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早すぎる再会
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しおりを挟む仕切りのお陰で死角ができているため、ちょっとした個室のように見える。食堂側からだとそこに席があるとは気付きにくく、これならしばらくは静かに食事ができるだろう。
「ここ結構いい席だな。周りから見え難い上に景色が良い」
強い日差しは木々が遮り、おまけに立派な錦鯉が泳ぐ風情ある景色が堪能できる。まるで絵画のような美しい情景が広がる窓の向こうを眺め、呉宇軒は良い場所を見つけたと上機嫌で席に着いた。呂子星と王茗は仲良く向かいに座り、お互いのトレーを見比べて物珍しい料理に興味津々だ。
「これ何? 殻ごと食べていいの?」
早速食事を始めた王茗がカラッと揚がった海老を箸で持ち上げながら尋ねてくる。
「ああ、油爆蝦な。うちの店でも出してるよ。それ丸ごとイケるやつだからそのままで大丈夫」
呉宇軒の実家『一二三飯店』は四川生まれの祖父が地元の四川の他に上海、広東料理の店で修行を積んで開いた店だ。店名の一二三は速い、美味い、安いの三拍子と共に三つの地域とも掛けられている。油爆蝦は当然メニューに載っている定番料理で、芳ばしくて甘辛い味付けが特徴だ。
呉宇軒が店の手伝いをしていた時にもよく作っていた。カラカラと揚がる川海老の芳ばしい香りを思い出し、口の中に唾液が滲む。ここの油爆蝦は実家で出しているものより薬味の葱が大きめだ。
まだ実家を離れてそれほど経っていないのに、見慣れた料理を見るとなんとなく家に帰りたい気持ちになる。
呉宇軒は郷愁の気持ちを追いやるように大好物の海老蒸し餃子に箸を伸ばした。モチモチとした皮に包まれた蒸し海老に舌鼓を打っていると、向かいに座った二人がぽかんとした表情で固まっているのが目に入る。
「何アホ面してんだ?」
不思議なものを見るような目で見返すと、呂子星は困惑した様子でいや……と口ごもった。
「お前、良いとこの坊っちゃんみたいな食い方してんな……」
背筋をピンと伸ばし、きちんと箸を揃えて食事をする姿は見た目に反して非常に行儀が良い。
唖然としていた呂子星がテーブルに置いた肘をそっと元に戻すのを見て、呉宇軒はハハッと笑って答えた。
「良いとこの坊っちゃんと毎日飯食ってたからな。あいつ、小さい頃俺の真似ばっかしてたから一緒に躾けられたんだよ」
『良いとこの坊っちゃん』とはもちろん、幼馴染の李浩然のことだ。呉宇軒の両親は共働きだったので、その間は彼の母親が子どもたちの面倒をまとめて見てくれていた。彼の母親は赤ん坊の頃から大人しくて物静かだった李兄弟に物足りなさを感じていたらしく、元気いっぱいで表情豊かな呉宇軒は大層歓迎された。
生まれた時から一緒に過ごしていたせいか、幼い頃の李浩然は何故か兄ではなく呉宇軒の真似をするのが好きだった。そういうわけで、変な癖がついてはいけないからと二人まとめてマナーを叩き込まれたのだ。
「それに、俺みたいなのが行儀良く食べてると女子ウケ良いし」
箸の先が不揃いのまま白米を掻き込んでいた王茗は、その言葉にすっと姿勢を正して箸を持ち直した。急に行儀が良くなった王茗を横目で見て、呂子星が皮肉めいた笑みを浮かべる。
「彼女居るんじゃなかったのか?」
「彼女に良いとこ見せたいじゃん!」
そう熱弁を振るうも米粒を口の横に付けたままだ。なんとも脇が甘い姿に、呂子星は失笑してテーブルの上の紙ナプキンを手渡す。
まるで親子のような光景を笑って見ていると、呂子星は改まった表情で呉宇軒へ問いかけた。
「そういや、李浩然とは腐れ縁って言ってなかったか? 随分仲良しじゃねぇか」
「まあ、中学上がるまではずっと一緒に寝てたからな。親父の件でゴタついて、それからちょっと距離できたけど」
「「一緒に寝てた!?」」
