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11.フロンティア地域へ
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オリヴィアが起きると、僕たちは軽食を取ってから移動を再開した。
スティレットは大回りするように川の上流へと向かい、完全に迂回するルートを通っていく。ときどき他愛もなない世間話をしながら歩いていたら時間も経っていき、昼過ぎになると川辺へとたどり着いた。
「……こんなに川幅が狭い場所があるなんて!」
僕はもちろん、オリヴィアも驚いていた。
この場所の利点は安全に川を渡れるだけでなく、こちら側の標高が高くなっているため、盆地の関所は丸見えにも関わらず、向こう側からこちらの様子は全く見えないところにもある。
『人間たちは、自分たちが大地を支配しているつもりだろうけど……こうしてみると、まだまだ未熟だとわかるでしょう。動物からは常に見下ろされているんだ』
「確かに……」
スティレットの言う通り、足元の遥か下にある国境の警備の関所では、兵士たちが偉そうに旅人たちに通行書を要求していたり、中には賄賂を求めている奴もいた。
『さて、行くよ』
「ああ……」
スティレットの助力で関所を破ると、僕たちはフロンティア地域へと入った。
ここはツーノッパ王国とは違い、多くの種族や犯罪者さえも大手を振って闊歩する、本当の意味での無法地帯だ。
だけどそれは、僕やオリヴィアのような身分を証明するようなモノを持たない人間でも、受け入れてくれる土地でもある。
しばらく森の中を進んでいき、夕方になると街道がだいぶ近くなってきた。
『この辺りで一休みしよう。今度は小生が休むから見張りをよろしく』
「わかった」
僕とオリヴィアは、スティレットを挟むように背中合わせに座って森を睨んだ。
すでに周辺ではオオカミたちが遠吠えを上げて、自分の縄張りを主張している。何だか雰囲気的に、この2人の人間と1頭のウマは俺様の獲物だと言いあっているようにも思えてくる。
場合によっては戦いになるかもしれないのに、この状況で大口を開けて寝ていられるスティレットの肝の太さには恐れ入るばかりだ。いや、逆に言えばこれくらいのことができないのなら、野生の世界では生き残れないのかもしれない。
「うるささと……静寂が同居する、嫌な雰囲気だね」
「その通りですね」
どうやらオリヴィアも僕と同じことを感じていたらしい。
オオカミのように自分たちの縄張りを主張する動物がいたかと思えば、遠目から僕たちのことを睨んでいる別の肉食動物もいる。
睨むだけで襲って来ないのは、こちらの人数が多いからだろう。
1人でも群れから離れたら、間違いなくこの獣は襲ってきそうな危なさがある。
「まるで、大海原に浮かんだ小舟のような感じがする……安全な場所がどこにもない」
「…………」
思わず左手を握りしめていた。
ここから出てくる短剣なら、岩だって斬り裂くことができる。だけど、あくまで出てくるのは短剣だ。リーチが短すぎやしないか?
およそ3時間くらいだろうか。
緊張しながら暗闇を睨み続けていたら、スティレットが頭を上げて大きく欠伸をしていた。
『ふあ~あ……よく寝た。今度は小生が見張っているから、2人が仮眠を取って』
「そうさせてもらうよ」
正直、緊張しすぎて眠れるかどうか不安だったが、日中に歩き回った際の疲労に、見張りを続けていた分が追加され、僕の意識は気絶するかのように眠ってしまった。
――――――――
――――
――
―
そして目を開けると同時に、そこには僕自身の部屋であるワンルームアパートへと戻っていた。
布団から起き上がると、目の前には僕を異世界へと移動させた黒い翼を持つ女がおり、どこか楽し気に僕の姿を眺めていたのである。
「すぐに脱落するかと思っていたが、思いのほか頑張っているな」
「……君の目的はなんだ。僕をどうして異世界に連れ込んだ?」
コイツは薄ら笑いを浮かべながら、僕を値踏みするような視線を向けてきた。
「最初にお前を送った場所はな……私の同僚が支配する場所だったんだ。傑作だったぞ……ヤツは自慢の生贄が横取りされて、怒り心頭の様子だった」
僕は眉間にしわを寄せながら黒い翼を持つ女を睨んだが、女は涼しい顔をしたまま言った。
「でもまあ、奴も奴でしっかりと首輪にトラップを仕込んでいたみたいだな。本来は首輪の装着者と触れた者に死をもたらす呪いだったが……まあ、お前がいきなり死んでしまってはつまらんから、できるだけ弱体化させておいた」
その言葉を聞いて、僕の胸中では怒りが燃え上がった。
無理矢理オリヴィアと結婚させるような呪いにすることはないだろうと、女に殴り掛かりたくなる気持ちを何とか抑えた。
そもそも不用意に触れたのは僕なわけだし、下手にコイツを怒らせると貴重な情報も入らなくなるように思える。
「君は……僕に何をさせるつもりなんだ?」
そう問いかけると、黒い翼の女は楽し気に僕のことを眺めていた。
「私からお前に要求することは無い。クエストと洒落込んだが……お前がどう異世界を生き、どんなことを考え、どんな結末を迎えるのかを……ただ眺めたい。それだけだ」
「どうして僕なんだ?」
