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第1章.母 Ⅰ
008縫.形見とテイムぐるみ
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母の京子がスッと差し出したアタッシュケースは、表面がウッドカラーで生きた樹木の様に蠢いています。
それにも関わらず、その持ち方からしてそんなに重量は無さそうです。
取っ手とか、見た目の感じは普通のアタッシュケースと何ら変わり無さそうです。
ガサゴソガサゴソ……
朱璃はアタッシュケースを上へ下へ、右へ左へとくるくる回転させながらくまなくチェックしています。
……あれ?
どれだけ見てみても、本来あるハズのものが見当たりません。
鍵を挿して開ける為の鍵穴も。
そして、回して数字を揃えて開ける為のダイヤルキーも。
「あの……
このアタッシュケース、どうやって開けるんですか?」
ニックは、ニコニコしながら答えます。
「このアタッシュケース、“ 腕力 ” でも “ 魔力 ” でも開ける事は出来ないよー。」
京子は人差し指を立て、自分の胸をトントンと叩きながら答えます。
「コレを開ける手段はただ1つ…… “ 命 ” だけなのよ。」
えっ、“ 命 ” って……?
またお母さん、物騒な事をボソッと言い出しましたね……
「ど、どうすれば……開けれるんですか?」
ニックは、朱璃に向かってバサッと翼を広げました。
「その説明はボクがするよー!
ボク自身にも関わる事だからねー。」
ニックは翼を広げたままチョンチョンと小ジャンプして、今度は京子の方に振り向きました。
「いいー、ご主人さまー?」
くぅ~~~っ!!!
つぶらな瞳で首をちょこんと傾げながら言われると……
ダメとは言えないでしょーにっ!
「お願いニック、アナタから朱璃に説明してあげて!」
さっそく、ニックによる朱璃へのレクチャーが始まりました!
「じゃお姉ちゃん、目を閉じて下さーい!
その状態のまま、自分の心臓の鼓動を感じるんでーす。」
朱璃は、静かに目を閉じて……
そのまま自分の手を胸の上、ちょうど心臓に当たる位置にそっと当てます。
トクン……トクン……
「そして、心臓の鼓動を感じ取る事が出来たら……
自分の両手を相手に向けて、そのまま心臓の鼓動ごと相手に投げ出す様なイメージを頭の中で作り出して下さーい!」
朱璃は、目を閉じたまま静かに両手をアタッシュケースの方に向かって広げて……
そのまま自分の心臓の鼓動ごと、アタッシュケースに投げ出すイメージをしてみました!
すると、実際にはアタッシュケースを抱き締めていないのにシュルシュル……とシャンパンゴールドの “ 帯 ” がそれにまとわり付き朱璃のココロと繋がりました。
そして、優しく包み込む “ 感触 ” だけがダイレクトに伝わって来たんです!
なぜ、朱璃は何の苦も無く一発で成功出来たんでしょう?
なぜなら、「舞う」という行為は……
舞いを通して神様にココロを差し出す行為。
奇しくも、ニックが要求していた行為が日頃シャンパンゴールドの “ 帯 ” を自由に扱える様に練習していた動作そのものだったからなんです!
さすがです……
お姉ちゃんも母上のキョウコ様讓り、いやそれよりも更に格上のモノをお持ちの様だよねー。
って言うか、「それ」使えるなら最初から言ってよー!
ニックは朱璃の意識に眠る、まだ見ぬ潜在能力の高さに舌を巻いてしまいました。
朱璃のココロと結び付いた“ 帯 ” がアタッシュケースを外からゆっくりジワジワと浸透して行き……
その中に入っている “ モノ ” に直接触れる事が出来たみたいです。
「ん……何かに触れた “ 感触 ” がありましたよ?」
カツン……!
シャンパンゴールドの “ 帯 ” がアタッシュケースの中身と触れた途端、アタッシュケースの留め金が外れた音がしました。
朱璃がニックの方を振り向くと、ニックはこちらを見てコクンと頷いています。
朱璃はそっと、ゆっくりアタッシュケースを開けてみると……その中には、ウサギのきぐるみが入っていたんです!
それを見て、感慨深そうに京子は言いました。
「朱璃、モンスターを捕まえて仲間にする事を “ テイム ” って言うの。
そして、テイムして一生を添い遂げてくれたモンスターの『形見』というべきドロップアイテムから作ったきぐるみの事を “ テイムぐるみ ” って言うの。
そのひとつでキュイラージのドロップアイテムから作ったのが、この『キュイぐるみ』なのよ。
私は “ 獣縫師 ” のジョブスキルできぐるみに魂を込める事が出来るから、そのスキルを使ってもともと自分専用だったこのキュイぐるみを朱璃の仕様にリメイクしたのよ。」
京子は、きぐるみを見てフフッと微笑みます。
「その上で、新たに “ 魂 ” を籠める前の状態でこのアタッシュケースに封印したの。
全ては次の世代になる朱璃に託す為にね……」
京子はキュイぐるみを娘の朱璃に渡せて、とても嬉しそうです。
「そして今、朱璃はこのきぐるみに自分の “ 魂 ” を籠めたわ。
これで『譲渡』は完了よ。
ちゃんと朱璃の “ 魂 ” を主と認めて、最期までラブラブ寄り添ってくれるみたいよ。」
テイムぐるみは野生モンスターから作られた量産品である量産ぐるみとは違い、テイムモンスターの形見から作られた “ 一点モノ ” の高級品なんです。
だから、持ち主を昇天させてでも奪い取ろうとする輩が後を絶たないんだそうです。
それに対する自衛策こそ、今行った『譲渡の儀式』です。
「譲渡」という形式を通らずに次の持ち主の手に渡ると、テイムモンスターが泣いて悲しむからか、きぐるみの性能が著しく損なわれるんだそうで……
果たして、キュイぐるみの性能とは以下程のものなんでしょうか……?
