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28.オスカーと女狩人アナイス

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 間もなく、情報収集を担当しているカテリーナがテレパシーを伝えてきた。
――魔王さま……勇者一行が、冒険者街へと帰還した模様
――わかった。これならオスカーも安心して来れるね

 そう返事をしながら捕虜3人を見ると、それぞれが異なる反応をした。
 勇者隊の戦士は、殺すならまず俺をやれと言いたそうに睨んでくる。
 勇者隊の女狩人は、捕まっても平然とした表情で、駆け引きを続ける構え。
 ブレーズ隊の魔法使いは、怯えてずっと下を向いている。


 さて援軍を出してくれた盟友オスカーは姿を現すと、すぐに3人の捕虜を眺めた。
「へぇ……こいつらが勇者パーティーのメンバーか。だいぶ実力に開きがあるんだな」
「道案内として同行したパーティーもあるんだよ、父さん」
「ああ、なるほど……」

 僕はすぐに、オスカーに言った。
「頼もしい仲間を2人もありがとう。お礼として……好きな捕虜1人を連れて行っていいよ」
 そう伝えると、オスカーはにっこりと笑った。
「それはありがてぇな……」

 彼はそう言いながら、勇者パーティーの戦士と女狩人を眺めると、戦士の方が睨みつけた。
「おい、シカヤロー。殺すのなら俺からにしろ!」
「なかなか意気がいいな。だが……お前は本命じゃねー すまんな」
「…………」

 戦士が黙ると、オスカーは女狩人の前に立った。
 女狩人の方も敵対していたので、こちらに敵意を持っている感じだった。悪態をついてこないのは、ただ単に穏やかな性格だからだろう。
 オスカーがじっと顔を眺めると、さすがの彼女も言った。
「そこにいる筋肉バカの言う通りだよ。殺すのなら早くして」

「なるほど……さすがは勇者パーティーの猛者ってヤツだな」
「…………」
 そこまで言うと、オスカーは身体から霊力を放出した。
 いよいよ自分にも最期が来たと女狩人も目を瞑ったが、オスカーが出したのは何とウエディングリングだった。

 意外なモノが膝の上に置かれたので、女狩人も驚いた様子でウエディングリングを眺めてから、オスカーへと視線を向けた。
「な、何のつもり……?」
「お前は、俺の妻に相応しい。その指輪をはめて俺のモノになれ!」
 その言葉をオスカーが口にすると、彼女は顔を赤らめて視線を下げていく。


 勇者パーティーの戦士は、慌てた様子で女狩人に言った。
「お、おい……アナイス!」
「ばか! 私の名前を……!」
 その言葉を聞いて、僕も戦士はやらかしたなと感じた。

 このウエディングリングというアイテムは、最初から好意の無い女性に対して使っても意味はない。
 だが、このアナイスという狩人は、オスカーのことをたくましい牡鹿とか、頼りになりそうという印象を持っていたようだ。
 妻になれと宣言されて、彼女の好意は高まり、不用意に戦士が名前を口にしてしまったことで、彼女の中の好意が恋する乙女のように燃え上がっていく。

 オスカーも、脈ありの女の子を逃すほどマヌケじゃないようだ。
 彼はそっと近づくと、アナイスの耳元でささやく。
「実は俺……前世はお前さんと同じ狩人なんだ。だから人間になることもできる」
「…………」
「もう一度言う。アナイス、俺の嫁になれ」


 オスカーもシカのクセに肉食系だな……
 僕はてっきり、彼女を処刑してスペシャルポイントを増やすか、解放を条件に、勇者に金色の菓子折りでも持って来させるのだろう思っていた。
 アナイスは上目遣いになり、小さな声で言う。
「他に……貴方に妻は?」
「いない。男所帯というヤツさ」
「……じゃあ、正室にしてくれる?」
「ああ、それだけじゃなく、エリアマスターとして迎えるぜ?」

 その言葉を聞いたアナイスは、とても満足そうに微笑んだ。
「縄を……解いて」
「チャコネ、頼む」
「ああ」
 自由になったアナイスは、自分からウエディングリングを付け、更にオスカーの前で跪いている。


 その様子を見ていた勇者パーティーの戦士は、とても悲壮な表情をしていた。
「すまねえ……弓女、俺のせいで……」
「気にする必要はないよ筋肉バカ。私は元々、貧乏が嫌だから冒険者になったの」
「…………」
 戦士が視線を上げると、アナイスは幸せそうに笑っていた。
「スラム街でゴミ漁りをしていた小娘が、王の妻になれるなんて……こんなに凄いことはないよ」
「…………」

 そこまで言うと、アナイスは思い返すように不満を口にする。
「勇者さまの元でも、稼ぎは良かったけど……あの人はエルフ女にしか関心が無かったからね。アンタにも奥さんはいるし、どこかにいい人がいないか……ずっと探してたの」
「……そうか」

 何だかアナイスの言葉を聞いていると、人の心は難しいモノだと感じてしまう。
 間もなく彼女はオスカーと共に、自分たちのダンジョンへと戻っていった。


 
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