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そうだ、牧場に行こう
しおりを挟む「おはようございます」
久々に会った大神君が、雑然とした俺の部屋の腰高窓の前に立ち、白いカーテンを開けている。
家着のジーンズにラフな白シャツを着て、差し込む朝日を浴びたその横顔は神々しいほどキラキラしていて、心臓がきゅーんとした。
……完全に恋愛ドラマの見過ぎだと思われそうだけど、女の子でも気後れしてしまいそうな、シミ一つなく整った肌、凛々しい眉毛の下で細められた、切長の琥珀色の瞳……見とれない方が無理だ。
そうそう、一緒に暮らすようになって、大神君の表情筋が、ちょっとだけ柔らかくなった気がするんだよな。
無表情で尻尾を振るだけじゃなく、不器用だけど、ちゃんと人間ぽく顔でも微笑んでくれるようになった。
それが、凄く凄く可愛くて。
アイドルスマイルは完璧にできるのに、この可愛い本当の笑顔を知ってるのは世界で俺だけ。
神様……推しが本日も尊いです……と心の中で拝んでいたら、
「あの……今日から俺、やっとオフです……三日間。陸斗さんも、今日から休みですよね……?」
「!?」
突然の問いかけに心底驚いた。
新婚直後からすれ違い生活で未だ交際日数0日状態、偽装結婚を疑われてもおかしくない今日この頃だったけど。
やっとあの無人島以来、一緒に過ごせる日が来た!?
そりゃ大変だ!
せめて昨日からそうと知ってりゃあ、もうちょっと早起きもしたのに……!
とはいえ、後悔したって仕方がない。
俺は跳ね起き、ベッドから飛び出して叫んだ。
「よし、一緒にどっか遊びに行こう!」
「本当ですかっ」
我慢できない、っていう勢いで、大神君が俺にがばーっと飛びついてきた。
ベッドに逆戻りさせられながら布団の上に押し倒され、狼の姿でもないのにベロンベロンと顔を舐められる。
「ひえっ! ちょっと、大神君!?」
ちょ、強い強い、それは刺激が強すぎる!
シャツの胸を掴んで止めると、ペロペロはやめてくれたけど、両腕の間に閉じ込められたまま、真顔でじいっと顔を見つめられた。
「……?」
どう、しよう。
今、うさぎの時並みの心拍数になってる、俺。
頰が熱い。……いや、頰だけじゃあ、ないかも。
整い過ぎてる顔が近付いてきて、耳元に熱い息がかかる。
ああ、なんだかまた脳みそが気持ちよくフワフワしてきた……、大神君、好きだ、俺を食べてくれ……。
と、勝手に盛り上がってたら、囁かれたのは愛の言葉じゃあなかった。
「あの……結婚してるのに大神君はやめて下さい。……俺も兎原です」
あ~~……。
そうだよね。
君、絶対に俺と同じ苗字になるって主張して。
国際結婚だから夫婦別姓がOKで、本名の李俊(イジュン)そのままで行ける所を、わざわざ兎原(うはら)俊(しゅん)で通名届け出してたもんな。
「じゃ、じゃあ、今日から俊♡って呼んでみようか……?」
試しにそう言ってみたら、大神君は凄い勢いでベッドの上をゴロゴロ横転して、痛そうな音を立ててフローリングの床に落ちた。
「…………」
どうしよう、シーンとしちゃってるぞ。
「だ、大丈夫、大神君……?」
上から覗き込むと、大神君はうつ伏せに倒れたまま辛うじて返事をした。
「……大丈夫です……慣れてないだけです……」
うーん。
抱きついてペロペロは出来るのに、名前呼びは堪えられないのか……。読めない。
大丈夫じゃなさそうだから、これは――今日からいっぱい呼んで慣れるしかねぇな。
「で、俊。今日どこ行く?」
こっちも照れそうになるのを我慢して、大神君――もとい、今日から俊!に手を差し伸べた。
真っ赤な顔をしたまま俊が俺の手を取って起き上がり、恥ずかしそうに視線を伏せる。
「……。俺、日本でどうしても行ってみたい所があって……」
「ふんふん。どこ?」
俊のいきたい所かあ、どこだろう。
公園? 映画? 買い物? それともまさか……。
俺だって男なので、その、夫婦らしいこと? には一応興味があるんだぜ……!
ドキドキしながら色々考えた俺の予想は――次の瞬間、完全に外れた。
「俺、ファーザー牧場に行きたいです」
……。
…………。
俺の中学の時の、遠足の行き先じゃねぇーか!
いや、よく思い出すと小学校でも行ったし、なんならそれ以外でも死んだ母ちゃんに一回連れてかれたわ。
イチャイチャは出来そうにないけど……俊がファーザー牧場にいきたい理由は、何となく分かる。
……恐らく、美味しそうな動物が好きなんだ。
変な期待とかは心の隅に追いやりつつ、俺はどんと胸を叩いた。
「いいよ。ちょっと遠いけど、いこーぜ! ファーザー牧場!」
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