それにも関わらず、その持ち方からしてそんなに重量は無さそうです。
取っ手とか、見た目の感じは普通のアタッシュケースと何ら変わり無さそうです。
ガサゴソガサゴソ……
朱璃はアタッシュケースを上へ下へ、右へ左へとくるくる回転させながらくまなくチェックしています。
……あれ?
どれだけ見てみても、本来あるハズのものが見当たりません。
鍵を挿して開ける為の鍵穴も。
そして、回して数字を揃えて開ける為のダイヤルキーも。
「あの……
このアタッシュケース、どうやって開けるんですか?」
ニックは、ニコニコしながら答えます。
「このアタッシュケース、“ 腕力 ” でも “ 魔力 ” でも開ける事は出来ないよー。」
京子は人差し指を立て、自分の胸をトントンと叩きながら答えます。
「コレを開ける手段はただ1つ…… “ 命 ” だけなのよ。」
えっ、“ 命 ” って……?
またお母さん、物騒な事をボソッと言い出しましたね……
「ど、どうすれば……開けれるんですか?」
ニックは、朱璃に向かってバサッと翼を広げました。
「その説明はボクがするよー!
ボク自身にも関わる事だからねー。」
ニックは翼を広げたままチョンチョンと小ジャンプして、今度は京子の方に振り向きました。
「いいー、ご主人さまー?」
くぅ~~~っ!!!
つぶらな瞳で首をちょこんと傾げながら言われると……
ダメとは言えないでしょーにっ!
「お願いニック、アナタから朱璃に説明してあげて!」
さっそく、ニックによる朱璃へのレクチャーが始まりました!
「じゃお姉ちゃん、目を閉じて下さーい!
その状態のまま、自分の心臓の鼓動を感じるんでーす。」
朱璃は、静かに目を閉じて……
そのまま自分の手を胸の上、ちょうど心臓に当たる位置にそっと当てます。
トクン……トクン……
「そして、心臓の鼓動を感じ取る事が出来たら……
自分の両手を相手に向けて、そのまま心臓の鼓動ごと相手に投げ出す様なイメージを頭の中で作り出して下さーい!」
朱璃は、目を閉じたまま静かに両手をアタッシュケースの方に向かって広げて……
そのまま自分の心臓の鼓動ごと、アタッシュケースに投げ出すイメージをしてみました!
すると、実際にはアタッシュケースを抱き締めていないのにシュルシュル……とシャンパンゴールドの “ 帯 ” がそれにまとわり付き朱璃のココロと繋がりました。
そして、優しく包み込む “ 感触 ” だけがダイレクトに伝わって来たんです!
なぜ、朱璃は何の苦も無く一発で成功出来たんでしょう?
なぜなら、「舞う」という行為は……
舞いを通して神様にココロを差し出す行為。
奇しくも、ニックが要求していた行為が日頃シャンパンゴールドの “ 帯 ” を自由に扱える様に練習していた動作そのものだったからなんです!
さすがです……
お姉ちゃんも母上のキョウコ様讓り、いやそれよりも更に格上のモノをお持ちの様だよねー。
って言うか、「それ」使えるなら最初から言ってよー!
ニックは朱璃の意識に眠る、まだ見ぬ潜在能力の高さに舌を巻いてしまいました。
朱璃のココロと結び付いた“ 帯 ” がアタッシュケースを外からゆっくりジワジワと浸透して行き……
その中に入っている “ モノ ” に直接触れる事が出来たみたいです。
「ん……何かに触れた “ 感触 ” がありましたよ?」
カツン……!
シャンパンゴールドの “ 帯 ” がアタッシュケースの中身と触れた途端、アタッシュケースの留め金が外れた音がしました。
朱璃がニックの方を振り向くと、ニックはこちらを見てコクンと頷いています。
朱璃はそっと、ゆっくりアタッシュケースを開けてみると……その中には、ウサギのきぐるみが入っていたんです!
それを見て、感慨深そうに京子は言いました。
「朱璃、モンスターを捕まえて仲間にする事を “ テイム ” って言うの。
そして、テイムして一生を添い遂げてくれたモンスターの『形見』というべきドロップアイテムから作ったきぐるみの事を “ テイムぐるみ ” って言うの。
そのひとつでキュイラージのドロップアイテムから作ったのが、この『キュイぐるみ』なのよ。
私は “ 獣縫師 ” のジョブスキルできぐるみに魂を込める事が出来るから、そのスキルを使ってもともと自分専用だったこのキュイぐるみを朱璃の仕様にリメイクしたのよ。」
京子は、きぐるみを見てフフッと微笑みます。
「その上で、新たに “ 魂 ” を籠める前の状態でこのアタッシュケースに封印したの。
全ては次の世代になる朱璃に託す為にね……」
京子はキュイぐるみを娘の朱璃に渡せて、とても嬉しそうです。
「そして今、朱璃はこのきぐるみに自分の “ 魂 ” を籠めたわ。
これで『譲渡』は完了よ。
ちゃんと朱璃の “ 魂 ” を主と認めて、最期までラブラブ寄り添ってくれるみたいよ。」
テイムぐるみは野生モンスターから作られた量産品である量産ぐるみとは違い、テイムモンスターの形見から作られた “ 一点モノ ” の高級品なんです。
だから、持ち主を昇天させてでも奪い取ろうとする輩が後を絶たないんだそうです。
それに対する自衛策こそ、今行った『譲渡の儀式』です。
「譲渡」という形式を通らずに次の持ち主の手に渡ると、テイムモンスターが泣いて悲しむからか、きぐるみの性能が著しく損なわれるんだそうで……
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