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テロリズム勃発

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 草原の上にある、黒い壁に囲われた射撃場。
 トメラはじっと、的の前で銃を構えた。
 彼はゆっくりと二重丸を描かれている白い的に向かって、 力強くトリガーを引く。

 バキュウーンッ!

 銃声が、激しく響いた。
 トメラの傍にいた父は、厳しい表情で首を横に振る。
「駄目だ。的から随分外れてる。もう一度!」
 ジョージの言葉に、トメラは大きな声で「はいっ!」と応じた。
 そして、彼は再び的に向かって、銃弾をもう一発放つ。

 バキュウーンッ!

 銃の手つきが、だいぶ馴染んだようだ。
 今度の銃弾は、二重丸のど真ん中に的中している。
「よし、今日はここまでだ」
 ジョージはにっこりと笑みを浮かべ、トメラに向かって左手を掲げる。
「どうも」
 トメラはジョージの掲げる手に応じて、愛嬌の範囲内の強さでハイタッチをした。

 なぜ二人は銃の稽古をしていたのか。
 それには深い理由がある。
 トメラたちの地元・ブライト市に、テロリストが襲いかかってきたのだ。

   ☆ ☆

 トメラは息を呑んだ。
(まさか、このメリケンにもこんな事件が起こるなんて……)
 彼はそう心の中でつぶやきながら、テレビの画面越しに映っている事件現場を凝視した。
「ひどいものだったよ。ホントに」
 トメラの背後から、父がテレビに向かってそう言葉を発する。
「まさか、新幹線の中で銃の乱射が起きるとは、思いもしなかった」
 トメラの父は自らの太っ腹をポリポリとかき、テレビの前のソファーに腰掛けた。
「メリケンの安全神話は、崩壊したな」
 父がそうトメラに声をかけても、彼はいまだに、静かにテレビ画面のほうを見つめている。
「トメラ、わかってるな。もう、ウツクシ村の人間とは関わるな。いいね?」
「どうして」
「ヤツらは犯罪者予備軍だ。もしかしたらお前を洗脳して、仲間に入れる可能性だってある」
「そんなことしないよ、絶対」
 トメラは必死にそう訴えるが、父はなお、冷たく言い放つ。
「ミチルとは縁を切りなさい。いいね?」
「…………」
 父はグッと立ち上がり、風呂場の方へ向かっていった。
 
 トメラは、いまだに信じることができなかった。
 まさか地元・ブライト市を襲ったのが、あのウツクシ村の人間だったなんて……!

   ☆ ☆
 トメラは、頭の奥であの時のことを思い返しながら、家の玄関にたどり着いた。
「ただいま~」
 銃撃の稽古から帰ってきたトメラは、もうヘトヘトだ。
 そんなトメラに対し、母のマリアは労うような口調で「お帰りなさい」と応じた。
「今日もお父さんと、銃撃の稽古をしてたの?」
「ああ、そうだよ」
 トメラは通学カバンに拳銃をしまい込みながら、母の問いかけに返事をした。
「もう、やんなっちゃうよ……」
 彼がそう弱音を吐いていると、ジョージが後ろから重いゲンコツを、グッとトメラの頭にのしかかってきた。
「馬鹿野郎。このご時世なのに、銃の稽古をめんどくさがるな。命に関わることなんだぞ」
「わかってるよ」
 カバンを片手に持って、トメラは自分の部屋に向かったのだった。

 窓の外はもう真っ暗で、分厚いガラスの向こうには真っ黒な闇と、わずかな月の光がぼんやり見えるだけだ。
 トメラは、自分のスマートフォンを手にして起動させる。
 そして、彼の愛用しているSNSを開いて、友達検索をする。
「ミチル……」
 画面に出てくる、ミチルの写真。
 彼女は嬉しそうに、右頬のそばに赤いウツクシ村のバラを近づけ、カメラに向かってピースをしている。
「ミチル、どうしてだよ……。お前はどうして、ウツクシ村の市民なんだよ!」
 トメラは机上のスマートフォンを前に、自らの憤りをぶつけた。
(ちくしょう~。ちくしょうちくしょうちくしょう、チクショー!)
 トメラは、スマートフォンの画面に表示される友達解除のボタンをタッチしようとする。

