上 下
7 / 26

7.ジルーの必勝法を暴け!

しおりを挟む
 ジルーが目の前に立つと、ケヴィンやアレックスは身を引いた。
 彼女を恐れる気持ちはよくわかる。まともにやり合えば強いであろう奇術師の子供を相手に、彼女は5連勝もしたのだ。そんな人物が敵に回られれば万に一つの勝機もないだろう。
 小生はすぐに、ギルドの受付嬢ソフィアを見た。
「ねえ、ソフィアさん」
「なんでしょう?」
「どうしてジルーは5連勝も出来たんだろう? 彼女は特異なアビリティを持っていたのかい?」
 ソフィアは困り顔になって答えた。
「書類上の彼女の専用特殊能力はスプリント。素早く動く能力だけのはずです」
「…………」
 素早く動く能力か。
 それなら確かに、じゃんけんの手を出す刹那のあいだに、相手よりも強い手を出すことも可能だろう。だけどジルーは奇術師の子供が左手が手元を見えないようにしても、正確に相手の形状を把握していた。
 考えを巡らせていると、ケヴィンは苛立った様子で言った。
「ああもう、こうなったら次は俺が……」
「よせ! ジルーが百戦錬磨なのは、さっきの奇術師とのやり取りでわかっただろう!」
「じゃあどうするんだよ!」
 アレックスは、険しい顔をしながら言った。
「逆に考えるんだ。どうして……最後の1回だけ彼女は負けた?」
「そりゃ、あのクソガキが大声で叫んで驚かせたからだろ!」

 彼らのやり取りを聞いて、小生はハッとした。
 彼女がもし素早く動く能力で、相手の手の形より強い手を作っていたとしたら、叫び声をあげられたくらいでは影響はないのでは? むしろ慌てさせたら、反射的に同じ形にして引き分けになると考えた方が自然なはず。
「…………」
 つまり、あの場で負けたのは偶然というより、ジルーのイカサマが露呈したと考えた方がいい。
 奇術師の子供は、その方法を見破るのに4回くらいかかり、5回目で確信して、最後の1回でトドメを刺した。そして、操られたジルーはイカサマをこちらに仕掛けてくる。
 こういう状況になった際の最善の一手は、ジルーを見捨てて先に進むことだろう。だけど、それではアレックスやケヴィンは反発するだろうし、小生としても危険を顧みずに5回も勝ち数を揃えてくれた少女を見殺しにするのはナシだ。ユニコーンのやることじゃない。

 考えを巡らせていたら、奇術師の子供は手を叩いて大きな砂時計を出した。
「ああ、ちなみにボーナスステージには制限時間が必要だね。5分間以内に挑戦者が現れなければ受付を終了しよう」
「……なに!?」
 ケヴィンはすぐに前に出ようとしたが、アレックスは彼を止めた。
「まて、ケヴィン!」
「いや、待てるかよ!」
 これは、奇術師の子供からのダメ押しの一手だろうか。いや、どちらかというと奇術師も奇術師で、焦りを感じているように思える。
 ここは一か八か……小生が行くべきだろう。
「わかった。小生が行く!」

 一同が驚いて小生を見るなか、奇術師の子供は薄ら笑いを浮かべながら言う。
「僕とジルー、どちらを相手に戦うのかな?」
「ジルーさ」
 その一言にアレックスは反論してきた。
「お、おい、君は……ジルーが百戦錬磨なのを……」
「わかっているよ。彼女がどんな手を使っているのかということもね」
「…………」
 ジルーはゆっくりと小生の前へと歩み出した。
 実は先ほどまでのセリフは、仲間を落ち着かせるためのブラフ。つまりウソだ。本当はジルーがどんな方法で5連勝したのかはわからない。だが、ジルーの今までの表情から、偶然5連勝したわけではないのは容易に察しが付く。
 よし、こうなったら、アレを使うか。

 ジルーはじゃんけんの体勢になった。
「最初はグー」
「じゃんけん」
 その直後に、あえて小生はお腹に力を入れた。すると……ブーというガスが尻から出る音が響き、近くにいた奇術師の子供は鼻を抑える。
 思い出して欲しい。小生は彼らと仲間になった直後に、ツーノッパドクダミ草をたっぷりと食べているのである。これは加工法によっては毒消し薬になるものだが、とにかく臭いことで有名だ。
 ただでさえ臭う草が、小生のお腹の中で発酵して熟成し、それが鼻の利くウェアウルフのジルーの鼻を突く。今までは虚ろだった彼女の目には意識が戻っただけでなく、涙目になっている。
「アビリティ・オン」
 さらに、小生はジルーの瞳に向かって専用特殊能力【コンパス】を使用した。
 彼女の目は光を放つと、小生のコンパスが映し出される。グーなら小生から見て右目に、チョキなら小生から見て左目に、パーなら両目にコンパスが映る。
 奇術師の子供は、ジルーの後ろ側にいるので見えていない。
「じゃんけん」
「ポイ!」
 ジルーの手はチョキ。小生はグーを出した。

