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間章・はしる魔王さまは約束を守りたい⑤

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※流血表現注意。



 岩の陰に身を隠していたのは、デスタリオラよりも背が低い鉄鬼族の子どもや、痩せた女たちだった。浅黒い肌は前に会った黒鐘ほど濃いものではなく、外見だけならウーゼら小鬼族のほうが近いように思う。
 ざっと見る限り数は十二名、その中に若い男はひとりも見当たらない。
 こちらを見上げる眼差しに、怯えが多分に含まれていることは理解している。突然巨大な翼竜が目の前に現れ、そこから見知らぬ者が降りてきたなら警戒するのも当然。だが、住処で何があったのか状況を説明してもらわねば事情もわからない。
 さてどうしたものかと怯える子どもらを睥睨していると、背中にしがみついていたアリアが脇から顔を出した。

「あ、ちょっとそこのあんた、血が出てるわ、膝を擦りむいてるじゃない!」

 そう声を上げるなり今にも泣き出しそうな少年の傍らへ駆け寄り、一度はたいたドレスに再び砂がつくのも構わず屈み込む。

「うっわ、痛そう……。何してんのよデスタリオラ、早く治してあげなさいよ」

「なぜお前に命じられねばならぬのだ、まったく……」

 岩陰に歩み寄り、収蔵空間インベントリから水瓶を取り出す。ひと抱えもある大瓶は少し前に水路の水質調査に使ってそのままだから、汲みたての水がいっぱいに入っている。
 その水を手で掬って患部にかけ、軽く傷口の汚れを落としてから治癒の魔法をかけてやった。痛みもすぐに引いたはずだ。あまり魔法に馴染みがないのか、子どもは不思議そうな表情をして自分の足とデスタリオラの顔を何度も見ている。

「他に怪我をしている者がいれば治してやろう。我は黒鐘の知己だ、以前にお前たちの住処にも赴いたことがある、危害を加えたりはせん。何か問題が起きたのなら話してみよ」

 そう話しかけても、誰も応える声をあげようとしなかった。固まったまま身動きを見せない鉄鬼族たちは、いずれも薄汚れて疲労の色が濃い。
 デスタリオラは手の中に金属製の椀を取り出し、瓶から水を汲んで怪我をしていた子どもに持たせた。「飲んで構わない」と言うと、しばらく逡巡を見せたが、よほど喉が渇いていたのだろう、一息に水を飲み始めた。

「このかめの水は安全だ、好きに飲んでいい。子どもでは話がわからんだろうから……年長者は誰だ、何があったのか説明できる者はいないか?」

「あ、あの、」

 か細い声とともに横から出てきた女がよろけて、転倒する前にアリアが体を支えた。
 額に三本の角を持つ女はデスタリオラとそう背丈は変わらない。まだ若いように見えるがひどく痩せており、輪郭も手指も骨が浮いている。何となく、初めて会った頃のウーゼたち兄妹を思い出す。

「な、なが前さ黒鐘おずさまど話すてったの、わも見ますた。お願いすます、どうが助げでけ……」

「ああ、我は助けとなるために来た。何があったんだ、話せるか?」

 立っているのも辛いようで、女はアリアの手を借りたままその場にずるずると座り込む。収蔵空間インベントリを探って金のゴブレットを取り出し、水を汲んで持たせてやる。
 水を飲んで乾きを癒し、一息ついた女が少しずつ語りだしたのは、夜半に起きた突然の襲撃についてだった。

 元々、鉄鬼族の村では力の弱い者や老いた者、病を得た者に居場所はなく、それらの血を継ぐ子どもまで迫害されるような場所だったらしい。
 その状況を憂いた黒鐘がある日、排斥された弱者をまとめて集落から逃れた。山の麓を辿り、あの八朔の樹がある岩場に住処を構えたのはそう昔のことではないようだ。
 手に入る食糧も少ない中、新たな住処でみなが協力しあって平穏に過ごしていたのに、三日前の晩に突然、村の若い衆が襲ってきたのだと言う。
 黒鐘を始めとしたまだ若い者、戦える者が盾となり、住処の裏手から何とか子どもの半数と、それを率いるための女たちを逃した。その際に黒鐘は「ずっと南に歩いて城に行け」と言ったらしい。

「……そうか。いつでも城に来いとは伝えたが、距離を失念していた、ここから徒歩で向かえば相当かかるだろう。早いうちにセトが見つけてくれて良かったな」

「な、何なの、追い出しておいて突然襲ってきたとか、何それ。女を攫いに来たとかそーいう?」

「どうだかな。しかし三日か……」

 非難に震えるアリアを後目に、岩陰から空を見上げる。セトが飛ばしてくれたお陰で日没にはまだ時間がある。もう少し運んでもらえば彼らの集落まではすぐに着くだろう。
 剛鉄の黒鐘、直に拳を交わしてその実力の確かさは知っている相手だ、三日三晩くらい持ちこたえているはず。
 もうひとつ椀になりそうな銀食器を取り出し、付近の子どもに持たせる。安全だと理解したのだろう、水瓶の周囲には他の子どもたちも集まっていた。

「我はこれから黒鐘の元へ向かう。アリアは念のためここに残って彼らを見ていろ、村の追っ手が来ないとも限らない。鉄鬼族は強いぞ、用心しておけ」

「え? あ、うん、わかったわ、ここにいる」

 ついてきたいと駄々をこねることもなく、意外にすんなり頷いた少女を残し、着地した場所で待っているセトの元まで戻る。
 普段はうるさいだけでも、魔法の腕は信頼できる。もし鉄鬼族の若者が襲ってきたとしても、この場にはアリアがいれば大丈夫だろう。

