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3章 生きていたのでまた頑張ります

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 コンコン、とノックの音がして、目が覚めた。

「医師をお連れいたしました。失礼します、ハルトライア様」

 てことは短くても1時間くらい寝てたのかな。壁の時計も見えないからわからない。とにかく体が動かないから見えるのは天井のみ。
 その視界に年配のおじさんが入ってきた。50歳くらいかな。細身だけど服の上からも引き締まってるのがわかる。青い目、フチなしの眼鏡かけてる。グレーの髪をスポーツ刈りにしてる。医師も体力がいるし鍛えているのだろうなと思った。

「はじめてお目にかかります、ハルトライア様、私は王城勤務の医師、レイズ=ミュー=カルシードです。2年前よりハルトライア様のお体を診察いたしております。ハルトライア様におきましては、2年前に大変名誉で大変困難な……」

 長くなりそうだな、と思ったとき
「カルシード公爵、まだハルトライア様は目覚めたばかりでご無理がききません。どうか診察にお進みくださいますよう、お願いいたします」
 とカシルが貴族らしい無駄話を打ち切ってくれた。

「はい、申し訳ございません。今すぐ。それでは少々失礼いたします」

 そろ、と布団をめくった医師は、僕の腕をとり、脈を図る。そうして服を脱がせ、胸のあたりに聴診器を当てたり、口を開かせて喉の奥を見たり、瞳に光を当ててみたりと、さまざまに検査をしていく。
 もちろん体のつるについても丁寧に見ていた。前世でいうカルテのようなものに僕の結果を書き込んでいく。

「ハルトライア様、声は出せますでしょうか?」
「すおし、あら」(すこしなら)

「そうですね、2年動かしていないので発音も難しいでしょう。でも根気よくお話を続ければ、元のように滑らかに発音できると思いますよ」

 そして次は関節という関節を全部丁寧に動かしていった。

「これと言ってお体に問題はございません。関節の稼働についても同様ですね。カシル殿とユア殿が献身的にお世話をしてきた結果でしょう。少しずつ筋力をつければこちらも声と同じく日常生活に困らなくなると思いま……っ、ハルトライア様っ?」

 俺の瞳からポロ、と涙がこぼれてきた。

 あれから2年、僕には一瞬だったが二人はいったいどんな気持ちで僕を診ていてくれたのだろう。
 そう思ったらもう止まらなかった。滑らかに動く関節は、毎日毎日何時間もかけて僕をマッサージしてくれた証だ。褥瘡じょくそうも見られないきれいな体。寝る体位を何度も変えてくれたのだろう。

「う、っ……ひっ、カっ……、ュアっ」

 泣く僕の背中を医師がそっとなでる。カシルが顔をハンカチで拭いてくれた。

 そうして診察を終えたあとなかなか涙が止まらない僕をそのままにはできないと、カシルは診察を終えた医師の見送りをユアに任せて僕のそばにいてくれた。

「私共は、ハルトライア様がこうして目覚められたことが、本当にうれしいのです。ですから、これからもお傍にいさせてください」

 腐らずちゃんと生きよう。
 結果ダメだったとしても生きられるだけ努力しよう。

 二人がこうして僕を守ってくれたのだから。


 結局泣き疲れて寝てしまった僕。

 せっかく起きたのに今日は泣いて寝ただけでした。



 そうして翌日、また来訪者が来た。陛下と第3王子殿下だった。一応昨日来た医師もまた来た。
 王族だからって、病み上がりすぐに来こないでほしい。
 あと二人揃うとイケメン過ぎて目が痛いまぶしいヤメロ。

 そして2年ぶりに見た殿下はあの時の聖剣を背中にしょってた。
 7年後にはもっと背も伸びて腰が定位置になりますからね。とほほえましく思ったのは秘密。

 僕はカシルが用意した背もたれ用クッションに体を預け、まぶしさに耐えつつ二人をじっと見ていた。

「ハルトライア、この度は、ありがとう、そして本当にすまなかったっ」

 背中の剣を落とす勢いで思いっきり頭を下げた殿下に、周りは大慌てになった。僕は動けないからとりあえず傍観。ついでにしゃべれないし。


「ハルトライアよ、息子ジークをよく助けてくれた。そなたの功績に報いるために、そなたを第3王子ジークフリクトの婚約者としようと思うが、どうだ?」
 今その話? ちょっと待てよ、僕返事できないけど、そんで結論マジ嫌ですけど。

「父上っ、それは早すぎますっ。ハルトライアは昨日目覚めたばかりです。混乱してしまいますっ」

 おお、殿下、良いこと言う!

「私は、ちゃんとハルトライアに……好かれたいのですっ。無理やり権力で結婚など、嫌ですっ」

 え、ちょっと待って、今余計な一言を言ったよね? 聞かなかったことにしていい? 好かれたいとか言った? ほんと恋愛とかいらないし。平穏にできるだけ長く生きたいだけの僕を巻き込むなよっ!

「ジークを助けてくれたこと、本当に感謝している。ジークもお前にこうして恩を感じている。二度と呪いに負けないとあれからずっと光属性魔法を学んでいる。ジークといればその体のつるもこれ以上増えないのではないかと思う。つるはどうやら瘴気が体にたまってそう見えるらしいのだ。ジークの魔法でお前の周りにある瘴気を消してしまえばよい。どうだ?」

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