 脳裏に浮かぶ、ミチルの笑顔。
 
 いつの間にか、トメラは自分のスマートフォンの電源を切っていた。
「約束したんだ。ボクはミチルと、約束したんだ……」
 結局、彼はミチルを友達から外すことができなかった。

 歪んでいく部屋の中。
 トメラは目にたまっている涙をぬぐう。
「書かなきゃ。アイツのためにも、書かなくちゃ……!」
 そう自分に言い聞かせて、彼は手書き原稿を机の上に広げる。
 そして、彼はその原稿の余白に字をさらさらと書きだした。

 しばらくして、ドアの向こうから母の声が聞こえてくる。
「トメラー、ご飯はできてるからねー」
 トメラはその声に構わず、ひたすら原稿に文字を書きなぐっている。
「トメラ~」
「うるさいな、いま学校の課題に向かっているところ!」
 母は扉越しに、「ああ、そう……」とつぶやいた。
「それじゃあ。今日のお風呂はあなたが最後だから、よろしくね」
「わかった」
 彼がそう返事すると、母がスタスタと去っていく音が聞こえた。
 そして、トメラは再び原稿に向かい合う。
 だが……

「……あれ? 筆が、進まない……。どうして。どうして!」

 彼は、スランプに陥ってしまった。

   ☆ ☆

「おいおいトメラ。大丈夫なのか?」

 同級生のマドタが、トメラに向かってそう言った。
 トメラはうつむきながら、黙って学食のカレーライスを食べている。
「脚本の筆が進まないなんて、かなり問題だぞ。オレたちはお前の脚本を前提にして動いてるんだ。しっかりしてくれよ!」
「ごめん……」
「まったくだよ」
 マドタは、カリカリと音を立ててチャーハンを口の中に掻っ込んでいく。
「まぁ、お前の筆の重さは今日に始まったことじゃないけどさ。とはいえ、ここ最近は調子が良かったんじゃないのかよ」
「そう、だったんだけど……」
「そうだったのに、お前。急にどうしたんだよ」
 マドタの問いかけに対し、トメラはただボーっと、食堂の透明なガラスを通じて、キャンパスの庭園を見つめていた。
「トメラ」
 ふと振り向くと、真剣すぎて恐ろしい形相である、マドタの顔が急接近していた。
「ひとの話を聞いてたのか?」
「ごめん、聞いてなかった……」
「トメラ!」
 マドタの冗談めいた怒号に対して、トメラは両手で制した。
「ご、ごめん、マドタ! ただ、今はボク、しばらくじっと考えていたいんだ」
 トメラの弱々しい返事を聞いて、マドタはしばらくじっとトメラを見つめる。
「……頼むよ。この夏休みが終われば、卒業制作の公演が控えてる。その礎となる脚本はお前のホンなんだ。わかってるだろ?」
「わかってる」
「お前だけが頼りなんだ。本番までには、必ず完成させてくれよ」
 そう言って、マドタは席を立ち上がった。
「じゃあ、また後でな」
「うん」
 マドタがいなくなって、急に静寂な空気になった。
 まわりにはまだまだ学生たちが多くいたのだが、トメラの心の中には、そんな物音たちは全く響いてこない。
(わかってる。わかってはいるんだよ。でも、でも……!)
 彼はポケットからスマートフォンを取り出し、SNSを開いた。
 にこやかに微笑んでいる、ミチルの顔。
 彼女とは、まだ友達の関係を解除していない。
 トメラは、何度も何度も友人関係を切ろうとしていた。
 でも、彼の手はそういう時に限って、石のように動こうとしない。
 結局彼には、自分の手で彼女との縁を切る勇気は、これっぽっちもなかったのだ。
「……ミチル!」
 彼は手にしているスマートフォンを胸に当て、じっと目をつぶった。
 そして、彼はテロリズムやメリケン人たちによるのウツクシ村への差別を、そしてこの理不尽な世の中を、心から憎んだ。

