きぐるみ♡女神伝

きぐるみんZ

文字の大きさ
上 下
8 / 50
第1章.母 Ⅰ

008縫.形見とテイムぐるみ

しおりを挟む
 母の京子がスッと差し出したアタッシュケースは、表面がウッドカラーで生きた樹木の様に蠢いています。
それにも関わらず、その持ち方からしてそんなに重量は無さそうです。
取っ手とか、見た目の感じは普通のアタッシュケースと何ら変わり無さそうです。


ガサゴソガサゴソ……


 朱璃はアタッシュケースを上へ下へ、右へ左へとくるくる回転させながらくまなくチェックしています。

 ……あれ?
どれだけ見てみても、本来あるハズのものが見当たりません。
鍵を挿して開ける為の鍵穴も。
そして、回して数字を揃えて開ける為のダイヤルキーも。

「あの……
このアタッシュケース、どうやって開けるんですか?」

 ニックは、ニコニコしながら答えます。

「このアタッシュケース、“ 腕力 ” でも “ 魔力 ” でも開ける事は出来ないよー。」

 京子は人差し指を立て、自分の胸をトントンと叩きながら答えます。

「コレを開ける手段はただ1つ…… “ 命 ” だけなのよ。」

 えっ、“ 命 ” って……?
またお母さん、物騒な事をボソッと言い出しましたね……

「ど、どうすれば……開けれるんですか?」


 ニックは、朱璃に向かってバサッと翼を広げました。

「その説明はボクがするよー!
ボク自身にも関わる事だからねー。」

 ニックは翼を広げたままチョンチョンと小ジャンプして、今度は京子の方に振り向きました。

「いいー、ご主人さまー?」


 くぅ~~~っ!!!
つぶらな瞳で首をちょこんと傾げながら言われると……
ダメとは言えないでしょーにっ!


「お願いニック、アナタから朱璃に説明してあげて!」

 さっそく、ニックによる朱璃へのレクチャーが始まりました!

「じゃお姉ちゃん、目を閉じて下さーい!
その状態のまま、自分の心臓の鼓動を感じるんでーす。」

 朱璃は、静かに目を閉じて……
そのまま自分の手を胸の上、ちょうど心臓に当たる位置にそっと当てます。


トクン……トクン……


「そして、心臓の鼓動を感じ取る事が出来たら……
自分の両手を相手に向けて、そのまま心臓の鼓動ごと相手に投げ出す様なイメージを頭の中で作り出して下さーい!」

 朱璃は、目を閉じたまま静かに両手をアタッシュケースの方に向かって広げて……
そのまま自分の心臓の鼓動ごと、アタッシュケースに投げ出すイメージをしてみました!

 すると、実際にはアタッシュケースを抱き締めていないのにシュルシュル……とシャンパンゴールドの “ 帯 ” がそれにまとわり付き朱璃のココロと繋がりました。
そして、優しく包み込む “ 感触 ” だけがダイレクトに伝わって来たんです!

 なぜ、朱璃は何の苦も無く一発で成功出来たんでしょう?
なぜなら、「舞う」という行為は……
舞いを通して神様にココロを差し出す行為。
奇しくも、ニックが要求していた行為が日頃シャンパンゴールドの “ 帯 ” を自由に扱える様に練習していた動作そのものだったからなんです!


 さすがです……
お姉ちゃんも母上のキョウコ様讓り、いやそれよりも更に格上のモノをお持ちの様だよねー。
って言うか、「それ」使えるなら最初から言ってよー!


 ニックは朱璃の意識に眠る、まだ見ぬ潜在能力の高さに舌を巻いてしまいました。

 朱璃のココロと結び付いた“ 帯 ” がアタッシュケースを外からゆっくりジワジワと浸透して行き……
その中に入っている “ モノ ” に直接触れる事が出来たみたいです。

「ん……何かに触れた “ 感触 ” がありましたよ?」


カツン……!


 シャンパンゴールドの “ 帯 ” がアタッシュケースの中身と触れた途端、アタッシュケースの留め金が外れた音がしました。

 朱璃がニックの方を振り向くと、ニックはこちらを見てコクンと頷いています。
朱璃はそっと、ゆっくりアタッシュケースを開けてみると……その中には、ウサギのきぐるみが入っていたんです!

 それを見て、感慨深そうに京子は言いました。

「朱璃、モンスターを捕まえて仲間にする事を “ テイム ” って言うの。
そして、テイムして一生を添い遂げてくれたモンスターの『形見』というべきドロップアイテムから作ったきぐるみの事を “ テイムぐるみ ” って言うの。
そのひとつでキュイラージのドロップアイテムから作ったのが、この『キュイぐるみ』なのよ。
私は “ 獣縫師けもぬいし ” のジョブスキルできぐるみに魂を込める事が出来るから、そのスキルを使ってもともと自分専用だったこのキュイぐるみを朱璃の仕様にリメイクしたのよ。」

 京子は、きぐるみを見てフフッと微笑みます。

「その上で、新たに “ 魂 ” を籠める前の状態でこのアタッシュケースに封印したの。
全ては次の世代になる朱璃に託す為にね……」

 京子はキュイぐるみを娘の朱璃に渡せて、とても嬉しそうです。

「そして今、朱璃はこのきぐるみに自分の “ 魂 ” を籠めたわ。
これで『譲渡』は完了よ。
ちゃんと朱璃の “ 魂 ” を主と認めて、最期までラブラブ寄り添ってくれるみたいよ。」


















 テイムぐるみは野生モンスターから作られた量産品である量産ぐるみとは違い、テイムモンスターの形見から作られた “ 一点モノ ” の高級品なんです。
だから、持ち主を昇天させてでも奪い取ろうとする輩が後を絶たないんだそうです。
それに対する自衛策こそ、今行った『譲渡の儀式』です。
「譲渡」という形式を通らずに次の持ち主の手に渡ると、テイムモンスターが泣いて悲しむからか、きぐるみの性能が著しく損なわれるんだそうで……

 果たして、キュイぐるみの性能とは以下程のものなんでしょうか……?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

石田三成だけど現代社会ふざけんな

実は犬です。
ファンタジー
 関ヶ原の戦いで徳川家康に敗れた石田三成。  京都六条河原にて処刑された次の瞬間、彼は21世紀の日本に住む若い夫婦の子供になっていた。  しかし、三成の第二の人生は波乱の幕開けである。 「是非に及ばず」  転生して現代に生まれ出でた瞬間に、混乱極まって信長公の決め台詞をついつい口走ってしまった三成。  結果、母親や助産師など分娩室にいた全員が悲鳴を上げ、挙句は世間すらも騒がせることとなった。  そして、そんな事件から早5年――  石田三成こと『石家光成』も無事に幼稚園児となっていた。  右を見ても左を見ても、摩訶不思議なからくり道具がひしめく現代。  それらに心ときめかせながら、また、現世における新しい家族や幼稚園で知り合った幼い友人らと親交を深めながら、光成は現代社会を必死に生きる。  しかし、戦国の世とは違う現代の風習や人間関係の軋轢も甘くはない。  現代社会における光成の平和な生活は次第に脅かされ、幼稚園の仲間も苦しい状況へと追い込まれる。  大切な仲間を助けるため、そして大切な仲間との平和な生活を守るため。  光成は戦国の世の忌むべき力と共に、闘うことを決意した。 歴史に詳しくない方も是非!(作者もあまり詳しくありません(笑))

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...