 じゃんけんに勝つと、ジルーは気が遠くなった様子で倒れ込んできて、小生は彼女を抱き寄せたまま、奇術師の子供を睨む。
「さあ、次は君だよ!」
「くっ……6勝は6勝だ! 後半のステージで待っているよ!」
 そう言うと、奇術師の子供は指を弾いて姿を消した。
「さすがだよ! ディディ!!」
 仲間たちは駆け寄ってくると、ソフィアとレティシアは、すぐにジルーを介抱していたが、全員が意識を小生に向けてきている。
 ケヴィンは不思議そうに言った。
「でも一体、ジルーはどんな方法で5回も勝ったんだ?」
「いや、勝ってないよ。彼女は……幻術を使ってイカサマをしていた」
「幻術!?」
「うん、軽戦士の中には、補助的に幻術を用いて命中率や回避率を上げる人がいるんだ」

 つまりジルーは、相手の一手を見てから後だしジャンケンをしていた。
 ただ、そのやり方は……
1.テキトーな手を出す。
2.相手の手の形状を見る。
3.自分の手を幻術で、相手よりも強い形状にする。
4.相手が騙されている間に、本当にその手にする。
5.幻術を解除。

 もちろんこれは、素早く行わないと奇術師の子供にバレる。
 彼女は1から5を、遅くても1秒以内に済ませていたのだろう。

 小生たちはお互いを見合った。
「よし、じゃあ……次のステージに行こう!」
「ああ! 次もやってやろうぜ!!」
 間もなく、アレックス隊は、ドアを通り抜けて次の部屋に入った。


【オオカミ耳のジルー】

 アレックスチームの軽戦士・細工担当。
 ウェアウルフの少女で、やや鋭い目つきをしているが、意外にもムードメーカーも担当しているオモシロ女の子。そのギャップが良いのか、冒険者ギルドフェイルノートの中では人気がある。
 一人称はあたし。兄弟は兄が2人、弟が1人、姉が1人、妹が2人いる(7人兄弟の第4子)。
 因みにスィグ作品には、よくジルーというウェアウルフ女子が登場するが、基本的に彼女たちは全員が別人である。古の英雄にジルーという英雄がいるため、それにあやかって両親が命名するようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

「部活は何やってるの?」「それって宣戦布告ですか?」

カティア
ファンタジー
君は知っているか? 部活動を極めし者は、その部活にまつわる奥義を会得するという。 これは、そんな部活動を極めし高校生達の青春の記録だ。 一週間ぶりに登校したら、天文部が廃部になっていたことを部長の空野彼方は知る。天文部の廃部を取り消すには生徒会に認めさせるしかない。しかし、その前に立ちふさがる、生徒会に吸収された他の部活動の部長たち。部活動を極めし者たちは、皆、部活動の奥義をマスターするという。アニメ同好会の放つ炎の鳥が空野彼方に襲い掛かる。彼方は惑星を操り、それに対抗する。今、各部活動の意地とプライドと利益を賭けた、異種部活動バトルの火ぶたが切って落とされる! 果たして彼方は、力づくという説得で生徒会長を説得できるのか!?

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

僕のスライムは世界最強~捕食チートで超成長しちゃいます~

空 水城
ファンタジー
15になると女神様から従魔を授かることができる世界。 辺境の田舎村に住む少年ルゥは、幼馴染のファナと共に従魔を手に入れるための『召喚の儀』を受けた。ファナは最高ランクのAランクモンスター《ドラゴン》を召喚するが、反対にルゥは最弱のFランクモンスター《スライム》を召喚してしまう。ファナが冒険者を目指して旅立つ中、たったひとり村に残されたルゥは、地道にスライムを育てていく。その中で彼は、自身のスライムの真価に気が付くことになる。 小説家になろう様のサイトで投稿していた作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

騎士学院のイノベーション

黒蓮
ファンタジー
 この世界では、人間という種が生存できる範囲が極めて狭い。大陸の大部分を占めているのは、魔物蔓延る大森林だ。魔物は繁殖能力が非常に高く、獰猛で強大な力を有しており、魔物達にとってみれば人間など餌に過ぎない存在だ。 その為、遥か昔から人間は魔物と戦い続け、自らの生存域を死守することに尽力してきた。しかし、元々生物としての地力が違う魔物相手では、常に人間側は劣勢に甘んじていた。そうして長い年月の果て、魔物達の活動範囲は少しずつ人間の住む土地を侵食しており、人々の生活圏が脅かされていた。 しかし、この大陸には4つの天を突くほどの巨大な樹が点在しており、その大樹には不思議と魔物達は近寄ろうとしなかった。だからこそ魔物よりも弱者であるはずの人間が、長い年月生き残ってきたとも言える。そして人々は、その護りの加護をもたらす大樹の事を、崇拝の念を込めて『神樹《しんじゅ》』と呼んでいる。 これは神樹の麓にある4つの王国の内の一つ、ヴェストニア王国に存在する学院の物語である。

処理中です...