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第1章 転生

食の神・エスティエイン

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    食の神の神殿の前に着いた。ここまでは天使さんの力で一瞬だった。転移みたいなものらしい。目の前にある白い門をくぐれば、食の神の神域に入ることになる。

    「他の神と比べて、エスティエイン様は気さくなお方なので、礼儀などはそう気にしなくても大丈夫です。ただし、ダイエットの話題だけは避けてください…」

    天使さんが若干青い顔をしている。そんなにやばいのか、気をつけよう。天使さんが入れるのはここまでのようで、私1人で行くことになった。

    門をくぐり抜けると小さな丘に出た。頂上には煉瓦造りの小さな家が建っていて、ここからでもわかるくらい美味しそうな匂いがしている。まるで、幸せの象徴のような場所だった。緩やかな坂を登って家にたどり着くと、小さな花や可愛らしい小物に囲まれた庭を通り抜ける。どうしよう、私もうここに住みたいんだけど。

    焦げ茶色のドアのよこにベルが付いていたので鳴らす。中からはーい、と柔らかい声がした。

    ウェーブのかかった柔らかい金髪、ふくよかな体格、優しげな女性がそこに居た。

    「あらあら、いらっしゃい!お客さんは久しぶりよ!」

    私が何か声をかける前に、私を引っ張って家の中に入って行く。あっという間に席に座らされ、目の前にどん、と皿を置かれた。薄茶色のスープに、大きめに切られた野菜がごろごろと入っているポトフ。外に漏れて居た匂いはこれのようだ。

    「さあさ、召し上がれ!」

    いきなりのことで困惑しつつも、目の前のポトフに目が釘付けになる。すっごくいい匂いがする上に、ひさしぶりの手作りの食事だ。彼女もどうぞと言っているわけだし、まずは食事をさせてもらおう。未だ声は出ないけど、心の中で、いただきますと呟いた。

    めっちゃうまい…。

    野菜の旨味が黄金色のスープに溶け出している。ウィンナーもパリッとしてていいアクセントになってる。そう、私が食べたかったのはこういうものだ。

    「気に入ってもらえたみたいでよかった~」

    彼女は嬉しそうに笑って、自分のスープに口をつけた。

    その後、自己紹介やここに来た理由などを話した。やはり彼女が食の神・エスティエインだった。大まかな経緯は神である彼女はほとんど知っていて、私が詳しく語る必要はなかったものの、チートをもらいたい理由については自分の口からたっぷり述べた。志望動機は大事だ。彼女は始終にこにことして聞いていて、時折自分の神界での経験も語ってくれた。

    結果、私たちは打ち解けて友達になった。

    「美の神ったらすぐ私に食べ過ぎだなんだ、ダイエットがどうとか言うのよ!美味しいものを食べて何が悪いって言うのよ!」

    うんうん、私もそう思う。無理してたって結局死ぬ時は死ぬし。私も今世では美味しいものいっぱい食べたい。

    「そうよねそうよね!でも、美の神の言うこともちょっとはわかるのよ?私も女ですもの。なるべく美しくいたいわ」

    そうなんだよね。人前に出るのに恥ずかしくない程度には…。

    あと、エスティエインは普通にそのままでも美人だと思います。

    「まあ!嬉しいわ~!そうだ!あなたが今世では、体を気にせずたくさん美味しいものが食べられるようにそういった加護もつけておくわ!」

    おお!ありがたい。でも、そんなことできるなら自分の見た目を変えることも神ならできるんじゃない?

    「もちろんできるわ!でも、それじゃなんの意味もないじゃない?そう言うことしてる神もいるけど、結局元の姿に戻った時の落差がひどいだけよ。ああそうだ!たくさん食べれるようにもしておくわね!」

    確かに、本当に綺麗になったわけじゃないしな。

    「あとは、料理人の才能を加えて…他にはどんなちーと?が欲しいのかしら」

    そんなにたくさんもらっていいのかな?まあ、くれるなら喜んでもらうけど!そうだな、せっかくだから農業もやりたい。なるべく食材も自力で集めたりして。畜産もやってみたいんだけど、育てるのはいいにしても殺すのは現代人には厳しいな…。

    「まあ!お肉は大事よ!ぜひやらなくちゃ!」

    まあ、そうだよなぁ…。異世界に行くんだからそういうことも覚悟しておかなきゃ。

    「そうね…。あとはこんな力があればいいわね!あれと、これと、それと…」

    聞いてないなこれ。まあいいか、というか本当にそんなに大盤振る舞いしていいのか、エスティエインさんよ。

    
そんなこんなで、エスティエインは私につけるチートをなんとか決定させたようだ。

「何になったかは、生まれてからのお楽しみにしておくわ!」

なんとなく不安になるのはなぜだろう…。


そして、エスティエインが私に手をざす。

「あなたの未来が幸せであることを願っているわ」

意識が遠のいていった。
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