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1.面接で落とされる僕
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メガネをかけた魔王は、頭を掻きながら僕を見た。
「チャンスコネクター君だったね」
「はい」
「脚の速さには自信があるようだけど、他にはどんなことができるのかな?」
「乗り味をよく褒められるので、魔王さまの運転手になれます」
「それなら間に合っているんだ……他には?」
「そうですね……他は、下草が大好物なので、雑草などを食べることもできます」
「ああ、なるほど……」
魔王はメガネを光らせながら言った。
「他には、何か特技はないかな? 例えば……治癒魔法が使えるとか、ペガサスのように飛べるとか?」
「人間になることならできます。というか、人間が本体だと思っています」
人間に変身できるという言葉を聞いて、魔王は再び頭を掻いた。
「人間かぁ……まあ、特技の一つではあるけどねぇ……うーん……うちには霊力の高いエルフはいないからね」
彼は難しい顔をしたまま、僕に言った。
「今は、うちの軍も厳しくてね。悪いけど採用は見送らせてもらうよ」
「そうでしたか。貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」
僕は深々とお辞儀をすると、魔王の執務室を後にした。
これで不合格は13勢力めだ。最近は魔王軍も採用を見送っている所は多い。不景気というのも理由の一つなのだが、それ以上に僕たちモンスターの中でも機械化が進んでいるため、ゴーレムなどに仕事を奪われているのである。
だから、モンスターの街の廃墟を見渡すと、ゴブリンやコボルドと言ったモンスターたちが目立つ。
彼らは、どこか羨ましそうにこちらを見るが、僕だってあまり立場は変わらないだろう。
自己紹介が遅れたね。
僕の名はチャンスコネクター。友人からはチャコネと呼ばれている。
前世は人間だったけれど、馬肉が好きだったので飽きるまで食べ続けたら、その因果でウマとなって転生してしまったようだ。
毛並みは夜の闇のように真っ黒で、体つきはサラブレッドに似ている。
ただ、タテガミと尻尾は真っ白なので、黒毛ウマと言っても目立つ格好をしていた。
「一昔前なら……僕のようなモンスターにも需要があったんだけどなぁ……」
生まれてくる時代というモノは、両親や兄弟と同じくらい自分では選べないことだ。
こんな時代に生まれてしまうなんて僕もついていない。もっとウマ全盛期の頃に生まれたかった。
そんなことを考えながら歩いていくと日は沈んでいき、モンスターの町にも夜が訪れようとしていた。
とりあえず所持金も少ないから、食費を浮かすためにも、森に入って下草でもかじっていよう。美味しい野草があるといいなと思いながら街外れに行くと、何かがすすり泣く声が聞こえてきた。
「……っ……っ……」
思わず耳をピンと立てると、僕は鼻腔を広げてみた。
これは……エルフ。それも先祖であるニンフに近いハイエルフの女の子の匂いだ。泣いているみたいだけど、どうしたのだろう。
僕は近くを見渡すと、ちょうど綺麗な花が一輪だけ咲いていたので、口で摘み取って、木陰でうずくまっているエルフの少女に差し出してみた。
「……!」
彼女は頬を真っ赤にはらしたまま、僕を見てポカンとしていた。
とつぜん目の前にウマが現れて花を差し出しているのだから、混乱するのも無理はないかもしれない。
だけど、このままなのも僕も大変なので、更に少しだけクビを近づけると、彼女はハッとして花を手に取った。
「そんなに泣いていると、幸運がどこかに行っちゃうよ? いったい、どうしたんだい?」
「……ありがとうございます。実は私……魔王軍をクビになってしまって……」
ああ、そうか……と僕は心の中で納得した。
辛いのは僕たち就職活動をするモンスターだけではないのだ。いま働いているモンスターたちも、いつ魔王軍をお役御免になるかはわからない。
…………
…………
いやでも、改めて目の前のハイエルフを見ると、何とも驚かされてしまう。
彼女も世が世なら、幹部候補生として名のある魔王の元で働いていただろう。
ダンジョンの一部を任されて高い給料を貰い、ツーノッパ王国の派遣してくる勇者パーティーと熾烈な戦いを経験し、魔の将軍……いや、四天王にさえなれるのではないかとも思える。
僕はゆっくりとエルフの少女の隣に腰を下ろすと、なるべく優しく声をかけた。
「実は僕もね、さっき就職活動に失敗したばかりなんだ。これで13勢力連続さ……お互いに苦労するよね」
その話を聞いた少女は、驚いた様子でこちらを見てきた。
「貴方ほどの方が……そんなに落とされているのですか!?」
彼女はそう言うと、僕をじっと見つめてくる。
「どうしたんだい?」
「ちょっと失礼します。じっとしていてください」
彼女はそう言うと涙を拭き、すぐに自分の額と僕の額を合わせてきた。
何だか女の子と額を合わせたことはないので、やけに緊張してしまうが……彼女は大まじめな表情で言った。
「凄い霊力! 貴方さまなら……ダンジョンの主になれます!」
「え……? そう? そうかな??」
半信半疑のまま聞き返したら、エルフの少女は頬を赤らめながら何度も頷いた。
「マナの集まる場所を……ダンジョンを作るのに絶好の場所を探しましょう!」
彼女は思い出したように言う。
「あ、私のことは、マルクフリーダと呼んでください!」
そう言うと彼女は、少し強引に僕を森の奥へと引っ張りはじめた。
