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35.実は来ていたギルド長
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間もなくオリヴィアとスティレットは、戦闘不能となっているジルーやマーフォークたちの治療を始めた。
彼らが回復させるのは、もちろんライフポイント……つまりLPである。
危険な仕事が多い自警団員や、冒険者にとってLPが減ったままになっているのは死活問題だが、この回復を自力でやらせるギルドも多いという噂も聞いている。
もちろん僕も、オリヴィアに面倒を診てもらっていた。
オリヴィアのヒーリングは、背中から暖かな気が流れ込んでくるような感じだ。
先ほどまで吸血鬼だった時に流れ込んできたオーラとは、似ても似つかないモノだが、やはり注意深く観察してみると同じ人が使っているとわかる。
「……ライフポイントが回復しました」
「ありがとう」
僕は改めて、オリヴィアが落ち着いてくれてよかったと思う。
彼女は僕に対してだけでなく、ジルーやマーフォークの自警団のメンバーを傷つけたことに動揺していた。しかし、自分にできることが何なのか彼女はすぐに理解し、こうして治療をしている。
隣でスティレットに回復してもらっていたビルも、嬉しそうに笑っていた。
「本当にヒーラーがいるって凄いな! LPって1回復させるのに半月とかかかるんだぜ」
さすがに半月という話には驚かされた。
確かにHPを削り切られるというのは、身体にかなりダメージがあることはわかるが、ビルはまだまだ若いはずだ。彼でさえも半月ということは、年を取り過ぎていると攻撃を受けたが最後、二度と回復しないなんてことも起こりかねない。
隣で治療を終えていたジルーも、肩を回しながら言った。
「ケガ以外にも、病気とかで削られることもあるもんね……ライフポイント」
「そういえば姉ちゃんが、難産で苦しんだとき……LPが2も削られたって愚痴ってたな」
「それそれ! よく聞くよね!」
ヒーラーが引く手あまたという理由がわかる気がした。
剣と魔法の世界となると、魔物が襲ってくるという事件以外にも、病気が萬栄したり、飢饉に見舞われたり、出産の際のトラブルなど、命の危機となる事件が多い。
そのような状況でLPが削られたままだと、あっという間にゲームオーバーだろう。
スティレットは、次々とけが人のLPを回復させていくと、こちらに視線を戻した。
『田舎では、複数の村でお金を出し合って、ユニコーンを1頭雇っているところもあるみたいだからね』
「やっぱり、どこも苦労して遣り繰りしてるんだな」
そう愚痴り合っていると、オリヴィアが耳をピクリと動かした。
「この音は……マーフォーク?」
「この匂いはフェリシティーギルド長だよ」
ギルド長だとジルーが言うと、オリヴィアは身構えた。
「まさか、ギルド長も……!?」
「……この匂いだと、それはなさそうかな。安心していいと思う」
彼女に言われて、オリヴィアも安心したようだ。
「やはり、ジルーさんが味方だと安心します」
「それはこっちも同じだよ。これからも力を合わせてがんばろー!」
「はい!」
間もなくフェリシティーは、アイラやアピゲイルと共にやってきた。
アイラとアピゲイルは吸血鬼化させられていたが、スティレットが強襲して人間に戻したらしい。
「ギルド長!」
フェリシティーは、僕たちが無事だったのを見て、とても安心した表情をしていた。
「全員無事だったのですね……よかった……」
対照的に妹のアイラは、険しい表情をしたままだった。
「姉さん、まだ油断はできません」
「そ、そうでしたね……」
フェリシティーは表情を戻した。
「実は、村そのものが死霊や吸血鬼の邪気に汚染されていることがわかったのです。このままラング村に住み続ければ、村人が病気になったり、また吸血鬼化するおそれもあります」
彼女は申し訳なさそうな表情をした。
「なので、疲れているところ申し訳ありませんが、村人の護衛と引越しの手伝いを……」
『その必要はないかもしれないよ』
「え……?」
フェリシティーがスティレットを見ると、彼は不敵に笑っていた。
『小生にはもう一つ……アビリティがあったでしょう?』
そういえばスティレットには、【ヒーリング】と【ペネトレーション】と……あと何かあったな。なんだったか……?
