39 / 83
8章 我慢はみんな大変です
3.
しおりを挟む
そして「こちらでございます」とカシルが渡した紫玉に先生は言葉をなくしてプルプル手を震わせている。カシルがさっと僕の耳を両手でふさぐ、展開を見越して準備する僕の執事優秀。
「こちらは僕が作ったものです。名前がないと困るので便宜上紫玉とよんでいます。瘴気を変質させて僕の魔力に近い形にしたものです。害はないので触っても割っても大丈夫です。結構固いので、割るなら剣で切ったほうが良いかと。僕は浄化魔法を使えませんので、このような方法をとって「ひゃああああああああああ!!!!」」
やっぱり叫んだ。でもカシルのおかげで僕の鼓膜は無事だった。
「なんということだ!! 素晴らしいよ!! トラ君! 君は浄化魔法を使えないと言ったけど!! これこそ君の浄化魔法だよ!!」
今、なんと?
「え、浄化……魔法……ですか?」
衝撃のセリフを聞いてしまい、たどたどしく返事をしてしまう。
「そうだよ! 浄化魔法だよ! これは君の闇属性の魔力の塊だ! はわわわわわ!! 奇跡だよ!! 私は今奇跡を目撃している!! 闇属性の魔力をこの手に乗せているなんて!」
ファリア先生はソファから立ち上がり紫玉をのせた両手を上に掲げて小躍りを始めた。
「すごい! すごいよぉ! 魔力を宝石とか剣に閉じ込めるならわかるけどっ、魔力そのものが固まって石として存在してるなんて奇跡としか言いようがないよぉ!!」
それって、僕が浄化魔法を使える、ということだよね? え、じゃぁ……と、どうしても気になる疑問が湧き出てきた。
「ちょっと、ちょっと待ってください。落ち着いてください、ファリア先生」
しかし先生は「ひゃっはぁ~!」と言いながら小躍りをやめない。
するとカシルが「すみませんハルトライア様、少々耳から手をはずします」と言い、耳から話した手ですぐに踊るファリア先生の両手を捕まえた。
「カルシード公爵夫人。いい加減落ち着いてくださいませ。話が進みません。この紫玉は話が終わるまで没収いたします」
と紫玉をさっと奪い取る。
「ああああああああ!! かえしてよぉ!! 奇跡の宝石なのに!!」
カシルの手が離れた後すぐ自分で耳をふさいでおいてよかった。叫ぶ癖を治してくれないかな。
「まず、前提としてこちらは公爵夫人の持ち物ではございません」
「ください!! おねがいします!!」
土下座した。やめてほしい。てか僕先生に聞きたいことがあるんだけど。
「ファリア先生、とりあえず僕の質問に答えてください。そのあと、考えますので」
「ください!!」
「ファリア先生、聞いてます?」
「くだ「いい加減になさいませ!!」」
カシルがまたもブチ切れた。ファリア先生は本当にカシルを怒らせるのが得意だ。ちょっとうらやましい。僕は何やっても怒られないのに。
うぞ、と【つる】が動いたのが分かった。まだ飛び出すほどじゃないけれど。ああ、僕は心が狭いなぁ。すぐ嫉妬してしまう。
ふぅ~とひそかに深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「ファリア先生、質問があります」
「わかった、わかったよぉ。きくよぉ~」
「ありがとうございます。僕が浄化魔法を使えるとはどういうことでしょうか。まず闇属性であることは魔物である証拠です。僕は魔物のように理性をなくしていないですが」
ファリア先生はソファに座りなおし、はぁあああ、と長く息を吐いてから話始めた。
「私はねぇ、属性魔法の分類を研究していると言ったよね。例えば木の記憶を見る魔法は緑属性、水に過去を映し見る魔法は水属性とかね、じゃあ木の中の樹液の記憶を見る魔法とかあるかな? あったとしたらそれは何属性? ってなるでしょ? そういったあいまいなところを研究してどの属性か調べていくんだ。結局いつも分類しきれなくてたくさんの案件が研究段階さ。まあそういう風に魔法を分類していくとね、浄化魔法を分類するときに困ったんだよ」