「セト、前に我を降ろした岩を覚えているか? あそこよりもう少しだけ北に行った場所へ運んでくれ」

『わかりました、どうぞ乗ってくださいな、ひとっ飛びで着きますよ!』




 あの晩の清涼な針葉樹林の空気が一変していた。
 饐えたような血と臓物の匂い。
 関節のひしゃげた死体や、ちぎれた腕があたりに散乱している。泥にも見える周囲の水溜りは、全て流れ出た血液だ。各種耐性が付与されている自分でなければ、この場での呼吸は耐え難いものだったろう。
 セトの背から降りた後、記憶を頼りに木々の間を疾走した。突き出る岩を避け、物言わぬ肉塊を飛び越え、黒鐘たちが住処としていた岩壁の裂け目まで駆け抜ける。
 途中、青々と茂っていた八朔の木がいくつも薙ぎ倒され無残な断面を見せている。地に落ちて割れた八朔の実のそばには、同じように頭蓋を割られて中身を晒す、小柄な鉄鬼族の死体が転がっていた。痩せた体では満足な抵抗もできたとは思えないが、すぐ横に大柄な男も伏せている。
 小さな者たちは黒鐘が庇護していた身内で、所々にある大きな死体は襲ってきた集落の者たちだろう。
 割れた岩盤に抉られた地面、折れた大木、激しい戦いの痕跡がそこかしこについている。

 以前、八朔の木を譲り受けた場所を越え、割けた岩場にたどり着いた。

「……」

 凄惨な光景を晒し、鉄臭さを帯びた空気だけが沈殿している。
 壁にもたれたまま腹部を潰されたもの、殴打され首が後ろを向いたもの、踏み潰されて広がり原型を留めないもの、両脚を掴んで引きちぎられたもの、そこにはいくつもの小さな死骸が転がっていた。
 これが、あの痩せた女の言っていた、残りの半数なのだろう。細い腕、小さな頭。いずれも無抵抗のまま一方的な殺戮を受けた痕跡が見られる。
 枯れ木のような老人や、皮膚病を患っているらしい男の死体もあった。徹底的に、確実に死に至らしめる暴虐の痕。
 ざっと見る限り動くものはないが、念のためアルトバンデゥスに探査を頼む。

<報告:この場に生体反応はありません>

 すぐ足元には見開いたままの目に虚空を映す幼子の死体。それらを放置して去るのも気が引けたが、修復が不可能な以上、この場で自分にできることはない。今は黒鐘と生存者を探すほうが先だと判断した。

<検知:ここから真っ直ぐ東へ行った地点に、二十程度の反応があります。内二体は現在交戦中の模様>

 その報告にデスタリオラが暗がりから身を翻したところで、岩同士を打ち鳴らすような重低音を捉えた。そう離れてはいない。念のため周囲に動くものはないか視線を巡らせながら、倒木の間をひた走る。

 細い針葉樹の間を抜け、大きな岩を飛び越えるとあたりに尖った石が目立つようになってきた。川が近いのだろう、この方角なら黒鐘と初めて出会ったあの崖の下流だ。
 土に残った複数の足跡、砕かれた岩、おびただしい血痕、それらの痕跡を目で追いながら同じ道を駆け抜ける。
 飛び越えた岩の脇に、倒木へもたれるようにして長身の鉄鬼族が倒れていた。まだかろうじて息はあるようだが、この程度は自然治癒すると見て素通りする。
 やがて川の水音がしてくると、前方に赤褐色の背中が並んで壁のように道を塞いでいるのが見えた。
 数は八。そのうちの二体がこちらの接近に気づき振り向く。

「何だ、まだ潰す残すがいだが?」

「あいは同族だばねだろ」

 構わず走り続け、未だ振り返ろうともしない者の背を蹴り、肩を踏み台に飛び越えて壁の向こう側へと降り立つ。
 高い障害物を抜けた先は、渓流を望む低い崖のようになっていた。その手前、満身創痍の黒鐘がしわに埋もれた目を丸くして突然現れたデスタリオラを見る。
 ちょうど組み伏した相手の喉を逞しい二の腕で締めているところだったから、巨躯の目線が近い。

「縺r燕輔※ノ他ッ譎?」

「うむ、久しいな黒鐘。元気……そうには見えないが、まだ生きいて何よりだ」

 以前とずいぶん様相は違っているし、何を言っているか聞き取れなかったが、この大きな老爺は見間違えようもない。デスタリオラは軽く杖をあげて再会の挨拶をする。
 筋骨隆々とした体はそこら中が痣だらけで、どこに傷があるのか定かでないほど流血がおびただしい。赤黒い肌が隙間なく同色の液体に濡れている。
 その体の向こう側に視線を向ければ、黒鐘よりも小さな鉄鬼族らが十名程、身を寄せ合うようにして固まっていた。女と子どもに老人、痩せた男もいる。
 まだ生き残りがいたことに、わずかながら安堵のような気持ちを抱く。
 黒鐘を盾に、崖縁へ追い詰めらたような形を見る限り、住処からここまで防戦しながら逃げ延びたのか。よく三日間持ちこたえた。

「大分やられているようだな、止血だけでもいるか?」

 その問いに返ってきた声は、くぐもっている上に訛りもあってひどく聞き取り難いが「戦いが終わるまでは治さない決まり」と言っているようだ。
 そこで首を締めていた相手が完全に落ちたらしく、黒鐘が腕を外すと、力を失った巨体が砂利を弾きながら地に伏した。

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