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第2章.日本編

第26話.インプからの逃避行(その3)

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 夕日が落ちて、月が顔を出しても攻防戦は続きます。
しかし、シェリルとサクラはひとつ失念していた事があります。
インプは、とにかくしつこいんです!
県道から少し逸れると、山肌に沿って高台へと続くなだらかな上り坂があります。
横目には上り坂の途中、至る所に段々畑が見えます。

「近寄るなっ!このっ!」

 シェリルはこの上り坂を走りながら、ピンクゴールドの曲剣でインプの頭をポコポコ叩きます。
サクラも、小石とか道端に落ちているモノを利用した壁ドン♡のショットガン攻撃、そしてあごクイ♡のカウンターで少しずつインプ達の体力を減らしてどうにかその場を凌いでいます。
一撃で昇天させられる壁ドン♡ブレットは腕を捻り入れる技なので、過度の使用は関節が耐えられず悲鳴を上げてしまいます。
「1対多」を想定した、多角用拡散技ではないから。
でも、闘いの経験値が無いに等しいシェリルと人魚さんを守るにはこの技に、『胸キュン♡流格闘術』に頼らざるを得ないんです。

 闘いながら走って逃げているので、周りの景色を見るゆとりは有りません。
しかし、その間にも高台の下の方から舞い上がるインプ達が上り坂の路肩横からひょいひょい出て来ます。
インプは群れを作るモンスター、と言われていますが……
一体、何匹いるんでしょう?

 シェリルとサクラは、ひたすら消耗戦を強いられています。
しかし、インプ達の攻撃を凌ぎながらついに高台の頂上まで来れました。
そして高台の頂上には、目の前に広がる台地と点在する集落……
そして、左手に見える電車の駅。
そして、シェリル達3人の背後で身構える……インプ達の群れ!

 シェリルは、ピンクゴールドの曲剣を杖代わりにしてハァハァと肩で息をしています。
その後ろではシェリルに守られる様にうずくまり、抱き締める様に自分のそれぞれの腕をもう片方の腕で抱えてインプ達を睨みつけるサクラと、彼女を抱いてガタガタ震える人魚さん。

「ボクはどうなってもいいから、サクラと人魚さんだけは守り抜くんだっ……!」

「キキキキーーーーッ!!!」

 シェリルに全員で飛び掛からんとインプ達がうなり声を上げた、その時です……!


「イイわねぇ、貴方の……その心意気っ!
この地点に来るまで、よく頑張って凌いだじゃないの!」


 思わず、シェリルは声のする方角を振り向きました。
声のする方角にあるのは、蒼白く輝く月……
イヤイヤ、待って!
確かに、そことは違う方角の夜空に大きな満月が顔を出していますから。
では今でも声のする方角に浮いている、あの蒼白い月環ガチリンは一体何なんでしょうか?

「そ……その声は……おばあ……ちゃん?」

「えっ、どっからどー見ても “ でっかい月環 ” にしか見えないんだけどさー!??」

 シェリルは「どこからそんな発想が!?」とガビーン顔です。

「ちょ、ちょっと、私を “ UMA ” みたいに見ないでよねっ!
シェリルさん、そちらの異世界で『白い巫女』って聞いた事ない?」


 何か、声がアタフタしてるよね……
でも、何でボクの名前を知ってるの?

 それより『白い巫女』って言えば、ボクも小さい時から繰り返し聞かされてた。
大戦を2度も終結へと導いた……別名……


 月環ガチリンの巫女!!!


「ま、まさか……」

「私は、フィリルほど甘くはなれないわよ?
インプ達、ちょっと手荒になるわよぉ!」

 月夜に浮かぶ影はチャージして月環から蒼白い炎を体内に吸収した後、正拳突きの要領で拳を前に突き出します!

「ルナティック=ブラストぉ!」

 すると、その拳の先から蒼白い光が解き放たれます。
その光がインプ達を次々と呑み込み、ボッ!ボッ!と丸い光球に包まれて行きます。
続いて、少しずつ角度をズラして何度も正拳突きをします。
その度に蒼白い光が乱舞し、それは360度全域に及びます。
右から左へボッボッボッ!と次々に出来る丸い光球の中では、インプが連鎖爆裂に巻き込まれています。
その時に出来る白い煙が沈殿して、眼下にモクモクと溜まって行きます。
そして、どの丸い光球も包まれた後に煙となってシュ……と消えて行きます。

ゲ……ゲェェ……


















 その時丸い光球が消えて行くのと同時に、連鎖爆裂に巻き込まれ燃え尽きた瀕死のインプ達がモクモクの煙へ落ちて行くのでした。
しかも次々に、まるで木を足蹴りした時のカブトムシみたいにポトッ、またポトッと……







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