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36.メリザンドの姿をした吸血鬼
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間もなく、バタンというドアが開く音が聞こえてくると、僕たちは身構えた。
どうやら、メリザンドの発作は一時的なモノだったらしく、ドアが開くと同時に彼女は表情を戻し、物音がした方向を睨んでいる。
「……来ます!」
僕が先頭に立つと、リットウシグレ号も隣に立ってツートップの陣形となり、後方はメリザンドとアビゲイルが並んで立った。
足音が少しずつ、こちらに近づいてくる。
僕たちが身構えた直後に、それは姿を現した。
紫色の美しい髪に、水をはじきそうな艶のある肌。その背格好もメリザンドと同じだったが、血のように赤いローブを身に付けていることと、真っ赤な瞳。それに口から見える長い犬歯だけは、メリザンドにはないものだ。
その吸血鬼の女は、苛立った様子で僕たちを睨んできた。
「あのさぁ……私の部屋に、スライムけしかけてくるの……やめてくれる!?」
女の言葉を聞いたメリザンドとアビゲイルは、睨むのが精一杯という様子だ。だけど彼女たちのことは言えないか。僕も黙って睨むのがやっと。それくらいの瘴気をコイツは纏っている。
だけど、こちらにも言い返す猛者がいた。
「家賃は払わない。瘴気は垂れ流してアパートを荒らす。君みたいな迷惑な隣人は必要ないね」
そこまで言うと、リットウシグレ号は角を光らせて啖呵を切った。
「さっさと出て行け、この阿婆擦れ!」
「言うじゃない……口やかましいウマ。アンタこそしっかりと調教し直してやるわよ!」
「そうはさせないぞ!」
僕も両手の拳に電気を纏いながら構えると、吸血鬼は牙を見せながらほざいた。
「男なんて、女の尻に敷かれていればいいのよ! まとめてくたばりなさい!」
その直後に、吸血鬼は瘴気の籠った息を吹きかけてきた。
その濃度は凄まじく、直撃を受けるのはまずいと感じるほどだ。
「コイツ……分身体なのにオープンクラスか!」
リットウシグレ号が、苦々しい顔をしながらつぶやくと、メリザンドやアビゲイルも肩を寄せ合った。
吸血鬼の妖力を考えると、判断をひとつ間違えただけでも壊滅的な被害を被るだろう。
――なにか……何か、対策できるモノはないか!?
強く対抗したいと願ったとき、僕の脳裏には【女神のお守り】のイメージが浮かび上がっていた。
そうだ、あの清浄なシロモノを使えば、この状況を打開できるかもしれない。
「出ろ、お守り!」
そう言いながら念じると、僕の手のひらにお守りが現れた。それをかざすと、僕たちを包み込もうとする瘴気が一瞬にして浄化されていく。
さすがに、お守りもボロボロに崩れて行ってしまったが、吸血鬼も吹きかけた瘴気を丸々無効化されて、険しい顔をしていた。
「小賢しいマネを……!」
再び、吸血鬼は瘴気を吹き出してきたが、僕は再度【女神のお守り】を出して対抗した。
吸血鬼の吹き付けてくる邪気は、かなりおぞましいシロモノだったが、お守りから放たれる気は凄まじく、無効化させるだけでなく、吸血鬼自体も傷つくほどだ。
その直後に、逃げようとした吸血鬼だが、不意に足元に視線を向けていた。
なんと吸血鬼の足は、スライムによって床に貼り付けられており、スネの辺りまでしっかりと固定されている。
「逃さないよ!」
メリザンドがそう叫びながら体中に霊力を纏うと、スライムは更に締め付けたらしく、吸血鬼も悔しそうな顔をしながらメリザンドを睨んだ。
「お、お、おのれ……小娘!」
僕は吸血鬼に近付くと、至近距離から【女神のお守り】の効果を発動させた。
さすがの吸血鬼も、半径2メートルくらいの位置でお守りを発動させると大ダメージを受けるらしく、絶叫しながらのたうち回っている。
僕もさすがに、こんなに短時間で3つものお守りを発動させたから、頭痛と倦怠感に見舞われているけれど、ここは踏ん張りどきだ。
歯を食いしばりながら吸血鬼を睨むと、いよいよ次の切り札を使うことにした。
「出ろ……!」
息を切らしながら出したのは、【女神のお札】だ。
この強力なアイテムを、吸血鬼の額に貼り付けると、吸血鬼は断末魔を思わせる叫び声を上げながら消滅していく。
僕は、立ちくらみを感じると、その場で床に座り込んでいた。
リットウシグレ号は無事。アビゲイルも無事。メリザンドは……倒れていたが、すぐに僕を見てきた。
「ありがとう……ございます。やっと、身体が楽になりました……」
そう言いながら微笑む彼女を見て、僕の意識はゆっくりと薄れていった。
こんな僕でも、ひとりの少女を救うことができた。
そう思うと、嬉しさや誇らしさを感じる。人生で初めての……
1つのことを……やり遂げたんだ……!
