28 / 36
28.オスカーと女狩人アナイス
しおりを挟む
間もなく、情報収集を担当しているカテリーナがテレパシーを伝えてきた。
――魔王さま……勇者一行が、冒険者街へと帰還した模様
――わかった。これならオスカーも安心して来れるね
そう返事をしながら捕虜3人を見ると、それぞれが異なる反応をした。
勇者隊の戦士は、殺すならまず俺をやれと言いたそうに睨んでくる。
勇者隊の女狩人は、捕まっても平然とした表情で、駆け引きを続ける構え。
ブレーズ隊の魔法使いは、怯えてずっと下を向いている。
さて援軍を出してくれた盟友オスカーは姿を現すと、すぐに3人の捕虜を眺めた。
「へぇ……こいつらが勇者パーティーのメンバーか。だいぶ実力に開きがあるんだな」
「道案内として同行したパーティーもあるんだよ、父さん」
「ああ、なるほど……」
僕はすぐに、オスカーに言った。
「頼もしい仲間を2人もありがとう。お礼として……好きな捕虜1人を連れて行っていいよ」
そう伝えると、オスカーはにっこりと笑った。
「それはありがてぇな……」
彼はそう言いながら、勇者パーティーの戦士と女狩人を眺めると、戦士の方が睨みつけた。
「おい、シカヤロー。殺すのなら俺からにしろ!」
「なかなか意気がいいな。だが……お前は本命じゃねー すまんな」
「…………」
戦士が黙ると、オスカーは女狩人の前に立った。
女狩人の方も敵対していたので、こちらに敵意を持っている感じだった。悪態をついてこないのは、ただ単に穏やかな性格だからだろう。
オスカーがじっと顔を眺めると、さすがの彼女も言った。
「そこにいる筋肉バカの言う通りだよ。殺すのなら早くして」
「なるほど……さすがは勇者パーティーの猛者ってヤツだな」
「…………」
そこまで言うと、オスカーは身体から霊力を放出した。
いよいよ自分にも最期が来たと女狩人も目を瞑ったが、オスカーが出したのは何とウエディングリングだった。
意外なモノが膝の上に置かれたので、女狩人も驚いた様子でウエディングリングを眺めてから、オスカーへと視線を向けた。
「な、何のつもり……?」
「お前は、俺の妻に相応しい。その指輪をはめて俺のモノになれ!」
その言葉をオスカーが口にすると、彼女は顔を赤らめて視線を下げていく。
勇者パーティーの戦士は、慌てた様子で女狩人に言った。
「お、おい……アナイス!」
「ばか! 私の名前を……!」
その言葉を聞いて、僕も戦士はやらかしたなと感じた。
このウエディングリングというアイテムは、最初から好意の無い女性に対して使っても意味はない。
だが、このアナイスという狩人は、オスカーのことをたくましい牡鹿とか、頼りになりそうという印象を持っていたようだ。
妻になれと宣言されて、彼女の好意は高まり、不用意に戦士が名前を口にしてしまったことで、彼女の中の好意が恋する乙女のように燃え上がっていく。
オスカーも、脈ありの女の子を逃すほどマヌケじゃないようだ。
彼はそっと近づくと、アナイスの耳元でささやく。
「実は俺……前世はお前さんと同じ狩人なんだ。だから人間になることもできる」
「…………」
「もう一度言う。アナイス、俺の嫁になれ」
オスカーもシカのクセに肉食系だな……
僕はてっきり、彼女を処刑してスペシャルポイントを増やすか、解放を条件に、勇者に金色の菓子折りでも持って来させるのだろう思っていた。
アナイスは上目遣いになり、小さな声で言う。
「他に……貴方に妻は?」
「いない。男所帯というヤツさ」
「……じゃあ、正室にしてくれる?」
「ああ、それだけじゃなく、エリアマスターとして迎えるぜ?」
その言葉を聞いたアナイスは、とても満足そうに微笑んだ。
「縄を……解いて」
「チャコネ、頼む」
「ああ」
自由になったアナイスは、自分からウエディングリングを付け、更にオスカーの前で跪いている。
その様子を見ていた勇者パーティーの戦士は、とても悲壮な表情をしていた。
「すまねえ……弓女、俺のせいで……」
「気にする必要はないよ筋肉バカ。私は元々、貧乏が嫌だから冒険者になったの」
「…………」
戦士が視線を上げると、アナイスは幸せそうに笑っていた。
「スラム街でゴミ漁りをしていた小娘が、王の妻になれるなんて……こんなに凄いことはないよ」
「…………」
そこまで言うと、アナイスは思い返すように不満を口にする。
「勇者さまの元でも、稼ぎは良かったけど……あの人はエルフ女にしか関心が無かったからね。アンタにも奥さんはいるし、どこかにいい人がいないか……ずっと探してたの」
「……そうか」
何だかアナイスの言葉を聞いていると、人の心は難しいモノだと感じてしまう。
間もなく彼女はオスカーと共に、自分たちのダンジョンへと戻っていった。
――魔王さま……勇者一行が、冒険者街へと帰還した模様
――わかった。これならオスカーも安心して来れるね
そう返事をしながら捕虜3人を見ると、それぞれが異なる反応をした。
勇者隊の戦士は、殺すならまず俺をやれと言いたそうに睨んでくる。
勇者隊の女狩人は、捕まっても平然とした表情で、駆け引きを続ける構え。
ブレーズ隊の魔法使いは、怯えてずっと下を向いている。
さて援軍を出してくれた盟友オスカーは姿を現すと、すぐに3人の捕虜を眺めた。
「へぇ……こいつらが勇者パーティーのメンバーか。だいぶ実力に開きがあるんだな」