何というか、泣いたり笑ったりで……忙しい女の子だなぁ。
【チャンスコネクター号】
「チャンスコネクター君だったね」
「はい」
「脚の速さには自信があるようだけど、他にはどんなことができるのかな?」
「乗り味をよく褒められるので、魔王さまの運転手になれます」
「それなら間に合っているんだ……他には?」
「そうですね……他は、下草が大好物なので、雑草などを食べることもできます」
「ああ、なるほど……」
魔王はメガネを光らせながら言った。
「他には、何か特技はないかな? 例えば……治癒魔法が使えるとか、ペガサスのように飛べるとか?」
「人間になることならできます。というか、人間が本体だと思っています」
人間に変身できるという言葉を聞いて、魔王は再び頭を掻いた。
「人間かぁ……まあ、特技の一つではあるけどねぇ……うーん……うちには霊力の高いエルフはいないからね」
彼は難しい顔をしたまま、僕に言った。
「今は、うちの軍も厳しくてね。悪いけど採用は見送らせてもらうよ」
「そうでしたか。貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」
僕は深々とお辞儀をすると、魔王の執務室を後にした。
これで不合格は13勢力めだ。最近は魔王軍も採用を見送っている所は多い。不景気というのも理由の一つなのだが、それ以上に僕たちモンスターの中でも機械化が進んでいるため、ゴーレムなどに仕事を奪われているのである。
だから、モンスターの街の廃墟を見渡すと、ゴブリンやコボルドと言ったモンスターたちが目立つ。
彼らは、どこか羨ましそうにこちらを見るが、僕だってあまり立場は変わらないだろう。
自己紹介が遅れたね。
僕の名はチャンスコネクター。友人からはチャコネと呼ばれている。
前世は人間だったけれど、馬肉が好きだったので飽きるまで食べ続けたら、その因果でウマとなって転生してしまったようだ。
毛並みは夜の闇のように真っ黒で、体つきはサラブレッドに似ている。
ただ、タテガミと尻尾は真っ白なので、黒毛ウマと言っても目立つ格好をしていた。
「一昔前なら……僕のようなモンスターにも需要があったんだけどなぁ……」
生まれてくる時代というモノは、両親や兄弟と同じくらい自分では選べないことだ。
こんな時代に生まれてしまうなんて僕もついていない。もっとウマ全盛期の頃に生まれたかった。
そんなことを考えながら歩いていくと日は沈んでいき、モンスターの町にも夜が訪れようとしていた。
とりあえず所持金も少ないから、食費を浮かすためにも、森に入って下草でもかじっていよう。美味しい野草があるといいなと思いながら街外れに行くと、何かがすすり泣く声が聞こえてきた。
「……っ……っ……」
思わず耳をピンと立てると、僕は鼻腔を広げてみた。
これは……エルフ。それも先祖であるニンフに近いハイエルフの女の子の匂いだ。泣いているみたいだけど、どうしたのだろう。
僕は近くを見渡すと、ちょうど綺麗な花が一輪だけ咲いていたので、口で摘み取って、木陰でうずくまっているエルフの少女に差し出してみた。
「……!」
彼女は頬を真っ赤にはらしたまま、僕を見てポカンとしていた。
とつぜん目の前にウマが現れて花を差し出しているのだから、混乱するのも無理はないかもしれない。
だけど、このままなのも僕も大変なので、更に少しだけクビを近づけると、彼女はハッとして花を手に取った。
「そんなに泣いていると、幸運がどこかに行っちゃうよ? いったい、どうしたんだい?」
「……ありがとうございます。実は私……魔王軍をクビになってしまって……」
ああ、そうか……と僕は心の中で納得した。
辛いのは僕たち就職活動をするモンスターだけではないのだ。いま働いているモンスターたちも、いつ魔王軍をお役御免になるかはわからない。
…………
…………
いやでも、改めて目の前のハイエルフを見ると、何とも驚かされてしまう。
彼女も世が世なら、幹部候補生として名のある魔王の元で働いていただろう。
ダンジョンの一部を任されて高い給料を貰い、ツーノッパ王国の派遣してくる勇者パーティーと熾烈な戦いを経験し、魔の将軍……いや、四天王にさえなれるのではないかとも思える。
僕はゆっくりとエルフの少女の隣に腰を下ろすと、なるべく優しく声をかけた。
「実は僕もね、さっき就職活動に失敗したばかりなんだ。これで13勢力連続さ……お互いに苦労するよね」
その話を聞いた少女は、驚いた様子でこちらを見てきた。
「貴方ほどの方が……そんなに落とされているのですか!?」
彼女はそう言うと、僕をじっと見つめてくる。
「どうしたんだい?」
「ちょっと失礼します。じっとしていてください」
彼女はそう言うと涙を拭き、すぐに自分の額と僕の額を合わせてきた。
何だか女の子と額を合わせたことはないので、やけに緊張してしまうが……彼女は大まじめな表情で言った。
「凄い霊力! 貴方さまなら……ダンジョンの主になれます!」
「え……? そう? そうかな??」
半信半疑のまま聞き返したら、エルフの少女は頬を赤らめながら何度も頷いた。
「マナの集まる場所を……ダンジョンを作るのに絶好の場所を探しましょう!」
彼女は思い出したように言う。
「あ、私のことは、マルクフリーダと呼んでください!」
そう言うと彼女は、少し強引に僕を森の奥へと引っ張りはじめた。
何というか、泣いたり笑ったりで……忙しい女の子だなぁ。
【チャンスコネクター号】
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