上 下
20 / 43

18.ギルドへの帰路

しおりを挟む
 残る最後の目的であるレッドスライムだったが、その周囲を少し探索すれば向こうから現れてくれた。
「おい、来たぞ……リューノ君!」
「任せてください!」

 僕はあえて冬虫夏草ならぬ冬獣夏草の入った袋を振ると、レッドスライムは這いながらこちらに向かってきた。レッドスライムは、ギルド長やメリザンドの炎魔法さえモノともせずに向かってきたが、想定内だ。

 レッドスライムが足元まで来たところで、僕は手を近づけて至近距離から電撃を放った。
 さすがにグリーンスライムよりも強力で、1撃では倒せなかったが、逃げようとしたところで更に1発を浴びせると、レッドスライムも気絶したと見えて動かなくなった。

「あのレッドスライムが……たったの2発かよ……」
「雷系の魔法って……本当にスライムキラーだよな」
 オオカミ族の戦士と、ヒョウ族の戦士が青い顔をしながら言っていると、ギルド長はビンを出しながら言った。
「気を抜くのはスライムをビンに詰めてからにしてくれ。死んだふりをしていることや、仲間が来ることもある」
「わ、わかりました!」


 レッドスライムをビンに入れると、ギルド長は少しだけ安心した様子でフタを閉めた。
 これで、光ゴケとレッドスライムと冬獣夏草の全てを収集することができた。
「では、急がずに戻ろう。焦ったり気を緩めることがないようにな?」
「はい!」

 再び隊列を組み直すと、ヒョウ族の双剣士は表情を引き締めた。
 彼の担当する最後尾というポジションは、帰りこそ本番だ。忍び寄られたモンスターから攻撃を受けることも多いと、ギルド長も話していた。


 僕らは、辺りを警戒しながら来た道を引き返していく。
 歩みを進めるごとに、少しずつ瘴気も弱まっていくが、まだ気を抜いていい状況ではない。

 先輩たちが霊力を弱めたのは、木の葉が緑色になって瘴気もほとんど感じなくなってからだった。
「このあたりで休憩しよう」

 休憩と言っても、座っていいワケではなく、立ったまま水分補給をするだけだ。
 それでも、最後尾でずっと気を張っていたヒョウ族の双剣士は汗を拭いながら、大きく深呼吸をしている。

 その様子を見ていたギルド長も、彼の様子をしばらく見てから移動を再開した。
 もう少しコンディションが悪かったら、別の人と交代もあり得たのかもしれない。


 この後も、とくに問題は起こらずに、僕たちは冒険者街までたどり着いた。
「……あの妙な視線も、さすがに感じなくなりなりましたね」
 ハンターの男性が言うと、最後尾をずっと守っていたヒョウ族の双剣士も頷いた。
「正直言って、何をする訳でもなく監視してきたから、かなり不気味だった。一体……あれは何だろうな?」

 ギルド長も、森を眺めながら言った。
「わからんが、とりあえず全員が無事でよかった」
「ギルドに戻りましょう!」


 事務所へと戻ると、受付嬢ソフィアはとても安心した様子で僕たちを出迎えてくれた。
「お帰りなさい皆さん!」
「ただいま。注文通り……全てのモノを揃えてきた」
「すぐに、マーズロッドのミラさんに伝えてきます!」

 ギルドへと戻ると、パーティーメンバーたちは安堵したらしく、壁に寄りかかったり、椅子に座ってくつろいでいた。
 その様子を見た、ヒョウ族の双剣士は彼らを注意する。
「こらこら、我々は瘴気の濃い場所から戻ったばかりだぞ! 衣服を脱いで、身体もきれいに洗う前にギルドのモノに触っちゃダメだろう!!」


 その言葉を聞いて、僕もシャキッとしていた。
 それはそうだ。僕たちはこの世の地獄のすぐそばまで行ってきたんだ。あそこには、どんな病原体が潜んでいるかわからない。

 ギルド長も言った。
「検品の立会は私がやっておくから、お前たちは早く身体を洗ってこい。特にリューノは衣服を処分した方がいいこもしれない」

 確かにそうだ。
 僕は一度、スライムに呑まれかけている。何でも吸い込んで栄養にするスライムの粘液に絡め取られたのだから、この山賊の服ともお別れしないといけない。


 まもなく僕は、山賊の服を残らず処分すると、ギルドの風呂へと行き、まずは灰を使って身体をきれいに洗い流した。

 その様子を見ていた先輩たちも、僕の入浴を許可してくれたので、やっと湯船に浸かることができる。
「いきなりスライム付けなんて、新入りもついてないな」
「逆に言えば、運が良かったと思います」
「ああ、普通ならああなっちまったら、まず助からないからな」
 やはり、雷の能力に目覚めたのは、幸いなことだったようだ。


