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3.ヒロインのチート能力
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僕はゴクリと唾を呑んだ。
目の前には、先ほど妻になると言ってくれたエルフの少女がいる。
「えーと……その……」
そう答えに窮していると、自分をメリィと呼ぶエルフの少女は、こっそりと耳元で言った。
「私の名は、メリザンド・R・イースト・ドリュアスと言います。あなたさまが名を担保として下さったように、私もあなたへの忠誠の証として、名を献上させていただきます」
その答えを聞いて、僕は異世界の恐ろしさを肌で感じていた。
名前を聞いてフルネームで答えるのは、アズマが名前だと思われることが多いからだ。親切心で言ったつもりだったが、異世界では全く違う意味となってしまうようだ。
だけど、ここで急に手のひらを返すのも悪手だと思った。
彼女も名前を明かしているということは、ここでやっぱり違いましたなんてことを言えば、2人の関係が破綻することを意味する。いきなり仲間割れというのだけはマズイ。
よし、あまり感心できる手じゃないけど……探りを入れてみるか。
「そこまで正確に名前を言っていいモノなのかい。大事な……モノなんでしょう?」
そう切り返してみると、メリザンドは頷いた。
「はい。もし悪意のある魔女にフルネームを知られれば、奴隷化させられたり命を奪われる恐れもあります。だからあなたのこともリューノと呼ばせて頂きます」
彼女は周囲を見ると、近くに生えていた木に視線を向けた。
「詳しい話は、アレの中に入ってしましょう。あそこなら聞かれる心配もありません」
「入るって……どうやって?」
聞き返すと、メリザンドは僕の手を取って、そのまま木へと近づいていく。
そして、ドアでも潜るように中へと入っていき、僕自身も木の中へと入り込んでいた。
――――――――
――――
――
―
木の中に入ると、そこは狭いけれど玄関になっていて、彼女は僕を見て申し訳なさそうに言った。
「大変失礼なお願いですが、木の中で生活する場合は……靴を脱いでください」
「わかった」
当然だと思いながら靴を脱いでみせると、彼女は驚いているぞ。
「あ、ありがとうございます……こんなにあっさりと協力して下さるなんて、嬉しいです」
その言葉を聞いて、西洋の人たちは靴を履いたまま生活するのが当たり前になっていることを思い出した。
「僕の国では、家の中では靴を脱ぐのが当たり前だから」
「そうだったのですか……きっとあなた方も植物を大切にする文化をお持ちなのですね」
エルフの少女はそう言いながらドアを開くと、その先にはワンルームほどの広さの部屋があった。少し意外だったのは、蛍光灯や洗濯機、冷蔵庫やパソコン、奥を見るとシャワールームやトイレまでついていることだ。
「…………」
これはさすがに中世じゃないだろう。どうなっているんだと考えていると、そのエルフの少女も不思議そうな顔をしたまま、洗濯機のフタを開けたり閉じたり、冷蔵庫に耳を近づけて中の音を聞いたりしている。
「この道具は……何でしょうか。今までこんなものが出てきたことはなかったはず……」
僕が蛍光灯のスイッチを入れると、エルフの少女は驚いて僕を見てきた。
「……ま、まぶしい! これはいったい……」
僕は周囲を見回すと、簡易キッチンに備え付けられたスイッチを入れた。
すると換気扇が動き出し、衣装ケースのドアを開くと、見覚えのある服が何着かと、木製ハンガーなどがかかっている。これは……
「僕の住んでいるアパート……そのものだね」
「アパート……それはアパートメントのことでしょうか?」
そう彼女が聞き返してきたので、僕は頷いた。
「うん、月に35000円のワンルーム安アパートだよ」
エルフの少女は、恐る恐るという感じで聞いてきた。
「もしやとは思っていましたが……貴方は異世界からやってきた方でしょうか?」
僕はエルフの少女を見ると、そのまま頷く。
「そうだよ。これは……もしかして君の特殊能力かい?」
「はい。この世界の人間は、アビリティと呼ばれる……神様や精霊様から与えられた固有の特殊能力を持っています」
彼女は壁を触りながら言った。
「私の能力は、フルハウス……相手が快適だと思う住処を提供する能力です」
その言葉を聞いて、何て運がいいんだろうと感じていた。
僕のような人間が、異世界に来て真っ先に問題になるのが住処だ。今までに様々な異世界作品をアニメやライトノベルで見てきたけれど、放浪の生活を余儀なくされている主人公は決して少なくない。
木があるところに、最低でも電気の使えるワンルームアパートが出てくる能力なんて、そういう創作世界の主人公が聞いたら贅沢しすぎだとクレームが来るだろう。
でも……だからこそ気になる。これほど凄い能力を持っている少女が、どうしてひとり歩きなんてしていたのだ。
普通、このような能力を持っていたら、山賊なんかに捕まらないように、男たちが守るのではないだろうか?
