上 下
19 / 55

18.支部での生活

しおりを挟む
 加入手続きが終わると、受付嬢のソフィアは寮のカギを手渡してくれた。
「こちらが、アキノスケさんとキンバリーの部屋になります」

 本当は個室の方がいいのだろうが、ソフィアによると部屋に余裕もないため、もし恋人同士なら相部屋にして欲しいという話だ。
 結婚前提で付き合っているのだからキンバリーも二つ返事で承諾し、こうしてカギを預かったわけである。


「では、さっそく部屋を見てみましょう」
「そうだね」
 すでに人間フォームに戻っている僕は、キンバリーと並んで廊下を歩いていき、割り当てられた部屋へと着いた。

 そこは支部の寮でも一番奥にあり、受付やトイレまで行くには手間がかかるが、月当たりの料金も安めに設定されている場所だ。
「正直、1か月あたり大銀貨4枚で借りられたのは大きいね」
「そうですよね。それも2人合わせて4枚ですから助かります」

 この国に流通している貨幣は、プラチナ貨、金貨、大銀貨、小銀貨、銅貨、ザラ銭など、様々な種類のコインが流通しているが、大銀貨1枚でだいたい1万円といった価値のようだ。
 つまり、このフロンティアトリトンズの寮の代金は、1か月あたり僕とキンバリーの2人で4万円だ。


 鍵を開けて部屋へと入ってみると、部屋の広さは6~7畳ほどで2人で暮らすには狭いが、工夫すれば十分に暮らせそうな広さだった。
 しかも大きめのベッドや、食事用と思われるテーブルが備え付けられており、わざわざ家具を買いに行かなくても、最低限の生活は出来そうだ。

 キンバリーもホッとした様子だ。
「よかった。これならわざわざ買い物に行かなくてもよさそうですね」
「新冒険者街の支部に泊まるのは初めてなのかい?」
「はい。ここには何度も来たことはありましたが……ほとんどが日帰りだったので」


 間もなく僕は、荷物などを部屋に置くと、ギルドの受付に行って注文していた夕食を受け取った。
 このフロンティアトリトンズの受付は、夕方になると酒場として機能するようになり、受付嬢ソフィアも寮へと戻ってしまう。

 ソフィアは優しいし面倒見も良いので、業務外の時間でもギルド業務を受け付けてくれるが、あまり業務時間外で頻繁に仕事を頼みに行くと、後でスティレット支部長から”指導”を受けるそうだ。


 さて、小難しい話はこれくらいにして、僕はキンバリーと自分たちの部屋で夕食を楽しむことにした。
 今日のメニューは、川魚のワイン蒸しや、ミネストローネスープ、ライムギパン、サラダなどのトリトンズの定番メニューだった。現代の食事になれた僕でも美味しいと感じるほどだ。

 不満と言えば、パンがパサパサしていて、僕の世界に比べて品質が及ばないことくらいだろうか。そんなライムギパンでも、行動中に食べていた乾パンや固く焼いたビスケットに比べると、圧倒的に美味と言える味だ。
「あなた、ワインも召し上がりますか?」
「ああ、すまない」

 そう言いながらコップを差し出すと、キンバリーは丁寧に注いでくれた。
「さっき、酒場に行ったときに驚いたけど、ここのギルドのメンバーって、家族単位で入っている人が多いんだね」
「そうなんですよ。実は私の両親と妹たちも、このギルドにお世話になっていまして……」


 僕はその話を聞いて、おや……と思った。
 キンバリーには確か、兄がいるという話をどこかで聞いた気がするが、彼はギルドメンバーではないのだろうか。
 まあ、僕の聞き違いかもしれないし、ここは聞き流しておくか。

 飲酒をして、少し体も温まってきたところで、そろそろ休むことにした。
 明日も仕事で忙しそうだし……


【現在のフロンティアトリトンズ】
 20年前は、旧冒険者街に本部があるだけだったが、今は旧冒険者街、新冒険者街、フロンティア国の首都の3個所に増えている。

 ギルド長のフェリシティーや、勇者資格を持つカイト、S級ヒーラーのオリヴィアは旧冒険者街の本部。

 フロンティア首都には、副ギルド長のアイラ、一角獣スティレットの初仔にしてウマ勇者のブラウンエストック。

 新冒険者街の支部には、ウマ勇者のスティレットとアキノスケたちがいる。


 なお、スティレットの子供は、一角獣にしては少なく30頭ほどだが、孫とひ孫を含めると1000頭を超える。


【こちらを見るキンバリー(翌朝)】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

選ばれたのはケモナーでした

竹端景
ファンタジー
 魔法やスキルが当たり前に使われる世界。その世界でも異質な才能は神と同格であった。  この世で一番目にするものはなんだろうか?文字?人?動物?いや、それらを構成している『円』と『線』に気づいている人はどのくらいいるだろうか。  円と線の神から、彼が管理する星へと転生することになった一つの魂。記憶はないが、知識と、神に匹敵する一つの号を掲げて、世界を一つの言葉に染め上げる。 『みんなまとめてフルモッフ』 これは、ケモナーな神(見た目棒人間)と知識とかなり天然な少年の物語。  神と同格なケモナーが色んな人と仲良く、やりたいことをやっていくお話。 ※ほぼ毎日、更新しています。ちらりとのぞいてみてください。

ニートだった俺が異世界転生したけどジョブがやっぱりニートだった件

滝川 海老郎
ファンタジー
ニートだった。不死じゃないけど不老だった。ずっとニート16歳。90を過ぎて旅に出る。旧知の領主と話をする。同じくエルフと話をする。そんなこんなでエルフを連れて旅に出て次の街を目指す。自分がかかわったり種を蒔いた事実があったりと、なんやかんや楽しく歩いていく。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...