上 下
19 / 53

代わりのヒーラーを連れてくるガンスーン

しおりを挟む
 私の名前はラナ。ガンスーンチームのハンターよ。
 Sランク冒険者チームの昇格候補にも挙がったことのあるガンスーンチームだけど、今はBに落ちるのではないかという話さえ出ていて、気を揉まれている。

 このランキングシステムというのは、ツーノッパ王国が独自に導入している……まあ、冒険者パーティーの強さを示す指標のようなモノでね。これが上がれば上がるほどに、難しいけど実入りの多い……つまりハイリスクハイリターンな依頼を受けることができるの。
 だから、AランクからBランクに落ちるというのは、それだけ稼ぎが少なくなるから困る。

 さて、どうしてBランク降格の話が出ているのかと言えば、今まで我がチームを支えてきたソフィアというシスターが、仲間から抜けてしまったからなの。
 彼女はどうやら、少し前に脱退させたエッケハルトの件でけっこうな不満を持っていたみたい。私はアイツ……単なる能なしだと思うけど、彼女はシスターだからね。努力だけはしている人間を見捨てられなかったのでしょう。


 まあ、とにかく、今はそのガンスが代わりのヒーラーを探してくると言っているから、ここは手腕を拝見させてもらうとしましょう。
 彼も仮にもAランクチームのリーダーなんだし、大言壮語ではなく有言実行をして……

「おい、オメーら……ヒーラーを見つけて来たぞ!」
 私の隣にいた猫族の戦士ディーラは、視線を上げると……すぐにひきつった顔をした。私も多分、同じ顔をしていたんだろうな。
 すぐにガンスーンが「な、なんだよ……」って言ってきたから。


 すぐにディーラは、私の耳元でささやいてきた。
「ちょ、ちょっと……あの娘って……」
 私もマナの感じですぐに察しがついていた。この娘の体から流れ出てくるマナの感じと、服装は……どう見ても暗黒魔法に通じている人間。
 確かに、ヒーリング魔法は使えるかもしれないけど、こんな人間をチームに入れたら教会に目を付けられるし、そもそも生きているのかしら……この人?
 ダンジョンとか沼地に出てくる、ゴーストを見ているような感じ。

「ちょ、ちょっと……まさかとは思うけど……ヒーラーって……」
「決まってるじゃねえか、彼女以外に誰がいる!?」
「ま、待ってってば、冗談で言ってるにしても笑えないよそれ!?」


 そう2人で反対すると、ガンスーンは不機嫌になった。
「テメーらがやれって言ったから、望み通りヒーラーを連れてきてやったんじゃねーか! 文句があるならてめえらが探せってんだ!」
「そういう問題じゃないでしょ、教会を怒らせると本当にアンタしょっ引かれるわよ!」

 ディーラが怒鳴ると、私も加勢することにした。
「ヒーラーの獲得が難しいことがわかったでしょう。今すぐにソフィアに懺悔してきなさい!」
「そーだよ! 今すぐにひれ伏してこい、このマヌケ!」

 そう2人がかりで非難すると、ガンスーンは顔を真っ赤にして怒鳴り散らしてくる。
「ふざけんな! テメーら女どもは、俺様の言う通りに動いてりゃいいんだカスっ!」
「カスはどっちよ! 私たちがいなけりゃ何もできないくせに!」

 しばらく私たちと言い争うと、やがてガンスーンはかんしゃくを起こした。
「うるせー! テメーらクビだ! 俺様のパーティーにふわさしくねー!」
「アンタなんて、こっちから願い下げよ!」
「ガンスより5歳児の方がまともね。行きましょうディーラ」
「ええ!」
「後悔するなよクソ女ども!」


 私たちは受付に行くと、ガンスーンチームからの脱退とギルドバッジの返却を申し出た。
 すると当たり前だけど、受付嬢たちは真っ青な顔になっていく。
 私は単なるハーフエルフのハンターだけど、ディーラはパワーもある猫族の戦士だからね。今まで挙げてきた実績も多いから、彼女が抜けるとチームの評価も凄く下がると思う。
「ほ、本気ですか!?」
「あのバカガンス。ヒーラーとか言ってとんでもない人を連れてきたの。あたし……もうあの人に関わりたくない」
「ついでに、ギルド長はきっとガンスの言いなりになると思うから、私たちはギルドも去ることにしました。ソフィアに悪いですからね」

「じゃあ、ギルド長によろしく伝えておいてね」
 私たちがギルドを後にしようとすると、受付嬢たちが動揺しているのが気配でわかった。
 そして、内緒話もしている。
「こ……これはもうCランクまで降格では?」
「魔法弓のラナと、駿足剛拳のディーラの同時抜けなんて……Sランクチームでも2階級降格しかねない失態よ」


 まあ、このギルドがどうなろうが知ったこっちゃないよね。
 それよりも、すぐに就職活動しないと。貯金だって今の生活水準を維持しようとしたら……半年分くらいしか持たないだろうし。


【ガンスーンがAランクリーダーまで上り詰めたワケ】
 わがまま放題で、物語登場から悪手ばかり打っているガンスだが、実は最初のうちは注目を集める能力者だったのである。

 普通のパーティーリーダーは、有力なギルド員が脱退しないように気を遣うことが多い。特にヒーラーなどの特殊アビリティの持ち主は、機嫌を損ねるとパーティーから抜けてしまうからである。
 しかし、ガンスーンは最初から、俺様に付いてこいのスタイルを貫いていた。それだけだとただのワガママになってしまうが、パーティーの中にアビリティを持たないエッケハルトが居たことが実は大きかった。


 ガンスーンはワガママだが、能力のない人間も受け入れるくらいの度量がある。だから只者ではない。
 そう実力者たち思われていたから、顧客や支援者から指名クエストを貰ったり、ソフィアのように協力する者が現れてカリスマ性も出ていたが、エッケハルトという【宝剣】を自ら手放してしまったことによって、運に見放されることになった。

 ちなみに、このギルドの受付嬢やギルド長のように、数字ばかり気にしている人間に、エッケハルトの値打ちを理解することは不可能である。

【ラナの狩り】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

Crystal of Latir

ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ 人々は混迷に覆われてしまう。 夜間の内に23区周辺は封鎖。 都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前 3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶 アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。 街を解放するために協力を頼まれた。 だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。 人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、 呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。 太陽と月の交わりが訪れる暦までに。 今作品は2019年9月より執筆開始したものです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

処理中です...