どうやら浄化魔法については瘴気を無害なものにする、というざっくりな研究結果しかなかったらしい。しかし各属性すべてに浄化魔法は存在している。では無害になった瘴気は何に変わったのか、属性は違っても結果全部同じ形の無害なものになるのか、無害になるならどうして元の瘴気は悪さをするのか、そもそも瘴気は何なのか、と疑問ばかり沸いてきたと先生は言う。
「なんでみんなそれ気にしなかったのかなぁ~」
とブツブツ愚痴をこぼす先生。
考えるに、ほうきで掃除をしてほこりやゴミを集めて、それをゴミ箱に捨てたら終わり、というの一緒だ。
掃除をして部屋をきれいにするという意識はあっても、そのほこりやゴミがどこからきているか、捨てたそれらはどこに行きどういう終わりになるのか、まで気にする人はあまりいないだろう。
瘴気は浄化魔法で消せる、その事実さえ知っていれば生きるに事足りるのだから。
「まぁ、私が瘴気自体を疑問視するのは、私が人の魔力を見ることができるからなのだろうけれどね。トラ君は紫のとってもきれいな魔力が見えるよ。魔力が見えるようになったのは私の魔力量が莫大になりその魔力のおかげで私の目がなにかしら強化されたからだと思うんだ。魔力が見える人間になったことは私には僥倖さ。研究に役立つからね。この能力は私の知る限りこれまで一人しかいなかったし、眼球抉り出していいかって頼んだら断られたさ。だから自分の目を抉り出したんだけどね。でも旦那に即怒られ治療されて、次やったら離婚って言われたからもうしないけど。ああ、輪切りとか解剖とかしたかったなぁ」
先生、想像以上にマッドサイエンティストじゃないか。
「こちらは僕が作ったものです。名前がないと困るので便宜上紫玉とよんでいます。瘴気を変質させて僕の魔力に近い形にしたものです。害はないので触っても割っても大丈夫です。結構固いので、割るなら剣で切ったほうが良いかと。僕は浄化魔法を使えませんので、このような方法をとって「ひゃああああああああああ!!!!」」
やっぱり叫んだ。でもカシルのおかげで僕の鼓膜は無事だった。
「なんということだ!! 素晴らしいよ!! トラ君! 君は浄化魔法を使えないと言ったけど!! これこそ君の浄化魔法だよ!!」
今、なんと?
「え、浄化……魔法……ですか?」
衝撃のセリフを聞いてしまい、たどたどしく返事をしてしまう。
「そうだよ! 浄化魔法だよ! これは君の闇属性の魔力の塊だ! はわわわわわ!! 奇跡だよ!! 私は今奇跡を目撃している!! 闇属性の魔力をこの手に乗せているなんて!」
ファリア先生はソファから立ち上がり紫玉をのせた両手を上に掲げて小躍りを始めた。
「すごい! すごいよぉ! 魔力を宝石とか剣に閉じ込めるならわかるけどっ、魔力そのものが固まって石として存在してるなんて奇跡としか言いようがないよぉ!!」
それって、僕が浄化魔法を使える、ということだよね? え、じゃぁ……と、どうしても気になる疑問が湧き出てきた。
「ちょっと、ちょっと待ってください。落ち着いてください、ファリア先生」
しかし先生は「ひゃっはぁ~!」と言いながら小躍りをやめない。
するとカシルが「すみませんハルトライア様、少々耳から手をはずします」と言い、耳から話した手ですぐに踊るファリア先生の両手を捕まえた。
「カルシード公爵夫人。いい加減落ち着いてくださいませ。話が進みません。この紫玉は話が終わるまで没収いたします」
と紫玉をさっと奪い取る。
「ああああああああ!! かえしてよぉ!! 奇跡の宝石なのに!!」
カシルの手が離れた後すぐ自分で耳をふさいでおいてよかった。叫ぶ癖を治してくれないかな。
「まず、前提としてこちらは公爵夫人の持ち物ではございません」
「ください!! おねがいします!!」
土下座した。やめてほしい。てか僕先生に聞きたいことがあるんだけど。
「ファリア先生、とりあえず僕の質問に答えてください。そのあと、考えますので」
「ください!!」
