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12.外堀を埋めにきた魔王

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 新人歓迎会を堪能し、自室のベッドで眠ろうとしたとき、何だか嫌な気配を感じてしまった。
「なんだ……この気配は?」

 すでにランプの明かりは消えていたが、小生は眼球だけをウマと同じ構造にもできるので、夜目が効くようにしてから部屋を静かに歩み出た。
 そして、廊下のガラス窓から外を睨むと、後ろからアレックスが着いてきていることに気がついた。
「どうしたんだい?」
「少し気になる気配を感じてね……街の北東方面」
「…………」
 2人でその方角を眺めると、なにやらコウモリのような生き物が飛んでいた。小生は、冒険者街の夜というモノには詳しくないから、これが普段通りなのか異常なのかは判断できない。
「アレックス……コウモリ、何羽くらいは見えてる?」
「うーん……僕の目じゃ、詳しい数まではわからないな……ジルーなら、詳しいかな?」
「あたしのこと、呼んだ?」
 どうやらジルーも、小生の動きに気が付いていたようだ。
 彼女は暗闇の中で目を凝らすと、やがて難しい顔をしたまま答えた。
「これは、迂闊に外に出ない方がいいね」
「その理由は?」
「コウモリって一口に言っても、昆虫を食べるモノから、吸血をしてくるモノまでいろいろな種類がいるの。吸血コウモリって、爪や牙から毒の臭いがするし……中にはホンモノの悪魔が化けていることもある」
 その話を聞いて、小生はすぐにアレックスを見た。
「戸締まりの確認だけして、静かにしていようか?」
「それが良さそうだね」

 こうして小生たちは、大人しくしていることを選んだが、最初から悪魔たちの狙いは、フェイルノートではなかったようだ。
 翌日の朝。アレックス隊のメンバーは目覚めると、朝食を取るために1階の食堂へと向かった。
 すると、噂が広がるのは早く、すでにギルドメンバーの何人かが気になる話をしている。
「おい、聞いたか……野菜配達員の話」
「ああ、馬牧場が魔族の攻撃を受けたんだろ?」
「うわ、まじかー!」
 彼らの話を聞き、小生たちはお互いの顔を見合っていた。特にアレックスやレティシアは、ウマの肉体を持つ小生を心配そうに見つめてくる。
 ジルーも、険しい顔のまま、ギルドメンバーに話しかけた。
「そのウマ牧場の話だけど……どれくらいの被害が出たのかな?」
「さあ、詳しいことは、俺達も知らねーんだけど、配達員の話しじゃ……けっこう手ひどくやられたらしいぜ?」
「これってやっぱり、俺たち冒険者の探索を妨害するためかねぇ?」
「多分な。ウマのレンタル料が値上がりすると……荷物が運べなくなる」
「…………」
 確かに大変な問題だが、これは小生にとっては追い風になるかもしれないと感じた。
 なにせ普通の馬でも、種付けをしてから働けるようになるには、最低でも3年くらいはかかるからだ。母馬となる繁殖牝馬の数が減っていれば、まずはその調達から始めなければならないため、場合によってはもっと多くの年月がかかるだろう。
 そんなことを考えていたら、エルフのバンジャマンと目が合った。
「おはようございます」
「おはよう。何だか……大変なことになっているね」
「そうですね」
 そう答えると、彼は少し心配そうな表情をした。
「被害の状況次第では、ギルドから直々に、君に出走依頼が来てしまうかもしれないね」
「……え? ホースレースの話ですよね。むしろ被害が出たのなら、中止とか延期とかになるんじゃ……?」
「そうはならないよ。冒険者街のホースレースは、平民である冒険者が、貴族たちと対等に勝負できる数少ないチャンスだ。各ギルドも今年こそはという意気込みなんだ」
「そ、そうなの!?」
 驚きながら、近くにいたアレックスたちに聞くと、一行も困り顔のまま頷いた。
「本当のことだよ。貴族としても常に強いウマを探し求めているし、僕たち冒険者や冒険者ギルドとしても、貴族に名前を知ってもらう数少ないチャンスだ」
「ああ、頼みの綱の早馬は、ウマ牧場くらいにしかいないからな」

 つまり、あまり気は進まないけど、ギルド側のによってホースレースに参加させられてしまうかもしれないということか。
 魔族に目をつけられると、何かと仕事もやりづらくなるから勘弁して欲しい。どうにか断れないだろうか。


【ディディ(人間フォーム)】
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