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勇者軍の出陣(語り部パワハーダ)

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 時は来た!
 伝説の勇者の生まれ変わりである俺こそパワハーダは長い冒険の果てに、真のラスボスである国王を倒すためにいま立ち上がろうとしている。

 考えても見れば、ここまでの道のりは長く険しいものだった。
 まずは貧乏くさく領民の機嫌ばかりを取っていた、チンケな領主を誅殺して俺様の素晴らしさを内外に知らしめ、そのおかげで魔王軍の手先共に追われる身となったが、ラスボス国王は俺様の功績を認めて国に招いた。

 それからはいろいろあって、たくさんの家来たちが死んだが魔王を倒すことができ、城へと戻ると魔王の娘の首のことで難癖をつけられて、今度は俺様が第二の魔王に仕立て上げられそうになっている。


 まあ、味方だと思っていた奴が真の黒幕だったという話はよくあることだ。
 そもそもラスボス国王は、最初から腹黒そうな顔をしていたから怪しいと思っていたんだ。だから参謀の魔法使いに色々と調べさせたら、自分のアニキから王位権を奪うなんてことをしてやがった。

「俺様に付いて来れば、全ての民にパンと女と職をくれてやる! 死ぬ気で戦え!」
「おー!」
「お前ら! ニセ国王のヤローを今すぐぶっ潰すぞ!」
「おー!」
 俺様は頭がいいからよくわかる。
 馬鹿を説得するために難しい言葉を使うのは悪手だ。バカにはわかりやすく簡単な言葉を使うに限る。

 例えば戦い方も、ぶっ潰せとだけ叫びながら、そのぶっ潰したいモノに剣を向けるのが一番だ。ごちゃごちゃと難しいことを言うから部下共は混乱するし、俺様の意図しない動き方をしはじめるんだ。
「いくぞお前ら―!」
「おー!」


 こうして俺様は、手下どもを引き連れて王国領に入った。
 ここには王国軍の兵どもがいたが関係ねえ。要は暴れるだけ暴れて領内にいる民をボコれば、それだけ王国も弱るという話になる。
「よーし、お前ら俺様から命令だ……ぶっ潰せ! この城も城下町も全部だ!!」
「おおおおお!」

 そう略奪を指示すると、武将も兵も我先へと領内へとなだれ込んで敵兵も民草もお構いなしに襲い始めた。もちろん相手にも軍隊がいるから、あちこちで戦闘がはじまるが……関係ねえ。
 敵兵が死ねば俺様に敵対する人間が減るし、敵の民草が減れば国力が下がる、そして味方の将兵が死ねば褒美として支払う土地や金を節約できるというワケだ。

 少し見ていると、俺は思わずつぶやいた。
「へぇ……こいつら、意外とやるじゃねえか」
 略奪をしてモチベーションが上がったのか、俺様の手下どもは次々と王国軍の軍隊を撃退し始めたのである。武装も数も向こうの方が上のはずなのだが、人の気持ちというのは本当に俺の想像の斜め上を行くのだから侮れねえ。

 王国軍の兵が倒れると、俺様の兵士たちは次々と鎧をはぎ取ったり、近くにある民家を襲って金品や女子供を奪い取ったりしている。ふふ……本当に戦場は地獄というヤツだな。
 

 けっきょく兵どもは王国軍の守備隊を蹴散らすと、そのまま城下町を荒らし回りながら城の包囲した。
 このまま兵糧攻めと行きたいところだが、略奪分を含めても1ヶ月以内に食い物も無くなっちまうだろう。

 こいつらこテンションも高いうちに、俺様は城に剣を向けて命令した。
「ぶっ潰せ!」

 さすがに今までは弱い者イジメをしてきたこいつらも、籠城している相手がどれほど危険かは理解しているようだ。
 さすがに自分は死にたくないと見えて、誰も前に出たがらない。
 じれったく思っていると、丁度いいことを思いついた。


「お前らがやる気を出さないなら仕方ねえ……おい、ここに食料を集めろ! ぶん取った分も含めてだ!!」
 兵どもは渋々という様子で、俺様の前に食料を集めると、俺はその中に向けて松明を投げ入れた。
 慌てて何人かが止めに入ろうとしたので、俺は怒号を響かせる。
「動くな! 次に動いた奴は叩き斬るぞ!!」

 全員が止まったところで、俺様は命じた。
「食料ならまだ……あの中にある。飢え死にするのが嫌なら、今すぐにぶっ潰して来い」

 まだ、兵士どもは茫然としていたので、俺は更に大きな声で叫んだ。
「ぶっ潰せぇ!!」
「お、おおーーーー!」

 一人が動き出すと、武将も兵士も雪崩が起こったかのように動き出して城へと攻めかかった。
 城の中の兵士どもも激しく抵抗して、兵士だけでなく武将も次々と討ち死にしたが、こんな連中の代わりなんざ履いて捨てるほどいる。

 こうして俺様は、城を1日で攻略して、頭の良さと恐ろしさを内外に見せつけたワケだ。
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