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03お守りはきっと。
しおりを挟む「妃の選定期間は一年程、か。
気休め程度にはなるだろう。これを持って行きなさい。」
そういってアレクさんが取り出したのは小指大の透明な石がついたネックレス。
鎖の部分は銀でできているようだ。
「…これは?」
差し出されたモノを受け取りながら問う。
「一定量以上の魔力を吸い取ってくれるものだ。今は透明だが、魔力の蓄積と共に色が変化する。赤色がその石の限界だ。」
「ひとまずはこれで凌げるはずよ。できるだけ早く数を揃えて後宮に持って行くようにするから、それまでは大変だとおもうけど…」
掌のそれは光を反射してキラキラと輝く。
自分には少し大きめなそれ。
「私が頂いてもよいのでしょうか…?」
もしかしたら、他に使う予定があったのではないか。
魔力を吸収するということは、魔獣を相手にした時有効となるだろう。
なにせ魔獣は、魔力を封じてしまえばただの獣なのだから。
「…“間に合わなかった”と、後悔するのは二度と御免でね。」
「…っ!」
こちらを見詰める瞳が、揺れる。
きっと、視線の先には私を通して違う誰かがいるのだろう。
「友人を護れなかった私達に、友人の宝物を守りたいと願う事を、赦して…?」
「兄の事があった後だから、疑われてもしょうが無い。けど…。それでも僕はフリアちゃんの助けになりたいと思う。それだけは、覚えていて。」
様々な記憶が甦る。
幼い頃の母との思い出。
母の隣で笑う嘗ての学友の二人。
ある日紹介された二つ年上の婚約者だと言う人。
一つ年下の婚約者の弟。
魔力制御が思うようにできず、体内からの痛みに耐える自分に導くように差し出された大きな手。
感情が昂ぶって体内魔力が暴走しかけた時に、差し出された大きさの少し異なる二つの手。
その手に手を重ねると、不思議と凪いでゆく魔力の波。
“手を取り合って生きてゆきなさい”
そう言って微笑む三つの瞳が殊の外優しかった事。
「…ありがとう、ございます。」
揺れる感情に呼応するように魔力が波打つ。
込み上げてくるものをなんとか押さえつつ、自身の力を従える。
「フリアちゃんにとって、うちの愚息は“唯一人だけの人”だったかしら?」
「…いいえ。私の“唯一人だけの人”は、まだ居ません。」
私の“特別”は母と、“マイアー家の家族”です。
そう言うと三人は安心したように微笑む。
「うちの愚息がフリアちゃんの“唯一人だけの人”にならなくて、本当によかったわ。
もし、そうだったら、禁術を使ってでも縛るつもりでいたのよ。」
「うちに伝わる禁術は“心を強制的に縛る”んだよ。僕、フリアちゃんが危険に曝されるなら、兄にだって禁術を使うよ。」
「今、我々の中で禁術を使えるのはわたしとシエルだからな。シエルが無理であれば、愚息に掛けるのはわたしの役目だと思っていたが…。
シエルも成長したな。」
…恐ろしいことを平然と言い合わないでいただきたい。
そもそも一族に伝わる禁術を外の人に教えてしまってもよいのだろうか。
「…ちなみに、うちの禁術は“強制的に縁を繋ぐ”です…」
なんだか、私だけ秘密にしているのも心苦しかったので、我が一族に伝わる禁術を言ってみた。
…たぶん、この人たちなら知ってそうだけど、ね。
「冗談はこのくらいにして。まじめに今後の事を考えなければね。」
ネルさんの一言で軽くなっていた空気が少しどんよりと。
「今のバイアーノ家に後見は任せられない。フリア嬢の後見は我がマイアー伯爵家ということにしよう。」
「そうね。今のバイアーノ家には任せておけないもの。そもそも、あのひとたちのことを正式に“バイアーノ公爵家”と呼んでいいのかも疑問ですものね。」
ネルさんの眉間に皺が寄る。
まぁ、入り婿である父とその後妻の家になったわけだから、正しくバイアーノ公爵家と呼んでいいのかは確かに疑問ではあるが。
「ところで、三ヶ月後、“常夜の森”からやって来る魔獣はどうやって片付けるの?」
「………。マイアーからできる限り腕の立つ者を向かわせよう。」
シエルの的確なツッコミによってアレクさんは眉間に皺を刻む。
「バイアーノ領の領民も、魔獣退治を生業としている者達が殆どですので…。極端に討伐が追いつかなくなることは、少ないかと…」
ここで、絶対に無いと言いきれないのが悲しい。
なぜなら、魔術師が極端に少ないこのシェーグレン国の一領民が、魔術を使用できるのはひとえにバイアーノ公爵家の庇護下にあるからである。
バイアーノ公爵家が正しく機能しなくなった場合、何がおきるかは予想が付かない。
「私以外に屋敷の禁書庫を開けられる人は居ないので、その中にある“魔球”が破壊されない限りは…」
「まぁ、代々の血筋が途絶えたわけでは無いから、今までのように機能してくれると助かるのだが、な。」
なんだかとっても重い話になってしまった。
「とりあえず、今日はこのくらいにしましょう。明日から王宮に行くための準備が山ほどあるわ。」
「バイアーノ家にはわたしが一言入れておく。フリア嬢は何も心配はいらない。」
「フリアちゃんの部屋はそのままだから、行こう?」
シエルに手を引かれて与えられた部屋へと足を進める。
ガロンと婚約する前からよくマイアー家には遊びに来ていたので、専用の部屋が用意されている。
もちろん、バイアーノ家にもマイアー伯爵家の専用部屋は用意されている。
――最近忙しかったから、今日はよく眠れそうな気がする。
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