「道案内として同行したパーティーもあるんだよ、父さん」
「ああ、なるほど……」
僕はすぐに、オスカーに言った。
「頼もしい仲間を2人もありがとう。お礼として……好きな捕虜1人を連れて行っていいよ」
そう伝えると、オスカーはにっこりと笑った。
「それはありがてぇな……」
彼はそう言いながら、勇者パーティーの戦士と女狩人を眺めると、戦士の方が睨みつけた。
「おい、シカヤロー。殺すのなら俺からにしろ!」
「なかなか意気がいいな。だが……お前は本命じゃねー すまんな」
「…………」
戦士が黙ると、オスカーは女狩人の前に立った。
女狩人の方も敵対していたので、こちらに敵意を持っている感じだった。悪態をついてこないのは、ただ単に穏やかな性格だからだろう。
オスカーがじっと顔を眺めると、さすがの彼女も言った。
「そこにいる筋肉バカの言う通りだよ。殺すのなら早くして」
「なるほど……さすがは勇者パーティーの猛者ってヤツだな」
「…………」
そこまで言うと、オスカーは身体から霊力を放出した。
いよいよ自分にも最期が来たと女狩人も目を瞑ったが、オスカーが出したのは何とウエディングリングだった。
意外なモノが膝の上に置かれたので、女狩人も驚いた様子でウエディングリングを眺めてから、オスカーへと視線を向けた。
「な、何のつもり……?」
「お前は、俺の妻に相応しい。その指輪をはめて俺のモノになれ!」
その言葉をオスカーが口にすると、彼女は顔を赤らめて視線を下げていく。
勇者パーティーの戦士は、慌てた様子で女狩人に言った。
「お、おい……アナイス!」
「ばか! 私の名前を……!」
その言葉を聞いて、僕も戦士はやらかしたなと感じた。
このウエディングリングというアイテムは、最初から好意の無い女性に対して使っても意味はない。
だが、このアナイスという狩人は、オスカーのことをたくましい牡鹿とか、頼りになりそうという印象を持っていたようだ。
妻になれと宣言されて、彼女の好意は高まり、不用意に戦士が名前を口にしてしまったことで、彼女の中の好意が恋する乙女のように燃え上がっていく。
オスカーも、脈ありの女の子を逃すほどマヌケじゃないようだ。
彼はそっと近づくと、アナイスの耳元でささやく。
「実は俺……前世はお前さんと同じ狩人なんだ。だから人間になることもできる」
「…………」
「もう一度言う。アナイス、俺の嫁になれ」
オスカーもシカのクセに肉食系だな……
僕はてっきり、彼女を処刑してスペシャルポイントを増やすか、解放を条件に、勇者に金色の菓子折りでも持って来させるのだろう思っていた。
アナイスは上目遣いになり、小さな声で言う。
「他に……貴方に妻は?」
「いない。男所帯というヤツさ」
「……じゃあ、正室にしてくれる?」
「ああ、それだけじゃなく、エリアマスターとして迎えるぜ?」
その言葉を聞いたアナイスは、とても満足そうに微笑んだ。
「縄を……解いて」
「チャコネ、頼む」
「ああ」
自由になったアナイスは、自分からウエディングリングを付け、更にオスカーの前で跪いている。
その様子を見ていた勇者パーティーの戦士は、とても悲壮な表情をしていた。
「すまねえ……弓女、俺のせいで……」
「気にする必要はないよ筋肉バカ。私は元々、貧乏が嫌だから冒険者になったの」
「…………」
戦士が視線を上げると、アナイスは幸せそうに笑っていた。
「スラム街でゴミ漁りをしていた小娘が、王の妻になれるなんて……こんなに凄いことはないよ」
「…………」
そこまで言うと、アナイスは思い返すように不満を口にする。
「勇者さまの元でも、稼ぎは良かったけど……あの人はエルフ女にしか関心が無かったからね。アンタにも奥さんはいるし、どこかにいい人がいないか……ずっと探してたの」
「……そうか」
何だかアナイスの言葉を聞いていると、人の心は難しいモノだと感じてしまう。
間もなく彼女はオスカーと共に、自分たちのダンジョンへと戻っていった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
飛べない妹有翼人と目指すペガサスマスターへの道 ~努力家イネスの夢を叶えるため、転生ニート兄貴は本気出す~
スィグトーネ
ファンタジー
ペガサスナイトになりたい。そう願う少女イネスには、ひとりの兄がいた。
その兄は、現代日本からやってきた転生者だ。
彼は決して立派な人物ではない。43年の生涯の中で一度として働くことなく、死因さえもゲームのやり過ぎという自堕落な生活を送った人物だった。
さすがに天国にも地獄にも行き場がなかったため、神様から【延長戦】を言い渡されたのである。
主人公が転生した世界は、力こそが全てと言える、中世ヨーロッパに似た世界だった。
彼の知る中世世界との大きな違いは、様々な亜種族がいることと、天馬騎士と呼ばれる航空隊のような存在がいることだ。
そんな、生きていくだけでも精一杯と言える世界で、何と最愛の妹イネスは天馬騎士を目指すことを固く決意してしまうのである。
もちろん彼らの家には、お金もなければペガサスもいない。指導してくれる人物ももちろんいない。
そんな状況でもイネスは挫けることはなく、やがて兄も彼女のために奔走することとなる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる