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42.魔王軍、遂に沈黙を破る

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 2月の上旬。
 この日も執務室で書類仕事を進めていたら、リットーヴィント号がやってきた。
『失礼いたします』
「やあ、今日はどうしたんだい?」
『鳥たちに確認をさせたところ、勇者一行の収めている魔王城に、守備隊がほとんどいないことがわかりました』

 その情報を聞き、僕は少し思案した。
 普通に考えれば、勇者は僕たちのことを倒したと考えているはずだ。だから、魔王城は敵対勢力と隣接していない土地として警備は最小限にするはずである。
「…………」
「…………」
 しかし、勇者は何を考えているかわからないところがある。魔王城自体をトラップにして何か仕掛けている可能性もあり得るのが困ったところ。
「判断が難しいね……」
『どちらにしても冬の間は動けないので、もうしばらく様子を見てはいかがでしょう?』
「……それがいいかも」


 そう頷くと、リットーヴィント号は更に言った。
『それから、ヴェルテ城の南に住むトラ獣人たちが、気になることを言っていました』
「気になること?」
『どうやら食料が不足しているようなのです。もしかしたら陛下に援助を求めてくる可能性があります』
「……わかった。そういうことならヴェルテ城に少し多めに輸送しておこう」

 リットーヴィント号の言う通り、それから5日ほどでヴェルテ城の南に住むトラ獣人の代表が、食料の支援を求めてヴェルテ城にやってきたようだ。
 すでに支援なら承諾するように、ブルンフリートに根回しをしておいたため、トラ獣人たちはほぼ無償で食料を得た。まあ、これは僕のお願いした引っ越しに、最終的には応じてくれたことへの礼というヤツである。


 他にも僕は、冬の間にアデルハイト城から兵士や食糧をヴェルテ城に移動させたり、リットーヴィント城から食料を移動させたりもしたが、勇者の治める魔王城に変化はなかった。
 いや、2月の下旬になると、勇者が指示を出したのか、魔王城にいる武将や兵士が前線へと移動させていく。その残存兵力も、僕がアデルハイト城に残しているよりも少なく、住民が暴動でも起こそうものなら鎮圧できないのではないかと思えるほどの数しかいない。
「これ……もしかして、本当に気づいてないのかな?」

 そうリットーヴィント号に聞くと、彼も頷いた。
『そのようですね……どうやら勇者派は北の大公国の侵攻に合わせて王国の領土を攻撃するつもりのようです』
「なるほど……」

 そうなると、こちらが動き出すタイミングは、勇者たちが王国領の城へと侵攻した後だろう。
 僕自身も何度も戦争をしているからわかるが、一度敵国に侵攻して戦闘を開始したら、急に部隊を撤退させることは難しい。交戦している敵に背中を見せることになるからだ。
「リットーヴィント……なるべく勇者派の動きに注意を払ってくれ」
『わかりました』


 間もなく3月がやってくると、勇者たちはすぐに軍勢を北へと進めていった。
 理由はもちろん、王に奪われた城を取り返すためだろう。同時に北の大公国もツーノッパ国の城へと攻撃を仕掛けたため国王軍はその対処に追われることとなった。

 それらの情報は、リットーヴィントも把握しており、彼は迅速に僕に情報を提供してくれた。
『勇者一行が王国領へと侵攻しました。今が好機かと存じます』
「よし……」

 僕はそう言いながら立ち上がると、ヴェルテ城の城主であるブルンフリートへと視線を向ける。
「長かったね……ブルンフリート。予定通りに奪還作戦を開始してくれ」
「承知いたしました! 大義名分は……前王と仲間たちの弔いでよろしいですか?」
「いいや、それでは僕の私情の戦いだ」

 僕は一呼吸置いてから言った。
「勇者の圧政から同胞たちを解放する!」
 そう伝えると、家臣たちは一斉に「ははっ!」と返事をした。


 間もなく、ブルンフリートは、ロドルフォ、レオニーなど重臣4人に出陣を命じた。
 ヴェルテ城の南に住むトラ獣人たちも、僕たちが領内を通過することを快く受け入れてくれたため、進軍はスムーズに進み、魔王城の周辺地域を次々と平定していく。

 また、勇者の重臣は伝書鳩で勇者に援軍要請の手紙を送ろうとしたが、リットーヴィント号は猛禽類を操って敵方の伝書鳩を奪取。
 ブルンフリートは、ドワーフの職人に頼んで筆跡を真似てニセの伝令文を書いて、勇者へと送り付けることにも成功した。


 伝書鳩が奪取され、援軍が来ないことを悟った勇者方の城主は、特に粘ることもなく降伏し、僕たち魔王軍はすぐに次の城への攻撃準備に入った。
「次の目標はズィルバー城だね」
「はい。あそこには魔王軍を古くから支えた銀山があります。四天王のひとり……獅子将軍レオナルドの居城でもあった場所……何としても取り返したい場所です」

 その言葉を聞いたレオニーも、しっかりと頷いた。
 獅子将軍レオナルドは、レオニーの伯父に当たる人物のようだ。獅子族の血を引く女子としても、力が入るところだろう。


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