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35.収穫の秋

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 アデルハイトの妊娠も8ヶ月に入った頃、城から外を見渡すと、麦や作物の収穫が始まっていた。
 今は秋。農民たちはしっかりと収穫を終えたあと、長い冬に備える時期である。

 ロドルフォは、困り顔になって僕を見た。
「陛下……今年は領内のほとんどの地域が戦乱に巻き込まれたため、収穫はとても少ないものとなりそうです」
『それはすでに想定済みだよ。むしろ戦争に巻き込んだお詫びとして、税率はできる限り低くしようと思っているくらいさ』

 そう答えると、僕は金庫の中にある金貨の数を確認した。
 これは全て、使用用途が無かったから貯めておいた僕が霊力で出した金貨である。念のためアデルハイトやロドルフォに確認してみると、領主と直属の家来全員に給金を払っても大丈夫だ。
「よし、一応……税務担当者にも仕事自体はして欲しいから、1公9民にしよう!」

 税率10パーセントと伝えると、ロドルフォは我が耳を疑ったかのような表情をしていた。アデルハイトさえもびっくりした表情をていたが、彼女はすぐに納得したようだ。
「きっと民も驚くと思います」
「今回だけの特例措置だから、来年からは4公6民で取るよ?」
「そ、それでも安いですな」

 ロドルフォの言葉を聞いて驚いた。普通の国はいったいどれくらいの年貢を徴収しているのだろう。
「……普通の国はどれくらいなんだい?」
「国によっても違いますが……国主や領主は好き勝手に名目を決めて税を徴収しています。酷いところだと2公1民のうえに、教会などの宗教勢力まで税金を徴収している地域もあるそうです」

 ちなみに、僕の国では領主は基本的に僕が雇っているため、僕の許可なく税金を取ることは契約違反である。
 また、地獄耳ユニコーンとこんばんはオオカミを筆頭とした情報収集部隊もいるので、違法徴税をやれるものならやってみろ体制も出来上がりつつある。
「どこの国でも、国が国民からカツアゲするのはお約束なんだね」
「最近では戦争も多いですから、周辺国も遣り繰りに苦労しているのでしょう」
「僕の国だけは例外でありたいものだね」


 さて、この1公9民という税率は、国内外でかなり話題になったようだ。
 住民たちは大いに喜んでいたが、領主たちはびっくりしたらしく各城へと集まってくる。
「ほ、本気ですか陛下!?」
「冗談でこんなことは言わないよ」
「財源は!?」

 僕は金庫を軽く叩いた。
「そ、それ……もしかして……」
「すでに、アデルハイト城にも、コンスタンタン城にも、ヴェルテ城にも給料分の金貨は送ってある」

 そう答えながら、僕はリットーヴィント城に配属した仲間たち一人一人に給料を払うことにした。
 全員、金貨を手にするとホッとした表情と、どこか心配そうな表情が混じった顔をしている。
「さすがは陛下ですな」
「ええ、ですが……御城の貯えは大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。これは僕のワガママのようなモノだから、城のお金はびた一文使ってない」
「え、えええええええ!?」

 口には出さなかったが、僕の金庫の中にはまだ5分の2ほどの金貨が余っていたが、あまり余裕を見せすぎると、仲間たちも緩んでしまうので、少し引き締めることにした。
「ちなみに、これで中はほとんど空になったよ。来年からはしっかりと働いてね」
「は、はい……家臣一同、必ずやお役に立って見せます!」
 家臣たちも安心するとそれぞれの領内へと帰っていった。


 やがて僕は城下町を見てみると、多くの人々が行き交っていた。
 どうやら国内の関所を全て無料で通過できるようにし、国外に出るときだけ積み荷の5パーセントの税金を取るという体制にしたことで、人や物の行き来が活発化したようである。

 また領内に、集金に熱心な宗教勢力がないことも、商人たちが集まる理由になっているようだ。
 そういう集金宗教勢力は、僕の領内でお布施と言いながら勝手に徴税を始めるので、先代魔王の時代から一貫して厳しい姿勢を取っている。

「ん……そういえば……」
 そう呟くと、隣で話を聞いていたロドルフォは不思議そうな顔をした。
「いかがなさいましたか?」
「うちの国って無宗教かと思ってたけど、よく考えてみたらエルフや獣人の自然信仰が盛んだったね!」
「実質的に国教のようなものですな」
 ツーノッパ諸国は一神教だが、魔王軍は多神教というところも、お互いが相いれない理由の一つなのかもしれない。

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