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第2章.日本編

第21話.初モノづくしの世界(その1)

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 次に、2人は道沿いにあるこじんまりとした建物に入って行きます。

「サクラ、この建物はなぁに?」

「この建物はね、コンビニエンスストアって言うの。
この世界にあるどんな物だって、大概はココに来れば揃っちゃう便利なお店なの。
この世界の人達はみんな、『コンビニ』って呼んで愛用しているのよ。」

 シェリルは、目を丸くして驚いています。

「えっ、武器とか……防具も?」

 へぇ……、異世界の人ってこういう事にビックリするのね!

「ちょっと、さすがにそれは……置いてないわね。」


 またひとつ、シェリルの新しい一面を垣間見れてサクラは嬉しくて仕方ありません。
もっともっと、ワタシの知らないシェリルを見てみたいな……!


 サクラはそう思いながらクリアラテを、シェリルはミネラルウォーターを選びます。
当然シェリルはこの世界のお金を持っている訳が無いので、レジでサクラが2本分お金を払います。

 その横でシェリルは背中を向いて、半身だけ店員さんの方へひるがえしながらヘィ!とサムズアップをしてみます。
しかし、コンビニの店員さんはおろかコンビニのお客さんの誰ひとりとしてシェリルが視えていません。


 何時までしているのよ、その悪ノリ(笑)


 サクラがレジの袋を持ち、2人仲良くコンビニから外に出ると……
コンビニの外で、たくさんの人がざわ付いています。

「誰かにコンビニ弁当を盗まれた!」

「私が食べようと思ってたサンドイッチが!」

「ウソっ、オレの財布がられてる!」

「ママぁ、ワタシのジュースがぁ……!」

 みんな、無い無い!と大騒ぎしています。
サクラが、慌てず落ち着いて周囲をぐるりと見廻みまわしてみます。


 あ、すぐ犯人が分かったわ。
歩道の反対……車道のガードレールの上にレプラコーンが3匹、この人達から掠め取り奪い取った “ 戦利品 ” を物色してキャッキャ喜んでいたの。

 ホントに全くもう、手クセの悪いレプラコーン達ね。
でも、よく様子を観察してみると……
どこかの山のサルみたいに、観光客の食べ物を奪って食料にしたりするって訳では無さそうね。
たぶんレプラコーン達は、異世界には存在しないモノ、だけどこの世界には当たり前の様に溢れ返っているモノが珍しくて、目新しくてしょうが無いのよ。
シェリルくんだって、自動車やコンビニを見て目を丸くしていたくらいだからね。

 でも、いくら物珍しいからと言ってこの世界の人達にメイワクをかけてはダメよね。
やはり、レプラコーン達は異世界に還すべきだわ……
この様にモンスター達には1匹ずつ、それぞれ異世界に還さなくてはならない理由が別々に存在するの。
その事を、シェリルくんにはちゃんと分かって欲しいな……
シェリルくんを身近でフォローしながら、その事をひとつずつ教えてあげる事こそ、“ お姉ちゃん ” であるワタシの役目なの。


 ……サクラは、好きな人の前では “ お姉ちゃん ” でいたいって性分なんでしょうか?
それとも、コレがサクラの『ダダ甘♡』症状なの?

「シェリルくん、犯人はあそこにいるレプラコーン達よ!
盗まれたモノを取り返してあげて!」

「えっ、でもどうやって……?」

「いい、シェリルくん?
レプラコーンって、イタズラ好きなモンスターなの。
この世界が目新しいモノで溢れ返ってる限り、きっと際限無くイタズラを続けるわよ!
あの子達は、本来ココにいちゃダメなの!
闘いに勝って、あの子達を向こうの異世界に帰してあげて!」

 さっそくシェリルとサクラはレプラコーン達の所へ向かおうとしました、が……
次の瞬間、彼らの前に大きな “ 壁 ” が立ちはだかります。
そう、『信号機』という巨大過ぎる壁が……!

 シェリルは今すぐにでもレプラコーン達を追いたかったんですが、一旦信号機が赤に変わると目の前は自動車という大きな “ 鉄のハコの川 ” に早変わりです。
この川の中に踏み込むのが命取りだって事は、シェリルも本能で察知している様です。
サクラも日々の生活で交通規則の重要性は身に染み付いているので、信号機を前にすると問答無用で一時停止してしまいます。


















 信号機が青になるまでシェリルとサクラが足踏みをしているのを眺めながら、レプラコーン達はキキキッ!と笑って姿を消してしまったんです。







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