いや、そんなことよりも、結婚に関する話だ。
僕は頭を切り替えると、エルフの少女メリザンドを見た。
【主人公の名前を聞いた時のメリザンド】
目の前には、先ほど妻になると言ってくれたエルフの少女がいる。
「えーと……その……」
そう答えに窮していると、自分をメリィと呼ぶエルフの少女は、こっそりと耳元で言った。
「私の名は、メリザンド・R・イースト・ドリュアスと言います。あなたさまが名を担保として下さったように、私もあなたへの忠誠の証として、名を献上させていただきます」
その答えを聞いて、僕は異世界の恐ろしさを肌で感じていた。
名前を聞いてフルネームで答えるのは、アズマが名前だと思われることが多いからだ。親切心で言ったつもりだったが、異世界では全く違う意味となってしまうようだ。
だけど、ここで急に手のひらを返すのも悪手だと思った。
彼女も名前を明かしているということは、ここでやっぱり違いましたなんてことを言えば、2人の関係が破綻することを意味する。いきなり仲間割れというのだけはマズイ。
よし、あまり感心できる手じゃないけど……探りを入れてみるか。
「そこまで正確に名前を言っていいモノなのかい。大事な……モノなんでしょう?」
そう切り返してみると、メリザンドは頷いた。
「はい。もし悪意のある魔女にフルネームを知られれば、奴隷化させられたり命を奪われる恐れもあります。だからあなたのこともリューノと呼ばせて頂きます」
彼女は周囲を見ると、近くに生えていた木に視線を向けた。
「詳しい話は、アレの中に入ってしましょう。あそこなら聞かれる心配もありません」
「入るって……どうやって?」
聞き返すと、メリザンドは僕の手を取って、そのまま木へと近づいていく。
そして、ドアでも潜るように中へと入っていき、僕自身も木の中へと入り込んでいた。
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木の中に入ると、そこは狭いけれど玄関になっていて、彼女は僕を見て申し訳なさそうに言った。
「大変失礼なお願いですが、木の中で生活する場合は……靴を脱いでください」
「わかった」
当然だと思いながら靴を脱いでみせると、彼女は驚いているぞ。
「あ、ありがとうございます……こんなにあっさりと協力して下さるなんて、嬉しいです」
その言葉を聞いて、西洋の人たちは靴を履いたまま生活するのが当たり前になっていることを思い出した。
「僕の国では、家の中では靴を脱ぐのが当たり前だから」
「そうだったのですか……きっとあなた方も植物を大切にする文化をお持ちなのですね」
エルフの少女はそう言いながらドアを開くと、その先にはワンルームほどの広さの部屋があった。少し意外だったのは、蛍光灯や洗濯機、冷蔵庫やパソコン、奥を見るとシャワールームやトイレまでついていることだ。
「…………」
これはさすがに中世じゃないだろう。どうなっているんだと考えていると、そのエルフの少女も不思議そうな顔をしたまま、洗濯機のフタを開けたり閉じたり、冷蔵庫に耳を近づけて中の音を聞いたりしている。
「この道具は……何でしょうか。今までこんなものが出てきたことはなかったはず……」
僕が蛍光灯のスイッチを入れると、エルフの少女は驚いて僕を見てきた。
「……ま、まぶしい! これはいったい……」
僕は周囲を見回すと、簡易キッチンに備え付けられたスイッチを入れた。
すると換気扇が動き出し、衣装ケースのドアを開くと、見覚えのある服が何着かと、木製ハンガーなどがかかっている。これは……
「僕の住んでいるアパート……そのものだね」
「アパート……それはアパートメントのことでしょうか?」
そう彼女が聞き返してきたので、僕は頷いた。
「うん、月に35000円のワンルーム安アパートだよ」
エルフの少女は、恐る恐るという感じで聞いてきた。
「もしやとは思っていましたが……貴方は異世界からやってきた方でしょうか?」
僕はエルフの少女を見ると、そのまま頷く。
「そうだよ。これは……もしかして君の特殊能力かい?」
「はい。この世界の人間は、アビリティと呼ばれる……神様や精霊様から与えられた固有の特殊能力を持っています」
彼女は壁を触りながら言った。
「私の能力は、フルハウス……相手が快適だと思う住処を提供する能力です」
その言葉を聞いて、何て運がいいんだろうと感じていた。
僕のような人間が、異世界に来て真っ先に問題になるのが住処だ。今までに様々な異世界作品をアニメやライトノベルで見てきたけれど、放浪の生活を余儀なくされている主人公は決して少なくない。
木があるところに、最低でも電気の使えるワンルームアパートが出てくる能力なんて、そういう創作世界の主人公が聞いたら贅沢しすぎだとクレームが来るだろう。
でも……だからこそ気になる。これほど凄い能力を持っている少女が、どうしてひとり歩きなんてしていたのだ。
普通、このような能力を持っていたら、山賊なんかに捕まらないように、男たちが守るのではないだろうか?
いや、そんなことよりも、結婚に関する話だ。
僕は頭を切り替えると、エルフの少女メリザンドを見た。
【主人公の名前を聞いた時のメリザンド】
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