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第一章:光属性の朝日さんの堕とし方

第2話:光と闇、陽と陰

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 それは放課後、バイト帰りのバス内での出来事だった。

 バイト先がある駅前のバス停から自宅近くのバス停までの二十分少々。

 短いながらも、ゲームを軽くプレイするには十分な時間。

 今日はどのタイトルをやろうとゲーム機を取り出した俺の隣に、彼女は忽然と現れた。

「影山くん……だよね? 同じクラスの」

 ヘッドホン越しに聞こえてくるエンジンの音と、聞き心地のよい澄んだ声。

 ふわりとした薄い色素のミディアムショートヘア。

 同じ生物なのか疑問に思う小顔と、容姿端麗という言葉ですら陳腐に感じられる程に整った目鼻立ち。

 双眸はまるで、埋め込まれた二つの宝石のように輝いている。

 街中ですれ違えば、百人中百人が振り返るような美少女。

 普通なら自分とは到底接点のなさそうな人種だが、俺は彼女のことを知っていた。

 朝日あさひひかる――私立秀葉院高校の2年B組、出席番号1番。

 つまり、俺のクラスメイトだ。

「おーい、聞こえてる~……?」

 朝日さんが目の前で、俺の意識を確認するように手を振る。

 全く予期していなかったイベントとのエンカウントに、身体と思考が硬直している。

 例えるなら、フィールド上で不意に勇者パーティと遭遇したザコ敵の心地。

「朝日……さん……?」
「うん、そだよ。まだ同じクラスになって一ヶ月も経ってないのに覚えててくれたんだ」
「そりゃあ……まあ……。むしろ、それはこっちのセリフというか……」
「とりあえず、隣座ってもいい?」
「ど、どうぞ……」

 何とか声を絞り出して返答すると、彼女は平然と俺の隣の席に腰を掛ける。

 今の自分がどんな感じなのかは分からないが、傍から見ればきっと挙動不審の変な人だろう。

 けれど、それも仕方がないと言わせて欲しい。

 まさか、あの朝日光が俺の存在を認知しているなんて思わなかったのだから。

 というのもクラスメイトであるとはいえ、俺と彼女の立場はまさに天と地ほどの差がある。

 俺は教室の隅っこに生息しているただの陰キャゲームオタク。

 成績もこれと言って特筆すべきところはなく、運動神経に関しては悲惨の一言。

 一方の朝日さんは常にクラスの……いや、学校の中心にいる陽キャリア充。

 才色兼備で、男女問わずに生徒からの人気があるだけでなく、教師からの信賴も厚い。

 学外では女子テニス界の期待の新星として知られ、モデルとしても活動している。

 まさに天から二物も三物も与えられた存在。

 同じゲームに登場すると言っても、『勇者』と『おおなめくじ』では比較にもならないようなものだ。

「影山くんはこの時間に制服ってことは……もしかして、実は不良少年?」
「いや、バイト帰りだけど……」
「あっ、そうなんだ。どこでバイトしてるの?」

 未だ状況を飲み込まずに困惑している俺に、朝日さんは質問を重ねてくる。

 先制攻撃に加えて、1ターンに二回行動とか性能盛りすぎだろ。

「駅前で従姉妹が洋食の店をやってて、バイトというかそこの手伝いっていうか……」
「へぇ~! 従姉妹さんのお店なんだあ!」

 何かに歓心したように大きくうんうんと頷く朝日さん。

「ちなみに私はこれが終わって帰るところ……って、見れば分かるよね」

 彼女は左肩にかけてある縦に長いバッグを示す。

 バスが揺れる度に、中からガチャガチャと硬い物がぶつかる音が聞こえてくる。

「それって、テニスの?」
「うん、いつもはクラブからお母さんの車で帰ってるんだけど。今日は色々あって私だけバスで帰ってるとこ」
「なるほど……」

 と言いつつも、この状況が一体どういうことなのかまだ全く飲み込めていない。

「ところでさ。影山くんってゲーム好きだよね?」
「え? まあ、好きだけど……」
「だよね。いつも休み時間にやってるし。しかも、結構コアなやつ」

 そんな存在だと認知されてたのかという羞恥とは別に、ある疑念が膨らんでいく。

 ……やっぱり、罰ゲームか何かか?

 あの陰キャに話しかけて来いって、よくありがちなやつか……?

 そう思ってバス内を軽く見回すが、隠れて観察しているような誰かの姿は見えない。

 それに彼女は人をからかって遊ぶような性格ではないはず。

 いや、そんなに詳しくは知らんけど……。

 頭の中で色々な疑念がグルグルと渦巻く中、次に彼女が発した思いがけない一言がそれらをまとめて全て吹き飛ばした。

「実はさ……私も結構好きなんだよね。ゲーム」
「……何が?」

 言葉の意味が理解できずに聞き返す。

「だから、ゲームが」

 ……罠か?

 リア充の中のリア充である朝日光とゲームというオタク趣味が、頭の中で全く結びつかずに疑念が強まる。

 やっぱり、誰かが俺を謀ろうとしているとしか思えない。

 CIAとかKGBとかMI6的な。

「へ、へぇ……そうなんだ……」
「うん……って言っても、最近は色々あってあんまり出来てないんだけどね」

 いや、もしかしてこれはあれか?

 ギャルの『アタシ、まじオタクだよ。オネピースとかめっちゃ好きだし』的なやつか?

 そうだ。そうに違いない。

 だったら俺が陰キャ代表として、ズケズケとに踏み込んできた敵を迎え撃つしかない。

「ちなみに、どんなゲームが? 最近やって面白かったやつは?」
「えっとねー……最近一番面白かったのは……」

 腕を組んで思案し始める朝日さん。

 どうせスマホの音ゲーかパズルゲー、精々が流行りのバトロワ程度だろ。

 カースト上位の陽キャが、ファッション感覚で俺らの世界に足を踏み入れてきやがって。

 さあ、来るがいい。

 生半可なタイトルを挙げやがったら、得意の早口語りで真っ向から叩き潰してやる。

「バイオ……」

 なるほど、ハリウッド映画にもなった某サバイバルホラーシリーズか。

 キラキラした女子高生が触れるには少し過激なタイトルだ。

 しかし、国内では有名なシリーズで、家族がやってたのを少し触ったくらいは十分にあり得る。

 このくらいなら全然、想定の範囲な――

「バイオショッキング!」

 ……はは~ん、なかなかやるじゃん。

 予想外のタイトルに、上から目線を崩さずにいるのが精一杯だった。
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