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団長は公爵様

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 公爵家にはお抱えの騎士団があり、レオンハルトはそこの副団長をしているんだって。

 その名も『青竜騎士団』

 もちろん、俺の中の中二の血が騒いだぜ!
 レオンハルトの服は青の騎士服。出会った時から、この服かっこいいって思ってた。レオンハルトに似合ってる。

「騎士かぁ…かっこいいよなぁ…俺そういうの憧れるよ」
「なっ!リトは私が守りますから!危ないことはしないでください」

 レオンハルト、そんな泣きそうな顔で止めなくても大丈夫だぜ。
 何と言ってもそこは俺クォリティー。中学で身長が止まった俺は、せめてムキムキマッチョになってやるって必死で筋トレしたけどまったく筋肉がつかなかった。
 筋肉が駄目なら色黒ヤフォー系のお兄さんになってやると海で寝そべってたら背中が真っ赤に爛れて一週間入院した。寝返りもうてなくて、痛くて泣いた。
 そんなだからさ、俺はたぶん騎士にはなれない。力もなければ運動神経も人並みだからさ。泣いてないよ?

「俺に騎士は無理だって。心配すんな」

 目の前のレオンハルトをまじまじと眺める。

「その制服本当にかっこいいよな」
「制服ですか?…一生着続けます。もうこれしか着ません」

 やめてくれ。本当にそうしそうで怖い。何でも極端なんだよ。

 レオンハルトに連れられて行った騎士団の訓練所では、おそらく夜中なのに剣と剣がぶつかり合う音が響いていた。

 レオンハルトの後ろに隠れて、ちょっとだけ顔を出して眺める。だっていきなり知らない人達に会うのはちょっと……俺人見知りだから。昔から友達は多くないんだ。一番の親友は、残念ではあるが山田だし。誠に遺憾ではあるがな!

「か、かわっ」

 そんな俺を見てレオンハルトの奴がなんか悶えているが、知らん。

 レオンハルトと一緒に訓練場に入ると、あんなにキンコンカンコンやってたはずの音が一瞬で無くなった。しんと静まりかえる訓練場内……え、何これアウェイすぎない?人見知り発動しまくるんだけど。


「団長、報告があります」

 さっきまで訓練してた集団の輪の中心にいるのが団長のようだ。
 ここからだとよく見えないけど、他の奴らより頭一つ大きくて、金色の頭が見える。
 レオンハルトと並ぶと、若干団長の方が大きいのか?二人共でかいけどな。羨ましくなんかないぞ。俺だって百六十五センチはあるんだ。女子の平均身長よりは高い。

「何だ?」
「落ち人を保護いたしました。西の森付近から来たとのことです」

 落ち人⁉︎とざわざわしだす場内。やめてくれ。平凡である自分を呪ったことは数知れずの俺だが、目立つことは苦手だ。

「あの美しい人が⁉︎」
「確かに黒髪に黒い瞳をしているぞ」
「ばか、黒髪なら王都の貴族共の中にもいるじゃねーか」
「でもあれほど見事な黒髪は初めて見ます」
「じゃあ、本物か?」
「本当なのか⁉︎」

「静かにしろ!」

 おお、団長の一声で空気がぴしっとなった。

 俺をよく見ようとじりじり近づいてくる集団に、同じだけじりじりと後退してた俺の動きも止まる。

 集団の中をまっすぐ横切って、団長が俺の前まで来た。
 団長もレオンハルトに負けず劣らずのイケメンだった。襟足のあたりで切り揃えられた金色のウェーブがかった髪、深い青色の瞳。レオンハルトが美人系だとしたら、目の前の人は王子様そのものって感じ。二人が並ぶと神々しい。目が!目があぁぁぁ!

「驚かせてすまない……っっ!……俺はロイス・オーウェン。このオーウェン公爵家の当主だ」

 え、当主って事は公爵様?身分制度には詳しくないけど、公爵って偉い人だよな?このでっかい宮殿の持ち主?

「はじめまして、俺は菅原凛人と申します。名前がリトで姓がスガワラです。レオンハルトにもお願いしましたが、リトと呼んでいただければ…」

「リト」

 めちゃくちゃ食い気味に名前を呼ばれた。団長、慌てん坊さんなのかな?