 どうしてウツクシ村の市民が、よりによってブライト市を襲ってきたんだ。
 たとえどんな正当な理由があろうとも、テロで一般市民を巻き込むのは立派な犯罪だ。
 そんなことは子供でもわかるようなものなのに、なぜ大人たちは人を殺してしまうのか。
 犯罪をする市民もひどいが、メリケン人もメリケン人だ。
 ミチルは何もしていないのに、ただ「ウツクシ村に住んでいる」というだけでテロリスト扱いする。
 それは立派な差別じゃないか?
 メリケンは様々な人種によって成り立ってる移民国なのに、なんでこのご時世に時代遅れで愚かな行為をするんだ。
 真のテロリストは一部の犯罪者たちであって、ウツクシ村の市民じゃない。
 どうしてわからないんだ!

 考えれば考えるほど、腹が立ってくる。
 トメラの頭の中には、いつの間にか、世界に対する怒りに変わっていたのだった。

 しばらくすると、トメラの隣の席に、誰かがゆっくりと近づく気配を感じた。
「トメラ?」
 その甲高い声は、聞き覚えのある声だった。
 彼はハッとして「まさか」とは思いながらも、ふと口にする。

「ミチル!?」

 トメラは立ち上がり、辺りを見回した。
 だが、そこにいるのは私服姿をしたメリケンの学生たちばかりで、あのミチルの姿は全くない。
(空耳か……)
 彼がそう思った瞬間、またも声が飛び込んできた。

「やっぱり、トメラだったのね!」

 トメラは耳を疑った。
 だが、この明るくてやさしい口調は間違いない、ミチルの声だった。
「ミチル!」
 トメラは驚いてしまった。
 彼の目の前には、メリケンの私服姿をした、あのミチルがいたのだから。

   ☆ ☆

「驚いたよ……。こんなところで出会うなんて」
 トメラの言葉に対して、ミチルはにこりと微笑む。
「それはこっちのセリフよ。あなたに出会えて、本当によかったわ」
「ああ、ボクもだよ! それより……」
 トメラは、ミチルの胸元に視線を下げた。
「ミチル。どうしたの、この服」
 
彼がそう問いかけると、ミチルは口元を小さくして「盗んだの」とつぶやいた。
「盗んだ!?」
「ああっ、声が大きいって!」
「あっ、ごめん!」
 トメラは口を押え、ふと辺りを見回した。
 幸い、キャンパスの庭園にいる学生たちは、二人の会話に耳を傾けてはいなかった。
 みんなそれぞれのやるべきことに向かって、トメラとミチルをさらりと素通りしていく。
 トメラは、声を小さくして言った。
「ミチル、どこから盗んできたんだよ」
 しばしの沈黙の後、彼女は答えた。
「……よその家から」
 それを聞くと、トメラは天井に向かって深々とため息をついた。
「仕方なかったのよ」
「わかってる。わかってるけど……」
 必死に弁明しようとするミチルを制して、トメラは自分の思考を整理していく。
「とりあえず、ここじゃ人目が多すぎる。別の所へ行こう」
 そう言って、トメラはミチルを連れて、校外へ出るのであった。

