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34.対岸の丘陵地帯

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 月光りが差し込む中、対岸の丘陵地帯に逃げ込んだ強硬派は、お互いを睨み合っていた。
 どうやら、サムが裏切り者がいることをリーダーに密告したことで、強硬派同士でお互いを疑っているようである。

「くそ……どいつが一体、情報を流しやがった!?」
 しばらく沈黙が続いたとき、1人のマーフォークが別のマーフォークを睨んだ。
「そういえばテメー、見張り中に何度もトイレに行ってたよな? なに企んでやがる!?」
「トイレに行っちゃいけねーのかよ。そういうお前こそ、最近金遣いが荒いじゃねえか! 敵に買収されてんじゃねーよ!」
「はぁ!? 言いがかり付けんなよ、この裏切り者!」
 この2人はケンカを始めたが、止めに入る人間はいなかった、別の場所でもマーフォーク同士が言い争いをしているからである。


 そしてホンモノのスパイであるスズメは、低木に止まったまま羽を休めながら、その様子を見つめていた。
 ちょうど、ケンカをしていたマーフォークが近くに倒れ込んだので、スズメは不自然なく飛び立つことができた。

 スズメはそのまま飛び続け、カトリーナの元へと戻っていく。
「……なるほど。ご苦労さま」
 彼女は、僕の分身に視線を向けた。
「どうやら連中は丘陵地帯の丘の上で仲間割れをしているようです」
「ありがとう。なるべく物音をたてないように近づこう」

 分身たちは、物音をたてずに強硬派の潜む丘陵地帯の一角を包囲し、やがて手で合図を送ったり、頷いている。
 そして、分身が叫んだ。
「一気に制圧してっ!」

 その言葉を聞いた強硬派たちは、一斉に仔馬を見たが、後の祭りだ。
 一斉に前面、側面、後方から攻撃を受けて逃げる場所もなく、半数の強硬派のメンバーは槍を捨てて両手を挙げた。

 アタックドッグは、降伏した強硬派のメンバーを無視すると、まだ戦意の残っている強硬派に飛びかかっていく。
 すると、まだ槍を持っていた強硬派の人間も、勝ち目がないと悟ったらしく、次々と武器を捨てて降伏した。
「うわあ! やめ、俺はもう戦う気はない!」
「ギブギブ! 噛みつかないでくれ!!」

 アタックドッグは、降伏するタイミングの遅かったマーフォークに飛びかかって転倒させると、そのまま胸の上に乗って牙を見せている。
 さすがの強硬派のリーダーも、これだけ多くの人間に囲まれると、戦う気を失くすらしい。

 武器を捨てて両手を挙げると、コボルドたちに後ろ手縛りにされ、マーフォークの村の騒動は一応の決着がついた。


 間もなく、マーフォークの強硬派たちは、僕の前へと引っ立てられた。
「……さてマティス」
「は、はい!」
「盗まれた武器は、これで全部かい?」
 そう質問すると、マティスは槍やハルヴァードの本数を確認した。
「はい。一部は破損したり汚れていますが……これで全部です」

 僕は強硬派のリーダーや幹部2人を見た。
「幸いにも死者は出なかったけど、けが人は出た……それ相応の処罰は覚悟してもらうよ?」
「は……はい……」

 とはいっても、マーフォークの村の人口はそれほど多くはない。
 働き盛りの人間を殺傷したり、追放処分でもすれば生産力や戦力が落ちるのも事実だ。

 僕は少し考えていると、マティスは心配そうにこちらを見た。
「あの……ユニコーン様?」
「なんだい?」
「あまり厳しすぎる処罰をされると、村の働き手が……」
「それはそうだよね。うーん……そうだなぁ」

 少し考えてから、僕は強硬派のリーダーを睨んだ。
「……お、俺様を殺せばいい……見せしめにもなるだろ!」
「そう言えば君、年老いた母親と小さな娘がいたよね?」
「……あ、ああ」
「……しばらくマティスのところで預ってもらおう」
「…………」
 こういう荒くれ者に、どの程度の効果があるのかはわからないが、とりあえず妻子を人質に取っておくことにした。

 リーダーと幹部2人の妻子をマティスの家で預かり、更に当事者たちに罰金を課すことを伝えると、反乱を起こされた側も納得していた。
 とりあえず、これで暫くは様子を見ることにしよう。
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