仕切りの向こうまで聞こえるような大声に、呉宇軒は眉を顰めた。
「そんなに驚くことか? 小さい頃はあいつの兄ちゃんも入れて三人で寝ることもあったんだぜ?」
仲の良い友人がいればお泊まり会の一度や二度経験しているだろう。呉宇軒の場合は家族ぐるみで親しくしていたので、それが毎日続いていただけだ。
同意を求めるように二人を見るも、腑に落ちない顔で首を傾げられた。
「浩然のやつ、小さい頃は俺にべったりでさ。俺の姿が見えないとすぐ『軒軒はどこ? 軒軒がいなくなっちゃった!』って泣きながら家中探し回ってたんだよ」
幼い李浩然は仲良しの呉宇軒が一緒でなければ意地でも寝付かず、一緒に寝た後にこっそり引き離そうものならすぐに目を覚まし、家中をひっくり返す勢いで探し回る始末だった。
毎晩そんなことが続いたので、彼の両親はほとほと困り果てたらしい。呉宇軒の両親が仕事をしている日中は李家に預けられ、寝る時は二人仲良く呉家で過ごすのがいつの間にか恒例となっていた。
「なんか可愛いな」
王茗の言葉に、呉宇軒も昔を懐かしんで微笑んだ。
「だろ? 今でこそあんなんだけど、あいつの可愛い頃は全部証拠として動画に残ってるからな」
優等生の模範とも言える今の姿からは想像ができないが、幼い李浩然の我儘は両親をうんざりするほど困らせた。
とは言え我儘になるのは特定の条件が揃った時のみだけだ。普段は大人しくて天使のように可愛いのに、呉宇軒が絡むと途端に聞き分けのない小さな怪獣になってしまう。
「ちょっと気持ち分かるな。俺もお気に入りのクマちゃんのぬいぐるみが無かったら眠れないし」
汗だくになりながら麻婆豆腐を食べていた呂子星は、王茗の思わぬ発言にぎょっとして手を止めた。口の中のものをお茶で流し込むと、訝しげな視線を向ける。
「まさか持って来てないだろうな」
「持って来てるけど? 俺のちっちゃい頃からの相棒だぞ!」
一緒じゃないと寝れないし!と言い張る王茗に、呂子星はそっと目を閉じ、心を落ち着かせてから口を開いた。
「まあ、人それぞれだよな……」
どうやら他人には寛容でいようと決めているらしい。
なんとも微笑ましいやり取りに笑みが溢れるも、二人のやり取りにふと疑問が浮かんだ。
「お前の彼女もそれ知ってんの?」
「ちゃんと紹介済みだよ」
王茗は満面の笑みで答えた。まるで両親に紹介するような言い草に、先ほど気持ちを切り替えたばかりの呂子星が食事を喉に詰まらせて咳き込んだ。
「お前っ……紹介したってなんだよ!」
ほら、と王茗が携帯を取り出して見せる。
画面をまじまじと見た呂子星は、難しい顔をすると向かいに座る呉宇軒へ携帯を滑らせた。
「彼女って言うより姉みたいだな」
受け取った携帯を見ると、そこには気の強そうな女子とクマのぬいぐるみを挟んで記念撮影している王茗が映っていた。吊り目がちでキリッとしたなかなかの美人だ。タレ目でのほほんとした顔の王茗と並ぶと、呂子星の言うように仲の良い姉弟に見える。
「そういや彼女、弟が欲しいって言ってたなぁ」
「付き合ってるっていうのはお前の勘違いなんじゃねぇのか?」
「そりゃないな」
呉宇軒は呂子星の言葉を否定すると、彼に向かって携帯を滑らせた。
「どう見てもラブラブだよ」
携帯を持ち直した時にうっかりスライドさせてしまい、次の画像を見てしまった。 その写真はクマとのスリーショットを撮ったそのすぐ後に撮影されたらしい。王茗に腕を絡めた彼女が頬にキスしている画像だった。どう見ても熱々カップルだ。
イチャイチャしている画像を見てしまった呂子星は眉間にシワを寄せ、なんとも言えず渋い表情を浮かべる。
「仲がいいのはいい事じゃねぇか」
クマのぬいぐるみと寝ている彼氏を笑って受け入れるとは、王茗の彼女はかなり懐が深い。写真に映る王茗の幸せそうな顔を見ると、二人が上手くいっているのがよく分かる。
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