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20.残る南東部の攻略

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 山賊討伐の直後。僕はアデルハイト城で農民の長や農民たちと会っていた。
「ご助力を頂き……ありがとうございます!」
「君たちのことは、他の地域の長達から聞いている……とても苦労したね」
「はい。平和に農業に専念できることこそ……我々の悲願でございます」

 僕はその言葉を聞いて、自分の過去を思い返していた。
 平和な日本という世界で生きていても、少ない収入から多くの税金を取られ、更に食料品や水道光熱費の値上がりに苦しめられてきた。
 それにさらに、山賊たちに暴力を振るわれる日々なんて……想像しただけでもクソゲーだと思う。


 玉座を立って、そっと農民の長に近づくと汗や泥のにおいがした。
 村長という立場の彼でさえ、このような状況なのだから本当に苦しい生活を送っているのがわかる。これは国主として何か力になってあげたいと思えた。
 金貨50枚を出すと、長に差し出した。

「こ、この金貨は?!」
「農地を開拓するうえで必要なモノ……例えば風呂場を整えたり、もっと地面を耕すのが楽になる農機具を買うための予算だ。農地発展のために役立てて欲しい」

 そう言って渡すと、農民の長は目尻に涙を溜めながら頷いた。
「領主というのは……常に我々から奪うだけ……ここまで良くして下さったのは……貴方様がはじめてです!」

 長が答えると、農民たちは一斉にお辞儀をしてくれた。僕としても、彼らが働きやすい環境で仕事をしてくれる方が嬉しい。


 さて、こうしてアデルハイト城の周辺8地域のうち、7地域が僕たちの傘下に加わったワケだが、まだ1か所。沈黙を守り続けている勢力があった。
 アデルハイト城から見て南東部に位置する地域で、話によるとここはトラ獣人が治めている集落のようだ。

 その様子を見ていた城主のブルンフリートは、すぐに僕に視線を向けてくる。
「陛下……南東部のトラ獣人たちですが、御命令とあらばいつでも攻め落としますよ?」
「いいや。しばらく彼らの出方を見ようと思う」
「出方を見るのですか?」
「うん。リットーヴィント号の情報によれば、僕に従うべきか否かで意見も割れているみたいだからね」


 3日ほど様子を見ていたが、このトラ獣人の集落の意見はまとまらなかったようだ。
 服従派と傍観派と徹底抗戦派に分かれており、いつまでも時間をかけることはできないので、僕は彼らに一石を投じることにした。
「ブルンフリート」
「はっ……何でしょうか?」
「彼らトラ獣人族に転居を命じることにした」

 その言葉を聞いてブルンフリートは、なるほどと言いたそうに頷いた。
「転居でございますか……なるほど!」
「従った人には、僕から少しだけど協力費を支払おうと思うんだ」
「わ、わかりました……南東部に住む獣人たちに伝えて参ります」


 水晶玉で獣人たちの様子を確認すると、反応は様々なだった。
 大いに反発している者は、ブルンフリートに罵声を浴びせているが、少し離れたところでは大急ぎで引っ越しの準備を始める者もいる。
 引っ越しの準備を整えた獣人たちには、1家族につき金貨1枚を協力費として手渡すことにした。彼らの家は解体して組み立てることができるため、新たに木材を調達しなくても移動できるからだ。
「引っ越し先は、ヴェルテ城の東側だ。レオニーという領主を頼って欲しい」
「わかりました」

 すでにこの件は、レオニー本人に根回し済みだ。
 同族を受け入れるために、多数の家や畑を耕して待機してもらっている。


 トラ獣人の集落の住民は、最初の呼びかけで3割ほどが応じたため人口は少なくなったが、中には過激な連中が残る結果となった。
 そして翌日になると、僕は再びブルンフリートを使者に立て、今日中に協力しないと協力費が減ることを住民たちに伝えるという作戦を取った。

 すると、トラ獣人の集落の住民たちは不安そうな顔をしながら、次々と僕の前へとやって来る。
 彼らにも協力費として金貨1枚を1家族につき払い、引っ越しに応じた人々を見送ってからトラ獣人の集落を見ると、人口はすでに半減していた。

 金貨は合わせて250枚ほどの出費になったが、これで味方と言える住民をだいぶ確保できたと思う。


 そしていよいよ3度目。
 今回は協力費が出るのが今日までということを知らせるために、ブルンフリートに再度使者を頼んだ。
 彼は予定通り空から大声で知らせてくれたが、トラ獣人の集落の住民は、国主であるブルンフリートに向けて投石をしたり矢を射かけたりして来た。
 
 一部住民の過激な行動を見た、穏健派の住民たちの中にはこっそりと抜け出し、僕に平謝りをしながら出て行けない事情を説明する者もいた。
 年老いた家族がいたり妊婦がいる者には特例として、城下に住むことを許可し、そのトラ獣人には情報提供料として金貨1枚を渡すと、彼はその日のうちに訳あり家族を何組か連れてきてくれた。


「さて、そろそろ……仕上げと行こうか?」
 僕がそう伝えると、重臣たちは「ははっ!」と返事をした。

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