「ファリア先生、聞いてます?」
「くだ「いい加減になさいませ!!」」
カシルがまたもブチ切れた。ファリア先生は本当にカシルを怒らせるのが得意だ。ちょっとうらやましい。僕は何やっても怒られないのに。
うぞ、と【つる】が動いたのが分かった。まだ飛び出すほどじゃないけれど。ああ、僕は心が狭いなぁ。すぐ嫉妬してしまう。
ふぅ~とひそかに深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「ファリア先生、質問があります」
「わかった、わかったよぉ。きくよぉ~」
「ありがとうございます。僕が浄化魔法を使えるとはどういうことでしょうか。まず闇属性であることは魔物である証拠です。僕は魔物のように理性をなくしていないですが」
ファリア先生はソファに座りなおし、はぁあああ、と長く息を吐いてから話始めた。
「私はねぇ、属性魔法の分類を研究していると言ったよね。例えば木の記憶を見る魔法は緑属性、水に過去を映し見る魔法は水属性とかね、じゃあ木の中の樹液の記憶を見る魔法とかあるかな? あったとしたらそれは何属性? ってなるでしょ? そういったあいまいなところを研究してどの属性か調べていくんだ。結局いつも分類しきれなくてたくさんの案件が研究段階さ。まあそういう風に魔法を分類していくとね、浄化魔法を分類するときに困ったんだよ」
どうやら浄化魔法については瘴気を無害なものにする、というざっくりな研究結果しかなかったらしい。しかし各属性すべてに浄化魔法は存在している。では無害になった瘴気は何に変わったのか、属性は違っても結果全部同じ形の無害なものになるのか、無害になるならどうして元の瘴気は悪さをするのか、そもそも瘴気は何なのか、と疑問ばかり沸いてきたと先生は言う。
「なんでみんなそれ気にしなかったのかなぁ~」
とブツブツ愚痴をこぼす先生。
考えるに、ほうきで掃除をしてほこりやゴミを集めて、それをゴミ箱に捨てたら終わり、というの一緒だ。
掃除をして部屋をきれいにするという意識はあっても、そのほこりやゴミがどこからきているか、捨てたそれらはどこに行きどういう終わりになるのか、まで気にする人はあまりいないだろう。
瘴気は浄化魔法で消せる、その事実さえ知っていれば生きるに事足りるのだから。
「まぁ、私が瘴気自体を疑問視するのは、私が人の魔力を見ることができるからなのだろうけれどね。トラ君は紫のとってもきれいな魔力が見えるよ。魔力が見えるようになったのは私の魔力量が莫大になりその魔力のおかげで私の目がなにかしら強化されたからだと思うんだ。魔力が見える人間になったことは私には僥倖さ。研究に役立つからね。この能力は私の知る限りこれまで一人しかいなかったし、眼球抉り出していいかって頼んだら断られたさ。だから自分の目を抉り出したんだけどね。でも旦那に即怒られ治療されて、次やったら離婚って言われたからもうしないけど。ああ、輪切りとか解剖とかしたかったなぁ」
先生、想像以上にマッドサイエンティストじゃないか。
50
お気に入りに追加
348
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい
だいず
BL
平凡な生活を送っていた主人公、宇久田冬晴は、ある日異世界に召喚される。「転移者」となった冬晴の仕事は、魔女の予言を授かることだった。慣れない生活に戸惑う冬晴だったが、そんな冬晴を支える人物が現れる。グレンノルト・シルヴェスター、国の騎士団で団長を務める彼は、何も知らない冬晴に、世界のこと、国のこと、様々なことを教えてくれた。そんなグレンノルトに冬晴は次第に惹かれていき___
1度は愛し合った2人が過去のしがらみを断ち切り、再び結ばれるまでの話。
※設定上2人が仲良くなるまで時間がかかります…でもちゃんとハッピーエンドです!
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる