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35.想定外のこと
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スライム使いとの騒動から数日後。
いつも通りメリザンドと就寝していると、彼女はゆっくりと起き上がり……そして何やら考え事をしているようだ。
「……どうしたんだい?」
「なんでしょう。よくは判らないのですが……最近、あまり痛みを感じなくなってきたのです」
僕は起き上がって彼女の肩口を見てみることにした。
彼女の言う通り、肩のあたりにあった瘴気の塊が小さくなっているように感じる。これは……順調になくなっているのだろうか。それとも……
「ちょっと、おウマ先生に診てもらおう」
「それがいいですね!」
僕たちが納屋へと向かうと、リットウシグレ号は目を瞑ってブツブツと独り言をいっているように感じたが、納屋の前に立つと、やがてその行動を止めた。
「どうしたんだい、2人して?」
「実は……」
事情を話すと、リットウシグレ号は頷いた。
「確かに君たちの言う通り、2つのパターンが考えられるね……ちょっと診せて」
「どうぞ」
リットウシグレ号が身を乗り出して、メリザンドの肩を眺めると、目を細めた。
「…………」
「…………」
緊張する。これでもし、毒素が身体中に広がって悪性転移していました。とかだったら、本格的に終わることを意味しているが、果たして結果はどうなのだろう。
リットウシグレ号は、目を開けると僕たちを見た。
「念のため、匂いも嗅がせて」
「はい」
シグレ号は鼻腔を大きく開くと、やがて頷いた。
「間違いないね……メリザンドの身体が瘴気を本格的に潰しにかかっている」
「え!? それじゃあ……!」
「その病、じきに治るよ」
一角獣の太鼓判を貰って、僕もメリザンドも嬉しさのあまり飛び上がりたくなった。
だけど、不思議な話である。どうして、吸血鬼の毒を中和できるのだろう。この呪いに関して僕も調べてみたけれど、自力で中和できるような生易しいものではないはずだ。
なにせ、どんな種族でも、この呪いを受ければ等しく魔物に身体を作り変えてしまうほどの毒。いったい……これは……
「ねえ、シグレ号?」
「なんだい?」
「嬉しいんだけど、少し疑問なんだ……どうしてメリィは吸血鬼の病に打ち勝つ可能性が高まったのかな?」
リットウシグレ号は頷くと答えた。
「それは色々な要素が絡み合っているけど、一番の理由は彼女のアビリティにある気がする」
「アビリティって……このフルハウスかい?」
そう聞き返すと、リットウシグレ号は頷いた。
「この能力を見たときに疑問があったんだ。どうして……彼女の部屋がないのだろうってね」
そう言われてみればそうだ。
彼女は常に僕の部屋で寝泊まりしているし、自分の部屋というモノに入ったことがない。
「恐らくそこに、呪いの元凶……呪詛が押し込まれている」
シグレ号の言葉を聞き、メリザンドも頷いた。
「はい……一角獣様の仰る通りです」
「そして、この納屋の位置……実は、その呪詛を感じる空間と最も近いんだ」
そこまで言うと、リットウシグレ号はその方向を睨んだ。
「その方向……呪詛を広げようとする何かに向かって、常に霊力を送り続けるとどうなるのか……実は僕としても興味があったからやってたんだ」
彼の言葉を聞いていたらしく、もう一つの部屋からも少女が現れた。
他ならぬアビゲイルだ。
「実は、私も気になっていまして……その方向に向けて祈りを捧げていました」
彼女は微笑んだ。
「まあ、私の場合は……少し距離が離れているので、シグレ号ほどの影響力はなかったでしょうけどね」
とにかく、これで話はつながった気がする。
彼らの頑張りがあったから、フルハウスの中が清められ、フルハウスはメリザンドの身体や精神に直結した空間なので、身体の中に仕込まれていた吸血鬼の呪いにも影響を及ぼしたということか。
そこまで言うと、シグレ号は言った。
「そして、スライム……これがまた役に立ったよ」
「スライムが?」
あまりに意外だったので聞き返すと、シグレ号は更に頷いて答えていく。
「ああ、アビゲイルのスライムを少し借りてさ、角で霊力を込めながら増やして、わずかなドアの隙間からけしかけてみたんだ。そしたら、乾いた綿のように瘴気を吸い取ってくれてね……」
「瘴気を吸ったスライムを浄化すれば、再利用も可能……というワケか」
「そーいうこと♪」
なるほど。これを繰り返せば、瘴気も薄まっていずれ……メリザンドの部屋も使えるというワケか。
さすがはシグレ号だと思ったとき、メリザンドの顔色が急に真っ青になっていった。
「メリィ……?」
「う……ええ……こ、これは……」
「どうしたのです!?」
アビゲイルがメリザンドに近づいて、額に手を当てると、リットウシグレ号は耳をピクリと動かした。
「想定外の事態発生か……!」
彼は、更に低い声で唸る。
「まさか、自らラスボス様がおいでとはね」
いつも通りメリザンドと就寝していると、彼女はゆっくりと起き上がり……そして何やら考え事をしているようだ。
「……どうしたんだい?」
「なんでしょう。よくは判らないのですが……最近、あまり痛みを感じなくなってきたのです」
僕は起き上がって彼女の肩口を見てみることにした。
彼女の言う通り、肩のあたりにあった瘴気の塊が小さくなっているように感じる。これは……順調になくなっているのだろうか。それとも……
「ちょっと、おウマ先生に診てもらおう」
「それがいいですね!」
僕たちが納屋へと向かうと、リットウシグレ号は目を瞑ってブツブツと独り言をいっているように感じたが、納屋の前に立つと、やがてその行動を止めた。
「どうしたんだい、2人して?」
「実は……」
事情を話すと、リットウシグレ号は頷いた。
「確かに君たちの言う通り、2つのパターンが考えられるね……ちょっと診せて」
「どうぞ」
リットウシグレ号が身を乗り出して、メリザンドの肩を眺めると、目を細めた。
「…………」
「…………」
緊張する。これでもし、毒素が身体中に広がって悪性転移していました。とかだったら、本格的に終わることを意味しているが、果たして結果はどうなのだろう。
リットウシグレ号は、目を開けると僕たちを見た。
「念のため、匂いも嗅がせて」
「はい」
シグレ号は鼻腔を大きく開くと、やがて頷いた。
「間違いないね……メリザンドの身体が瘴気を本格的に潰しにかかっている」
「え!? それじゃあ……!」
「その病、じきに治るよ」
一角獣の太鼓判を貰って、僕もメリザンドも嬉しさのあまり飛び上がりたくなった。
だけど、不思議な話である。どうして、吸血鬼の毒を中和できるのだろう。この呪いに関して僕も調べてみたけれど、自力で中和できるような生易しいものではないはずだ。
なにせ、どんな種族でも、この呪いを受ければ等しく魔物に身体を作り変えてしまうほどの毒。いったい……これは……
「ねえ、シグレ号?」
「なんだい?」
「嬉しいんだけど、少し疑問なんだ……どうしてメリィは吸血鬼の病に打ち勝つ可能性が高まったのかな?」
リットウシグレ号は頷くと答えた。
「それは色々な要素が絡み合っているけど、一番の理由は彼女のアビリティにある気がする」
「アビリティって……このフルハウスかい?」
そう聞き返すと、リットウシグレ号は頷いた。
「この能力を見たときに疑問があったんだ。どうして……彼女の部屋がないのだろうってね」
そう言われてみればそうだ。
彼女は常に僕の部屋で寝泊まりしているし、自分の部屋というモノに入ったことがない。
「恐らくそこに、呪いの元凶……呪詛が押し込まれている」
シグレ号の言葉を聞き、メリザンドも頷いた。
「はい……一角獣様の仰る通りです」
「そして、この納屋の位置……実は、その呪詛を感じる空間と最も近いんだ」
そこまで言うと、リットウシグレ号はその方向を睨んだ。
「その方向……呪詛を広げようとする何かに向かって、常に霊力を送り続けるとどうなるのか……実は僕としても興味があったからやってたんだ」
彼の言葉を聞いていたらしく、もう一つの部屋からも少女が現れた。
他ならぬアビゲイルだ。
「実は、私も気になっていまして……その方向に向けて祈りを捧げていました」
彼女は微笑んだ。
「まあ、私の場合は……少し距離が離れているので、シグレ号ほどの影響力はなかったでしょうけどね」
とにかく、これで話はつながった気がする。
彼らの頑張りがあったから、フルハウスの中が清められ、フルハウスはメリザンドの身体や精神に直結した空間なので、身体の中に仕込まれていた吸血鬼の呪いにも影響を及ぼしたということか。
そこまで言うと、シグレ号は言った。
「そして、スライム……これがまた役に立ったよ」
「スライムが?」
あまりに意外だったので聞き返すと、シグレ号は更に頷いて答えていく。
「ああ、アビゲイルのスライムを少し借りてさ、角で霊力を込めながら増やして、わずかなドアの隙間からけしかけてみたんだ。そしたら、乾いた綿のように瘴気を吸い取ってくれてね……」
「瘴気を吸ったスライムを浄化すれば、再利用も可能……というワケか」
「そーいうこと♪」
なるほど。これを繰り返せば、瘴気も薄まっていずれ……メリザンドの部屋も使えるというワケか。
さすがはシグレ号だと思ったとき、メリザンドの顔色が急に真っ青になっていった。
「メリィ……?」
「う……ええ……こ、これは……」
「どうしたのです!?」
アビゲイルがメリザンドに近づいて、額に手を当てると、リットウシグレ号は耳をピクリと動かした。
「想定外の事態発生か……!」
彼は、更に低い声で唸る。
「まさか、自らラスボス様がおいでとはね」
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