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第一章:光属性の朝日さんの堕とし方
第34話:大好き
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「15-40! プレー中は静かにしてください」
現在のスコアを発した後に、俺の方を見た審判に注意を告げられる。
「誰あれ?」
「さあ、どっかで見たことあるような気はするけど」
「確か……B組のなんとか山って奴じゃなかったっけ?」
「知らない。誰か呼んだの?」
「勝手に来てんならやばくね?」
知ってたり知らなかったりする同級生たちの刺々しい視線も突き刺さる。
やっちまった……。
恥ずい、恥ずすぎる……。
人生で最も最悪な注目を浴びてしまっている。
そもそもマナー違反だし、日野さんにも死ぬほど怒られる。
そう覚悟して隣を見るが、彼女はそれに全く気づいていないように、ただコートの上を見ていた。
その視線の先には、驚いたような表情で自分の左足を見ている朝日さんの姿。
彼女は二度三度と何かを確かめるように、左足で地面を踏む。
そして、ただ一言――「よしっ!」と言うと、もう一度ラケットを構えて相手と向かい合った。
まだ圧倒的に有利な状況にも拘わらず、何かを感じ取ったのか向こうも緊張した面持ちを浮かべている。
トスが上げられ、サーブが放たれる。
ともすればサービスエースになりそうな鋭い打球が、朝日さん側のコートに刺さるが――
持ち前のフットワークで容易く追いついた彼女は、再び左足を思い切り踏み込んだフォアで逆にリターンエースを奪った。
「さ……30-40!」
突然、人が変わったかのような彼女のプレーに観客のみならず、審判も驚いている。
その後はもう、ただただ圧巻だった。
本調子を取り戻した朝日さんは、相手が可哀想になるくらい圧倒的に強かった。
サーブは正確にコーナーを突き、ストロークでもポイントを量産する。
相手は、コート上で躍動する彼女の打球に触れることすらままならない。
あの時に見た、何よりもかっこいい人の姿がそこにあった。
「ゲームセット アンド マッチ ウォン バイ 朝日!」
結局、最初のセット以降はポイントすらほとんど許さない圧勝で試合は終わった。
「よかった……ほんとに、よかったぁ……よかったね、光……」
隣で日野さんが、人目も憚らずに涙を流している。
「ほ、ほら日野さん! 朝日さんが出てくるみたいだから行ってあげないと!」
対戦相手と審判と握手し、荷物を纏めた朝日さんがコートの外に出ようとしている。
「うん……でも、ちょっと待って……顔、拭かないと……」
極度の安心からか、足元もおぼつかない彼女を観客席の外へと送り出してあげる。
「光、おめでとー!」
「朝日さん、まじですごかった!」
「このまま優勝できるんじゃない?」
コートから出てきた彼女は、クラスメイトたちに取り囲まれて祝福の言葉を浴びていた。
当然、俺はそこに混ざれるわけもない。
日野さんを送り出して、離れたところから様子を眺める。
彼女の完全復活はつまり、俺の役割が終わったことを意味していた。
もう彼女は、俺に寄りかかる必要なんて一切ない。
これが俺と彼女の本来の距離……あるべき形に戻ったのだと。
今くらいはいいだろうと、少しセンチな感情に浸っていると――
「ごめん。ちょっと通して」
同級生たちを掻き分け、朝日さんが人だかりの外へと出てきた。
先に本部の方に勝敗の報告へ行くんだろうかと考えていると――
キョロキョロと辺りを見回していた彼女と目が合った。
直後、俺の方へと向かって全力で駆け出してくる。
「はぁ……はぁ……影山くん……!」
側までやって来た彼女が、息を切らしながら俺の名前を呼ぶ。
「声……君の声が聞こえたの……そしたら何か、身体が勝手に動いて……」
「ああ、うん……なんかごめん。試合中に大声出して……」
やっぱり気づかれてたよな……とバツが悪い気持ちで謝罪する。
「ううん……おかげで、私……また出来たから……テニスを好きでいられるから……」
「そ、それなら良かった……。おめでとう、本当にすごかった。すごく格好良かった」
「それで私、試合中から……ずっと……ずっと君に言いたいことがあって……」
息を切らせ、顔を赤くしながら言葉を紡いでいる朝日さん。
自分たちを置いて何をしているのかと、クラスメイトたちがにわかに騒ぎ出す。
こんなところを見られたらまずいんじゃないか……?