思い出していると、先にオリヴィアが答えた。
「ステークスレース……でしたか?」
『そうそれ! 本当に一部だけど……ユニコーンの中には、レースを行うことで場を浄化できる者がいるんだ』
その言葉を聞いたフェリシティーは、瞳を丸々と開いていた。
「し、しかし……アビリティ【ステークス】は、悪魔に負けると命を奪われると聞いています……いくら何でも危険では!?」
彼女の言葉を聞いた、マーフォークの戦士たちも一様に頷いた。
彼らにとってラング村は生まれ故郷だ。自分の家がなくなるだけでなく、家族も路頭に迷うことになる危険性もあるだろうが……それをはかりにかけても、せっかくお近づきになれたユニコーンを失うことの方が嫌なのだろう。
ビルが言った。
「ギルド長の言う通りだ! とんでもないよ!」
自警団の団長も言う。
「家ならまた別の場所に建てればいいが、命にだけは変わりはないんだ。無茶はいけない」
『小生の身を案じてくれているんだね……ありがとう』
その直後にスティレットは、普段では決してしない険しい顔をした。
突然の雰囲気の変化には、ギルド長のフェリシティーや、自警団の団長といった人たちまで驚き、思わず身を引いてしまうくらいの威厳と凄みが現れていた。
『だけどね。これは人間だけの問題じゃないんだ』
彼はそういうと、岩の割れ目から見える森を眺めた。
そこには小鳥のさえずりや、生き物たちの気配がある。
『吸血鬼に汚染された場所をそのままにしておくと……何も知らない動物たちが、その毒に侵されてモンスターになってしまう』
彼は鋭く洞窟の天井を睨んだ。
『ユニコーンとして……捨て置けない問題なんだよ!』
【スティレット】
彼らが回復させるのは、もちろんライフポイント……つまりLPである。
危険な仕事が多い自警団員や、冒険者にとってLPが減ったままになっているのは死活問題だが、この回復を自力でやらせるギルドも多いという噂も聞いている。
もちろん僕も、オリヴィアに面倒を診てもらっていた。
オリヴィアのヒーリングは、背中から暖かな気が流れ込んでくるような感じだ。
先ほどまで吸血鬼だった時に流れ込んできたオーラとは、似ても似つかないモノだが、やはり注意深く観察してみると同じ人が使っているとわかる。
「……ライフポイントが回復しました」
「ありがとう」
僕は改めて、オリヴィアが落ち着いてくれてよかったと思う。
彼女は僕に対してだけでなく、ジルーやマーフォークの自警団のメンバーを傷つけたことに動揺していた。しかし、自分にできることが何なのか彼女はすぐに理解し、こうして治療をしている。
隣でスティレットに回復してもらっていたビルも、嬉しそうに笑っていた。
「本当にヒーラーがいるって凄いな! LPって1回復させるのに半月とかかかるんだぜ」
さすがに半月という話には驚かされた。
確かにHPを削り切られるというのは、身体にかなりダメージがあることはわかるが、ビルはまだまだ若いはずだ。彼でさえも半月ということは、年を取り過ぎていると攻撃を受けたが最後、二度と回復しないなんてことも起こりかねない。
隣で治療を終えていたジルーも、肩を回しながら言った。
「ケガ以外にも、病気とかで削られることもあるもんね……ライフポイント」
「そういえば姉ちゃんが、難産で苦しんだとき……LPが2も削られたって愚痴ってたな」
「それそれ! よく聞くよね!」
ヒーラーが引く手あまたという理由がわかる気がした。
剣と魔法の世界となると、魔物が襲ってくるという事件以外にも、病気が萬栄したり、飢饉に見舞われたり、出産の際のトラブルなど、命の危機となる事件が多い。
そのような状況でLPが削られたままだと、あっという間にゲームオーバーだろう。