 先輩の1人である、オオカミ族の戦士は言った。
「でもまあ、お前さん……なかなか優秀で助かるよ。もしかしたら、固定メンバーに選ばれるかもな」
 その話を聞いていたハンターの男性も頷いた。
「あの活躍ならあり得るな……そのまま、他のギルドから声がかかってトントン拍子に出世するかも!」
「まさか~!」

 その会話を聞いていた、ヒョウ族の双剣士も少しだけ意地悪な顔で言った。
「ちなみに、冒険者には同性愛者も多いから、気を付けろよ」

 その場では、笑って聞き流したが、よくよく考えると、けっこう怖いことを言われていたことが理解できた。

【ヒョウ族の双剣士】
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤ちゃん竜のお世話係に任命されました

草野瀬津璃
ファンタジー
 ある日突然、ドッグトレーナーの菊池結衣は、異世界に「ドラゴンの導き手」として召喚される。そこで聖竜ソラを育てた結衣は、地球と異世界を行き来しながら、今ではリヴィドール国国王のアレクと交際中である。    ------------------------------  ※こちらは書き下ろし作品の続編です。   詳細は、「書籍」より各単行本の目次や人物紹介、お試し読みなどをごらんください。  ※また、こちらで上げている作品は決定稿ではないので、予告なく修正加筆をする場合があります。御留意下さい。    ------------------------------  ―:第三部「命花の呪い編」あらすじ:―  その日、異世界にやって来た結衣は、リヴィドール国で宮廷舞踏会が開かれていることを知る。春の恒例行事で、貴族の令息令嬢のデビューの大切な場だという。  各地から領主が集まる中、ディランやアメリアの兄もやって来て、結衣はドラゴンの導き手として挨拶に出ることに。  だがそんな折、客の使用人として紛れ込んでいた半魔族により、結衣は呪いをかけられそうになる。難を逃れた結衣だが、庇ったアレクが呪いを受ける。  その呪いとは、七枚の花弁が消えた時に死に至る「命花の呪い」で……!  責任を感じた結衣は、呪いを解く方法を知り、オニキスとこっそり出かけるが……。 (第三部は、結衣とアレクの恋愛に視点を当てた部になっています。でも今回も赤ちゃん竜が出ますよ~)  ◆◆◆  ―:第四部「世界の終末と結婚式 編」予定あらすじ:―  日本の全てと別れを告げ、リヴィドールに骨をうずめる覚悟で再びこの地の土を踏んだ結衣。  結婚式の準備であわただしい中、聖竜教会の女性神官が殺害される事件が起きる。  なんとも不穏な空気に、結衣は嫌な予感がするが、恋愛禁止をやぶってのちじょうのもつれと判明して、ひとまず事件は片が付く。  だが、結婚式が近づく中、魔族がアクアレイト国にある夜闇の神の封印を解いてしまい!?  ――人間と魔族、初の共闘!? 異世界全土を巻き込んで、生きとし生ける者VS夜闇の神の大戦勃発!    危機的状況を見て、アレクは結衣に地球に帰るように言うけれど……。  ……という感じを予定してます。

アイスさんの転生記 ~貴族になってしまった~

うしのまるやき
ファンタジー
郡元康(こおり、もとやす)は、齢45にしてアマデウス神という創造神の一柱に誘われ、アイスという冒険者に転生した。転生後に猫のマーブル、ウサギのジェミニ、スライムのライムを仲間にして冒険者として活躍していたが、1年もしないうちに再びアマデウス神に迎えられ2度目の転生をすることになった。  今回は、一市民ではなく貴族の息子としての転生となるが、転生の条件としてアイスはマーブル達と一緒に過ごすことを条件に出し、神々にその条件を呑ませることに成功する。  さて、今回のアイスの人生はどのようになっていくのか?  地味にフリーダムな主人公、ちょっとしたモフモフありの転生記。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...