更に質問をしたが、黒い翼の女はクツクツと笑い声を返してくるだけだった。
スティレットは大回りするように川の上流へと向かい、完全に迂回するルートを通っていく。ときどき他愛もなない世間話をしながら歩いていたら時間も経っていき、昼過ぎになると川辺へとたどり着いた。
「……こんなに川幅が狭い場所があるなんて!」
僕はもちろん、オリヴィアも驚いていた。
この場所の利点は安全に川を渡れるだけでなく、こちら側の標高が高くなっているため、盆地の関所は丸見えにも関わらず、向こう側からこちらの様子は全く見えないところにもある。
『人間たちは、自分たちが大地を支配しているつもりだろうけど……こうしてみると、まだまだ未熟だとわかるでしょう。動物からは常に見下ろされているんだ』
「確かに……」
スティレットの言う通り、足元の遥か下にある国境の警備の関所では、兵士たちが偉そうに旅人たちに通行書を要求していたり、中には賄賂を求めている奴もいた。
『さて、行くよ』
「ああ……」
スティレットの助力で関所を破ると、僕たちはフロンティア地域へと入った。
ここはツーノッパ王国とは違い、多くの種族や犯罪者さえも大手を振って闊歩する、本当の意味での無法地帯だ。
だけどそれは、僕やオリヴィアのような身分を証明するようなモノを持たない人間でも、受け入れてくれる土地でもある。
しばらく森の中を進んでいき、夕方になると街道がだいぶ近くなってきた。
『この辺りで一休みしよう。今度は小生が休むから見張りをよろしく』
「わかった」
僕とオリヴィアは、スティレットを挟むように背中合わせに座って森を睨んだ。
すでに周辺ではオオカミたちが遠吠えを上げて、自分の縄張りを主張している。何だか雰囲気的に、この2人の人間と1頭のウマは俺様の獲物だと言いあっているようにも思えてくる。
場合によっては戦いになるかもしれないのに、この状況で大口を開けて寝ていられるスティレットの肝の太さには恐れ入るばかりだ。いや、逆に言えばこれくらいのことができないのなら、野生の世界では生き残れないのかもしれない。
「うるささと……静寂が同居する、嫌な雰囲気だね」
「その通りですね」
どうやらオリヴィアも僕と同じことを感じていたらしい。
オオカミのように自分たちの縄張りを主張する動物がいたかと思えば、遠目から僕たちのことを睨んでいる別の肉食動物もいる。
睨むだけで襲って来ないのは、こちらの人数が多いからだろう。
1人でも群れから離れたら、間違いなくこの獣は襲ってきそうな危なさがある。
「まるで、大海原に浮かんだ小舟のような感じがする……安全な場所がどこにもない」
「…………」
思わず左手を握りしめていた。
ここから出てくる短剣なら、岩だって斬り裂くことができる。だけど、あくまで出てくるのは短剣だ。リーチが短すぎやしないか?
およそ3時間くらいだろうか。
緊張しながら暗闇を睨み続けていたら、スティレットが頭を上げて大きく欠伸をしていた。
『ふあ~あ……よく寝た。今度は小生が見張っているから、2人が仮眠を取って』
「そうさせてもらうよ」
正直、緊張しすぎて眠れるかどうか不安だったが、日中に歩き回った際の疲労に、見張りを続けていた分が追加され、僕の意識は気絶するかのように眠ってしまった。
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そして目を開けると同時に、そこには僕自身の部屋であるワンルームアパートへと戻っていた。
布団から起き上がると、目の前には僕を異世界へと移動させた黒い翼を持つ女がおり、どこか楽し気に僕の姿を眺めていたのである。
「すぐに脱落するかと思っていたが、思いのほか頑張っているな」
「……君の目的はなんだ。僕をどうして異世界に連れ込んだ?」
コイツは薄ら笑いを浮かべながら、僕を値踏みするような視線を向けてきた。
「最初にお前を送った場所はな……私の同僚が支配する場所だったんだ。傑作だったぞ……ヤツは自慢の生贄が横取りされて、怒り心頭の様子だった」
僕は眉間にしわを寄せながら黒い翼を持つ女を睨んだが、女は涼しい顔をしたまま言った。
「でもまあ、奴も奴でしっかりと首輪にトラップを仕込んでいたみたいだな。本来は首輪の装着者と触れた者に死をもたらす呪いだったが……まあ、お前がいきなり死んでしまってはつまらんから、できるだけ弱体化させておいた」
その言葉を聞いて、僕の胸中では怒りが燃え上がった。
無理矢理オリヴィアと結婚させるような呪いにすることはないだろうと、女に殴り掛かりたくなる気持ちを何とか抑えた。
そもそも不用意に触れたのは僕なわけだし、下手にコイツを怒らせると貴重な情報も入らなくなるように思える。
「君は……僕に何をさせるつもりなんだ?」
そう問いかけると、黒い翼の女は楽し気に僕のことを眺めていた。
「私からお前に要求することは無い。クエストと洒落込んだが……お前がどう異世界を生き、どんなことを考え、どんな結末を迎えるのかを……ただ眺めたい。それだけだ」
「どうして僕なんだ?」
更に質問をしたが、黒い翼の女はクツクツと笑い声を返してくるだけだった。
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