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第3章.地上界編

第42話.『黒い影』の恐怖!(その2)

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 その夜中、和諒の部屋にて。
部屋の引き戸は閉まっており、部屋の灯りも漏れては来ていません。
和諒は、もう寝た様ですね……

……!

 いや、何やら声がします。
どうやら、扉の向こうから聞こえるみたいです。
引き戸からそっと聞き耳を立ててみると……寝言とかの類ではありません。
これは……悲鳴です!


……く……来るな……黒い影が……

……な……何で身体……動か……ないっ……

……やめろっ……うわぁぁっ……

目の前が暗く……あがぁぁぁっ!……

………………

…………

……


 月明かりの下、窓から和諒の部屋の様子が見えます。
部屋にいるのは、虚ろな目をして立ち尽くす和諒。
そして、左手首の傷痕と繋がる黒い影。
黒い影は傷痕に吸収され、傷痕は綺麗に無くなったんです。



 翌朝、和諒の部屋にて……
朝一番に様子を見に来たのは、京子です。

「おはよう、和諒。
左手首の傷痕の方は、まだズキズキし……」

 次の瞬間、京子は言葉を失いました。
和諒の部屋はベッドも布団も箪笥タンスもメチャメチャに荒らされており、壁のあちこちに血糊がついています。
これは、「物盗り」の仕業ではありません。
どちらかと言うとこの部屋から脱出しようとして大暴れして、それでも失敗した跡と見た方が正しいと思われます。

 そして部屋の中央にはその大暴れした張本人、和諒が仰向けで倒れていたんです。


シュン……シュン……


 和諒の身体からは黒い粒子が、まるで “ 抜けて行く ” かの様に徐々に蒸発して上へと舞い上がっています!


 京子は、ココで何かが起こったんだとすぐ悟りました。
そして、その場で足袋を脱ぎ始めました。
裸足になった京子は、気を円で囲む様にイメージすると……
両手両足の升掛け線が発光し始め、そこから伸びる蒼白い線が円となり各々おのおのに繋がって行くではありませんか。

 白夜輝環紋ルミナスリングです!

 そして京子は一度目を閉じ、再びゆっくりと目を開けてみると……
そこで京子が月環ガチリンを通して見たのは、霊体が徐々に肉体から剥がれて行きつつある、半死半生の和諒の姿だったんです!
しかし、そこにはもうひとつの現象が……!


キィン……キィン……


 和諒の霊体の上から覆い被さる様に、“ シャンパンゴールドの帯 ” が黒い粒子の蒸発を最小限に喰い止めているんです!

「和諒っ……?
コレじゃ、手を突っ込めないわ!」

 しかも京子が和諒の部屋に入ろうと手を伸ばした瞬間、神次元の結界に覆われた部屋の中から伸びるドロッとした何かが京子の腕を押し戻すんです。


 これは一体……
まるで、2つの相反する力が和諒の中でせめぎ合ってるみたい。
かつて「白い巫女」と呼ばれ、かつて黒い巫女を打ち倒して地上界破滅の危機を救った私でさえ……この部屋では蚊帳の外。
ここまで無力感に苛まれたのは初めてだわ。
もう、何もしてあげる事が出来ないの?





・精神世界

 一方、ここは和諒の精神世界。
和諒は精神を “ 禁忌の力 ” に浸食され、気を失ったまま「霊体の鎖」に雁字搦がんじがらめに縛られています。
そして、和諒の身体に巻き付く様にへばり付いて離れない黒い影。
黒い影からは漆黒の羽根が伸びています。

 そこに、ひた……ひた……と近付く人影があります。


 全くもって、悪趣味ですね……ふぅ。


 その姿は全身が神々しく輝いており、背中には純白の4対の羽根を纏っています。
そして、一番目に付くのは……神気の糸で編み込んだ純白のきぐるみ。
そう、サクラが着ている “ キュイぐるみ ” にウリふたつなんです!


 ナ、ナゼ女神ノオマエガ、ココニ……?

 だっても何も、和諒と桜はワタシが女神になった後にスキル『輪廻転生』でお母さんに “ 最後の親孝行 ” としてプレゼントした「転生体」ですから。
ワタシの神気でシンクロ出来るのは、当たり前です。

 その代わり女神になる代償として、ワタシっていう “ 娘 ” の存在は永久に抹消されてるんですけど……


 その為、桜は京子の “ 孫 ” なんです。
京子は桜を孫と認識出来ますが、自分に娘がいたという事実は永久に思い出せません。

 ちなみに、ケルピーに襲われてサクラが瀕死になった時にシェリルとサクラ、2人の精神世界に出て来たのもこの女神さまです。


 女神のワタシがこのアストラルボディ精霊体で神界の外に向けて干渉するのって、実は相当なリスクがあるんです。
でも、ワタシの転生体である和諒の精神世界でなら話は別です!
結界を創り出す際に、ワタシの霊体が必要にはなっちゃうんですけど。
 貴方と直接勝負するのは2に任せて、ワタシは和諒を……我が子を護るのに専念します!


 そうして女神は和諒に直接触れ、“ 禁忌の力 ” の浸食を食い止め始めたんです。

「ナニ、『女神ノ結界』ダト……!
忌々シイ……!」

 和諒から漏れ聞こえる声は禍々まがまがしく、けれど確かにそう言ったんです!

「この部屋全体に、結界を張らせて貰いました……
ワタシの霊体いのちに賭けても、これ以上は浸食させません!」


















 しかし、女神が霊体を削って創り出したこの結界、一体いつまで持つんでしょう……?
女神の霊体が尽きる前までに、誰かがこの黒い影への対抗策を見出してくれないと……!









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