ! でた!」
「何が出たんだい?」
「ウィスプだよ、ウィルオーウィスプだよ!」
小生は草を飲む込むと、仔馬たちに身体を向けた。
「どこに出たんだい?」
「こっちこっち!」
仔馬たちに連れられ森の獣道を眺めてみたが、不思議な光などどこにも無かった。
「……ここに出たのかい?」
「うん、ここからあっちに向かって進んでた」
「…………」
念のため、地面のにおいを確認してみたら、何と白毛オジサンのにおいがした。多分、見回りをしていた時に、視界を確保しようとして角を光らせていたのだろう。
小生はすぐに仔馬たちに言った。
「地面のにおい……嗅いでみな」
「え? うん……」
「…………」
「…………」
「あ! これ、白毛オジサンじゃん!」
「やべ……ウィスプよりも、もっと怖い人だぁ!」
「ヤバすぎだろ、にげろー!」
仔馬たちは我先へと逃げ出していき、小生だけがポツンと残されてしまった。
正体不明の光りよりも怖がられるなんて、白毛オジサンは仔馬たちにどれだけ恐れられているのだろう。
「…………」
まあいいや。オジサンは小生の縄張りまで見回りをしてくれているんだし、ここはお礼の1つくらい言ってもバチは当たらない。
においを辿りながら歩いていくと、白毛オジサンの後ろ姿を見かけた。
「白毛おじさん!」
そう声をかけると、白毛オジサンは視線をこちらに向け、ホッとした表情をしている。さすがの彼もラギア北西部ともなれば警戒心を高めるようだ。
「おお、栗毛んとこのじゃりん子じゃねーか」
「小生の場所の見回りをしてくれていたんですね。ありがとうございます!」
そうお礼を言うと、白毛オジサンはニッと笑う。
「おう! 感謝しろ……と言いたいところだけど、半分以上はオメーのためじゃねえんだ」
「と言いますと?」
「ああ、実はな……この辺りを歩いていたら、妙な光を見てな……正体が気になるから、こうやって調査しているんだよ」
ウィルオーウィスプの正体は白毛オジサンだと思っていたら、まさか彼も謎の光を見ていたとは。謎が謎を呼ぶとは、まさにこのことだろう。
「地面のにおいとかも嗅いだんですよね?」
「ああ、残っているにおいと言えば……オメーと青毛娘くらいだからな」
「……つまり、臭いなく飛び回っている光……ということですか」
「そうなるな」
さすがに白毛オジサン任せにすることも出来ないので、小生もお供をしながら角を光らせて調査を進めていく。周囲もすっかりと日が落ちて、森の中が暗くなると白毛オジサンは言った。
「視界もすっかり悪くなったな。気を引き締めろよ」
「そうですね! それに、この辺りから北西部になります」
「ラギアの北西部か……確か、ゴブリンやらヘンタイウマ共とか、色々出るんだったか」
「そうです。密猟者に遭遇することもあるので気を付けましょう」
「わかってる」
そう言いながら2頭で歩いていくと、ばったりと冒険者パーティーと遭遇した。
小生も白毛オジサンも歩みを止めると、相手方の冒険者パーティーも警戒したのか松明が動きを止めていた。相手はただ迷い込んだだけだろうか。それとも……。
「こ、この光……ウィルオーウィスプか!?」
「し、しかも2つ……」
「やべえぞ! 逃げろ!!」
「撤収! 撤収!!」
冒険者たちが逃げ出していくなか、小生と白毛オジサンはポカンと立ち尽くしていた。
「おじさん」
「なんだ?」
「まさか、小生たちがウィルオーウィスプになるとは思いませんでしたね」
「なんだか、お化け船になった気分だ……」
ついでに冒険者たちの誰かが、小生の配置した機雷も踏んでいった。きっとニオイがきつすぎてびっくりするんだろうなぁ。
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