と思っている間に、彼らはすぐに側へと集まってきてしまった。
「ありがとうじゃなくて……迷惑かけてごめんねでもなくって……えっと……えーっと……」
一方で彼女は、そんな同級生たちの存在を気にも留めていない。
試合の興奮がまだ覚めやらないのか、気を逸らせながら言葉を探し――
「あっ、好き……だ」
何かに気づいたように、その二文字を発した。
「ど、どういたしまし……って、へっ? 今、なんて……?」
俺が受け取るはずのない言葉に、体感時間が停止する。
「そうだ! そうだよね! 好き、だよね! 私、君のことが好きなんだ!」
言葉にしたことで、それを確信したかのように彼女が繰り返す。
「好き! 好き好き好き! 大好き! 私は影山黎也くんが好きです!」
彼女は、その輝く瞳に俺を映しながら皆の前で何度も宣言する。
「え? 何? どういうこと?」
「光、好きって……言った? あの陰キャのこと?」
「まさか……聞き間違いだろ……だよな?」
同級生たちは、ただただ困惑している。
あの朝日光が発した『好き』という言葉。
それが向けられている先が、本来ありえるはずのない相手だという当惑の感情が周囲で渦巻いている。
けれど、最も困惑しているのは当然俺だと言わせて欲しい。
「光ー! 早く報告に行きなさーい!」
遠くから朝日さんの母親らしい声が響いてくる。
「はーい! ……ってことで、これからガンガン攻めていくからよろしくね!!」
そう宣言して、朝日さんは俺に背を向けて走り去っていく。
一体、今何が起こったのか分からないまま呆然とする。
未だに彼女の発した言葉が、頭の中で大乱闘バトルフィールドレジェンズトゥーンしているが……そんな中でも、ただ一つだけ分かったことがある。
どうやら、あの光属性ボスには更に強力な第二形態があったらしい。
彼女は俺の呪いで堕落するどころか、その闇の力を取り込んで最強になった。
この瞬間、俺と光属性の朝日さんの長きに渡る本当の戦いが始まったんだ。
現在のスコアを発した後に、俺の方を見た審判に注意を告げられる。
「誰あれ?」
「さあ、どっかで見たことあるような気はするけど」
「確か……B組のなんとか山って奴じゃなかったっけ?」
「知らない。誰か呼んだの?」
「勝手に来てんならやばくね?」
知ってたり知らなかったりする同級生たちの刺々しい視線も突き刺さる。
やっちまった……。
恥ずい、恥ずすぎる……。
人生で最も最悪な注目を浴びてしまっている。
そもそもマナー違反だし、日野さんにも死ぬほど怒られる。
そう覚悟して隣を見るが、彼女はそれに全く気づいていないように、ただコートの上を見ていた。
その視線の先には、驚いたような表情で自分の左足を見ている朝日さんの姿。
彼女は二度三度と何かを確かめるように、左足で地面を踏む。
そして、ただ一言――「よしっ!」と言うと、もう一度ラケットを構えて相手と向かい合った。
まだ圧倒的に有利な状況にも拘わらず、何かを感じ取ったのか向こうも緊張した面持ちを浮かべている。
トスが上げられ、サーブが放たれる。
ともすればサービスエースになりそうな鋭い打球が、朝日さん側のコートに刺さるが――
持ち前のフットワークで容易く追いついた彼女は、再び左足を思い切り踏み込んだフォアで逆にリターンエースを奪った。
「さ……30-40!」
突然、人が変わったかのような彼女のプレーに観客のみならず、審判も驚いている。
その後はもう、ただただ圧巻だった。
本調子を取り戻した朝日さんは、相手が可哀想になるくらい圧倒的に強かった。
サーブは正確にコーナーを突き、ストロークでもポイントを量産する。
相手は、コート上で躍動する彼女の打球に触れることすらままならない。
あの時に見た、何よりもかっこいい人の姿がそこにあった。
「ゲームセット アンド マッチ ウォン バイ 朝日!」
結局、最初のセット以降はポイントすらほとんど許さない圧勝で試合は終わった。
「よかった……ほんとに、よかったぁ……よかったね、光……」
隣で日野さんが、人目も憚らずに涙を流している。
「ほ、ほら日野さん! 朝日さんが出てくるみたいだから行ってあげないと!」