スティレットは、次々とけが人のLPを回復させていくと、こちらに視線を戻した。
『田舎では、複数の村でお金を出し合って、ユニコーンを1頭雇っているところもあるみたいだからね』
「やっぱり、どこも苦労して遣り繰りしてるんだな」
そう愚痴り合っていると、オリヴィアが耳をピクリと動かした。
「この音は……マーフォーク?」
「この匂いはフェリシティーギルド長だよ」
ギルド長だとジルーが言うと、オリヴィアは身構えた。
「まさか、ギルド長も……!?」
「……この匂いだと、それはなさそうかな。安心していいと思う」
彼女に言われて、オリヴィアも安心したようだ。
「やはり、ジルーさんが味方だと安心します」
「それはこっちも同じだよ。これからも力を合わせてがんばろー!」
「はい!」
間もなくフェリシティーは、アイラやアピゲイルと共にやってきた。
アイラとアピゲイルは吸血鬼化させられていたが、スティレットが強襲して人間に戻したらしい。
「ギルド長!」
フェリシティーは、僕たちが無事だったのを見て、とても安心した表情をしていた。
「全員無事だったのですね……よかった……」
対照的に妹のアイラは、険しい表情をしたままだった。
「姉さん、まだ油断はできません」
「そ、そうでしたね……」
フェリシティーは表情を戻した。
「実は、村そのものが死霊や吸血鬼の邪気に汚染されていることがわかったのです。このままラング村に住み続ければ、村人が病気になったり、また吸血鬼化するおそれもあります」
彼女は申し訳なさそうな表情をした。
「なので、疲れているところ申し訳ありませんが、村人の護衛と引越しの手伝いを……」
『その必要はないかもしれないよ』
「え……?」
フェリシティーがスティレットを見ると、彼は不敵に笑っていた。
『小生にはもう一つ……アビリティがあったでしょう?』
そういえばスティレットには、【ヒーリング】と【ペネトレーション】と……あと何かあったな。なんだったか……?
思い出していると、先にオリヴィアが答えた。
「ステークスレース……でしたか?」
『そうそれ! 本当に一部だけど……ユニコーンの中には、レースを行うことで場を浄化できる者がいるんだ』
その言葉を聞いたフェリシティーは、瞳を丸々と開いていた。
「し、しかし……アビリティ【ステークス】は、悪魔に負けると命を奪われると聞いています……いくら何でも危険では!?」
彼女の言葉を聞いた、マーフォークの戦士たちも一様に頷いた。
彼らにとってラング村は生まれ故郷だ。自分の家がなくなるだけでなく、家族も路頭に迷うことになる危険性もあるだろうが……それをはかりにかけても、せっかくお近づきになれたユニコーンを失うことの方が嫌なのだろう。
ビルが言った。
「ギルド長の言う通りだ! とんでもないよ!」
自警団の団長も言う。
「家ならまた別の場所に建てればいいが、命にだけは変わりはないんだ。無茶はいけない」
『小生の身を案じてくれているんだね……ありがとう』
その直後にスティレットは、普段では決してしない険しい顔をした。
突然の雰囲気の変化には、ギルド長のフェリシティーや、自警団の団長といった人たちまで驚き、思わず身を引いてしまうくらいの威厳と凄みが現れていた。
『だけどね。これは人間だけの問題じゃないんだ』
彼はそういうと、岩の割れ目から見える森を眺めた。
そこには小鳥のさえずりや、生き物たちの気配がある。
『吸血鬼に汚染された場所をそのままにしておくと……何も知らない動物たちが、その毒に侵されてモンスターになってしまう』
彼は鋭く洞窟の天井を睨んだ。
『ユニコーンとして……捨て置けない問題なんだよ!』
【スティレット】
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