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10.ユニコーン兄弟も臣下に

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 2頭の一角獣のうち、兄のリットーヴィントが言った。
『お初にお目にかかります。我が名はリットーヴィント。陛下のお噂を聞いて参りました』
 彼は首を下げてお辞儀をするようなポーズをとる。
『弟と共に、家臣の末座に加えてください』

 能力やアビリティは申し分ないが、彼らは果たしてどんな仕事を希望しているのだろう。すぐにイエスとは言わずに、その点を聞いてみることにした。
「ちなみに、どんな仕事を希望したいんだい?」
『私としては、お傍で参謀か、地方領主をさせて頂くのが理想です』

 なるほど。確かに智謀が95もあるのだから、これだけでも名将と言える存在だろう。
 というか……よく僕に士官しにきてくれたな。これほどの人材なら強大な国の王様だって三顧の礼で迎え入れるような存在だと思う。

 そう思ったときに、隣の弟ウマが僕の側まで来て、モショモショと服をいじりはじめた。
 なんとなく普通のウマっぽい動作なので、タテガミを撫でてやると喜んですり寄って来る。兄弟でここまで違うのかと考えていたら、兄ウマが真っ青な顔をして弟ウマを睨んだ。
『ば、馬鹿者……やめろ! その御方をどなたと……』
『ポケットに何か入ってないかな~』

 弟ウマの方が、僕のポケットに鼻先を突っ込んできたことで、なんとなく事情が呑み込めた。
 確かに、こんなことを平気でやる弟がいたら、庶民的な国主でないと……いろいろと不味いだろうな。

 さすがに行儀が悪いので、角を掴んでから弟ウマの首を上げ、タテガミを軽く掴むと弟ウマもイタズラをやめた。
「わかった。兄弟ともに歓迎しよう。お兄さんには北西部の砦の管理をしてもらいたい」

 そう伝えると、兄ウマはホッとした様子で頭を下げた。
『ありがたき幸せ……って、スィグワロス……何をしている!?』
『王様の持ち物チェック』
「こらこらこら、あまり引っ張るとポケットが破れちゃうよ!」


 兄ウマであるリットーヴィント号に金貨50枚の軍資金を持たせてみると、彼はすぐに牧場を作るように指示を出していた。
 どうやら彼は、一族が安心して暮らせる牧場が欲しかったようだ。

 他にも農地に薬草の栽培を指示し、ガラス職人なども城下町から呼び寄せ、瓶詰のペースト薬なども作って保存できるようにしている。
 ただ、薬を作るのに比べて、販売ルートを開拓するのはそれほど上手ではないらしい。そのため、商業の得意なアデルハイトに伝書鳩を送って、様々な指示を受けていた。



 そして、僕がこの世界に来て1か月。
 玉座へと腰掛けると、各地域に派遣した領主たちから報告書が届いた。

 早速、彼らがどんな領内経営をしているのか調べてみると、まず最も順調に進めているのはリットーヴィント号だった。さすがにアデルハイトの助言もあり、手堅く薬や農作物で領内を発展させているようだ。
「さすがはヴィント号……上手くやっているようだね」
「これだけベースを作れれば十分でしょう。後は少しずつリットーヴィント号の土地は発展していくと思います」

 続いてポールの報告書を見てみた。
 どうやら、彼の土地はゴブリンや野生動物に田畑を荒らされることが問題になっているようだ。さすがに北は僕の領内でも最も樹海などに近く、集落などを守るだけでも一苦労しているらしい。
「冒険者ギルドの創設許可か……なるほど、必要なことだね」
「そうですね。指導力のあるギルド員を雇うためにも、追加の出資をする必要があるかも……」
「それなら、僕が出しておこう。先月分の繰り越し分があるんだ」

 そう言いながら、繰り越し分から20枚の金貨を出して、ポールの使者に預けた。
「きっとポールも喜ぶでしょう。ありがとうございます!」
「道中気を付けてね」

 これで先月分の残りは80枚。さて、続いてはフランツたちの報告書か。
 フランツたちは指示通り、フランツが軍事をジュリアンが内政を担当して領内を順調に経営しているようだ。フランツは新兵の訓練に忙しく、またジュリアンも農家に農業指導などを行っている。
「ここも問題なしだね」
「ええ、私はイヴォナの報告書を見ましたが、彼女のエルフ村も特に問題は起こっていないようです」


 さて、最後はレオニーの報告書か。
 噂だけど、コブリンたちの領土に火薬の原料になる鉱山があるかも……か。ふむふむ。

 興味深いと思いながら内容に目を通していると、兵士がやってきた。
「陛下……申し上げます!」
「どうしたんだい?」
「一角獣リットーヴィント卿が、早急に陛下にお会いしたいと……」
「わかった。すぐに会おう」
「ははっ!」


 やってきたリットーヴィント号は、少し険しい表情をしていた。一体どうしたのだろう。
『お忙しいところ失礼いたします』
「一体どうしたんだい?」
『実は、渡り鳥たちから妙な情報を得ましたゆえ、陛下と殿下のお耳に入れておきたいと思いまして』

 僕はアデルハイトを見ると彼女は頷いたので、すぐに立ち上がってヴィント号の隣まで歩み寄った。
 すると彼は辺りを見回してから小声でささやく。
『王国軍の勇者一行が、魔王軍の残党狩りを計画しているようです』
「それは間違いないのかい!?」

 聞き返すと、彼はしっかりと頷いた。
『城下町の食料価格や武器の搬入だけでなく、兵の訓練方法まで大きく変わっています。まず間違いないかと』

 背中にじわりと汗をかいていた。いよいよ連中が攻めてくるのか。
 こちらも決戦に応じるべきだろうか。いや、王国軍の方が圧倒的に物量があるんだ。この合戦で奇跡的に勝てたとしても、更なる討伐軍に押しつぶされるだけだろう。


 どうするべきだろう。全滅覚悟で交戦すべきか、それとも降伏?
 いや、僕たちはあくまで【魔族】だ。人間とみなされていない可能性も高いし、仮に王国側が降伏を受け入れたとしても辛く長い迫害生活が待っているだけ。

 もしかしてこれ……詰んでる?
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