「ここならいいだろ」
 トメラたちがたどり着いた場所は、田畑が広がる片田舎の空き家。
 建物は見るからにボロボロで、壁には虫食いの穴がいくつもある。
「ここだったら誰も来ないだろうから、しばらくはここで暮らせばいいよ」
「ありがとう」
 ミチルはそう感謝の言葉を述べたのちに、ふと辺りを見回した。
「それにしても、メリケンのような都市国家でも、こんな空き家があるのね」
「まあ、首都圏のブライト市でさえも、年々人口が減ってるからね。郊外へ行くほど、こういう空き家はザラにあるんだ」
「へえ、そうなの」
 トメラは「ああ」と返事したのちに、急に険しい表情になる。
「さて、ここからが大変なんだよ。ミチル……これからどうする気なの?」
 トメラの問いかけに対し、ミチルは苦しげな表情を浮かべながら俯いた。
「……わからない」
 そんな彼女の答えを聞いて、トメラは鼻穴から大きく嘆息する。
「なるほどね……。いまはまだ何とかなってるけど、ここも危険だ。もしもブライト市の警察に見つかったら、捕まるかもしれないんだよ」
「わかってるわよ」
「だったら、どうしてここにやってきたんだ」
 ミチルは、一瞬視線を泳がせたが、恥ずかしげにこう答えた。
「決まってるじゃないっ。あなたに会うためよ」
「えっ?」
 ミチルはふと、トメラの腕にしがみついた。
「みっ、ミチル!」
 トメラは顔を真っ赤にして、辺りを見回す。
 ミチルはそんなことは気にも留めず、トメラの胸にギュッと抱きしめた。
「怖かった……さびしかった!」
 その言葉を聞いて、トメラは彼女の状況を深く理解した。
 そしていつの間にか、トメラはミチルの長い黒髪の頭をやさしく撫でていたのだった。
(そうか……ミチルはずっと一人で、戦ってたんだね……)
 トメラは静かに、ミチルの震える肩をやさしく抱きしめた。

 その時だった。
 
トメラのズボンの右ポケットから、ブルブルッ、ブルブルッ、と震える音が聴こえてくる。
 その瞬間、二人の間に恥じらいが生じ、互いに一定の距離をとった。
 トメラは右ポケットからスマートフォンを取り出す。
「やっべ! どうしよう……」
「どうしたの」
 ミチルの問いに対し、トメラは答えた。
「先生から電話が来てるんだ」
「先生?」
「そう。今日は大学の授業日だったからさ」
「えっ!?」
 トメラはミチルに背を向けて、かかってきた電話に出る。
「ああ、もしもし。トメラです」
 電話越しに、怒った調子で話す女性の声が聞こえてくる。
『トメラ! あなた、今どこにいるの!』
「ごめんなさい! 今日は体調が悪くて、途中で抜けちゃったんです」
 トメラはとっさに、嘘をついてしまった。
 だが、メスデランダ先生の方にはまだ気づかれていない様子である。
『……なるほど、それはわかった。けどトメラ、卒業制作まで時間がないのよ? そうやすやすと休まれたら、みんなが困っちゃうの。わかる?』
「はい、重々わかってます」
 トメラは不意に、ミチルの方へ目をやった。
 ミチルは目を丸くして、何度も瞬きしながらトメラを見つめている。
 トメラはしばらく電話の応対をしたのち、スマートフォンの画面をタッチする。
「悪い、ミチル。今日はここまでだ。僕、ウチに帰って舞台の原稿を書き進めくちゃ」
「そう……わかったわ。トメラ、本当にありがとう」
「いいよ。また困った時には、連絡してね」
「うん!」
 トメラは、雑草だらけな空き家の庭へ出て行く。
 すると、ミチルはポケットから黒い小箱を取り出した。
「何だい、それ」
 彼の問いかけに対してミチルは応じながら、トメラにその小箱を示す。
「これは、わたしの大切なペンダントをしまう小箱よ。いつも夜にペンダントをお供えするときに使ってるの」
「お供え?」
 ミチルは頷いた。
「日頃から天国にいるご先祖様にお供えすれば、願いが叶うって言われてるの」
 ミチルはそう言って、自分の首にかけている水色のペンダントを外し、その小箱に納める。
 そして、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「トメラの願いが、叶いますようにっ!」
 そう言って、ミチルは小箱をトメラに手渡したのだった。
   ☆ ☆

