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6.冒険者の婚活事情(語り部:旅の傭兵)

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 俺は旅の冒険者マイク。
 まあ、【カイトとかいうヤツの部屋の隣に宿泊しているモブ冒険者】とでも思ってくれればいいだろう。

 普通は隣部屋に宿泊している奴のことなど、気に留めることもないんだが、どうもお隣さんは普通じゃない。
 どう普通じゃないかと言えば、エルフを妻として連れているだけでも目立つのに、カイトとかいうヤツが滅茶苦茶目立つ。この辺りでは東方の人間は少ないからな。

 まあ、俺はこいつらの身の上について、いちいち詮索するつもりはない。
 こいつらも恐らく、何らかの事情で旅をしている冒険者だろう。いちいち身の上を嗅ぎまわるなど野暮というものだ。


 夜がすっかり深まったところで、俺は静かに部屋を出た。
 根無し草の貧乏傭兵の俺でも、妻になってくれる人間が欲しくなることはあるんだ。隣の部屋にいる女エルフのような高スペック女なんて贅沢は言わない。

 年齢は……そうだな。30前半くらいまでで、職業も、冒険者か、行商人か、旅芸人辺りがいい。
 年収についてはとやかく言わん。俺自身もそんなに稼げる訳ではないから、一緒に旅をしながら働いてさえくれれば文句はない。


 1階部分のバーに行くと、すでに店内には何人もの男女が食事をしていた。
 男は土地柄、近所に住む農村の若造か、俺と同じ旅の冒険者たちと言ったところか。女も……似たようなものだろう。
「黒ワインと葉巻を頼む」
「あいよ」

 俺はカウンター席に腰掛けると、まずは黒ワインと葉巻を頼んだ。
 これは冒険者の間では【恋人を募集している】という、一種の婚活アピールだ。

 マスターはすぐに注文通りの品と一緒に、冊子も出してくれた。
 この冊子には、俺と同じように結婚を望んでいる女たちのプロフィールが多く載っている。


【44歳 ヒューマン女 職業:実家の家事手伝い 年収:なし
先だってしまった夫の代わりに、働いてくれる人を募集しています
条件:ヒューマンの男 年収:プラチナ貨10枚以上 35歳まで 高身長であること 私の両親の面倒を見てくれる タバコを吸わない 酒を飲まない ギャンブルをしない 近所とも卒なく付き合えるコミュ力】

 最初の募集条件を見て、俺はため息を付いた。
 これだけスペックの高い男なら、わざわざお前を選んだりせずに若い女を選ぶだろう。というか、お前はこの高スペック男に、何をしてやれるんだと聞きたくなってくる。

 次のページを見ると、今度はこんな女がいた。


【ヒューマン換算42歳 エルフ女 職業:旅芸人 年収:金貨2~3枚程度
旅をすることに疲れてきたので、私を養ってくれる人を募集しています
条件:エルフ、有翼人の男 ヒューマン換算で25~29歳 年収:プラチナ貨15枚以上 イケメンであること 御神木の近くにマイホームを建てられる人 精霊魔法検定でいずれかの属性でA級を持っていること 私は子供が嫌いなので子育てを強要しない人】

 俺は再びため息を付いた。自分が金貨2~3枚しか稼げないクセに、どうして相手には10倍以上の年収を求めるんだ。
 しかも専業主婦希望と言っても、エルフは魔法技術が進んでいるから、独身の男でも家事は仕事の片手間にできると聞いているぞ。しかも子育てもしないとは……一体コイツは家で何をするつもりなんだ?


【48歳 ウェアウルフ女 職業:冒険者 年収:プラチナ貨1枚
私の借金を返してくれる旦那さんを募集
条件:種族問わず 年齢:30歳まで 借金プラチナ貨3枚分を返済 年収:プラチナ貨7枚以上 私は子育てをしたいので、授かるまで頑張れる人】

 文章量が少ないが、この女のヤバさがヒシヒシと伝わってきた。
 ウェアウルフという種族は寿命が人間よりも短いので、40歳を越えたらおばあちゃんと呼ばれるというのに、それでプラチナ貨7枚を相手男性に求め、更に借金まで返せとは何事だろう。
 自分の借金くらいは自分で返せ。


 次のページをめくると、今度はこんな女がいた。

【25歳 マーメイド 職業:舟業者 年収:プラチナ貨2枚半
私に縛って欲しい人を募集しています
条件:マーマンか縛り甲斐のある身体つきの種族 年齢:25~30(その他の条件によって応相談) 年収:プラチナ貨3枚以上(その他の条件によって応相談) たまに私を縛って気持ちよくしてくれる人】

 と、特殊性癖の持ち主か。
 まあ、需要はありそうだから不可能とは言わんが、俺は……遠慮するぞ。というか、他の条件は魅力的なんだから、お前は性癖を何とかしてくれ!


 その後も、年齢が高すぎたり、どこかに問題がありそうな女が続いていたが、俺はあるページを見て手を止めた。

【37歳 ヒューマン女 職業:癒し手 年収:プラチナ貨5枚前後 備考:ヒーリングのアビリティがあります
私の仕事と子育てを手伝ってくれる方を募集しています
条件:年齢30歳まで 年収:問わず 性格や相性を重視します】

「こ、高スペック女子!」
 37歳だろうが、7歳年下を希望していようが、ヒーリングアビリティを持っている時点で、コイツは高スペック女子だ。

 この結婚相談の紙には、下の欄に異性がメッセージを書けるようになっているのだが、この女性の欄には20代から50代の男性まで、おおよそ90人近くの男が、自分の名前と番号、そしてラブコールを書き込んでいた。

 というか、彼女との子供を熱望すると書いている男が半分近くいる。ヒーラーというだけで、オオカミのように押し寄せる男どもよ……お前たちは、彼女の子供を愛することができるのか?


 まあ、こういうのを見るのも、社会勉強の一環だ。

【翌朝、目覚めの悪そうなマイク】
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