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10物理的魔術とは。

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月に一度だけ開かれる市とあって、露店が建ち並ぶ区画は人で溢れかえっている。

道の両脇に並んで経つ店はある程度区分がされているらしく、雑多であるものの、乱雑さは感じられない。

「ここらは飲食店が建ち並ぶ区画です。」
「露店街ではテイクアウトが基本なのですね。」

飲食店の区画に限らず、休憩スペースとして、テーブルと椅子が置かれている場所がちらほらあるが、たいていの人は、手渡されたそれをそのまま食べながら他の店を覗くというスタイルらしい。

「なにか、気になる食べ物があればお持ち致しますよ。」
「いえ、お気遣い無く。」

物珍しさから、周囲を見回していたのだが、どうやら空腹だと思われたらしい。
残念ながら、朝は早々に起きて朝食をとるため、今はあまり空腹では無い。
余裕があれば、なにか買って食べ歩いてもいいかもしれない。

暫く歩いていると、飲食エリアを抜けたらしく、今度は生鮮食品が売られているエリアに入ったようだ。
店先に並ぶ野菜や果物はどれも瑞々しく、水洗いなど必要ないくらい綺麗な状態で並べられている。

「ところで、フリア様から頂いている食料なのですが、最近わかったことがありまして。」
「なんでしょう?なにか不具合でもありましたか?」

食は生きることに直結する部分だ。なにか不具合があったのではシャレにならない。

「不具合では無いのです。むしろ、恩恵といいますか…。」
言いあぐねているジェラルド様に視線を向けると、少し微笑んでから口を開く。

「フリア様が育てた食物を食べると、身体強化がなされたり、体力がより早く回復したりといいこと尽くめなのです。」
「へぇ。そうなんですね。
私は全然実感が無かったので驚きです。」


王都周辺でもそれなりに魔獣が出るらしく、騎士団は討伐に向かうことが多いそうなのだが、私が育てたものを食べると、魔獣討伐が格段に楽になるのだとか。

私の魔力が影響しているのか、はたまた魔力を使用して栽培されたもの全てにそういう力があるのかはまだ解明できていないらしい。

何故かというと、通常の魔術師では、植物に魔力を注いで育て続けるのは魔力量の問題があるため、とても難しいのだとか。

現在、魔術師団員で協力しながら交代制で麦を育てている最中だとテオ様が楽しそうに話していた。



「ところで、騎士団はどのようにして魔獣を倒すのですか?」
「騎士団員は魔力を持っていない者、持っていてもごく僅かな者達ばかりなので、基本的には武器を使って倒します。
通常の武器では魔獣に傷一つ付けられませんので、魔石を填め込んだ武器を使いますね。
防具も同じく、魔石を仕込んだものを使用します。」



――もし、平時で魔獣と遭遇したときのために、騎士団員は必ず予備の短剣には魔石入りの物を持ち歩くのです。


そう言って懐から取りした短剣を私に見せてくれる。

「へぇ、これがいわゆる“魔剣”ってやつですよね。初めて見ました。」

「フリア様達はどのようにして魔獣を倒すのですか?
魔術師団のように、やはり魔術で討伐になるのでしょうか。」
「バイアーノ領の殆どの者達が、おそらく魔術師団と同じ方法で討伐していると思います。
魔術師とは異なり、属性魔術は使用できませんので、“物理的魔術”と、私たちは呼んでおります。」

互いの討伐方法を紹介し合いながらも歩みを止めずに目的地を目指す。

「“物理的魔術”とは、一体…。」

ジェラルド様があからさまに困惑している。
確かに、魔術なのに物理というのは中々おかしな話である。

「魔術師であれば、属性を持っていますよね?」
「そうだと聞いている。たしか、テオは風属性に適正があると言っていた。」

魔術を使用できる一番身近な人として思い浮かぶのがテオ様だなんて、この二人は本当に仲がいいようだ。

「バイアーノ領の領民は“魔獣討伐のための魔術”は使えても、“世間一般の魔術”は使用できないんですよ。」
「と、言うと?」

「たとえば、水の魔術が使える人は、水を生成することができますよね。」
「あぁ、そうだな。」
「バイアーノ領の領民は水も生成できないし、風を吹かすことも、火を生成することも、地形を変えることもできません。
ただ、魔獣に対してのみ、効果的な魔術を駆使できます。」

つまり、属性魔法は使えない。
けれど、魔獣を倒す魔術において、右に出るものなど居ない。

「領民は魔力で“魔剣”を生成して、魔獣と戦います。
“魔剣”で魔獣以外のものは斬ることができません。」
「正真正銘本物の魔剣ということか。」

私の説明に納得してくれたのか、しきりに成る程、と呟いている。

「たしかに、“物理的魔術”だな。」
「えぇ、魔獣から人々を守る事が、我が一族、領民に課せられた使命ですので。」


存在理由を示すため。

周囲にどれだけ恐れられようと、遠巻きにされようと、唯ひたすらに魔獣を殲滅する。

たとえ、守ろうとしている者達から、忌み嫌われようと。

“守ること”それが私たちの存在意義なのだから。
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