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33.迫りくるオリヴィア

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 マーフォーク自警団のリーダーは、敏感にオリヴィアの異変を察してくれたようだ。
 部下と共に駆け付けると、隊員7人とビル、それに見張り役だった3人のマーフォークも含め、おおよそ10人の戦士たちが陣形を組んでいた。
 それにジルーも加わり11対1という状況となった。


 しかし、オリヴィアは臆するどころか、不敵な笑みを浮かべたまま自分のかぎ爪を光らせた。
「不思議ですね。どうやって皆さんは元に戻ったのでしょう……?」

「気を付けろ……魔法が来るぞ!」
 隊長が警戒を促すと、オリヴィアはにっこりと笑った。

 その直後に彼女は突っ込んでくると、ジルーは攻撃を避け、マーフォーク隊の後方が次々と矢を放って迎え撃った。
 しかしオリヴィアは次々と矢を避け、狙いが正確なモノだけを爪で薙ぎ払ってみせた。


「ジルーさん、この女……魔法使いだったんですよね!?」
「そ、そのはずだけど……!」
 ビルは長弓から、槍に持ち替えながら言った。
「隊長……なら、接近戦で戦いましょう!」
「そ、そうだな……行くぞ!」

 マーフォーク隊の戦士たちが、ヘビのような独特な動きでオリヴィアを追い込むと、ジルーは特異の俊足で一気にオリヴィアとの間合いを詰めた。
 そして、連続攻撃を見舞いながら、オリヴィアが詠唱する隙を与えない。

 オリヴィアが薙ぎ払おうとすると、今度はマーフォークたちが次々と槍を振り下ろしたり、突き出したりしてオリヴィアをけん制した。
「油断するなよ、この程度のダメージ……吸血鬼ならすぐに回復する!」
「はい!」

 マーフォークたちは、常にだれかがオリヴィアを攻撃していたし、攻撃が薄いときはジルーがフォローしてオリヴィアは、防戦一方という形になった。
「よし、このまま押し込むぞ!」
「イエス!」

 次々と攻撃が命中し、オリヴィアの身体のあちこちから出血するようになると、彼女は苛立った様子でマーフォークたちを睨んだ。
「……ファイア……」

 ジルーは、その異様な雰囲気をいち早く察した。
「みんな……伏せて!」

 オリヴィアの全身から炎があふれ出すと、それは壁のように燃え上がり周囲を一気に焦がした。
 マーフォークたちは次々と爆風に吹き飛ばされ、ある者は岩壁に叩きつけられ、またある者は仲間同士でぶつかり合って倒れ、マーフォーク隊は一瞬にして壊滅的な被害を受けていた。

【ビル 男 年齢25歳 種族:マーフォーク クラス:パルチザン レベル22
HP 34/ 378 LP 3/5 MP 147/ 223】


 オリヴィアの魔法攻撃の威力は、おおよそ1100といった感じだった。
 たまたま僕の側まで飛ばされてきたビルの背中は、LPが2も減少しただけでなく、更にMPにまでダメージが入ったらしく50近くが削られていた。
 これはクリティカルヒット判定を受けなくても、一瞬で戦闘不能になり、運が悪ければ後遺症が残るレベルのダメージだったのではないかと思える。

 というか……倒れていなければ、僕も大打撃を受けていただろう。
 オリヴィアはハッと我に返った様子で、僕に視線を向けてきた。
「大丈夫ですか、あなた……お怪我は?」

 吸血鬼となっていても、僕の身は気になるんだな……と思いながら視線を上げると、オリヴィアは何か思い出したような顔をして、僕の背中をめくっていた。
「……よ、よかった……少しダメージを受けた程度ですね」


 ちょっと待てと思った。確かにLPを削られてはいないけれど、ダメージは100近く受けている。
 やはり吸血鬼化しているだけあって、普段のオリヴィアとは人格が変わってしまっているように感じる。

 そう思ったとき、オリヴィアは僕を抱き上げた。
「それにしても……どうして、未だにヴァンパイアにはならないのでしょうか?」

 直後に、頭から血を流した状態だったが、ジルーは気配なく近づき、オリヴィアの背中に一撃を加えようとしたが、オリヴィアは鋭く背後に目だけを動かすと、素早く回し蹴りを見舞ってジルーを岩壁に叩きつけていた。

「ジルー!?」
「かは……こほ……」
 ジルーは蹴られた腹部を抑えながら、崩れ落ちるように膝をつき、白目を剥いて倒れてしまった。


「待っていてくださいねジルーさん。貴女はカイト様をヴァンパイアにしたあと……じっくりと時間をかけて差し上げます」
 彼女はそういうと再び僕に視線を戻した。
「…………」

 オリヴィアはブツブツと小声で何かを呟くと、やがて納得した様子で言った。
「なるほど。すでに1度……吸血鬼化しかけているけれど、何らかの方法で元に戻ったのですね。だから……体に抵抗力ができている」

 そう独り言を口にすると、オリヴィアは不敵に笑った。
「わかりました……それなら、今度は私の血を分けることにしましょう……愛する旦那様のためなら、いくらでも私の血を差し上げたいと思います!」


 オリヴィアはそういうと自らの牙で舌を傷つけ、そのまま僕の唇を覆うようにキスをしてきた。


――もう少しだ……あと30秒でいい……耐え抜くんだ!


【気を失ったジルー】
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