【現れた吸血鬼】
どうやら、メリザンドの発作は一時的なモノだったらしく、ドアが開くと同時に彼女は表情を戻し、物音がした方向を睨んでいる。
「……来ます!」
僕が先頭に立つと、リットウシグレ号も隣に立ってツートップの陣形となり、後方はメリザンドとアビゲイルが並んで立った。
足音が少しずつ、こちらに近づいてくる。
僕たちが身構えた直後に、それは姿を現した。
紫色の美しい髪に、水をはじきそうな艶のある肌。その背格好もメリザンドと同じだったが、血のように赤いローブを身に付けていることと、真っ赤な瞳。それに口から見える長い犬歯だけは、メリザンドにはないものだ。
その吸血鬼の女は、苛立った様子で僕たちを睨んできた。
「あのさぁ……私の部屋に、スライムけしかけてくるの……やめてくれる!?」
女の言葉を聞いたメリザンドとアビゲイルは、睨むのが精一杯という様子だ。だけど彼女たちのことは言えないか。僕も黙って睨むのがやっと。それくらいの瘴気をコイツは纏っている。
だけど、こちらにも言い返す猛者がいた。
「家賃は払わない。瘴気は垂れ流してアパートを荒らす。君みたいな迷惑な隣人は必要ないね」
そこまで言うと、リットウシグレ号は角を光らせて啖呵を切った。
「さっさと出て行け、この阿婆擦れ!」
「言うじゃない……口やかましいウマ。アンタこそしっかりと調教し直してやるわよ!」
「そうはさせないぞ!」
僕も両手の拳に電気を纏いながら構えると、吸血鬼は牙を見せながらほざいた。
「男なんて、女の尻に敷かれていればいいのよ! まとめてくたばりなさい!」
その直後に、吸血鬼は瘴気の籠った息を吹きかけてきた。
その濃度は凄まじく、直撃を受けるのはまずいと感じるほどだ。
「コイツ……分身体なのにオープンクラスか!」
リットウシグレ号が、苦々しい顔をしながらつぶやくと、メリザンドやアビゲイルも肩を寄せ合った。
吸血鬼の妖力を考えると、判断をひとつ間違えただけでも壊滅的な被害を被るだろう。
――なにか……何か、対策できるモノはないか!?
強く対抗したいと願ったとき、僕の脳裏には【女神のお守り】のイメージが浮かび上がっていた。
そうだ、あの清浄なシロモノを使えば、この状況を打開できるかもしれない。
「出ろ、お守り!」
そう言いながら念じると、僕の手のひらにお守りが現れた。それをかざすと、僕たちを包み込もうとする瘴気が一瞬にして浄化されていく。
さすがに、お守りもボロボロに崩れて行ってしまったが、吸血鬼も吹きかけた瘴気を丸々無効化されて、険しい顔をしていた。
「小賢しいマネを……!」
再び、吸血鬼は瘴気を吹き出してきたが、僕は再度【女神のお守り】を出して対抗した。
吸血鬼の吹き付けてくる邪気は、かなりおぞましいシロモノだったが、お守りから放たれる気は凄まじく、無効化させるだけでなく、吸血鬼自体も傷つくほどだ。
その直後に、逃げようとした吸血鬼だが、不意に足元に視線を向けていた。
なんと吸血鬼の足は、スライムによって床に貼り付けられており、スネの辺りまでしっかりと固定されている。
「逃さないよ!」
メリザンドがそう叫びながら体中に霊力を纏うと、スライムは更に締め付けたらしく、吸血鬼も悔しそうな顔をしながらメリザンドを睨んだ。
「お、お、おのれ……小娘!」
僕は吸血鬼に近付くと、至近距離から【女神のお守り】の効果を発動させた。
さすがの吸血鬼も、半径2メートルくらいの位置でお守りを発動させると大ダメージを受けるらしく、絶叫しながらのたうち回っている。
僕もさすがに、こんなに短時間で3つものお守りを発動させたから、頭痛と倦怠感に見舞われているけれど、ここは踏ん張りどきだ。
歯を食いしばりながら吸血鬼を睨むと、いよいよ次の切り札を使うことにした。
「出ろ……!」
息を切らしながら出したのは、【女神のお札】だ。
この強力なアイテムを、吸血鬼の額に貼り付けると、吸血鬼は断末魔を思わせる叫び声を上げながら消滅していく。
僕は、立ちくらみを感じると、その場で床に座り込んでいた。
リットウシグレ号は無事。アビゲイルも無事。メリザンドは……倒れていたが、すぐに僕を見てきた。
「ありがとう……ございます。やっと、身体が楽になりました……」
そう言いながら微笑む彼女を見て、僕の意識はゆっくりと薄れていった。
こんな僕でも、ひとりの少女を救うことができた。
そう思うと、嬉しさや誇らしさを感じる。人生で初めての……
1つのことを……やり遂げたんだ……!
【現れた吸血鬼】
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