「トメラ。なに、この小箱は」
 マリアはトメラに、いきなりそう問いかけてきた。
 居間の窓辺に置かれている小箱に手を伸ばそうとしている母に向かって、トメラは言った。
「友達から預かった、大事なものだよ。日頃から、こうやってお供えしておくといいらしいんだ」
「へえ~」
 マリアは興味津々の様子で、その小箱を恭しく窓辺に戻した。
 するとそこに、玄関の方から「ただいまー」という声が聞こえてくる。
 主人のジョージが帰ってきたのだ。
「いっけね、厄介な人が帰ってきたぞ」
「トメラ、そんなこと言わないの」
「はいはい。悪かったよ、お母さん」
 トメラは資料を抱えながら、さっさと階段を上っていく。
 マリアはそんなトメラを見て、深くため息をついた。
「しょうがないわねぇ」
 マリアは階段の方をじっと見つめたのちに、居間の窓辺に置いてある黒い小箱に目をやったのだった。

 トメラは、机の上でじっと考えている。
 彼は原稿を前にして、ずいぶん書きあぐねていた。
 次の言葉を書こうと思っても、何を書けばいいのかがさっぱりわからない。
 彼は何とか脚本制作の時間を設けたものの、できることといったら、せいぜい原稿用紙の前でペン回しをすることだけだった。

 ブルッと震えるスマートフォン。
 SNSからの通知のようだ。
「ミチルからか」
 トメラはそうつぶやき、スマートフォンの画面をタッチする。
 記入されるパスコード。
 ミチルから、メッセージが届いていた。
『トメラ、昨日はどうもありがとう。おかげで何とかしのげたわ。ただ、私はいま、今日のごはんもまともになくて困ってるの。トメラ、ごめん。私を助けて。お願い!』
 数分熟考した後、トメラは返事を打った。
『わかった! 明日には食べ物を用意して、そっちへいくよ。しばらく待ってて』 
 そう返信したら、再び彼女からメッセージの通知が届いた。
『ありがとう、本当にありがとう!』

 メリケンのブライト市の郊外に、夜明けの朝がやってきた。
 トメラは自転車をこぎながら、ふと山際から漏れる日の光を見つめた。
 曙の太陽は、相変わらずきれいだ。
「トメラ!」
 彼の自転車のもとに、ミチルは物陰から駆け寄ってきた。
 トメラは自転車のかごから、サンドイッチとお茶を手渡す。
「ミチル、大丈夫だったかい?」
 ミチルは頷いた。
「ええ。まぁ、しばらくお風呂に入れてないのはつらいけど、生きていれば何とかなるわ。トメラもいることだし」
 そう言って、彼女はにこやかに微笑んだ。
 そんな彼女の健気な姿を見ると、余計にトメラの心は苦しくなった。
「ごめん」
 申し訳なさげに言うトメラに対して、ミチルはううん、と軽く首を振る。
「悪いのは私の方よ。朝から迷惑かけてばっかりで。ごめんなさい」
「ごめん……」
 再び彼から発する詫びの言葉を聞いた瞬間、ミチルは胸を射抜かれたような表情になった。
 目にたまる涙。
 だが、彼女はぐっとこらえて言う。
「大丈夫。きっと、なんとかなるわ。……ね?」
 そして、彼女は懸命に、ニコッと笑った。

 それでも、トメラの表情は硬いままだ。
「トメラ?」
 なおもにこやかな表情でトメラの顔を伺うミチル。
 トメラは、ポケットに手を入れる。
「……やっぱり、これは、キミが持っているべきだ」
「え?」
 彼はポケットから黒い小箱を取り出し、その小箱の蓋を開けた。
「このペンダントは、キミの方がよっぽど似合うよ」
 トメラはそう言いながら、ミチルの首に水色のペンダントを丁寧にかけた。
「うん、よく似合ってる」
 彼がそう微笑みかけると、ミチルもなにやら嬉しそうな表情を浮かべた。
「ボクの一番の願いは、キミが幸せになることだ。このペンダントが、キミを導いてくれますように」
 トメラはそう祈りを捧げると、ミチルは気恥ずかしそうに「ありがとう」とつぶやくのだった。
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