対戦相手と審判と握手し、荷物を纏めた朝日さんがコートの外に出ようとしている。
「うん……でも、ちょっと待って……顔、拭かないと……」
極度の安心からか、足元もおぼつかない彼女を観客席の外へと送り出してあげる。
「光、おめでとー!」
「朝日さん、まじですごかった!」
「このまま優勝できるんじゃない?」
コートから出てきた彼女は、クラスメイトたちに取り囲まれて祝福の言葉を浴びていた。
当然、俺はそこに混ざれるわけもない。
日野さんを送り出して、離れたところから様子を眺める。
彼女の完全復活はつまり、俺の役割が終わったことを意味していた。
もう彼女は、俺に寄りかかる必要なんて一切ない。
これが俺と彼女の本来の距離……あるべき形に戻ったのだと。
今くらいはいいだろうと、少しセンチな感情に浸っていると――
「ごめん。ちょっと通して」
同級生たちを掻き分け、朝日さんが人だかりの外へと出てきた。
先に本部の方に勝敗の報告へ行くんだろうかと考えていると――
キョロキョロと辺りを見回していた彼女と目が合った。
直後、俺の方へと向かって全力で駆け出してくる。
「はぁ……はぁ……影山くん……!」
側までやって来た彼女が、息を切らしながら俺の名前を呼ぶ。
「声……君の声が聞こえたの……そしたら何か、身体が勝手に動いて……」
「ああ、うん……なんかごめん。試合中に大声出して……」
やっぱり気づかれてたよな……とバツが悪い気持ちで謝罪する。
「ううん……おかげで、私……また出来たから……テニスを好きでいられるから……」
「そ、それなら良かった……。おめでとう、本当にすごかった。すごく格好良かった」
「それで私、試合中から……ずっと……ずっと君に言いたいことがあって……」
息を切らせ、顔を赤くしながら言葉を紡いでいる朝日さん。
自分たちを置いて何をしているのかと、クラスメイトたちがにわかに騒ぎ出す。
こんなところを見られたらまずいんじゃないか……?
と思っている間に、彼らはすぐに側へと集まってきてしまった。
「ありがとうじゃなくて……迷惑かけてごめんねでもなくって……えっと……えーっと……」
一方で彼女は、そんな同級生たちの存在を気にも留めていない。
試合の興奮がまだ覚めやらないのか、気を逸らせながら言葉を探し――
「あっ、好き……だ」
何かに気づいたように、その二文字を発した。
「ど、どういたしまし……って、へっ? 今、なんて……?」
俺が受け取るはずのない言葉に、体感時間が停止する。
「そうだ! そうだよね! 好き、だよね! 私、君のことが好きなんだ!」
言葉にしたことで、それを確信したかのように彼女が繰り返す。
「好き! 好き好き好き! 大好き! 私は影山黎也くんが好きです!」
彼女は、その輝く瞳に俺を映しながら皆の前で何度も宣言する。
「え? 何? どういうこと?」
「光、好きって……言った? あの陰キャのこと?」
「まさか……聞き間違いだろ……だよな?」
同級生たちは、ただただ困惑している。
あの朝日光が発した『好き』という言葉。
それが向けられている先が、本来ありえるはずのない相手だという当惑の感情が周囲で渦巻いている。
けれど、最も困惑しているのは当然俺だと言わせて欲しい。
「光ー! 早く報告に行きなさーい!」
遠くから朝日さんの母親らしい声が響いてくる。
「はーい! ……ってことで、これからガンガン攻めていくからよろしくね!!」
そう宣言して、朝日さんは俺に背を向けて走り去っていく。
一体、今何が起こったのか分からないまま呆然とする。
未だに彼女の発した言葉が、頭の中で大乱闘バトルフィールドレジェンズトゥーンしているが……そんな中でも、ただ一つだけ分かったことがある。
どうやら、あの光属性ボスには更に強力な第二形態があったらしい。
彼女は俺の呪いで堕落するどころか、その闇の力を取り込んで最強になった。
この瞬間、俺と光属性の朝日さんの長きに渡る本当の戦いが始まったんだ。
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