「……確かにこれほど美しい黒髪に黒目は、落ち人でしかありえない」
 
 おおっと野太い声が飛び交う。何人かはきゃーっとはしゃいでもいる。もちろん野太い声で。

「確か団長は十年ほど前に一度落ち人に会われているのですよね?」

 え、そうなのか。他にもいるんじゃん落ち人。

「ああ」

 ロイス団長が頷くのと同時にまた「おおっ!」と野太い声が上がる。賑やかだな。
 いつの間にか俺と団長とレオンハルトの三人を中心に輪ができている。

「だ、団長!」

 取り囲むようにしていた輪の中から誰かが問いかける。

「その落ち人も、この方のようにお美しかったので⁉︎」

 いくつもの目が興味津々といった様子でロイス団長を仰ぎ見る。何か、巣の中にいる雛みたいだ。

「いや…王宮で保護されていた落ち人は私達とよく似た方だった」

 王宮には絵姿が残っているはずだ、とロイス団長が続ける。

 しーんとなる雛達。

「な、なるほど…」
「それはさぞ苦労されたでしょうね」
「そっか、落ち人だから美しいとは限らねーのか」
「じゃあリト様は奇跡…」
「奇跡!」
「「「「奇跡!」」」」

 何の宗教だよ。やめろ、復唱するな。キラキラした目で見るんじゃありません。
 よく見ると、ここに集まってる連中は団長やレオンハルト程ではないが全員イケメンだ。顔面偏差値の暴力だ。あ、でもここでは俺の方がイケメンなのか?何か改めて、価値観バグってるなぁ。

「その落ち人は今どうしてるんですか?」
「こちらの世界で一年と少しお過ごしになられた後、元の世界へ帰られた」

 え?そんなあっさり帰れんの?

「帰るって…どうすれば帰れるんですか?」

 俺の質問に、隣でレオンハルトの空気が凍るのがわかった。そんなに手握り締めたら怪我するぞ。

「レオンハルト、先に言っとく。俺別に元の世界に戻りたいとか思ってないから」

 両親は俺が小学生の時に交通事故で死んでしまったし、五年前に育ててくれたばーちゃんも死んだ。向こうの世界で俺を待ってる人はいないし、特に会いたい奴もいないんだ。あ、山田は……山田はまぁいいわ。山田だし。

 安心させるように腕をぽんぽんすると、握り締めていた手をゆっくりと解いて体の力を抜いた。良かった。

「それで、帰るって具体的に何かするんですか?」

 俺達の様子を驚いた顔で見ていた団長が、はっとして俺の言葉に応える。

「落ち人とは、神の落とし子だと言われている。だから、神は落とし子の強い願いをひとつだけ叶えてくれると言い伝えられている。十年前の落ち人はおそらく帰りたいと強く願ったのだろう」

 ここに来て、またファンタジーだ。神様まで出てきちゃって。

「じゃあ、俺が強く願えば何でも叶うってことですか?」
「おそらく…だから落ち人の事は丁重に保護するのが世界の決まりだ。悪人に悪用されない為でもある」

 そっか、だって落ち人が世界滅亡を強く願ったり、この世界の誰かに悪い事願わされたりしたら、大変なことになるもんな。
 え、俺、生きた時限爆弾すぎない?

 そんな事情を聞かされたらだんだん怖くなってきた。俺、無神論者だけど、実際に異世界に来ちゃってるしな。よくわからないが不思議な力が存在してるってのは信じるしかない。
 絶対しょーもない事しか考えないようにしよう。そうしよう。

 ロイス団長が王家に報告するまでの間、俺は一旦公爵家預かりとなった。

 ロイス団長とレオンハルトが案内してくれる。

「これからもずっと一緒ですね」

 さっき俺が元の世界に戻るつもりはないと言ったのが相当嬉しかったのか、レオンハルトがほくほく顔で振り返る。つやつやのほっぺ、ピンク色になってんぞ。
 クリスマスの朝に興奮する子供かよ。可愛い奴だ。
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